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事件 令和 4年 (ネ) 10060号 発信者情報開示請求控訴事件

控訴人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 横山経通 南谷健太 平田憲人 馬場嵩士
被控訴人Y
同 特別代理人兼川真紀
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/04/13
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
主文同旨
事案の概要等
1 事案の概要 1 (1) 本件は、インターネット上の短文投稿サイトである「ツイッター」上に原判決別紙原告投稿目録記載の原告各投稿をしたY(以下「Y」という。)が、氏名不詳者ら(本件投稿者1及び2)において原告各投稿のスクリーンショットを添付して原判決別紙投稿記事目録記載の本件各投稿をしたことにより、原告各投稿に係るYの著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたとして、控訴人に対し、令和3年法律第27号による改正(以下「令和3年改正」という。)前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、原判決別紙発信者情報目録記載の本件発信者情報の開示を請求した事案である。
(2) 原審は、Yの請求を全部認容した。原判決を不服として、控訴人が控訴を提起した。
(3) 原審の口頭弁論終結後にYは死亡し、被控訴人がその地位を承継した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を、後記4のとおり当審における追加の争点及びこれに関する当事者の主張をそれぞれ加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2、3及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する(また、以下、特にことわらない限り、引用中の原判決中の「原告」を「被控訴人」と読み替える。)。
(1) 原判決2頁15行目の「原告は、肩書地に居住する」を「Yは、被控訴人の肩書地として記載の最後の住所地に居住していた」に、同3頁7行目、12行目及び14行目の各「原告」をいずれも「Y」に、同頁9行目の「アカウント」を「ツイッターのアカウント」にそれぞれ改める。
(2) 原判決2頁19行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。
「(2) 原告各投稿 原告各投稿は、いずれも、Yが、ツイッターの表示名を「Y」、ユーザー名を「Y’」としてツイッターにおいて投稿したものであり、原告投稿3は令和2年1 2 2月17日午後2時13分に、原告投稿1は令和3年3月17日午後10時27分に、原告投稿4は同月19日午後2時5分に、原告投稿2は同日午後3時36分にそれぞれ投稿された。(甲9)」 (3) 原判決2頁20行目の「(2)」を「(3)」に、同3頁6行目の「(3)」を「(4)」に、同頁23行目の「(4)」を「(5)」にそれぞれ改める。
(4) 原判決4頁1行目の末尾の次に改行して「(6) Yは、原審の口頭弁論終結後で判決言渡前の令和3年11月27日(推定)に死亡した。Yの相続人は、その全員が相続を放棄した。(弁論の全趣旨)」を加える。
(5) 原判決4頁16行目〜17行目の「氏名又は住所」 を と」 「氏名」 「住所」 や 」を」に改め、同頁17行目の「照らせば」の次に「、当該規定の内容は」を加え、
同頁18行目の「権利侵害と発信者情報」を「侵害情報の発信者」に改める。
(6) 原判決5頁21行目の「原告が」を「Yが」に、同頁22行目及び26行目並びに同6頁の3行目の各「原告」をいずれも「Y」にそれぞれ改める。
(7) 原判決6頁11行目の「原告の」を「Yの」に、同頁13行目、20行目及び22行目〜23行目の各「原告」をいずれも「Y」にそれぞれ改める。
3 当審における当事者の補充主張 (1) 争点1(プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について (被控訴人の主張) ア 原判決別紙IPアドレス等目録記載1のIPアドレス及びログイン日時に係るログイン(以下「本件ログイン1」という。)並びに同目録記載2のIPアドレス及びログイン日時に係るログイン(以下「本件ログイン2」という。)について、
ログインに係る送信と本件各投稿に係る送信とが同一の発信者によるものである高度の蓋然性があり、本件各投稿に係る送信とログイン情報が開示可能な範囲内で時間的に最も近接したものであるかなどの諸事情を総合考慮しても、本件ログイン1及び2に係るログイン情報(以下「本件ログイン情報」という。)が本件各投稿に 3 係る送信と相当の関連性を有するのは明らかである。
本件ログイン1は本件各投稿より前のログインであるし、本件ログイン2にしても、ツイッターのように各投稿についてのIPアドレスやタイムスタンプを保存していない場合においてはログイン情報が開示されなければ被害者の救済は不可能なのであるから、開示は認められるべきである。
イ(ア) 控訴人は、令和3年改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「現行法」という。 5条2項柱書の ) 「侵害関連通信」につき、
「特定電気通信役務提供者が発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)5条各号に該当する通信それぞれについて侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信」のみが「侵害関連通信」であると主張する。しかし、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信が、侵害情報の送信と相当の関連性を有するものとするに最もふさわしいものではあろうが、それも、特定電気通信役務提供者における通信記録の保存状況や他の通信との比較における相対的な時間的近接性等を考慮して判断されるものであって、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信から発信者を特定することが困難であることが明らかであり、侵害関連通信の範囲を当該通信のみに限定することが発信者情報の開示請求権を創設した趣旨に照らし適切ではないと考えられる場合には、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信以外の通信も侵害情報の送信と相当の関連性を有するものである(乙4)。
(イ) 侵害情報を送信した後のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報や、侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報であっても、プロバイダ責任制限法の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得るのであり、そのように解しても発信者にとっても不当ではない。さらに、本件においては、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信から発信者を特定することは困難であり、また、事前に登録したアカウントにユーザー 4 名やパスワードを入力してログインして利用するというツイッターの仕組みや、令和3年3月15日から同年5月7日までの間においても本件各アカウントが昼夜を問わず頻繁にログインされて継続的に使用されているという事情がある一方、本件各投稿が本件各アカウントの管理者以外の者により投稿されたとうかがわせる事情はない。したがって、侵害関連通信の範囲を限定することは、発信者情報の開示請求権を創設した趣旨に照らしても適切でない。また、本件ログイン1や本件ログイン2の前後に他の経由プロバイダによるログインが複数回あることも、本件ログイン1及び2と侵害情報の送信との関連性を否定する事情とならない。
(控訴人の主張) ア(ア) 開示の対象となる情報は、本件各投稿に該当することが明らかであるものであることを要する。この点、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」においても、ログイン情報を「当該権利の侵害に係る発信者情報」と認め得る場合であっても、補充性、関連性など一定の限定を行うべきこととされている(乙3)。
(イ) 令和3年改正により、現行法5条1項において、ログイン時の通信(施行規則5条2号)に係る情報は、「特定発信者情報」として、侵害情報の送信と「相当の関連性を有するもの」のみ「侵害関連通信」(現行法5条2項柱書)に該当するとされた(現行法5条3項、施行規則5条柱書)。
上記「相当の関連性を有するもの」という要件は、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密への制約を必要最小限度にとどめる必要性があるという発信者情報開示請求に係る制度の趣旨を踏まえ、「侵害関連通信」に該当する通信を、
発信者を特定するために必要最小限度の範囲に限定するための要件であり、「特定電気通信役務提供者が発信者情報開示請求を受けたときにその記録を保有している通信のうち、本条各号に該当する通信それぞれについて侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信」のみが「侵害関連通信」に該当するとされており、侵害情報の送信と最も時間的に近接して行われた通信以外の通信に「相当の関連性」が認めら 5 れるのは、例外的な場合に限られる。そのような例外に該当し得る場合としては、
「侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信が経由プロバイダのみを経由して接続した通信ではないことにより、発信者その他侵害情報の送信または侵害関連通信に係る者の契約者情報を保有する経由プロバイダを特定することができない場合」が考えられるとされている(乙4)。
イ 本件ログイン1は、本件各投稿がされる約1日半から4日以上前のものであり、本件各投稿との間に、複数のログインが存在しており、最も時間的に近接しているものではない。
本件ログイン2は、本件各投稿がされた後、約2〜5日後のもので、本件ログイン2により本件各投稿がされた可能性はない。他方、本件ログイン1は、本件各投稿がされるより約1日半〜4日以上前のものであり、時間的に近接しているとはいい難く、本件ログイン1によるログイン状態を利用して本件各投稿がされたことは証明されていない。また、本件投稿4がされてから本件ログイン2までの間には、
控訴人以外の経由プロバイダを経由した通信が複数介在している(甲5)ところ、
ツイッターには複数の端末から同時にログインすることが可能であり、ログアウトをしない限り投稿が可能であることからすると、上記の控訴人以外の経由プロバイダを経由した通信によるログイン状態を利用して、本件各投稿が行われた可能性は否定できない。
ウ ログインをした者と記事を投稿した者が同一人物である可能性が高いというだけで、ログインした者の情報の開示が認められるのであれば、令和3年改正において「相当の関連性」の要件を定めた意味がない。同要件が定められたのは、発信者情報開示請求が憲法の保障する通信の秘密の重大な例外を認めるものであるからであり、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信以外の例外は安易に認めてはならない。
(2) 争点2-1(原告各投稿の著作物性)について (被控訴人の主張) 6 原告各投稿については、個々の言葉は平凡であったりありふれたりしていたとしても、言葉の選択やカタカナの使い方、共通する書きぶりなどからすれば、独特なYの個性が認められるから、原告各投稿が著作物に該当するとの原判決の認定は相当である。
(控訴人の主張) 文章が短かったり、表現が平凡でありふれたりしている場合には、作者の個性が現れているものではなく、創作物性は否定されるところ、140文字以内というツイッターでの投稿において用いることが可能な表現等は、おのずと限られる。次のとおり、原告各投稿の内容及び表現は、いずれもありふれたものにすぎず、原告各投稿には著作物性が認められない可能性がある。
ア 原告投稿1は、発信者情報開示請求に係る事実等を列挙し、当該事実について「ありがたい」「ウザい」「初めてだな」などとありふれた表現でコメントするものにすぎない。
イ 原告投稿2は、原告投稿1と比較しても短く、その内容も、他人の投稿を引用しつつ、「『あたかも』ではなく『全く同じ』である」と指摘したり、簡潔な表現で批評したりするものにすぎない。
ウ 原告投稿3は、原告投稿1と比較しても短く、その内容も、特定のユーザー名の人物に対し、よく用いられる表現で批判的な言葉を並べ立てるものにすぎない。
その内容は単なる中傷であって、本来140字という短い枠内に収まり切らない内容を当該字数制限に収めようと工夫したような形跡が見られるものでもない。
エ 原告投稿4は、原告投稿1〜3と比較しても更に短く、その内容も、特定のユーザー名の人物の状況を簡潔な表現でコメントしたものにすぎない。テンポを意識し意図的に間隔を空けて簡潔な表現を配置したような工夫が見られるものではなく、単に「アウト」「バカ」といった表現が散見される以上の意味を有さず、構成に工夫が見られるようなものではない。
(3) 争点2-2(引用の成否)について 7 (被控訴人の主張) ア 主従性及び明瞭区分性 本件各投稿はいずれも、コメント部分が少なく、スクリーンショット部分が主となっており、引用に当たるとはいえない。
引用の目的 次のとおり、本件各投稿は、いずれも、Yを揶揄したり非難したりして、誹謗中傷する意図によりされたもので、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲を逸脱している。
(ア) 本件投稿1は、「この方です」という文言の横に額から汗を流しているらしい顔文字を添えて、あきれている旨の心情を表現するもので、Yの行為を揶揄する意図によるものである。
(イ) 本件投稿2は、何もしていないのに攻撃されたという趣旨をいうもので、Y を非難するものである。
(ウ) 本件投稿3における「絡んだ」という表現は、Yが本件投稿者2に絡んだものと決めつけるもので、「暴言はいてます?」という表現は、Yは原告投稿2〜4において本件投稿者2に対して「暴言を吐いている」などと述べていないにもかかわらず、Yが「暴言を吐いた」と決めつけるもので、本件投稿3は、Yを非難するものである。
(エ) 本件投稿4は、Yが暴言を吐いた、絡んだと決めつけるものである。
ウ 公正な慣行 ツイッターの規約(以下「本件規約」ということがある。)においては、引用の際には「引用ツイート」によることとされ、ツイッター社が提供するインターフェースや手順を踏むこととされており、そのことはツイッターの利用者においては常識であって、本件各投稿はその点において公正な慣行を逸脱している。
スクリーンショットを貼り付ける形のツイートは、確かに多くの利用者が使用している引用方式ではあるが、引用ツイートであれば、著作権者がツイッター上の投 8 稿を変更したり削除したりした場合、引用ツイートにおける引用部分として表示される内容にも変更等が生じ、当該部分に著作権者の意思を反映することができ、著作権者の著作物に対するコントロールが可能であるのに対し、スクリーンショットを貼り付けると、その部分は貼り付けたユーザーがこれを削除しない限り永遠にネット上に残ることになり、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなってしまう。スクリーンショットを貼り付ける形のツイートが無限定に認められれば、著作権者の意思にかかわらず、著作物がいわば「再送」されることとなるのであって、著作権者の意思を踏まえると、そのような利用方法は公正な慣行を逸脱している。
エ 小括 本件各投稿が本件規約の引用ツイートの方法に従っていないことや、主従の構成の点に加え、目的の正当性がなく、公正な慣行にも合致しないことからすると、本件各投稿が引用でないと認定した原判決は正当である。
(控訴人の主張) ア 主従性及び明瞭区分性 本件各投稿は、それぞれ原告各投稿のいずれか、又はその幾つかを示しつつ、その内容に対してコメントを行うものであることから、本件各投稿の主たる部分は当該コメント部分であり、原告各投稿は、コメントの対象であって従たる部分にすぎない。また、本件各投稿と原告各投稿とは、画面の右側と左側に明瞭に区分されて表示されている。
引用の目的 本件各投稿は、いずれもYが原告各投稿において他のユーザーに対する批判的な言動を行っていることから、本件投稿者1及び2において、Yの投稿を示しつつ、
自己が困惑していることを表現したり、Yの批評に疑問を投げかけたりするものである。したがって、いずれも報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内に該当し得るものであるが、具体的事情を考慮した総合的な判断を行うことなく、
9 安易に引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできないと判断した原判決には、誤りがある。
ウ 公正な慣行 本件規約は、当事者間における契約条項を定型的かつ一方的に規定した「定型約款」(民法548条の2第1項柱書)であり、本件規約に対する違反行為は当事者間における契約の範囲内で解決されるべきものである。そのような私法上の当事者間の取決めである本件規約に抵触することと、著作権法上における「引用」該当性の考慮要素である「公正な慣行」とは直接連動するものではない。原判決の判断は、
一般的に利用規約に抵触する可能性のある行為は全て「引用」に該当しないとの解釈を導き得るもので、妥当でない。
また、本件規約において、ユーザーがスクリーンショットを使用した投稿を明確に禁じる規定は見受けられない。むしろ、スクリーンショットを使用した投稿は、
ツイッターのユーザーの間で広く用いられている方法であり、ツイッター社において、このような投稿が本件規約に明確に違反する行為であると認識しているのかも定かではない。
エ 小括 以上によると、本件各投稿における原告各投稿のいずれか又はその幾つかの利用は、「引用」に該当する可能性がある。
(4) 争点3(正当な理由の有無)について (被控訴人の主張) 控訴人は、Yが死亡し、かつ、相続人全員が相続を放棄して相続人が存在しないため、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がないと主張する。しかし、Yの死亡により、Yが有していた発信者情報開示請求権がなくなるわけではない。被控訴人である相続財産法人は存在しており、今後、明らかになった発信者に対して損害賠償請求権の行使の可能性はある。地位の承継と、相続財産の存在は別の問題である。
10 (控訴人の主張) 発信者情報開示請求権は、発信者を明らかにして損害賠償請求権を行使するために認められるものであるところ、Yが死亡し、かつ、相続人全員が相続を放棄して相続人が存在しない本件では、現実に損害賠償請求権を行使する者が存在せず、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がない。なお、死亡した当事者の地位を承継する者がいないときは、訴訟が終了するという学説もある。
4 当審における追加の争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 追加の争点 本件各投稿の名誉毀損性(争点2-3) (2) 争点2-3に関する当事者の主張 (被控訴人の主張) ア 本件各投稿の内容は、名誉毀損等に当たるもので、権利侵害は明白である。
イ すなわち、前記3(3)(被控訴人の主張)イ(ア)のとおり、本件投稿1には、
Yの行為を揶揄する意図が感じられ、Yの社会的評価を低下させるものないしは侮辱するものである。同(イ)のとおり、本件投稿2にも、Yを非難する意図が感じられ、
Yを何もしないのに非難する人物であるとするものであって、その社会的評価を低下させるものである。同(ウ)の点からして、本件投稿3は、Yが誰彼構わず暴言を吐くと述べるような人物であるとして、その社会的評価を低下させるものである。同(エ)のとおり、本件投稿4は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、
Yが暴言を吐いた、絡んだと決めつけるもので、その社会的評価を低下させるものである。
ウ Yが本件各投稿に係る攻撃をしたか、暴言を吐いたか、絡んだかどうか等は証拠等による証明になじまない事項に係るものであるから、事実の摘示ではなく、
意見ないし論評の表明であるところ、本件投稿者 1 及び2の行為は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったともいえないし、
意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であるともいえな 11 いから、違法性も阻却されない。
(控訴人の主張) 争う。被控訴人の解釈は、曲解にすぎず、一般人の解釈とはいえない。
当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、いずれも権利侵害の明白性の要件を欠くため理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点2(権利侵害の明白性)について 事案に鑑み、まず、争点2について検討する。
(1) 争点2-1(原告各投稿の著作物性)について 当審における当事者の補充主張に対する判断を含め、次のとおり改めるほかは、
原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」(以下、単に「原判決の第4」という。)の2(1)に記載するとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決9頁12行目の「原告」(2か所)をいずれも「Y」に、同頁14行目の「原告の」を「Yの」にそれぞれ改める。
イ 原判決9頁24行目の「他のユーザーに対して」を「他のユーザーらをアカウント(本件アカウント2を含む。)のユーザー名により特定して」に、同頁24行目の「その意見」から25行目の「同人を」までを「、当該他のユーザーらがしたコメントの内容が誤りである旨を強く指摘した上、高圧的な表現で当該他のユーザーらを」に、同頁26行目及び同10頁1行目の各「原告」をいずれも「Y」に、
同頁2行目の「原告の」を「Yの」にそれぞれ改める。
ウ 原判決10頁16行目の「原告」(2か所)をいずれも「Y」に、同頁18行目の「原告の」を「Yの」にそれぞれ改める。
エ 原判決10頁26行目及び同11頁3行目の各「原告」(同行目については2か所)をいずれも「Y」に、同頁5行目の「原告の」を「Yの」にそれぞれ改める。
オ 原判決11頁8行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
12 「 以上に対し、控訴人は、原告各投稿について、ありふれた表現であるなどとして著作物性を争うが、訂正して引用した原判決の第4の2(1)で認定判断したとおりであって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」 (2) 争点2-2(引用の成否)について 当審における当事者の補充主張に対する判断を含め、次のとおり改めるほかは、
原判決の第4の2(2)に記載するとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決11頁11行目の「甲8」の次に「、9」を加える。
イ 原判決11頁12行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。
「(ア) Yは、令和2年12月17日午後2時13分に原告投稿3を、令和3年3月17日午後10時27分に原告投稿1をそれぞれ投稿し、本件投稿者1は同月18日午後3時57分に本件投稿1を投稿し、Yは、同月19日午後2時5分に原告投稿4を、同日午後3時36分に原告投稿2をそれぞれ投稿し、本件投稿者2は、
同日午後9時48分に本件投稿2を、同日午後11時1分に本件投稿3を、同月21日午後8時36分に本件投稿4をそれぞれ投稿した。」 ウ 原判決11頁13行目の「(ア)」を「(イ)」に、同行目の「原告の」を「Yの」に、同頁16行目〜17行目の「原告及びそのアカウントを紹介する」を「、Y及びそのアカウントを紹介するとともに、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている「A」なる人物を訴えている者であることを前提として、このようなYが多数の者のインターネットの投稿に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせる」にそれぞれ改める。
エ 原判決11頁18行目の「(イ)」を「(ウ)」に、同頁20行目の「自らには」から21行目の「受けたこと」までを「自らは何もしていないにもかかわらず、高圧的な表現での罵倒を含む攻撃的な内容の原告投稿2の対象とされたこと」にそれぞれ改める。
オ 原判決11頁22行目の「(ウ)」を「(エ)」に、同頁24行目の「原告」から25行目〜26行目の「暴言が」までを「Yとの間で行われた原告投稿2〜4を含 13 む過去のやり取りを時系列的に示した上で、その中に客観的に本件投稿者2からYに対して暴言を吐いたとみられる部分が」にそれぞれ改める。
カ 原判決12頁1行目の「(エ)」を「(オ)」に、同頁5行目の「原告」(2か所)をいずれも「Y」にそれぞれ改め、同頁6行目の「行われた」の次に「少なくとも原告投稿3を含む」を加え、同行目の「原告」を「Y」に改める。
キ 原判決12頁9行目冒頭に「(ア) 」を加え、同頁18行目〜19行目の「そうすると」から同頁23行目末尾までを削除し、同頁24行目冒頭から同13頁12行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし、そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が本件規約違反に当たることも認めるに足りない。
他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができるものと解される。そして、弁論の全趣旨によると、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる。
以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。
(イ) これに対し、被控訴人は、引用ツイートによるべきことは、ツイッターの利用者において常識である旨を主張するが、当該主張を裏付けるに足りる証拠はない 14 (なお、前記のとおり、本件規約の内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではないことからすると、ツイッターのユーザーにおいて本件規約の前記の定めを認識しているというべきことから直ちに、引用ツイートによるべきことがユーザーの共通の理解として前記公正な慣行の内容となるということもできない。)。また、被控訴人は、スクリーンショットの添付という方法による場合、著作権者の意思にかかわらず著作物が永遠にネット上に残ることとなり、著作権者のコントロールが及ばなくなるという不都合がある旨を主張するが、そのような不都合があることから直ちに上記方法が一律に前記公正な慣行に当たらないとまでみることは、相当でないというべきである。
(ウ) その上で、訂正して引用した原判決の第4の2(1)アで認定判断した原告投稿1の内容、同(2)アで認定した本件投稿1の内容や原告投稿1との関係等によると、本件投稿1は、Yが、本件投稿者1及び本件投稿者1と交流のあるネット関係者間で知られている人物(「A」なる人物)を訴えている者であることを前提として、更に多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われたもので、それに当たり、批判に関係する原告投稿1のスクリーンショットが添付されたものであると認める余地があるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区分されており、また、その引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿1の範囲は、相当な範囲内にあるということができる。
また、訂正して引用した原判決の第4の2(1)イ〜エで認定判断した原告投稿2〜4の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件投稿2〜4の内容や原告投稿2〜4との関係等によると、本件投稿2〜4は、本件投稿者2を含むツイッターのユーザーを高圧的な表現で罵倒する原告投稿2、他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のツイッターのユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、
これらに対する批評の目的で行われたものと認められ、それに当たり、批評の対象 15 とする原稿投稿2〜4のスクリーンショットが添付されたものであるところ、その添付の態様に照らし、引用をする本文と引用される部分(スクリーンショット)は明確に区別されており、また、それらの引用の趣旨に照らし、引用された原告投稿2〜4の範囲は、それぞれ相当な範囲内にあるということができる。
以上の点を考慮すると、本件各投稿における原告各投稿のスクリーンショットの添付は、いずれも著作権法32条1項引用に当たるか、又は引用に当たる可能性があり、原告各投稿に係るYの著作権を侵害することが明らかであると認めるに十分とはいえないというべきである。」 (3) 争点2-3(本件各投稿の名誉毀損性)について 被控訴人は、本件各投稿の内容は名誉毀損等に当たると主張するが、訂正して引用した原判決の第4の2(1)ア〜エで認定判断した原告各投稿の内容及びその性質並びに同(2)アで認定した本件各投稿の内容等によると、本件投稿1は、Yが多数の者に関する発信者情報開示請求をしていることを知らせ、このような行動をしているYを紹介して批評する目的で行われた可能性が認められ、また、本件投稿2〜4は、高圧的な表現で本件アカウント2を使用するユーザーを含むユーザーを罵倒する原告投稿2、他のユーザーを嘲笑する原告投稿3及び他のユーザーを嘲笑する原告投稿4を受けて、それらを批評する目的でされたものと認められ、それらの内容に照らしても、直ちにYの名誉を毀損したりYを侮辱したりするものとはいえず、
また、原告各投稿に対する批評として社会的に相当な範囲内にあるものである。
したがって、本件各投稿がYに対する名誉毀損等に当たることが明らかであると認めることはできず、被控訴人の主張は、採用することができない。
3 まとめ 以上の次第であるから、被控訴人の控訴人に対する本件発信者情報の開示請求は、
いずれも権利侵害の明白性を認めることができず、理由がないこととなる。
結論
よって、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきであるところ、
16 これを認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 勝又来未子
裁判官 中島朋宏