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事件 令和 4年 (ワ) 24124号 発信者情報開示請求事件
5原告 株式会社グルーヴ・ラボ
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/03/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 10 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨15 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファ イル共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録 記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化したことによって、本件 動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通20 信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下 「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記 載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘 示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)25 ? 当事者 ア 原告は、本件動画の著作権を有する株式会社である。(甲2の10、甲1 1 2、13、弁論の全趣旨) イ 被告は、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供している 株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者 に該当する。(弁論の全趣旨) 5 ? BitTorrentの仕組み(甲4ないし6、弁論の全趣旨) BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワー クであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようと するユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに10 接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウ ンロードする。
そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentクラ イアントソフトに読み込ませることにより、トラッカーサイトに接続し、当 該ファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらの15 ユーザーと接続した上で、当該ファイルをダウンロードする。なお、ダウン ロード中のユーザー(まだ完全な状態のファイルを復元できていない者)は、
「リーチャー」と呼ばれる。
イ ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、ピア(データをや り取りするコンピュータをいう。以下同じ。)としてトラッカーサイトに登20 録されるので、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(分割されたフ ァイル〔以下「ピース」という。〕を含む。)を提供しなければならないた め、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる。
すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、当 該ファイルについて同時にアップロード可能な状態に置かれることになり、
25 他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態になっ ている。
2 ウ ユーザーは、ピースの取得を続け、完全な状態のファイルを復元すると、
「シーダー」と呼ばれ、シーダーになると、アップロードのみを行うように なる。
? 原告による著作権侵害調査の概要(甲1、4ないし6、弁論の全趣旨) 5 ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件 調査会社」という。 に対し、
) 本件動画に係る著作権侵害についての調査(以 下「本件調査」という。)を依頼した。
イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記 載の日時頃、同記載のIPアドレスの割当てを受けた発信者(本件発信者)10 が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウンロー ド及びアップロードを行っていたことを報告した。
? 被告による本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。
争点及びこれに対する当事者の主張
15 本件の争点は、権利侵害の明白性であり、具体的には、本件調査の信用性であ る(令和5年1月17日経過表参照)。
(原告の主張) 1 本件調査会社は、BitTorrentを利用した違法ダウンロード及びアッ プロードの特定に際しては、μtorrentというクライアントソフトを利用20 しているが、同ソフトは、BitTorrentを利用しやすくするために開発 されたソフトウェアであり、BitTorrentを利用して特定のファイルの ダウンロードを行っているピアのIPアドレスを機械的に取得して表示するも のであるから、そこに恣意が入る余地はない。
そして、本件調査会社は、本件調査において、μtorrentを利用して、
25 本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時頃、同目録記載のIPアドレスの 割当てを受けて、BitTorrentのネットワークに参加し、本件ファイル 3 のダウンロード及びアップロードを行っていることを確認している。
2 以上によれば、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時頃、被告の提供 するインターネット接続サービスを利用し、同目録記載のIPアドレスの割当て を受けてインターネットに接続し、BitTorrentを用いて、本件ファイ 5 ルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動 的に送信し得る状態にしたことが認められる。
そして、本件発信者の上記行為につき、違法性阻却事由の存在をうかがわせる 事情は認められないから、本件動画に係る原告の送信可能化権が侵害されたこと は明白であるといえる。
10 (被告の主張) 1 原告は、本件ファイルをダウンロードしているユーザーのIPアドレスが甲1 に表示されていると主張するが、実際に接続された端末のIPアドレスと、甲1 に表示されるIPアドレスが一致することを確認する試験を行っていないから、
甲1に表示されたIPアドレスが、本件発信者のものであるとは認められない。
15 また、甲1によっても、本件調査会社と本件発信者が直接接続していることは 確認できない上、甲1によれば、当該調査時刻において、本件発信者に係る「下 り速度」及び「上り速度」の表示がないことが認められるから、当該調査時刻に おいて、本件発信者はダウンロード又はアップロードを停止していたといえる。
すなわち、本件発信者は、当該調査時刻(別紙発信者情報目録記載の日時)にお20 いては、本件ファイルを送信可能な状態においたとは認められない。
さらに、甲1によれば、本件発信者のフラグは「IHXeP」であるところ、
当該フラグの表記は、ピアが着信接続しているだけの状態でありアップロード中 ではないことを意味するから、本件発信者が本件動画を送信可能であったとは認 められない。
25 2 そもそも、P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムが技 術的に信用できるか否かに関する基準としては、乙1(「P2P型ファイル交換 4 ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」 があるのみであり、
) 権利侵害検出方法が技術的に信用できることを認定するには、乙1の基準による べきである。この点、本件調査では、本件発信者から実際にファイルをダウンロ ードしていないから、権利侵害情報の検出方法として技術的に信用できるとはい 5 えない。また、甲1に表示された時刻は、本件調査会社が手作業で表示させたも のにすぎないから、当該時刻において、本件発信者が送信可能化であったという ことはできない。さらに、本件発信者のファイル保有率が100%に至っていな い場合は、乙1の定める「ファイルを送信可能状態としている場合」に当たらな いから、権利侵害があったということはできない。
10 第4 当裁判所の判断 1 争点に対する判断 前記前提事実、証拠(甲1、4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、本件調 査につき、次の事実が認められる。
? μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つで15 あり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及 びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した 上で、当該IPアドレスとともに、当該ユーザーが当該ファイルをアップロー ドする際の上り速度や、ダウンロードする際の下り速度、ダウンロード量及び アップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。
20 ? 本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件動画に係るトレントファ イルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、
本件ファイルのダウンロードを行った。
そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上記 機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorre25 ntを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存 否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレ 5 スの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウンロードす ると同時にアップロードしていることを確認した。
2 権利侵害の明白性 ? 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれば、
5 本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当 該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて 自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載のIPア ドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、ダ ウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる本件調査10 会社の端末に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認め られる。
これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時 において本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと認めるのが相当で ある。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を15 阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
? これに対し、被告は、本件調査会社による本件調査には信用性が認められな いとして、権利侵害の明白性が認められない旨主張する。
そこで検討するに、証拠(甲11)によれば、μtorrent上、「上り20 速度」及び「下り速度」の表示がない場合であっても、ダウンロードが行われ ていることが認められることからすると、「上り速度」及び「下り速度」の表 示がないことをもってダウンロード又はアップロードをしていないというこ とはできない。
また、証拠(甲1、11)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社がファ25 イルを取得している先がμTorrent上に表示されることが認められる ことからすると、本件発信者のフラグにかかわらず、本件調査会社が、本件発 6 信者から本件ファイルをダウンロードしていることが認められる。
さらに、被告主張に係る調査時刻やIPアドレスの正確性についても、証拠 (甲1、4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、これらが正確であるものと 認めるのが相当であり、その他に、上記認定に係る本件調査の内容等を踏まえ 5 れば、被告の主張は、これらを十分に考慮しても、いずれも送信可能化に係る 上記認定を覆すに足りないというべきである。
したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 正当な理由 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定して10 いることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受け るべき正当な理由があるものといえる。
4 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
結論
15 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のと おり判決する。
追加
20裁判長裁判官中島基至25裁判官7 小田誉太郎5裁判官古賀千尋8 別紙発信者情報目録以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の5氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス令和4年(2022年)7月15日日時5時14分10秒IPアドレス(省略)ポート番号(省略)9 別紙著作物目録令和4年(2022年)7月15日日時5時14分10秒IPアドレス(省略)甲1-6ポート番号(省略)甲2-10品番(省略)作品名(省略)510