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事件 令和 2年 (ワ) 12348号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2022/11/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和 4 年 11 月 30 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和 2 年(ワ)第 12348 号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 令和 4 年 9 月 20 日

判 決

5


原 告 株式会社日本経済新聞社



同訴訟代理人弁護士 冨 來 真 一 郎

同 大 場 規 安

10


被 告 首都圏新都市鉄道株式会社



同訴訟代理人弁護士 富 田 純 司

同 木 暮 信 吉

15 同訴訟復代理人弁護士 尾 下 大 介

主 文

1 被告は、原告に対し、459 万 5000 円及びこれに対する平成 31 年 4 月

17 日から支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

20 3 訴訟費用は、これを 10 分し、その 1 を被告の負担とし、その余は原

告の負担とする。

4 この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

25 被告は、原告に対し、4414 万 6971 円及びこれに対する平成 31 年 4 月 17 日

からから支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。


1
第2 事案の概要

本件は、原告が著作権を有する別紙一覧表記載の新聞記事(以下「本件各記

事」という。)につき、被告が、これらの画像データを作成して記録媒体に保存

した上、当該画像データを被告社内のイントラネット(以下「被告イントラネ

5 ット」という。)上にアップロードして被告従業員等が閲覧できる状態に置いた

ことは、原告の本件各記事に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害する

旨を主張して、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法 709

条。損害額につき、著作権法(以下「法」という。)114 条 3 項)として、その

使用料相当損害金の一部及び弁護士費用相当損害額の合計 4414 万 6971 円の賠

10 償並びにこれに対する不法行為後の日である平成 31 年 4 月 17 日から支払済み

まで平成 29 年法律第 44 号による改正前の民法(以下「平成 29 年改正前の民

法」という。 所定の年 5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易

に認められる事実。証拠番号の枝番は省略する(以下同様) )


15 (1) 当事者

ア 原告は、日刊新聞の制作・発行及び販売を営むことを主な目的とする株

式会社であり、日刊新聞「日本経済新聞」を発行すると共に、電子新聞「日

本経済新聞 電子版」をインターネットで配信している(以下、上記各新

聞を併せて「本件新聞」という。)。

20 イ 被告は、鉄道事業法に基づく第一種鉄道事業等を営むことを目的とする

株式会社であり、平成 17 年 8 月 24 日から、東京都千代田区所在の「秋葉

原駅」と茨城県つくば市所在の「つくば駅」とを結ぶ鉄道路線(総駅数 20

駅)を「つくばエクスプレス」(以下「TX」という。)との名称にて運営

している。被告の事実上の本店所在地は(住所省略)であり(以下「事実

25 上の本店」という。)、被告は、そのほかに、駅舎事務所その他の事務所

を東京都、埼玉県、千葉県及び茨城県内に有している。


2
(2) 本件各記事の概要

本件各記事は、TX の開業直後である平成 17 年 8 月 27 日から平成 31 年 4

月 16 日までの間の新聞記事であるところ(このうち、別紙一覧表の「甲 30

の番号」欄の 1 番〜516 番に対応する「新聞記事タイトル」欄記載のタイト

5 ルがそれぞれ付された 517 件の記事(なお、同 506 番の記事には、「TX 開業

から 12 年、車両老朽化対策急ぐ、車体更新場を稼働、乗客増の対応も課題に

(北関東フォーカス)」及び「TX 開業から 12 年、車両老朽化対策急ぐ―社

長「新施設で長期運用支える」(北関東フォーカス)」の 2 件の記事が含ま

れる。)を併せて「平成 30 年 3 月以前の記事」といい、同別紙の「番号」欄

10 の 2004 番〜2315 番に対応する「新聞記事タイトル」欄記載のタイトルが付

された 312 件の記事を併せて「平成 30 年 4 月以降の記事」という。)、これ

らは、いずれも原告従業員である記者が作成して本件新聞に掲載された記事

である(甲 6、24、30、乙 5)。

(3) 被告の行為

15 ア 平成 30 年 3 月以前の記事の使用等

被告は、本件各記事のうち、平成 30 年 3 月以前の記事 517 件を保管し

ている(甲 30)。被告は、新聞記事の保管方法について、基本的に、以下

のように運用している。

(ア) 平成 17 年から平成 24 年 6 月まで

20 新聞紙から記事を切り抜き、これを A4 用紙に貼り付け、その A4 用紙

に、「新聞社名」、「新聞発行日付」等を記載する。

(イ) 平成 24 年 7 月以降

表紙に、「日付」、「新聞掲載記事」(タイトル)、「発行部署」等

の「枠」を付した上で、「新聞社名」、「新聞発行日付」等を記載する

25 (以下、この「枠」の付された記事を「枠付き記事」という。)。

この「枠」は、被告が被告イントラネットに掲載する際に周知しやす


3
くすることを目的として付したものである。被告が保管する本件新聞に

係る記事のうち、「枠」を付す運用が行われた平成 24 年度から平成 29

年度までの間のものは 114 件であるが、そのうち 107 件が枠付き記事で

あり、その余は表紙の存否が不明である(乙 7)。

5 イ 平成 30 年 4 月以降の記事の使用等

被告は、本件各記事のうち平成 30 年 4 月以降の記事 312 件を、それぞ

れ、別紙一覧表記載の「被告イントラネット掲載日」欄記載の日に被告イ

ントラネット上の掲示板にアップロードし、被告従業員等が閲覧できる状

態にした(甲 6、9、24)。

10 ウ 被告イントラネットの概要

被告イントラネットは、被告の事実上の本店、駅舎事務所その他の事務

所をネットワークで接続するネットワークシステムである。

被告イントラネットの掲示板にアクセスするには被告が割り当てたアカ

ウントにログインする必要があることから、割り当てられたアカウント数

15 が掲示板にアクセス可能な数となる。被告の役職員(被告従業員等)の人

数は、TX が開業した平成 17 年 8 月当時で 500 名程度、平成 31 年 4 月当

時で 700 名程度であったところ、割り当てられたアカウントの総数は、平

成 17 年 8 月当時で合計 249 アカウント、平成 30 年 4 月当時で合計 574 ア

カウント、平成 31 年 4 月当時で合計 728 アカウントであった(甲 5、6)。

20 2 争点

(1) 平成 30 年 3 月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数等

(2) 本件各記事の著作物性

(3) 原告の損害及びその額

3 争点に関する当事者の主張

25 (1) 平成 30 年 3 月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数等

(原告の主張)


4
被告は、少なくとも、平成30年3月以前の本件新聞の記事で被告にて保存

している546件から、TXの開業直後に原告が被告に交付したと考えられる16

件の記事を控除した530件を被告イントラネットに掲載した。このうち、原

告に著作権が帰属しないと考えられる14件を除いた517件の記事(平成30年

5 3月以前の記事)のタイトルは、別紙一覧表の「甲30の番号」欄の1番〜516

番の番号に対応する「新聞記事タイトル」欄記載のとおりである。

これらの記事を含め、被告は、平成17年8月24日〜平成31年4月16日の間に、

少なくと も毎 年合計 312件程度の 記事の 掲載 を行 って いた ( 別紙一覧 表の

「備考」欄の「記事●本分」とは、上記517件の記事に加え、具体的な記事

10 の特定はできないが、平成30年4月以降の被告イントラネット掲載件数(1年

で 312件 ) か ら 同 年 3月 以 前 の 掲 載 件 数 を 推 定 し た 件 数 を 含 め た も の で あ

る。 。なお、被告が保管している記事以外は、被告イントラネットに掲載さ


れた記事を個別に特定すること はできないが、そもそも著作権侵害行為に

よる損害賠償を請求するに当たり、被告が利用した個々の原告 の著作物の

15 全てを特定する必要はない。

(被告の主張)

平成 30 年 3 月以前の記事について、被告が保管する 516 件の記事のうち、

具体的にどの記事が被告イントラネットに掲載されたのかは分からない。も

っとも、平成 24 年 7 月以降の記事のうち枠付き記事については、被告イント

20 ラネットに掲載したと推測される。

その余は否認する。

(2) 本件各記事の著作物性

(原告の主張)

本件各記事は、選択された素材の内容、量、構成等によって、その記事の

25 主題についての著作者の賞賛、好意、批判、断罪、情報価値等に対する評価

等の思想、感情が表現されているものであり、著作物といい得るほどの内容


5
を含む記事であって、単純な死亡記事、人事異動、叙位叙勲の記事など事実

の伝達に過ぎない雑報などではない。

したがって、本件各記事は、いずれも著作物といえる。

被告は、原告の著作物に接した上で、自らが創作した著作物でないことを

5 認識しつつ、原告から許諾を得ることなくこれを複製及び公衆送信したので

あるから、被告には故意がある。仮に故意がないとしても、被告には少なく

とも過失がある。

(被告の主張)

新聞の記事のうち、事実の伝達に過ぎない雑報・報道は著作物ではなく、

10 雑報・報道記事であっても文芸・学術の領域に入る記事であり、創作的に思

想又は感情を表現するものであれば著作物になる。創作とは、ここでは、芸

術的感興を文芸・絵画・音楽などの芸術作品として独創的に表現すること又

はその表現された作品を意味することから、思想の表現なら思想を、感情の

表現であれば芸術的感興を創作的に表現したものが著作物である。しかるに、

15 一般の新聞報道記事は、本質的に事実を伝達するものであり、正確性を使命

とし、創作があってはならないものである。このため、一般の新聞報道記事

は、アプリオリには創作性がなく、著作物とはいえない。記者による記事化

の際の作業が高度な知的作業だとしても、そのことと創作性は直接関連する

ものではない。

20 また、原告は、本件各記事の個々の記事について、それが思想又は感情を

表現したものであり、かつ、創作的に表現したものであることを主張立証し

ない。

したがって、本件各記事は、いずれも原告の記者の思想又は感情を創作的

に表現したものではなく、事実の伝達に過ぎない雑報及び時事の報道であっ

25 て、著作物性はない。

被告又は被告担当者は本件各記事につき著作権が成立していることの認識


6
はなく、その著作権侵害の結果発生の予見可能性はなかったことから、過失

もない。

(3) 原告の損害及びその額

(原告の主張)

5 ア 被告は、別紙一覧表の「被告イントラネット掲載日」欄記載の日に、
「新

聞記事タイトル」欄記載のタイトルの新聞記事(その件数は同一覧表の「備

考欄」記載のとおり)を被告イントラネットに掲載した。

原告による新聞記事の使用許諾等の実績及びこれを本件に適用した使用

料は、次のとおりである。

10 (ア) 平成 17 年 8 月 24 日〜平成 20 年 8 月末日の間

「スポット記事使用料」と題する書面(甲 10。以下「本件料金
原告は、

表 1」という。)に記載された内容に基づき、@利用目的や利用方法(直

接的な営業ツール、営業支援ツール他のいずれであったのか)の確定、

Aイントラネットに接続できた端末数(同一端末を利用して複数のアカ

15 ウントにてイントラネットに接続できた場合には総アカウント数)の確

定、B対象となった記事内容(本文が読めたのか見出しが読めた程度か

など)の確定をした上で、本件料金表 1 に記載された金額により使用許

諾を行っていた。なお、Aにて確定した数字は「発行部数」の数字とし

て運用していた。

20 本件では、被告の行為は被告従業員等に向けての被告イントラネット

での利用であることから、
「営業支援ツール他」に該当する。また、この

期間における被告イントラネットに接続可能であった総アカウント数は

「101〜500」に該当する。これらの場合の一般記事の使用料は、1 つの

記事当たり、2000 円に当時の消費税率 5%を加算した 2100 円である。

25 (イ) 平成 20 年 9 月 1 日〜平成 22 年 2 月末日の間

「日経・日経産業・日経 MJ・Nikkei Weekly
原告は、 スポット申請 記


7
事利用料金表(第 2 版)」と題する書面(甲 11。以下「本件料金表 2」と

いう。 に記載された内容に基づき、
) @利用目的や利用方法(営業ツール、

情報提供資料ほかのいずれであったのか)の確定、Aイントラネットに

接続できた端末数(同一端末を利用して複数のアカウントにてイントラ

5 ネットに接続できた場合には総アカウント数)の確定、B対象となった

記事内容(記事を全体的に利用したのか図表など記事の一部を利用した

のか)の確定をした上で、本件料金表 2 に記載された金額により使用許

諾を行っていた。

本件では、被告の行為は被告従業員等に向けての被告イントラネット

10 での利用であることから、
「情報提供資料ほか」に該当する。また、この

期間における被告イントラネットに接続可能であった総アカウント数は

「101〜500」に該当する。これらの場合の一般記事の使用料は、1 つの

記事当たり、3000 円に当時の消費税率 5%を加算した 3150 円である。

(ウ) 平成 22 年 3 月 1 日〜平成 28 年 1 月 3 日の間

15 「記事デジタル利用料金表」と題する書面(甲 12。以下「本件
原告は、

料金表 3」という。)に記載された内容に基づき、@使用する記事(日経

ヴェリタスの記事かそれ以外の記事か)の確定、Aイントラネットに接

続できる端末数(同一端末を利用して複数のアカウントにてイントラネ

ットに接続できる場合には総アカウント数)の確定、B対象となる記事

20 内容(一般記事なのか原告の調査記事なのかなど)の確定、C利用期間

(1 ヶ月以内なのか 1 ヶ月超 1 年以内なのか)の確定をした上で、本件

料金表 3 に記載された使用料により使用契約を締結していた。なお、本

件料金表 3 によれば、イントラネットへの掲載期間が 1 年を超える場合、

使用料は新たに発生する。

25 本件では、被告の行為は日経ヴェリタス以外の記事に関するものであ

った。また、この期間における被告イントラネットに接続可能であった


8
総アカウント数は「500 以下」に該当する。さらに、利用期間は 1 ヶ月

を超過していた。これらの場合の一般記事の使用料は、1 つの記事当た

り 9000 円となる。これに消費税を加算すると、平成 22 年 3 月 1 日〜平

成 26 年 3 月末日の間は、当時の消費税率 5%を加算した 9450 円であり、

5 平成 26 年 4 月 1 日〜平成 28 年 1 月 3 日の間は、消費税率 8%を加算し

た 9720 円となる。

さらに、掲載期間が 1 年を超えた場合の使用料は、累積加算の算定対

象を被告が記事を保管しているものに限定すると、別紙一覧表の「累積

加算」欄記載のとおりであり、平成 28 年 1 月 4 日以降は後記本件料金

10 表 4 が適用される。

(エ) 平成 28 年 1 月 4 日〜平成 31 年 4 月 16 日の間

原告は、料金表(甲 13。以下「本件料金表 4」という。)に記載された

内容に基づき、@使用する記事(日経ヴェリタス及び英文の記事かそれ

以外の記事か)の確定、Aイントラネットに接続できる端末数(同一端

15 末を利用して複数のアカウントにてイントラネットに接続できる場合に

は総アカウント数)の確定、B対象となる記事内容(一般の記事、自社

記事、原告の独自調査記事なのかなど)の確定、C利用期間(1 か月以

内なのか、1 か月超 6 か月以内なのか、6 か月超 1 年以内なのか)の確定

をした上で、本件料金表 4 に記載された使用料により使用契約を締結し

20 ていた。なお、本件料金表 4 によれば、イントラネットへの掲載期間が

1 年を超える場合、使用料は新たに発生する。

本件では、被告の行為は、日経ヴェリタス及び英文以外の記事に関す

るものである。

また、平成 28 年 1 月 4 日から平成 30 年 3 月 31 日までについては、

25 被告イントラネットに接続可能であった総アカウント数は「1〜500」に

該当する。さらに、利用期間は 6 か月を超過していた。これらの場合の


9
一般記事の使用料は、1 つの記事当たり、9000 円に当時の消費税率 8%

を加算した金 9720 円である。

平成 30 年 4 月 1 日から同年 10 月 16 日までについては、総アカウン

ト数は「501〜1500」に該当する。さらに、利用期間は 6 か月を超過して

5 いた。これらの場合の一般記事の使用料は、1 つの記事当たり、 万 4000
1

円に当時の消費税率 8%を加算した 1 万 5120 円である。

平成 30 年 10 月 17 日から平成 31 年 3 月 16 日までについては、利用

期間が 1 か月超 6 か月以内であることから、1 つの記事当たりの使用料

は、1 万 1500 円に消費税 8%を加算した 1 万 2420 円となる。

10 平成 31 年 3 月 17 日から同年 4 月 16 日までについては、利用期間が 1

か月以内であることから、1 つの記事当たりの使用料は、7000 円に消費

税 8%を加算した 7560 円となる。

さらに、掲載期間が 1 年を超えた場合の使用料は、累積加算の算定対

象を被告が記事を保管しているものに限定すると、別紙一覧表の「累積

15 加算」欄記載のとおりである。

イ 以上より、本件における使用料相当損害金の合計は、総額では 1 億 5610

万 3200 円となるところ、累積加算の算定対象を被告が記事を保管してい

るものに限定すると、その合計は、別紙一覧表の「損害金額」欄の「使用

料相当損害金合計」欄記載のとおり、4013 万 3610 円となる。そこで、原

20 告は、被告に対し、1 億 5610 万 3200 円の損害賠償請求権の一部請求とし

て 4013 万 3610 円の支払を請求する。

ウ 被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、上記請

求額の 10%である 401 万 3361 円を下回ることはない。

(被告の主張)

25 いずれも争う。

原告が提出した利用料金規定は原告が有するものの一部にとどまる上(特


10
に、原告は、継続的なクリッピング利用の場合の価格表を提出しない。 、継


続的利用のケースを含む全ての利用料金規定に関する年間の利用件数やその

契約内容を明らかにしない。

また、原告の示す価格は、公正な競争の下で形成された合理的な価格であ

5 るということはできない。

さらに、被告の従業員等は、被告イントラネットへの記事掲載後 1 か月以

内にその閲覧を終えていたのが通常であり、掲載後 1 年以上経過してから閲

覧していた事実はないから、1 年経過後の使用料の累積加算が発生する理由

はない。

10 第3 当裁判所の判断

1 平成 30 年 3 月以前に被告イントラネットに掲載された記事の件数等(争点(1))

について

(1) 前提事実(3)アのとおり、被告は、本件各記事のうち、平成 30 年 3 月以前

の記事 517 件を保管しているところ、枠付き記事はこのうち 107 件である。

15 枠付き記事については、被告イントラネットへの掲載を前提として枠が付さ

れたことに鑑みると、いずれも被告イントラネットに掲載されたものと認め

られる。

他方、平成 30 年 3 月以前の記事のその余の記事については、その被告イン

トラネットへの掲載を直接的に裏付ける証拠はない。

20 しかし、被告は、平成 30 年 4 月以降の記事については、その保管に係る記

事全てを被告イントラネットに掲載しており、これに掲載せず単に保存して

いるだけの記事は存在しない(前提事実(3)イ)。また、被告において、新聞記

事の切抜きの保管やその被告イントラネットへの掲載の要否等の基準等を定

めた内規類は存在しないことがうかがわれるところ(弁論の全趣旨) 枠付き


25 記事に係る運用が開始された平成 24 年度から平成 29 年度までの期間に被告

が保管する記事 114 件のうち、その 9 割超の 107 件が枠付き記事として被告


11
イントラネットに掲載され(前提事実(3)ア)、残りの 7 件についても、被告

は、表紙の存否が不明などと述べるにとどまる(前提事実(3)ア)。加えて、枠

付き記事の運用が行われていなかった平成 24 年 6 月以前の記事も、全て A4

用紙に「新聞社名」「新聞発行日付」等が記載されていること(甲 30)に鑑


5 みると、少なくとも相応の範囲の被告従業員等の閲覧に供されていたことが

うかがわれる。

これらの事情を踏まえると、被告は、その保管に係る平成 30 年 3 月以前の

記事全てを被告イントラネットに掲載していたことが十分合理的に推認され、

これを覆すに足りる証拠はない。

10 以上より、被告は、その保管に係る平成 30 年 3 月以前の記事 517 件全部

について、平成 30 年 4 月以降の記事と同様に、別紙一覧表のとおり、被告イ

ントラネットに掲載したものと認められる。これに反する被告の主張は採用

できない。

(2) 原告は、平成 30 年 3 月以前に、上記 517 件の記事に限らず、年間 312 件

15 の記事を被告が被告イントラネットに掲載した旨を主張する。

しかし、上記 517 件のほかに、平成 30 年 3 月以前に被告イントラネット

に掲載された記事の存在及び内容を直接裏付けるに足りる証拠はない。被告

広報担当者は、令和元年 5 月 28 日に行われた新聞社各社との協議において、

直近 1 年の本件新聞の掲載記事が 360 件程度あり、それ以前についても、ク

20 リッピング作業のやり方は同じであるため件数は大きく増減しないとは思う

との趣旨の発言をしたものの、併せて、廃棄済みでデータはないとの趣旨の

発言もしている(甲 5、8、15、16)。このことと、本件の請求対象期間のう

ち、当該担当者が広報業務から外れていた期間が 6 年余りあること(平成 20

年 4 月〜平成 26 年 6 月。乙 1)などをも考え合わせると、掲載件数に係る上

25 記広報担当者の発言のみから直ちに、被告が年間 312 件の記事を被告イント

ラネットに掲載したことを推認することは合理性を欠くというべきである。


12
その他原告の主張を認めるに足りる具体的な事情は見当たらないことから、

この点に関する原告の主張は採用できない。

(3) 小括

以上より、被告は、平成 17 年 8 月 27 日〜平成 31 年 4 月 16 日の間に、別

5 紙一覧表のとおり、平成 30 年 3 月以前の記事及び同年 4 月以降の記事の合

計 829 件の本件各記事の画像データを作成し、記録媒体に保存した上、これ

らを被告イントラネットにアップロードし、被告従業員等が閲覧できる状態

「本件各記事」とはこの 829 件を指す
に置いたことが認められる(以下では、

こととする。 。


10 2 本件各記事の著作物性等(争点(2))について

(1) 本件各記事の著作物性について

証拠(甲 9、24、30)及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれ

も、担当記者が、その取材結果に基づき、記事内容を分かりやすく要約した

タイトルを付し、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係を端的に記述

15 すると共に、関連する事項として盛り込むべき事項の選択、記事の展開の仕

方、文章表現の方法等についても、各記者の表現上の工夫を凝らして作成し

たものであることがうかがわれる。したがって、本件各記事は、いずれも「思

想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の

範囲に属するもの」すなわち著作物(法 2 条 1 項 1 号)と認められるのであ

20 って、 (法 10 条 2 項)には当た
「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」

らない。

これに対し、被告は、本件各記事は著作物に当たらないとして縷々主張す

る。しかし、著作物といえるための創作性の程度については、高度な芸術性

や独創性まで要するものではなく、作成者の何らかの個性が発揮されていれ

25 ば足りる。このような意味での創作性は、内容における虚構性を当然の要素

ないし前提とするものではないから、新聞記事がその性質上正確性を求めら


13
れることと何ら矛盾せず、両立し得るものであることは論を俟たない。その

他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用

できない。

(2) 以上のとおり、本件各記事はいずれも著作物であるところ、証拠(甲 14、

5 32)及び弁論の全趣旨によれば、いずれも、原告の発意に基づいて原告の従

業員である各担当記者が職務上作成し、原告名義で公表されたものであるこ

とが認められる。したがって、本件各記事については、いずれも、原告が著

作者として著作権を有する(法 15 条 1 項)。

3 被告による著作権(複製権及び公衆送信権)侵害について

10 (1) 前記 1 のとおり、被告は、平成 17 年 8 月 27 日〜平成 31 年 4 月 16 日の

間、別紙一覧表のとおり、合計 829 件の本件各記事の画像データを作成し記

録媒体に保存した上、これを被告イントラネット上にアップロードし、被告

従業員等が閲覧できる状態に置いた。こうした被告の行為は、原告の本件各

記事に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものといえる。

15 (2) 本件各記事の内容や被告の行為態様等に照らすと、被告には、本件各記事

に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害につき、少なくとも過

失が認められる。

これに対し、被告は、原告の上記著作権の侵害につき、故意も過失もない

旨を主張する。

20 しかし、著作物に係る創作性につき前記のとおり解すると、事実の伝達等

を内容とする新聞記事であっても著作物といえる場合が広く存在し得るもの

と考えられる。後記のとおり、遅くとも本件の請求対象期間の始期頃におい

て既に原告が本件料金表 1 に基づき使用料を収受する運用を行っていたこと

も、これを前提とするものと理解される。そうすると、被告又は被告担当者

25 においても、少なくとも、新聞社がその発行する新聞記事の著作権を有して

おり、その使用にあたっては当該新聞社の許諾を得る必要がある(又はその


14
ような場合が少なからずある)といった一般的な知識を有していなかったと

は考え難い。また、被告が本件各記事の著作権やその使用の許否につき、法

的な観点から調査検討したことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。

したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。

5 (3) 小括

以上によれば、被告による本件各記事に係る原告の著作権(複製権及び公

衆送信権)侵害の不法行為の成立が認められ、被告は、原告に対し、その損

害を賠償すべき責任を負う。

4 争点(3)(原告の損害及びその額)について

10 (1) 「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」

ア 原告における使用料等に係る規定

証拠(以下に示すもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成 17 年

9 月に本件料金表 1(甲 10)を、平成 20 年 9 月に本件料金表 2(甲 11)を、

平成 22 年 3 月 1 日に本件料金表 3(甲 12)を、平成 28 年 1 月 4 日に本件

15 料金表 4(甲 13)をそれぞれ作成し、本件新聞に掲載された記事の利用を

許諾する際の使用料についての基準を定めた。それぞれの概略は、以下の

とおりである。

(ア) 本件料金表 1

本件料金表 1 では、利用の用途や発行部数等に応じて使用料が定めら

20 れており、これによれば、用途が「営業支援ツール他」で発行部数が 101

〜500 の場合の一般記事の使用料は 2000 円とされる。

(イ) 本件料金表 2

本件料金表 2 においても、利用の用途や発行部数等に応じて使用料が

定められており、これによれば、用途が「情報提供資料ほか」で発行部

25 数が 101〜500 の場合の一般記事の使用料は 3000 円とされる。

(ウ) 本件料金表 3


15
本件料金表 3 では、使用する記事の種類(日経ヴェリタスの記事かそ

れ以外の記事か) イントラネットに接続できる端末数、
、 対象となる記事

内容(一般記事なのか原告の調査記事なのかなど)、利用期間(1 か月以

内なのか 1 か月超 1 年以内なのか)等に応じて使用料が定められている。

5 これによれば、使用する記事が日経ヴェリタスの記事以外の記事で、イ

ントラネットに接続できる端末数が 500 以下の場合の一般記事の 1 か月

超 1 年以内の使用料は 9000 円とされる。

(エ) 本件料金表 4

本件料金表 4 では、使用する記事の種類(日経ヴェリタス及び英文の

10 記事かそれ以外の記事か)、イントラネットに接続できる端末数、対象と

なる記事内容(一般の記事、自社記事、原告の独自調査記事なのかなど)、

利用期間(1 か月以内なのか、1 か月超 6 か月以内なのか、6 か月超 1 年

以内なのか)等に応じて使用料が定められている。これによれば、日経

ヴェリタス及び英文の記事以外の記事で、イントラネットに接続できる

15 端末数が 500 以下の場合の一般の記事の 1 年以内の使用料は 9000 円と

される。また、同種の記事につき、イントラネットに接続できる端末数

が 501〜1500 の場合、1 か月以内の使用料は 7000 円、1 か月超 6 か月以

内であれば 1 万 1500 円、6 か月超 1 年以内であれば 14000 円とされる。

イ 各料金表に基づく原告の実績

20 証拠(各項に示すもの)及び弁論の全趣旨によれば、各料金表について、

以下の実績が認められる。

(ア) 某国会議員事務所において、平成 16 年から平成 20 年までの間に 15

件の原告の記事を無断転載したものを各 200 部配布した事案において、

原告は、本件料金表 1 の「2.営業支援ツール他(会社案内、顧客または

25 会員向け PR 誌・情報誌、会報・月報等) 、
」「発行部数 101〜500」に対応

する「一般記事」の料金 2000 円を記事 1 件の単価とし、これに記事件数


16
15 を乗じた 3 万円(税別)を「記事・情報利用料相当負担金」として請

求し、上記国会議員事務所はこれを支払った(甲 25)。

(イ) 某証券会社が、平成 21 年 9 月に開催した講演会(1 回開催)の際に原

告の記事 26 件を無断でプロジェクターでの投影により使用した事案に

5 おいて、原告は、本件料金表 2 の「7.プロジェクターへの利用 営業ツ

ール・情報提供資料とも、1,500/1 本で計算する」という規定に基づき、

当該料金 1500 円を記事 1 件の単価とし、これに記事件数 26 を乗じた 3

万 9000 円(税別)を無断使用料金として請求し、上記証券会社はこれを

支払った(甲 26)。

10 (ウ) 某銀行から、平成 22 年 9 月 22 日から 1 年間、原告の記事 1 件を 7500

端末で閲覧できるイントラネット上に掲載することについて申請があっ

た事案において、原告は、本件料金表 3 の「イントラネット 端末数

5,001~10,000」「一般記事」「4 紙(日経、産業、MJ、N-Weekly) 、 カ
、 、 」「1

1
月超、 年以内」に対応する 2 万 5000 円(税別)を使用料として請求し、

15 上記銀行はこれを支払った(甲 27)。

(エ) 某ガス会社から、平成 30 年 11 月 26 日から 6 か月間、原告の記事 1

件を最大 1 万 2000 人が閲覧できるイントラネット上に掲載することに

ついて申請があった事案において、原告は、本件料金表 4 の「一般の記

事」のうち「本紙、SS、MJ、電子版」「イントラネット 6 ヵ月」「端末
、 、

20 数(枚数)10,001〜12,000」に対応する料金 2 万 5000 円(税別)を使用

料として請求し、上記ガス会社はこれを支払った(甲 28)。

(オ) なお、原告は、被告に対し、令和元年 11 月 14 日付け文書(乙 2。以

下「乙 2 文書」という。)において、本件各記事に係る使用料につき、平

成 30 年 4 月 1 日〜平成 31 年 3 月 31 日の間の使用記事の件数が合計 360

25 件程度であることを踏まえつつ、
「本来であれば、当社が提供している記

事クリッピングサービス料金(イントラネット、端末 500 台)が適用さ


17
れるべきものであるところ」 「単価(年額利用料 9000 円(税別)/1 記


事)」などと説明して算定している。

ウ 上記認定のとおり、原告においては、本件新聞の記事の使用料に関する

本件料金表 1〜4 が存在し、少なくとも平成 20 年以降、原告の記事の無断

5 使用又はイントラネットへの掲載に係る許諾申請の事案において、これら

の料金表を適用して使用料を収受した実績がある。また、乙 2 文書で言及

された使用料の算定根拠となった規定は明らかでないが、その内容は、本

件料金表 3 及び 4 と必ずしも矛盾しない。

他方、本件料金表 1 及び 2 にはイントラネットへの掲載を前提とする使

10 用料の定めはなく、これらの料金表が適用されていた時期のイントラネッ

ト掲載事例における使用料の収受実績に関する証拠もない。また、本件料

金表 1 及び 2 においては、使用料の算定要素に使用期間は含まれておらず、

本件料金表 3 は、1 年以上は原則として利用できないとする(ただし、特

別なものは相談に応じ、1 年超は 1 年ごとに 5 年まで 10%割引、その後は

15 据え置きとする旨も定める。 。本件料金表 4 では、使用期間が 1 年を超え


る場合に関する明示的な言及はない。使用期間が 1 年を超える場合の使用

料の収受実績、とりわけ、特定の者が 1 年を超えて多数の記事を使用する

場合の使用料の収受実績に関する証拠もない。

さらに、被告の業務内容及び本件各記事の内容等を踏まえると、被告イ

20 ントラネットに本件各記事を掲載した主な目的は、被告広報担当者の説明

(乙 1)のとおり、被告の業務に関連する最新の時事情報を被告従業員等

に周知することにあるものと認められる。このことと、特定の時点に被告

イントラネットに掲載された記事に対するアクセスの経時的な推移の状況

(乙 19)から、本件各記事においても、それぞれの掲載から長くとも 1 年

25 以内の期間で、当該記事に実際にアクセスする者はほぼいなくなることが

うかがわれる。


18
以上の事情のほか、被告による侵害態様等を総合的に考慮すると、原告

が本件各記事に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額

(法 114 条 3 項) それぞれの記事の掲載の時期及び期間にかかわらず、
は、

記事 1 件当たり 5000 円とするのが相当である。これに反する原告及び被

5 告の主張はいずれも採用できない。

(2) 前記のとおり、平成 17 年 8 月 27 日〜平成 31 年 4 月 16 日の間に被告イン

トラネットに掲載された本件各記事は合計 829 件であることから、法 114 条

3 項により、被告の不法行為による原告の損害の額は、 万 5000 円となる。
414

また、この損害額と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、45 万円

10 を下らない。これに反する原告の主張は採用できない。

5 まとめ

以上より、原告は、著作権侵害の不法行為に基づき、被告に対し、459 万 5000

円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為後の日である平成 31 年 4 月 17

日から支払済みまで平成 29 年改正前の民法所定の年 5%の割合による遅延損

15 害金請求権を有する。

第4 結論

よって、原告の請求は、459 万 5000 円の損害賠償及びこれに対する不法行為の

後の日である平成 31 年 4 月 17 日から支払済みまで平成 29 年改正前の民法所定

の年 5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限

20 度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判

決する。



東京地方裁判所民事第 47 部



25


裁判長裁判官


19
杉 浦 正 樹




裁判官

5 小 口 五 大




裁判官

稲 垣 雄 大

10


(別紙一覧表省略)




20