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事件 令和 4年 (ネ) 10125号 損害賠償金請求控訴事件
令和5年4月18日判決言渡 令和4年(ネ)第10125号 損害賠償金請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第28410号) 口頭弁論終結日 令和5年3月16日 5判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社 10 被控訴人Y
同訴訟代理人弁護士 辻居弘平
同 加藤尚敬
同 中村勘太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/04/18
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 15 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における拡張請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の申立て
20 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、16万6828円(原審における損害金請求額 の敗訴部分14万9998円+当審における損害金拡張額1万6830円)及 びこれに対する令和3年4月19日から支払済みまで年3パーセントの割合に よる金員を支払え。
25 第2 事案の概要等 (以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。) 1 1 事案の概要 本件は、控訴人において、被控訴人が原判決別紙画像目録記載の各画像を複 製して、その運営するオンラインショップ(被告サイト)のウェブページにお いて閲覧できる状態とした行為につき、これらの画像に係る控訴人の著作権 5 (複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行 為(民法709条)に基づき、損害賠償金19万9998円及び不法行為後の 日である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割 合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、本件請求につき、被控訴人に対して5万円及びこれに対する遅延損10 害金の支払を命ずる限度でこれを認容し、その他の請求を棄却した。
控訴人は、敗訴部分(19万9998円から5万円を控除した部分及びこれ に対する遅延損害金)を不服として控訴を提起するとともに、当審において、
損害金1万6830円及びこれに対する遅延損害金を追加する拡張請求をした。
2 前提事実15 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1(前提事実) に記載されたとおりであるから、これを引用する。
原判決2頁13行目の「ブランド」の次に「(以下、その経営主体を「ス キャンパン社」という。 」を、同15行目の「株式会社いつも」 の次に ) 「(以下「いつも社」という。 」をそれぞれ加える。
)20 原判決3頁6行目の「本件画像Gの画像を選択して」を「本件画像Gの中 から選択された画像を」と改める。
3 争点及び争点に関する当事者の主張 次のとおり補正し、後記4に当審における控訴人の補充主張を、後記5に同 追加主張を付加するほかは、原判決第2の2(争点)及び第3(争点に関する25 当事者の主張)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
? 原判決3頁19行目末尾に改行して次のとおり加える。
2 「 本件各画像のうち、本件画像A中のフライパンの写真及び本件画像B中 の作業中の職人の写真3枚は、スキャンパン社から提供を受けたもので あるが、本件画像@、C、F中の各写真及び本件画像Gは控訴人が撮影 した写真である。いずれの写真も控訴人がいつも社に提供し、控訴人の 5 指示の下に同社が、控訴人の考案する文章や控訴人の選択する素材、配 色、構図、フォントを配置、組み合せて控訴人独自の発想を表現して、
本件画像@ないしGを作成した。」 ? 原判決5頁15行目から16行目にかけての「赤で囲った文章」を「赤色 文字で記載した文章」と改め、6頁22行目の「6万6666円」の次に10 「(当初、ウェブページ1ページ当たり6画像を利用していたとして損害賠 償金をウェブページ1ページ当たり5万円としていたが、その後、1ページ 当たり8画像を利用 していたことが判明したことによる〔 5万円÷6× 8〕 ) 。」を加える。
4 当審における控訴人の補充主張(控訴人の損害額について)15 ? 仮に、本件画像@ないしGが一体としてみられる利用態様であったとして も、被告サイトにおいては、個別の商品の販売促進のため個別の商品ごとに ウェブページが分けられ、本件各画像が商品ごと、すなわちウェブページご とに独立して利用されている。したがって、全ウェブページが一体をなすも のではないから、その複製又は送信可能化は、当該商品ごと又はウェブペー20 ジごとにその数だけ行われたものである。したがって、損害賠償額は、少な くとも、当該無断複製又は送信可能化に係るウェブページ3ページ分の額と なるはずである。
? 音楽ないし音源の利用料について、曲の使用回数、使用方法、複製枚数 (本数)等による例があり(甲22ないし25)、複数回利用すれば、その25 回数ごとに利用料が発生するとされている。また、美術作品の利用料につい て、美術作品の使用回数、複製枚数等による例があり(甲26、27)、目 3 的ごとに(例えば、URLが異なるウェブページ)複数回利用すれば、その 回数ごとに利用料が発生するとされている。画像の利用料について、1媒体 につき1回限りによる例があり(甲28)、画像を複数媒体(例えば、UR Lが異なるウェブページ)に利用すれば、その回数ごとに利用料が発生する 5 とされている。
著作物を複数媒体に利用すると回数ごとに利用料が発生するとされている これらの料金体系を、本件各画像の利用に当てはめた場合、利用料は、被告 サイトにおける利用ページごとにカウントされるべきとするのが相当である。
また、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)についても、素10 材(写真等)の数、利用予定期間、利用回数、媒体数(URLが異なるウェ ブページで使用した場合等)ごとに料金設定がされている。
? 本件各画像は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作された ものであり、そもそも第三者に利用許諾をすることは想定されておらず、料 金体系など存在し得ない。このような場合、一般的に写真素材の利用許諾が15 されるときの利用料の相場を参考にして損害を算定せざるを得ないはずであ り、そして、そのような利用料の相場の根拠となるのは写真のライセンス等 を目的とするサービスの料金体系しかない。そうであれば、本件各画像がレ ンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金 表(甲5ないし7)の料金額を参考にせざるを得ないし、さらに、本件各画20 像が単なる素材としての画像ではなく、異なる素材を組み合わせてデザイン された創造的なものである点も加味する必要がある。そして、被告サイトは 通販サイトであり、誰でもいつでもアクセス可能であり、本件各画像が掲載 されていた期間が比較的短期とはいえ、相当数の利用者によって閲覧された 蓋然性が高い。また、被控訴人の利用は、顧客を誘引することを目的とする25 商業的利用であるから、その目的及び態様が悪質であることも損害額の算定 に当たり考慮されるべきである。
4 5 当審における控訴人の追加主張 本件第1審及び控訴審において生じた次の訴訟費用合計1万6830円を、
本件における著作権侵害の不法行為により生じた損害として追加する。
@ 訴え提起の手数料 2000円 5 A 第1審における郵便費用 5830円 B 控訴提起の手数料 3000円 C 控訴審において予納した郵便費用 6000円
当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件請求は、被控訴人に対して損害賠償金5万円及びこれに10 対する不法行為後の日である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の 年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、そ の余は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり補正し、後記2に当審における控訴人の補充主張に 対する判断を、後記3に当審における控訴人の追加主張に対する判断を付加す15 るほかは、原判決第4に記載されたとおりであるから、これを引用する。
? 原判決7頁18行目の「写真は、本件各商品の製造過程や使用例等を示す ものであり」を「本件画像@及び本件画像Cの写真は、本件各商品の使用例 等を示すものであり」と、同20行目の「人物」を「鍋」と、9頁12行目 の「明確に表現する点に」を「独自性のある方法で表現する点に」と、1020 頁22行目から23行目にかけての「本件画像Gの内容を選択しつつ」を 「本件画像Gの中から画像を選択しつつ」とそれぞれ改める。
? 原判決11頁9行目の「これに対し、」の次に以下のとおり加える。
「 控訴人は、いつも社に対し、本件各画像等のデザイン制作業務を含む委託 契約の対価として約700万円を支払った旨を指摘するが、当該委託契約の25 業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、本件各画像 の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービス 5 の対価であると推認することができる(甲15ないし17)。
したがって、上記約700万円の支払に基づいて、控訴人による著作権の 行使について受けるべき金銭の額を算定することは相当ではない。
次に、」 5 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断 ? 控訴人は、前記第2の4のとおり、@本件各画像がウェブページごとに独 立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきで ある(同?及び?)、A第三者に許諾することを想定していない著作物にも 相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同?)旨主張する。
10 上記主張に対して、引用に係る原判決の第4の3(補正後のもの)におい て説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
? 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損 害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当 たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当15 該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の 利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内 心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への 利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件各画像は、見かけ上、
20 本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それら は一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみるこ とも可能なものであり、一体の利用とみることができるから、本件各画像又 はウェブページごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは 妥当とはいい難い。そして、本件各画像の利用期間も短期間であって、たと25 え通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるの が自然である。さらに、本件画像A中のフライパンで調理中の食材を写した 6 写真と本件画像B中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパ ン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパ ン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証 拠はない。 、控訴人が著作権を有するものではないし、本件各画像は商業的 ) 5 実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件各商品をありのままに 表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情 は限定的なものであるといえる。このことは、本件各画像が文字、写真等の 素材を組み合わせたものであったとしても変わるものではない。また、被控 訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、そ10 の利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件各画像 に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専 ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利 用にすぎない。
? 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作15 権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき 毎回申請を要するものと定めていること(甲26)、株式会社東京美術倶楽 部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の 利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係 業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲27)、朝日新20 聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供 するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非 独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金 が発生すると定めていること(甲28)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素 材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に25 使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲29) が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」 「用途」 「回数」又は 、 、
7 「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証 拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準に して決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法 を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、
5 控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されて いるが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当で ない。 。
) ? さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、
同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、
10 2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲 5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で 利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間 1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000 円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が15 権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームペー ジなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わ ず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に 2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払 を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される20 写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の 詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定につ いて参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した 額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根 拠ともならない。また、ペイレスイメージズは、印刷物又はウェブ用との用25 途における画像素材単品での購入価格を、解像度、大きさに応じて440円 から5500円に設定しているとの事実は認められるものの(乙3)、どの 8 ような画像が想定されているのか不明であり、やはり、この購入代金をその まま本件における損害額の算定について参考とすることができない。
? 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件に おける損害額は、被告サイト全体における利用について5万円とするのが相 5 当であると認められ、控訴人の前記?@の主張を採用することはできず、同 Aに主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 当審における控訴人の追加主張に対する判断 控訴人は、前記第2の5のとおり、原審及び当審において生じた訴訟費用を 不法行為に基づく損害として追加する旨を主張する。
10 民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち、民事訴訟費用等に関する法律 2条各号に掲げられた費目のものについては、専ら訴訟裁判所の裁判所書記官 の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから、当該訴 訟における不法行為に基づく損害賠償請求において、民事訴訟費用等に関する 法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない15 と解される(最高裁判所平成31年(受)第606号令和2年4月7日第三小 法廷判決参照)。
控訴人は、訴え提起及び控訴提起の手数料や書類の送付に要した郵便費用を を不法行為に基づく損害として主張するが、これらは民事訴訟費用等に関する 法律2条1号、2号に定めるものであるから、これら費目を本件において損害20 賠償として請求することはできない。
したがって、上記主張に係る損害に関する損害賠償請求は理由がない。
4 結論 以上の次第であり、控訴人の原審における請求は、被控訴人による本件各 画像の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、被控訴人25 に対し、損害賠償金5万円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年 4月19日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損 9 害金の支払を命じる限度で理由があるから、この限度で控訴人の請求を認容 し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決 は相当であって本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、また、
控訴人の当審における拡張請求は全部理由がないから、これを棄却すること 5 として、主文のとおり判決する。