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事件 令和 3年 (ネ) 10044号 著作権侵害控訴事件

控訴人前田環境美術株式会社
同訴訟代理人弁護士 鍛治明 酒井昌弘
被控訴人株式会社アンス
同訴訟代理人弁護士 大畑雅義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/12/08
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2? 主位的請求 被控訴人は,控訴人に対し,432万円及びうち216万円に対する平 成24年4月17日から,うち216万円に対する平成27年2月12日か ら各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
? 予備的請求 被控訴人は,控訴人に対し,432万円及びこれに対する令和元年9月 5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,前田屋外美術株式会社(旧商号「株式 1 会社前田商事」。以下「前田商事」という。)が製作したタコの形状を模した別 紙1原告滑り台目録記載の滑り台(以下「本件原告滑り台」という。)が美術 の著作物又は建築の著作物に該当し,被控訴人がタコの形状を模した別紙2被 告滑り台目録記載の滑り台2基(以下「本件各被告滑り台」と総称し,同目録 1記載の滑り台を「本件被告滑り台1」,同目録2記載の滑り台を「本件被告 滑り台2」という。)を製作した行為が控訴人が前田商事から譲り受けた本件 原告滑り台に係る著作権(複製権又は翻案権)の侵害に該当する旨主張して, 主位的に,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として432万円及びうち 216万円に対する平成24年4月17日(不法行為の日である本件被告滑り 台2の製作日)から,うち216万円に対する平成27年2月12日(不法行 為の日である本件被告滑り台1の製作日)から各支払済みまで平成29年法律 第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。)の年5 分の割合による遅延損害金の支払を,予備的に,不当利得返還請求として43 2万円の利得金の返還及びこれに対する令和元年9月5日(訴状送達の日の翌 日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める事案である。
原審は,本件原告滑り台は美術の著作物又は建築の著作物のいずれにも該当 しないから,控訴人の主位的請求は理由がなく,また,控訴人に本件各被告滑 り台の受注額に相当する額の損失が発生したものと認められないから,控訴人 の予備的請求も理由がないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
2 前提事実 次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとお りであるから,これを引用する。
? 原判決3頁1行目の「原告の」から2行目末尾までを削り,同頁4行目の 「民事再生を申し立てた。」を「再生手続開始の申立てをした。」と改める。
2 ? 原判決3頁13行目の「設立以降」を「昭和38年6月28日に設立され て以降」と,同頁19行目の「納入した」を「納入した。同社が製作したタ コの滑り台は,全国で260基以上ある」と改める。
? 原判決4頁4行目の「(以下」から5行目の「という。 」までを「 ) (本件 原告滑り台)」と,同頁11行目の「別紙2」から12行目の「という。 」 ) までを「本件被告滑り台1」と,同頁20行目の「別紙2」から22行目の 「と総称する。 」までを「本件被告滑り台2」と改める。
) ? 原判決5頁6行目末尾に「同裁判所は,平成25年10月11日,控訴人 の請求をいずれも棄却する旨の判決をし,その後,同判決は,確定した。」 を加える。
3 争点 ? 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の存否(争点1) ア 本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか(争点1-1) イ 本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか(争点1-2) ウ 控訴人が本件原告滑り台の著作権を取得したか(争点1-3) エ 被控訴人による著作権侵害行為の有無(争点1-4) オ 被控訴人の故意又は過失の有無(争点1-5) カ 控訴人の損害額(争点1-6) キ 消滅時効の成否(争点1-7) ? 不当利得返還請求権の存否(争点2)(予備的請求関係) ア 損失と利益との間の相当因果関係の有無(争点2-1) イ 法律上の原因の有無(争点2-2)4 争点に関する当事者の主張 ? 争点1(著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について ア 争点1-1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について 次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?ア 3 記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア) 原判決9頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「d この点に関し原判決は,応用美術であっても「実用目的を達成す るために必要な機能に係る構成と分離して,美術鑑賞の対象とな り得る美的特性を備えている部分を把握できるもの」については 「美術の著作物」として保護され得るという判断基準を示した。
仮に上記判断基準によるとしても,ある構成部分自体が実用品 としての機能に不可欠又は関連性があるからといって,その構成 部分を物理的に取り除いて,形状について何ら判断しないのは, 応用美術について著作物性を認めないのに等しく,妥当ではない。
そうすると,上記判断基準にいう「実用目的を達成するために 必要な機能に係る構成と分離して」とは,その構成部分を物理的 に取り除くというのではなく,実用品として必要な機能を果たす 構成を観念的に捨象して,創作物をみることを意味すると解すべ きである。
そして,本件原告滑り台を滑り台としての機能を取り去ってみ たとき,すなわち,タコの足の部分がスライダーであることを忘 れて本件原告滑り台の形状をみたとき,その形状は,前記bで述 べたように,Aが彫刻家としての思想又は感情を創作的に表現し たものであり,抽象芸術として十分に鑑賞の対象になり得るもの であるから,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている。
したがって,本件原告滑り台は,美術の著作物に該当するから, これを否定した原判決の判断は誤りである。」(イ) 原判決12頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 さらに,控訴人は,原判決が本件原告滑り台の著作物性の判断に当 たり示した判断基準は,本件原告滑り台から,その実用目的と関係す 4 る構成部分を物理的に取り去って,残ったものに著作物性があるかど うかを判断している点で妥当でない旨主張する。
しかし,公園遊具の分野において,明確な基準なく著作物性が認 められるとなれば,発注者である自治体等が遊具の選定に困難を来す ばかりでなく,受注する遊具制作会社においては著作権訴訟のリスク を抱えることとなり,著作権法の目的である「文化の発展」に対して もマイナスの要因となるから,妥当でない。
そうすると,上記判断基準の「実用目的を達成するために必要な 機能に係る構成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備 えている部分を把握できるもの」かどうかを観察することは,客観的 かつ外形的な判断に馴染むものであり,極力,抽象的な判断を排する という観点からは,むしろ妥当なものである。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。」イ 争点1-2(本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか),争点1- 3(控訴人が本件原告滑り台の著作権を取得したか),争点1-4(被控 訴人による著作権侵害行為の有無)及び争点1-5(被控訴人の故意又 は過失の有無)について 原判決19頁17行目の「本件被告滑り台」を「本件被告滑り台1」と 改めるほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?イないしオにそれ ぞれ記載のとおりであるから,これを引用する。
ウ 争点1-6(控訴人の損害額)について 原判決23頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加えるほか,原判決の 「事実及び理由」の第2の4?カ記載のとおりであるから,これを引用 する。
「 よって,控訴人は,被控訴人に対し,著作権侵害の不法行為に基づく 損害賠償として432万円及びうち216万円に対する平成24年4月 5 17日(不法行為の日である本件被告滑り台2の製作日)から,うち2 16万円に対する平成27年2月12日(不法行為の日である本件被告 滑り台1の製作日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合 による遅延損害金の支払を求める。」 エ 争点1-7(消滅時効の成否)について 原判決の「事実及び理由」の第2の4?キ記載のとおりであるから, これを引用する。
? 争点2(不当利得返還請求権の存否)について(予備的請求関係) ア 争点2-1(損失と利益との間の相当因果関係の有無)について 次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?ア記 載のとおりであるから,これを引用する。
(ア) 原判決25頁3行目,16行目,20行目,21行目及び26頁2 4行目の各「利得」をいずれも「利益」と,25頁3行目,9行目,1 4行目,16行目,22行目及び26頁24行目の各「因果関係」をい ずれも「相当因果関係」と改める。
(イ) 原判決25頁16行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 よって,控訴人は,被控訴人に対し,不当利得返還請求として43 2万円の利得金の返還及びこれに対する令和元年9月5日(訴状送達 の日の翌日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める。」 イ 争点2-2(法律上の原因の有無)について 原判決27頁2行目の「利得」を「利益」と改めるほか,原判決の 「事実及び理由」の第2の4?イ記載のとおりであるから,これを引用 する。
当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について 6 ? 争点1-1(本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか)について 次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の1?記載 のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決27頁18行目の「利用者が」を「背面に利用者が」と改め,同 頁25行目の「そして」から29頁15行目末尾までを次のとおり改め る。
「イ 前記ア認定のとおり,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供 されることを目的として製作されたことが認められる。
ところで,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは,「思想又は 感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の 範囲に属するもの」をいうと規定し,同法10条1項4号は,同法に いう著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」 を規定しているところ,同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属す るもの」とは,美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。そ して,実用に供されることを目的とした作品であって,専ら美的鑑賞 を目的とする純粋美術とはいえないものであっても,美的鑑賞の対象 となり得るものは,応用美術として,「美術」の「範囲に属するもの」 と解される。
次に,応用美術には,一品製作の美術工芸品と量産される量産品 が含まれるところ,著作権法は,同法にいう「美術の著作物」には, 美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが,美術 工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。
上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対 象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したもので あれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条 2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した 7 規定であると解される。他方で,応用美術のうち,美術工芸品以外の 量産品について,美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術 の著作物として保護されることになると,実用的な物品の機能を実現 するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることに なり,当該物品の形状等の利用を過度に制約し,将来の創作活動を阻 害することになって,妥当でない。もっとも,このような物品の形状 等であっても,視覚を通じて美感を起こさせるものについては,意匠 として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。
これらを踏まえると,応用美術のうち,美術工芸品以外のもので あっても,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離し て,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい る部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術 の著作物として,保護され得ると解するのが相当である。
以上を前提に,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するかどう かについて判断する。
ウ 控訴人は,本件原告滑り台は,一品製作品というべきものであり, 「美術工芸品」(著作権法2条2項)に当たり,創作性を有するから, 美術の著作物に該当する旨主張する。
そこで検討するに,@「タコの滑り台,北欧に」との見出しの平 成23年7月7日の朝日新聞の記事(甲4)には,控訴人のB会長の 発言として「タコの滑り台は一つ一つデザインが違い,その都度設計 する。 ,A「タコの滑り台の話」と題するC作成の令和2年7月11 」 日の毎日新聞の記事(甲25)には,タコの滑り台について「一つ一 つが手作りで,全く同形の作品はないという。 ,B株式会社パークフ 」 ル作成のウェブサイトに掲載された「日本縦断!タコすべり台がある 公園特集」と題する2018年(平成30年)1月3日付けの記事 8 (乙24)には,タコの滑り台について「どのタコも手作りで作られ ていて,二つとして同じ形のタコはいないんだそう!」との記載があ る。
しかしながら,上記各証拠の記載は,いずれも,B会長の発言又 は伝聞を掲載したものであって,客観的な裏付けに欠けるものである。
他方で,前記前提事実?及び?のとおり,前田商事が全国各地から発 注を受けて製作したタコの滑り台は260基以上にわたること,前田 商事が製作したタコの滑り台は,基本的な構造が定まっており,大き さや構造等から複数の種類に分類され,本件原告滑り台は,その一種 である「ミニタコ」に属するものであったことからすれば,本件原告 滑り台と同様の「ミニタコ」の形状を有する滑り台が他にも製作され ていたことがうかがわれる。そうすると,上記各証拠から直ちに本件 原告滑り台が一品製作品であったものと認めることはできない。他に これを認めるに足りる証拠はない。
よって,本件原告滑り台は,「美術工芸品」に該当するものと認め られないから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって, 理由がない。
エ 控訴人は,本件原告滑り台が「美術工芸品」に当たらないとしても, 美術の著作物として保護される応用美術である旨主張する。
そこで,まず,本件原告滑り台において,実用目的を達成するた めに必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美 的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるかどうかを検 討し,その上で,全体として美術の著作物に該当するかどうかについ て判断する。」イ 原判決29頁23行目の「正面向かって後方にやや傾いた」を「後部に 向かってやや傾いた」と改める。
9 ウ 原判決30頁7行目から21行目までを次のとおり改める。
「 このように,タコの頭部を模した部分は,本件原告滑り台の中でも最 も高い箇所に設置されており,同部分に設置された上記各開口部は,滑 り降りるためのスライダー等を同部分に接続するために不可欠な構造で あって,滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であると いえる。また,上記空洞は,同部分に上った利用者が,上記各開口部及 びスライダーに移動するために必要な構造である上,開口部を除く周囲 が囲まれた構造であることによって,高い箇所にある踊り場様の床から 利用者が落下することを防止する機能を有するといえる。他方で,上記 空洞のうち,スライダーが接続された開口部の上部に,これを覆うよう に配置された略半球状の天蓋部分については,利用者の落下を防止する などの滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とまではい えない。
そうすると,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記 天蓋部分については,滑り台としての実用目的を達成するために必要な 機能に係る構成と分離して把握できるものであるといえる。
しかるところ,上記天蓋部分の形状は,別紙1のとおり,頭頂部から 後部に向かってやや傾いた略半球状であり,タコの頭部をも連想させる ものではあるが,その形状自体は単純なものであり,タコの頭部の形状 としても,ありふれたものである。
したがって,上記天蓋部分は,美的特性である創作的表現を備えてい るものとは認められない。
そして,本件原告滑り台のタコの頭部を模した部分のうち,上記天蓋 部分を除いた部分については,上記のとおり,滑り台としての実用目的 を達成するために必要な機能に係る構成であるといえるから,これを分 離して美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えてい 10 るものと把握することはできないというべきである。
以上によれば,本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分は, 実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞 の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握で きるものとは認められない。」エ 原判決31頁8行目から12行目までを次のとおり改める。
「 そうすると,本件原告滑り台のうち,タコの足を模した部分は,座っ て滑走する遊具としての利用のために必要な構成であるといえるから, 同部分は,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して, 美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分 を把握できるものとは認められない。」オ 原判決31頁24行目の「美術鑑賞」を「美的鑑賞」と,同頁25行 目の「美的特性」を「美的特性である創作的表現」と改める。
カ 原判決32頁2行目から33頁3行目までを次のとおり改める。
「 前記(ア)ないし(ウ)のとおり,本件原告滑り台を構成する各部分にお いて,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して, 美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部 分を把握することはできない。
そして,上記各部分の組合せからなる本件原告滑り台の全体の形状に ついても,美的鑑賞の対象となり得るものと認めることはできないし, また,美的特性である創作的表現を備えるものと認めることもできない。
したがって,本件原告滑り台が美術の著作物に該当するとの控訴人の 主張は,採用することができない。」キ 原判決33頁4行目の「(カ)」を「(オ)」と改め,34頁1行目末尾に 行を改めて次のとおり加える。
「(カ) また,控訴人は,応用美術であっても「実用目的を達成するため 11 に必要な機能に係る構成と分離して,美術鑑賞の対象となり得る美的 特性を備えている部分を把握できるもの」については「美術の著作物」 として保護され得るという判断基準によるとしても,「実用目的を達 成するために必要な機能に係る構成と分離して」とは,その構成部分 を物理的に取り除くというのではなく,実用品として必要な機能を果 たす構成を観念的に捨象して,創作物をみることを意味すると解すべ きであり,本件原告滑り台を滑り台としての機能を取り去ってみたと き,その形状は,Aが彫刻家としての思想又は感情を創作的に表現し たものであり,抽象芸術として十分に鑑賞の対象になり得るものであ るから,美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとして,美 術の著作物に該当する旨主張する。
しかしながら,本件原告滑り台は,遊具としての実用に供されるこ とを目的として製作された作品である以上,これが美術の著作物に該 当するか否かを判断するに当たっては,実用品である滑り台としての 機能を果たす構成を観念的に捨象して検討することはできないから, 控訴人の上記主張は,採用することができない。」 ク 原判決34頁2行目の「エ」を「オ」と改める。
? 争点1-2(本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか)について 次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の1?記載 のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決34頁9行目の「そして」から11行目の「置かれていない。」 までを次のとおり改める。
「 ところで,著作権法10条1項5号は,同法にいう著作物の例示と して,「建築の著作物」を規定しているところ,ここに「建築の著作物」 とは,建築物の外観に表れた美的形象をいうものと解される。」 イ 原判決34頁11行目の「そのため」から12行目の「当たっては」ま 12 でを「また,「建築の著作物」にいう「建築」の意義については」と,同 頁25行目の「建築美術」を「「美術」の「範囲に属するもの」」と改め る。
ウ 原判決35頁3行目の「前記(1)ア」を「前記?イ」と,同頁6行目の 「美術鑑賞の対象となり得る美的特性」を「美的鑑賞の対象となり得る 美的特性である創作的表現」と改め,同頁10行目の「また」から16 行目末尾までを削る。
エ 原判決35頁17行目の「したがって」を「そうすると」と,同頁18 行目から19行目にかけての「美術鑑賞の対象となり得る美的特性」を 「美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現」と改め,同行 目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 そして,本件原告滑り台の外観全体についても,美的鑑賞の対象と なり得るものと認めることはできないし,また,美的特性である創作 的表現を備えるものと認めることもできない。
したがって,本件原告滑り台が建築の著作物に該当するとの控訴人の 主張は,採用することができない。」 オ 原判決35頁24行目から36頁4行目までを次のとおり改める。
「 しかしながら,前記ア及びイで説示したところに照らし,控訴人の 上記主張は採用することができない。」 ? 小括 原判決の「事実及び理由」の第3の1?記載のとおりであるから,これ を引用する。
2 争点2(不当利得返還請求権の存否)について(予備的請求関係) 原判決36頁18行目の「原告に」から20行目末尾までを「控訴人主張の 受注額に相当する額の損失と被控訴人が受けた利益との間に相当因果関係があ 13 るものと認めることはできない。」と改めるほか,原判決の「事実及び理由」 の第3の2記載のとおりであるから,これを引用する。
3 結論 以上のとおり,控訴人の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないか ら,これらを棄却した原判決は相当である。
したがって,本件控訴は理由がないから,棄却することとし,主文のとおり 判決する。
追加
14 (別紙1)原告滑り台目録1本件原告滑り台?設置場所兵庫県赤穂市さつき町5番地尾崎第3公園?形状幅5.5メートル,奥行5メートル,高さ3.5メートルア正面イ右側面15 ウ左側面エ背面16 (別紙2)被告滑り台目録1本件被告滑り台1?設置場所東京都東久留米市南町1丁目1489番ほか南町1丁目公園?形状幅7.6メートル,奥行5メートル,高さ3.5メートルア正面イ右側面17 ウ左側面エ背面18 2本件被告滑り台2?設置場所東京都足立区江北6丁目10-1上沼田東公園?形状幅5.5メートル,奥行5メートル,高さ3.5メートルア正面イ右側面19 ウ左側面エ背面20
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦
裁判官 小川卓逸