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事件 令和 4年 (ワ) 14258号 発信者情報開示請求事件
5
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
原告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ
原告 株式会社ポニーキャニオン
上記3名訴訟代理人弁護士 林幸平 10 笠島祐輝 尋木浩司 前田哲男 福田祐実
被告 株式会社NTTぷらら訴訟承継人 15 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 西村光治 橋慶彦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/02/03
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発20 信者情報目録記載1及び2の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告株式会社バンダイナムコミュージックライブに対し、別紙発信者情報目録記載3の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告株式会社ポニーキャニオンに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開示せよ。
25 4 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 事案の要旨 5 本件は、レコード製作会社である原告らが、被告に対し、氏名不詳者が、P 2Pの一種であるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)の ネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告 らがレコード製作者の権利を有するレコードについての送信可能化権(著作権 法96条の2)を侵害したことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害10 賠償請求等のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠 償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限 法」という。)5条1項に基づき、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各 情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ15 り容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告らは、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD等として発売 している株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 株式会社NTTぷららは、一般利用者に対してインターネット接続プロ20 バイダ事業等を行っている株式会社であり、同社は、令和4年7月1日、
被告に吸収合併され、被告が合併後存続する会社とされた(以下、吸収合 併の前後を問わず「被告」という。)。被告は、プロバイダ責任制限法5 条1項柱書の「特定電気通信役務提供者」に該当する。(弁論の全趣旨) (2) 原告らの送信可能化権25 ア 原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー」と いう。)は、Aが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル名 2 を「甲」とする音楽CD(商品番号:(番号は省略))に収録して、令和 3年11月17日、これを日本全国で発売した(甲3)。
原告ソニーは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可 能化権を有する。
5 イ 原告ソニーは、Bが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイト ル名を「乙」とする音楽CD(商品番号:(番号は省略)) に収録して、
令和3年11月24日、これを日本全国で発売した(甲7)。
原告ソニーは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信可 能化権を有する。
10 ウ 原告株式会社バンダイナムコミュージックライブ(以下「原告バンダイ」 という。)は、Cが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、タイトル 名を「丙」とする音楽CD(商品番号:(番号は省略))に収録して、令 和3年8月25日、これを日本全国で発売した(甲11)。
原告バンダイは、上記レコードについて、レコード製作者としての送信15 可能化権を有する。
エ 原告株式会社ポニーキャニオン(以下「原告ポニーキャニオン」とい う。)は、Dが歌唱する楽曲を録音したレコード(以下、前記アないしウ のレコードと併せて「本件各レコード」という。)を製作し、タイトル名 を「丁」とする音楽CD(商品番号:(番号は省略))に収録して、令和20 3年11月24日、これを日本全国で発売した(甲15)。
原告ポニーキャニオンは、上記レコードについて、レコード製作者とし ての送信可能化権を有する。
(3) 原告らによる調査等 原告らは、株式会社クロスワープ(以下「本件調査会社」という。)に対25 し、本件各レコードについて、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の 監視等を依頼した。本件調査会社は、「P2P FINDER」(以下「本 3 件システム」という。)を使用して調査を開始したところ、別紙発信者情報 目録記載の各日時に、同記載の各IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者 (以下「本件各発信者」と総称する。)が、ビットトレントネットワーク上 において、本件各レコード複製物である電子データ(以下「本件複製物」 5 という。)を、不特定多数のビットトレント利用者の求めに応じ、自動的に アップロードし得る状態にしたとの調査結果(以下「本件調査結果」とい う。)を得た。(甲2、3、6、7、10、11、14、15、弁論の全趣 旨) (4) 本件各発信者情報の保有10 被告は、本件各発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。
3 争点 ? 原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか(争点1) ? 本件各発信者情報は権利の侵害に係る発信者情報といえるか(争点2) ? 本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)15 4 争点に関する当事者の主張 ? 争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び 争点2(本件各発信者情報は権利の侵害に係る発信者情報といえるか)につ いて (原告らの主張)20 本件調査会社は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により 信用性が認められると認定された本件システムを使用して、適切に調査を実 施し、本件調査結果を得たものである。したがって、本件調査結果には信用 性が認められる。
これに対し、被告は、本件調査会社作成に係る平成27年4月付け「Bi25 tTorrentネットワークにおける効率的な著作権侵害監視手法につい て」と題する書面(以下「本件資料」という。)において、本件システムを 4 利用した著作権侵害行為の監視手法につき、バイナリマッチ(発信者からダ ウンロードしたファイルのピースが、複数のピアから取得した全体ファイル の一部であることを確認すること)を行う手法が提案されているにもかかわ らず、本件において、本件調査会社はバイナリマッチを実施していないなど 5 として、本件調査結果の信用性を争う。
しかし、上記提案に係る監視手法は、複数ある手法のうちの一つにすぎず、
必ずバイナリマッチを実施しなければ正確に発信者のIPアドレス等を特定 できないというわけではないというべきである。本件調査会社は、発信者の アップロードしたファイルをダウンロードする際に、同発信者に直接接続し、
10 IPアドレス等を記録することにより、同発信者のIPアドレス等を特定し ているから、バイナリマッチを実施していなくても、発信者のIPアドレス 等は正確であると認められる。
したがって、この点に関する被告の主張は理由がなく、本件調査結果によ り、本件各発信者が、別紙発信者情報目録記載の各日時に、ビットトレント15 ネットワーク上において、本件複製物を、不特定多数のビットトレント利用 者の求めに応じ、自動的にアップロードし得る状態にしたといえる(以下、
これらの本件各発信者による行為を「本件各送信可能化行為」と総称す る。)。
そして、本件各送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著20 作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しな いため、本件各送信可能化行為を行った本件各発信者によって原告らが本件 各レコードに対して有する送信可能化権が侵害されたことが明らかであり (プロバイダ責任制限法5条1項1号)、当該送信可能化権侵害との関係に おいて、被告は開示関係役務提供者に、本件各発信者情報は権利侵害に係る25 発信者情報にそれぞれ該当する(同条1項柱書)。
(被告の主張) 5 本件調査会社による本件システムを利用した調査方法には、@本件資料に バイナリマッチを実施する手法が提案されているにもかかわらず、この手法 に則った調査が実施されていない、AIPアドレスを複数回検出しているか どうか不明であるから、誤ったIPアドレスが検出された可能性が排除され 5 ないといった問題点があり、発信者の特定の正確性に疑義がある。したがっ て、本件各発信者が本件各送信可能化行為により原告の権利を侵害したこと が明らか(プロバイダ責任制限法5条1項1号)とはいえないし、本件各発 信者情報が権利侵害に係る発信者情報(同条1項柱書)に該当するとはいえ ない。
10 また、本件各発信者がビットトレントの仕組みを十分認識し、理解してい たとは限らないから、本件各発信者が第三者の送信可能化権を侵害すること を認識し又は認識し得たといえるかは明らかではない。したがって、本件各 発信者の故意・過失による権利侵害があったとはいえず、原告らの権利が侵 害されたことが明らかであるとはいえない。
15 ? 争点3(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)につ いて (原告らの主張) 原告らは、本件各発信者に対し、損害賠償請求及び差止請求を行う予定で あるところ、本件各発信者の氏名、住所等は不明であるため、本件各発信者20 に対し、上記各請求をすることはできない状態にある。
したがって、原告らには、本件各発信者に対する損害賠償請求及び差止請 求の行使のために、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある といえる。
(被告の主張)25 争う。
当裁判所の判断
6 1 争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び争 点2(本件各発信者情報は権利の侵害に係る発信者情報といえるか)について ? 本件調査会社による調査実施方法について ア 証拠(甲2、6、10、14)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレ 5 ントネットワークとは、インターネットを通じ、P2P方式でファイルを 共有するネットワークであり、特定のファイルをダウンロードしようとす るユーザーは、インデックスサイトにおいて当該ファイルに係るトレント ファイルをダウンロードした後、当該トレントファイルを自らの端末のク ライアントソフトで読み込むと、トラッカーに接続して当該ファイルを保10 有するピアの情報を取得することができ、当該ピアから当該ファイルをダ ウンロードすることができる仕組みのものであることが認められる。
そして、証拠(甲2、6、10、14)及び弁論の全趣旨によれば、本 件調査会社は、(@)トレントファイルのファイル名に基づいて、著作権 侵害情報を含むファイル(以下「対象ファイル」という。)を特定する、
15 (A)当該トレントファイルに記載された情報に基づき、対象ファイル全 体を公開しているユーザーを絞り込み、同ユーザーから対象ファイルの一 部をダウンロードし、当該IPアドレス及びダウンロード時刻を記録する、
(B)当該トレントファイルをクライアントソフトで読み込み、対象ファ イルの全体をダウンロードし、本件各レコードとその内容を比較するとい20 う手法に則って、本件調査結果を得たことが認められる。
本件証拠上、上記の調査方法に特段の問題があるとはうかがわれないか ら、本件調査結果の信用性を認めることができる。
イ これに対し、被告は、本件調査結果において、@本件資料ではバイナリ マッチを実施する手法が提案されているにもかかわらず、この手法に則っ25 た調査が実施されていない、AIPアドレスが複数回検出されているか不 明であるといった問題点があり、誤ったIPアドレスが検出された可能性 7 が排除されないから、本件調査結果には信用性が認められないなどと主張 する。
しかし、@に関しては、証拠(甲2、6、10、14)によれば、同一 のトレントファイルからは必ず同一のファイルが取得されることが認めら 5 れるところ、本件調査会社による上記調査では、前記ア(A)の過程と前 記ア(B)の過程で同一のトレントファイルを用い、前記ア(B)の過程 において、ダウンロードした対象ファイルが本件各レコードの内容と同一 であることを確認しているから、前記ア(A)の過程で取得したIPアド レス等は、本件複製物をアップロードした者に割り当てられたものといえ、
10 この認定を左右するに足りる事情は見当たらない。したがって、バイナリ マッチを実施するまでもなく、本件調査結果は信用することができるとい うべきである。そして、被告がその主張の根拠とする本件資料は、どのよ うな経緯で作成された資料であるのか明らかではない上、本件資料自体、
「効率的な著作権侵害監視を実施する手法の提案を行う。」と謳っている15 ことから、誤りの混入し得ない手法を提案することを目的としたものでは ないとも考えられ、本件資料で提案されているバイナリマッチの手法が省 かれていたとしても、本件調査結果の信用性が否定されるものではない。
また、Aに関しては、実際に本件システムがIPアドレスを誤って検出 する可能性がどの程度あるのかについて、被告の主張及び立証は全くない20 から、IPアドレスを複数回検出する必要があるとは認め難く、これを実 施していないことを理由として、本件調査結果の信用性を否定することは できないというべきである。
よって、被告の上記主張はいずれも採用することができない。
ウ 以上によれば、本件各発信者が、本件各レコードについて、それぞれ、
25 別紙発信者情報目録記載1ないし4の各日時頃、被告のインターネット接 続サービスを利用し、同目録記載1ないし4の各IPアドレスの割当てを 8 受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるビット トレントを用いて、本件複製物を、不特定多数の他のビットトレントの利 用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことが認められる。
また、本件全証拠によっても、本件各送信可能化行為について、原告 5 らによる許諾、著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在 をうかがわせる事情は認められない。
? 発信者の故意・過失に係る被告の主張について プロバイダ責任制限法5条1項1号は、「当該開示の請求に係る侵害情報 の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかで10 あるとき」を、発信者情報の開示を認めるための要件として規定するのみで あって、その文言上、発信者の故意又は過失により権利が侵害されたことを 要件としていない上、発信者がまだ特定されていない段階において、発信者 の主観的要件についても権利者にその立証の負担を負わせることは相当では ないというべきである。そうすると、同号の要件として、権利者は、発信者15 の故意・過失を主張及び立証する必要性はないものと解するのが相当である。
よって、本件各発信者の故意又は過失を権利侵害の明白性の要件とする被 告の主張は、失当であって、採用することができない。
? 小括 以上によれば、本件送信可能化行為に係る情報の流通によって原告らの本20 件各レコードに係る送信可能化権が侵害されたことが明らかであり、本件各 発信者情報は、各権利の侵害に係る発信者情報(プロバイダ責任制限法5条 1項柱書)に該当すると認められる。
2 争点3(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)につい て25 原告らは、それぞれ、前記1のとおり自己の送信可能化権を侵害したことが 明らかな本件各発信者に対して、損害賠償請求及び差止請求を行う意思を有し 9 ており、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要 があると認められるから、いずれも、自己の権利侵害に係る発信者情報の開示 を受けるべき正当な理由があるといえる。
結論
5 よって、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし て、主文のとおり判決する。
追加
10裁判長裁判官國分隆文15裁判官小川暁20裁判官バヒスバラン薫10 (別紙)発信者情報目録51令和3年11月24日3時28分28秒頃に「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス2令和3年12月20日6時34分39秒頃に「(IPアドレスは省略)」とい10うIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス3令和3年11月24日6時20分53秒頃に「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住15所及び電子メールアドレス4令和3年12月20日7時56分16秒頃に「(IPアドレスは省略)」というIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス20以上11