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事件 令和 5年 (ネ) 10006号 著作権等に基づく差止等請求控訴事件
令和5年5月25日判決言渡 令和5年(ネ)第10006号著作権等に基づく差止等請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第5740号) 口頭弁論終結日 令和5年4月13日 5判決
控訴人 公益財団法人生長の家社会事業団 (以下「控訴人事業団」という。) 10
控訴人株式会社光明思想社 (以下「控訴人光明思想社」という。)
両名訴訟代理人弁護士 内田智 15
被控訴人Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/05/25
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙出版物目録記載の出版物を発行し、販売し又は頒布してはならない。
25 3 被控訴人は、控訴人らに対し、原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、
被控訴人が発行する「【B】」誌に掲載して令和4年1月31日時点での被控1訴人の「【B】」誌の配布対象者全員に対し、1回郵送により送付せよ。
4 被控訴人は、控訴人光明思想社に対し、52万7900円を支払え。
第2 事案の概要等1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に5 同じ。)本件は、控訴人らにおいて、被控訴人が原判決別紙出版物目録記載の出版物(本件出版物)に原判決別紙著作物目録記載の著作物(本件著作物)を掲載して発行した行為は、控訴人事業団の本件著作物に係る著作権(複製権)及び控訴人光明思想社の本件著作物に係る出版権を侵害すると主張して、被控訴人に10 対し、本件出版物の発行等の差止め及び本件出版物に謝罪広告を掲載して送付することを求めるとともに、控訴人光明思想社において、被控訴人に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、出版権侵害に係る損害金2万7900円及び弁護士費用50万円の合計52万7900円の支払を求める事案である。
15 原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として控訴を提起した。
2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、以下のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人らの補充主張を付加するほか、
原判決の「事実及び理由」第2の2及び3並びに第3に記載するとおりである20 から、これを引用する。
? 原判決2頁23行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「【A】氏は、昭和7年1月11日、本件著作物を執筆した。また、同人は、
控訴人事業団設立の際、その著作に係る「生命の實相」等の著作権を寄附行為により控訴人事業団に譲渡した(甲32)ところ、本件著作物は「生命の25 實相」に収録されている。上記譲渡に基づき、昭和63年4月18日、控訴人事業団と同人の相続人の申請により、著作物「生命の實相」について著作2権登録がされた(甲6)。」? 原判決2頁24行目の「本件著作物」から3頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「控訴人事業団との間で、平成23年7月1日には「生命の實相」について、
5 令和元年11月22日には同じく本件著作物を収録した「神示集」について、
複製及び頒布の権利を専有するとの出版契約を締結し、「神示集」を発行している。(甲7ないし9、弁論の全趣旨)」? 原判決3頁25行目から26行目の「被告の主張が、著作権侵害の要件のうち、依拠性を否定するものであるとしても、」を次のとおり改める。
10 「本件出版物において掲載した「声字即実相の神示」は【A】氏の著作物である「到彼岸の神示」を基に掲載したものである旨の被控訴人の主張が、著作権侵害の要件のうち、依拠性を否定するものであるとしても、被控訴人の主張には理由がない。「到彼岸の神示」は、宗教法人「生長の家」が本件著作物以外の部分の著作権を有している【A】氏の著作であるが、本件著作物15 が同書に掲載されているのは、【A】氏が公正な慣行に合致する目的上正当な範囲内の引用をしたことによるものであり、本件著作物の著作権が控訴人事業団にある事実は左右されない。」3 当審における控訴人らの補充主張? 本件著作物の掲載の「引用」該当性について20 最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁が判示するとおり、 引用にあたるというためには、
引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければ25 ならない」ものである。
引用著作物である本件著作物が独立した、高遠な思想及び感情の表現物3として高度に結晶化された言語の作品であるのに対して、引用著作物である本件出版物には、たいした内容はなく、思想や感情の創作的表現物といえず、
散文風・簡易な内容の報告ないし主張の域を出ないものであるから、両者のレベルが違いすぎる。むしろ本件著作物が主であり、その一部についての散5 漫な解説ないし感想等が報告的に書かれている本件出版物が従であると認識、
評価されるべきである。原判決は、主従関係につき、単純に引用著作物と被引用著作物の「分量」を取り上げて論じており、不当である。
? 引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないことについてア 原判決は、本件出版物における著作物の引用は「生命の實相」をたたえ10 る目的上正当な範囲内である旨判示するが、書籍を「たたえる」上で、本件著作物全部を引用することが必要であるというのは、不合理である。
イ 被控訴人は、【A】氏の書籍「到彼岸の神示」(同書の著作権は、本件著作物を除き宗教法人「生長の家」に帰属していることは当事者間に争いがない。)を出典として挙げたから、控訴人事業団の許諾は必要ないとして、
15 本件著作物の掲載をしている。
「到彼岸の神示」に掲載されている本件著作物は、元来「生命の實相」に収録されているものであり、出典を示すならば「生命の實相」とするのが正しく、被控訴人の記載は誤りである。被控訴人は、控訴人事業団からの許諾を不要とする主張を背景に、ことさら「到彼岸の神示」を出典とし20 ているもので、本件出版物への本件著作物の掲載は、引用の目的上正当な範囲で行われたものとはいえない。
第3 当裁判所の判断1 当裁判所も、控訴人らの請求にはいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの補25 充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
4? 原判決7頁26行目冒頭から8頁3行目の「ことからすれば」までを、次のとおり改める。
「前記第2の2?ア及びイのとおり、控訴人事業団設立の際、【A】氏は、
その著作に係る「生命の實相」等の著作権を寄附行為により控訴人事業団に5 譲渡し、本件著作物は「生命の實相」に収録されているのであるから、本件著作物の著作権は控訴人事業団に帰属し、また、控訴人光明思想社は、著作権者である控訴人事業団との間で、本件著作物を収録する「生命の實相」ないし「神示集」について出版権設定契約を締結したのであるから、本件著作物について出版権を有しているといえることからすれば」10 ? 原判決11頁19行目の「書名が異なるものの、」から23行目末尾までを、「昭和37年11月15日、日本教文社から刊行されたものであり、本件著作物と同一内容の「声字即実相の神示」が収録され、著作者は【A】氏である。」と改める。
2 当審における控訴人らの補充主張に対する判断15 ? 引用に該当しないとの主張について控訴人らは、前記第2の3?のとおり、著作権法32条にいう引用に該当するためには、両著作物の間に引用して利用する側の著作物が主、引用されて利用される側の著作物が従の関係があると認められる場合でなければならない旨主張するが、仮に、引用に該当するために控訴人らの主張する要件が20 必要であるとしても、本件出版物においてこれが満たされているというべきことは、引用に係る原判決第4の4?ウの説示のとおりであり、本件出版物の体裁、構成、内容等のいずれの点から見ても、本件著作物が従として位置付けられることは自明である。
控訴人らは、本件著作物と本件出版物とでは著作物として思想や感情の創25 造的表現物としてレベルが違いすぎ、分量を重視する原判決の判断は不当である旨の主張もするが、著作物の内容の価値や評価に立ち入り、その軽重を5前提にして主従関係を判断することが相当とはいえないから、そもそも控訴人らの主張はその前提を欠くものというべきであるし、また、分量が一つの重要な客観的指標となることは明らかであるところ、本件著作物と本件出版物の間において、合計4頁の本件出版物のうち半頁を占めるにとどまる本件5 著作物が主となると評価するだけの事情は認められない。したがって、控訴人らの主張は、いずれにしても採用できない。
? 引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないとの主張についてア 控訴人らは、前記第2の3?アのとおり、書籍「生命の實相」を「たたえる」上で、本件著作物の全部引用が必要であるというのは、不合理であ10 る旨主張する。
しかし、本件著作物は、無形の「生命の実相」を形に表したのが「生命の實相」の本であること、それまでの宇宙は、言葉が実相を語らないために不調和なことが起こったこと、「生命の實相」の本が出た以上は、言葉が実相を語り、よき円満な調和した言葉の本が整ったことから何事も急転15 直下すること等が述べられた上で、最後に「まだまだ烈しいことが今後起るであろうともそれは迷いのケミカラィゼーションであるから生命の実相をしっかり握って神に委(まか)せているものは何も恐るる所はない。」と結んでいるものであり、無形の「生命の実相」を形に表したものとされる「生命の實相」の発刊と無関係といえる部分はなく、一体性を有するも20 のというべきであるから、「生命の實相」の発刊90周年をたたえることを目的としたと認められる本件出版物において、本件著作物全文を利用したことをもって、公正な慣行に合致しないとか、引用の目的上正当な範囲で行われたものでないということはできない。したがって、控訴人らの主張は採用できない。
25 イ 控訴人らは、前記第2の3?イのとおり、本件著作物は、元来「生命の實相」に収録されているものであり、出典を示すならば同書とすべきであ6るのに、「到彼岸の神示」を出典としているものであるから、本件出版物への本件著作物の掲載は、引用の目的上正当な範囲で行われたものとはいえない旨主張する。
しかしながら、引用に係る原判決第3の1(補正後のもの)のとおり、
5 【A】氏が、「到彼岸の神示」の発行当時、本件著作物を同書に適法に収録していたことについては争いがないことに鑑みれば、【A】氏の著作であり、現に本件著作物が掲載されている「到彼岸の神示」を出典として記載したことが、少なくとも引用のあり方として、公正な慣行に合致せず、
又は引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないということはで10 きず、控訴人らが主張するような内情を考慮したとしても、この認定は左右されない。したがって、この点についても控訴人らの主張は採用できない。
その他にも控訴人らはるる主張するが、これらは、いずれも本件争点と直結しない、あるいは結論を左右し得ないものであり、いずれも採用でき15 ない。
第4 結論以上によれば、控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、
これと結論を同じくする原判決は相当である。
したがって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判20 決する。
知的財産高等裁判所第4部25 裁判長裁判官菅 野 雅 之7裁判官本 吉 弘 行5裁判官岩 井 直 幸8
事実及び理由
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