運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 4年 (ワ) 22329号 発信者情報開示請求事件
5原告株式会社MBM
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/03/23
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 10 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨15 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファ イル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物 目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化したことによって、
本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電20 気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以 下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録 記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものと する。)25 ? 当事者 ア 原告は、本件動画の著作権を有する株式会社である。(甲2の91、弁論 1 の全趣旨) イ 被告は、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供している 株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者 に該当する。(弁論の全趣旨) 5 ? BitTorrentの仕組み(甲4、5、8、9、弁論の全趣旨) BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワー クであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようと するユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに10 接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウ ンロードする。
そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentクラ イアントソフトに読み込ませることにより、トラッカーサイトに接続し、当 該ファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらの15 ユーザーと接続した上で、当該ファイルをダウンロードする。なお、ダウン ロード中のユーザー(まだ完全な状態のファイルを復元できていない者)は、
「リーチャー」と呼ばれる。
イ ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、ピア(データをや り取りするコンピュータをいう。以下同じ。)としてトラッカーサイトに登20 録されるので、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(分割されたフ ァイル〔以下「ピース」という。〕を含む。)を提供しなければならないた め、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態となる。すなわち、リ ーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、当該ファイルに ついて同時にアップロード可能な状態に置かれることになり、他のリーチャ25 ーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態になっている。
ウ ユーザーは、ピースの取得を続け、完全な状態のファイルを復元すると、
2 「シーダー」と呼ばれ、シーダーになると、アップロードのみを行うように なる。
? 原告による著作権侵害調査の概要(甲1、4、5、8) ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件 5 調査会社」という。 に対し、
) 本件動画に係る著作権侵害についての調査(以 下「本件調査」という。)を依頼した。
イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記 載の日時に、同記載のIPアドレスの割り当てを受けた発信者(本件発信者) が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウンロー10 ド及びアップロードを行っていたことを報告した。
? 被告による本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨)
争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は、権利侵害の明白性であり、具体的には、本件調査の信用性であ15 る(第1回口頭弁論調書参照)。
(原告の主張) 1 本件調査会社は、BitTorrentを利用した違法ダウンロード及びアッ プロードの特定に際しては、μtorrentというクライアントソフトを利用 しているが、同ソフトは、BitTorrentを利用しやすくするために開発20 されたソフトウェアであり、BitTorrentを利用して特定のファイルの ダウンロードを行っているピアのIPアドレスを機械的に取得して表示するも のであるから、そこに恣意が入る余地はない。
そして、本件調査会社は、本件調査において、μtorrentを利用して、
本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時頃、同目録記載のIPアドレスの25 割当てを受けて、BitTorrentのネットワークに参加し、本件動画に係 るファイルのダウンロード及びアップロードを行っていることを確認している。
3 2 以上によれば、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時頃、被告の提供 するインターネット接続サービスを利用し、同目録記載のIPアドレスの割当て を受けてインターネットに接続し、BitTorrentを用いて、本件ファイ ルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動 5 的に送信し得る状態にしたことが認められる。
そして、本件発信者の上記行為につき、違法性阻却事由の存在をうかがわせる 事情は認められないから、本件動画に係る原告の送信可能化権が侵害されたこと は明白であるといえる。
(被告の主張)10 1 原告は、本件ファイルをダウンロードしているユーザーのIPアドレスが甲1 に表示されていると主張するが、実際に接続された端末のIPアドレスと、甲1 に表示されるIPアドレスが一致することを確認する試験を行っていないから、
甲1に表示されたIPアドレスが、本件発信者のものであるとは認められない。
また、甲1によっても、本件調査会社と本件発信者が直接接続していることは15 確認できない上、甲1によれば、当該調査時刻において、本件発信者に係る「下 り速度」及び「上り速度」の表示がないことが認められるから、当該調査時刻に おいて、本件発信者はダウンロード又はアップロードを停止していたといえる。
すなわち、本件発信者は、当該調査時刻(別紙発信者情報目録記載の日時)にお いては、本件ファイルを公衆送信していなかったといえる。
20 さらに、甲1によれば、本件発信者のファイル保有率はわずか5.8%にすぎ ず、このような低い保有率でアップロードができることを認めるに足りる証拠は ない上、フラグも「IXP」、すなわち着信接続中であってアップロード中では ないから、本件発信者が本件動画を送信可能であったとは認められない。
2 そもそも、P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムが技25 術的に信用できるか否かに関する基準としては、乙1(「P2P型ファイル交換 ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」 があるのみであり、
) 4 権利侵害検出方法が技術的に信用できることを認定するには、乙1の基準による べきである。この点、本件調査では、本件発信者から実際にファイルをダウンロ ードしていないから、権利侵害情報の検出方法として技術的に信用できるとはい えない。また、甲1に表示された時刻は、本件調査会社が手作業で表示させたも 5 のにすぎないから、当該時刻において、本件発信者が送信可能化であったという ことはできない。さらに、本件発信者のファイル保有率が100%に至っていな い場合は、乙1の定める「ファイルを送信可能状態としている場合」に当たらな いから、権利侵害があったということはできない。
当裁判所の判断
10 1 争点に対する判断 前記前提事実、証拠(甲1、4、5、8、9)及び弁論の全趣旨によれば、本 件調査につき、次の事実が認められる。
? μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つで あり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及15 びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した 上で、当該IPアドレスとともに、当該ユーザーが当該ファイルをアップロー ドする際の上り速度や、ダウンロードする際の下り速度、ダウンロード量及び アップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。
? 本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件動画に係るトレントファ20 イルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、
本件ファイルのダウンロードを行った。
そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上記 機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorre ntを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存25 否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレ スの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウンロードす 5 ると同時にアップロードしていることを確認した。
2 権利侵害の明白性 ? 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれば、
本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当 5 該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて 自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載のIPア ドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、ダ ウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる本件調査 会社の端末に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認め10 られる。
これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時 において本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと認めるのが相当で ある。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を 阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
15 したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
? これに対し、被告は、本件調査会社による本件調査には信用性が認められな いとして、権利侵害の明白性が認められない旨主張する。
そこで検討するに、証拠(甲12、14)によれば、μtorrent上、
「上り速度」及び「下り速度」の表示がない場合であっても、ダウンロードが20 行われていることが認められることからすると、
「上り速度」 「下り速度」 及び の表示がないことをもってダウンロード又はアップロードをしていないとい うことはできない。
また、前記前提事実、認定事実及び証拠(甲14)によれば、BitTor rentにおいては、ファイル保有率が低い場合であっても、ピースのアップ25 ロードが行われることが認められることからすると、本件発信者のファイル保 有率が低いことをもって本件発信者が本件動画を送信していないということ 6 はできない。
そして、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者のフラグに かかわらず、本件調査会社が、本件発信者から本件ファイルをダウンロードし ていることが認められることからすると、被告の主張は、前記認定を左右する 5 ものとはいえない。
さらに、被告主張に係る調査時刻やIPアドレスの正確性についても、証拠 (甲1、4、5、8)及び弁論の全趣旨によれば、これらが正確であるものと 認めるのが相当であり、その他に、上記認定に係る本件調査の内容等を踏まえ れば、被告の主張は、これらを十分に考慮しても、いずれも送信可能化に係る10 上記認定を覆すに足りないというべきである。
したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 正当な理由 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定して いることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受け15 るべき正当な理由があるものといえる。
4 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のと20 おり判決する。
追加
25裁判長裁判官7 中島基至裁判官5小田誉太郎裁判官10古賀千尋8 別紙発信者情報目録5以下の時間に以下のIPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス令和4年(2022年)6月11日日時6時44分00秒IPアドレス(省略)9 別紙著作物目録令和4年(2022年)6月11日甲1-75日時6時44分00秒甲2-91IPアドレス(省略)品番(省略)作品名(省略)510