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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ1797著作権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許権
平成11ネ6345著作権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許権
平成10ワ13236著作権侵害差止等請求事件 判例 特許権
関連ワード 創作性 /  創作的表現 /  独自性 /  著作者 /  アイデア /  表現方法 /  二次的著作物 /  翻案 /  複製物 /  同一性 /  類似性 /  編集著作物 /  公衆送信 /  放送 /  複製権 /  ビデオ /  図書館 /  引用 /  保護期間 /  著作権の譲渡 /  著作権の消滅 /  ライセンス /  登録 /  著作権侵害 /  差止 /  損害賠償 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 6255号 著作権侵害差止等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波朋子
同 足立佳丈
被告 キユーピー株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
訴訟復代理人弁護士 荒井裕樹
同 江口雄一郎
補佐人弁理士 藤野清規
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/04/27
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告が別紙著作物目録1の(1)及び2の(1)記載のイラストを著作物とする著作権を有することを確認する。
2 原告が別紙著作物目録3記載のイラストを著作物とする著作権を有することの確認請求、並びに、原告の別紙著作物目録4ないし16記載の各イラストの著作物を原著作物とし、別紙本件人形写真の著作物を二次的著作物とする著作権法28条に基づく予備的請求を、いずれも棄却する。
3 原告のその余の請求に係る訴えを却下する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト若しくは別紙ロ号目録記載の人形を商標、商品包装、商品容器、広告、テレビ番組、テレビCM若しくはインターネット・ホームページにおいて複製し、又は別紙ロ号目録記載の人形を製造してはならない。
2 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト若しくは別紙ロ号目録記載の人形を複製した商標、商品容器、商品包装若しくは広告又は別紙ロ号目録記載の人形を、譲渡し又は所持してはならない。
3 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト又は別紙ロ号目録記載の人形を複製したテレビ番組又はテレビCMを、放送してはならない。
4 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト又は別紙ロ号目録記載の人形を複製したインターネット・ホームページを、インターネット上で送信し又はインターネット・サーバーにアップロードしてはならない。
5 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト又は別紙ロ号目録記載の人形を複製した商標、商品容器、商品包装、広告、テレビ番組を収録した放送ビデオテープ及びテレビCMを収録した放送ビデオテープ並びに別紙ロ号目録記載の人形を、廃棄せよ。
6 被告は、別紙イ号目録記載のイラスト又は別紙ロ号目録記載の人形を複製したインターネット・ホームページを、インターネット・サーバーから削除せよ。
7 被告は、原告に対し、金10億円及びこれに対する平成15年6月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告が別紙著作物目録1の(1)、2の(1)、及び3記載のイラストを著作物とする著作権を有することを確認する。
事案の概要
1 事案の要旨及び訴訟物 本件は、原告が、被告が別紙イ号目録記載のイラスト(以下「被告イラスト」という。)及び別紙ロ号目録記載の人形(以下「被告人形」という。)の複製を製造し、これを譲渡、公衆送信等する行為は、原告の有する著作権の侵害行為に該当するとして、被告に対し、これらの行為の差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得返還を請求するとともに、原告が別紙著作物目録1の(1)、2の(1)及び3記載の各イラストの著作物の著作権者であることの確認を求めている事案である。
原告は、差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得返還請求に関して、@主位的請求として、1909年作品(これらの呼称は後記参照)の著作権に基づき、A予備的請求1として、1910年作品の著作権及び1910年作品を二次的著作物とする1909年作品の原著作権(著作権法28条)に基づき、B予備的請求2として、1912年作品の著作権、1912年作品を二次的著作物とする1909年作品の原著作権(著作権法28条)、及び1912年作品を二次的著作物とする1910年作品の原著作権(著作権法28条)に基づき、C予備的請求3として、1913年作品を二次的著作物とする1909年作品の原著作権(著作権法28条)、
1913年作品を二次的著作物とする1910年作品の原著作権(著作権法28条)、及び1913年作品を二次的著作物とする1912年作品の原著作権(著作権法28条)に基づき、D予備的請求4として、1913年作品を二次的著作物とする1901年作品、1903年作品、1904年作品、1905年作品、1906年作品、1907年作品、1908年作品のそれぞれの原著作権(著作権法28条)に基づき、それぞれ請求している。
2 前提となる事実(証拠の記載のないものは、争いがないか、又は弁論の全趣旨により認められる。) (1) 当事者 ア 原告は、「日本キューピークラブ」なる団体を主宰し、京都市において古い玩具等を展示する「想い出博物館」を運営するなどの活動をしている個人である(甲第38、第39、第73、第85号証)。
イ 被告は、「キユーピー」の社名で、マヨネーズソースその他一般ソース類の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2) 被告の行為 被告は、被告イラスト及び被告人形を、被告の製造、販売する商品の商標、商品包装、商品容器、テレビ番組及びインターネット・ホームページにおいて、複製して使用し、また、被告人形を、自己の製造したマヨネーズ商品と共に配布している。
被告は、被告イラスト又は被告人形を複製した商標、商品包装、商品容器及び広告並びに被告人形を譲渡し又は頒布する目的で所持している。
被告は、被告イラスト又は被告人形を複製したテレビ番組及びテレビコマーシャルメッセージ等を放送している。
被告は、被告イラスト又は被告人形を複製したホームページをインターネット・サーバーにアップロードし、インターネット上に載せている。
(3) ローズ・オニールとキューピー作品等 米国人ローズ・オニール(Rose O'Neill)は、1874年6月25日、米国ペンシルバニア州ウイルケス・バレ市で生まれた。ローズ・オニールは、生前、
多数のイラスト作品等を創作しているが、本訴で著作権侵害が問題にされている著作物は、次のとおりである。
ア 1909年から1913年までの間の作品 (ア) 1909年作品 ローズ・オニールは、別紙著作物目録1の(1)記載の「キューピー(Kewpie)」のイラスト(甲第1号証)を創作し、米国の雑誌「Ladies' Home Journal」1909年12月号に掲載した自作のイラスト付き詩「The KEWPIES' Christmas Frolic(クリスマスでのキューピーたちの戯れ)」にてこれを発表した。
同イラストには複数の人物が描かれているが、原告は著作権侵害であるか否かについてはその部分であるところの別紙著作物目録1の(2)記載のイラストを特定している(以下これを「1909年作品」という。)。
なお、「キューピー(Kewpie)」の名称は、ローズ・オニールが西洋神話の「キューピッド(Cupid)」をヒントに考案したものである。
(イ) 1910年作品 ローズ・オニールは、別紙著作物目録2の(1)記載の「キューピー」のイラスト(甲第2号証)を創作し、米国の雑誌「Woman's Home Companion」1910年9月号に掲載した自作のイラスト付き詩「DOTTY DARLING AND THE KEWPIES(ドッティー・ダーリンとキューピーたち)」にてこれを発表した。
同イラストには複数の人物が描かれているが、原告は著作権侵害であるか否かについてはその部分であるところの別紙著作物目録2の(2)記載のイラストを特定している(以下これを「1910年作品」という。)。
(ウ) 1912年作品 ローズ・オニールは、1912年ころ、別紙著作物目録3記載の「キューピー」人形用のデザイン画(甲第3号証、以下「1912年作品」という。)を創作した。ローズ・オニールは、同年、米国連邦特許商標庁にデザイン・パテント(意匠特許。日本の意匠登録に相当する。)を出願した(登録は1913年)。
(エ) 1913年作品 ローズ・オニールは、人形用のデザイン画である1912年作品に基づき「キューピー」人形を制作した(足裏に、“ROSE O'NEILL, (C)1913 MADE IN JAPAN”と記載されたシールが貼られている別紙本件人形写真に撮影されている人形を、以下「1913年作品」という。)。
(原告は、1913年作品がローズ・オニールが制作した彫像の複製物であることを前提として、当該複製物である1913年作品が、米国のほか日本においても制作発行されていたと主張している。これに対して、被告は、1913年作品がローズ・オニールの許諾を得て製造されたこと、及び我が国においても販売されたことは否認している。) イ 1909年より前の作品 (ア) 1901年作品 ローズ・オニールは、雑誌「Puck」1901年4月6日号に、別紙著作物目録4記載のイラスト(以下「1901年作品」という。)を創作発表した。
(なお、被告は、1901年作品の著作権は、出版社に帰属すると主張している。) (イ) 1903年作品 ローズ・オニールは、雑誌「The Cosmopolitan」1903年12月号に挿絵「A Christmas Courtship」として別紙著作物目録5記載のイラスト(以下「1903年作品」という。)を創作発表した。
(なお、被告は、1903年作品の著作権は、出版社に帰属すると主張している。) (ウ) 1904年作品 ローズ・オニールは、雑誌「20th Century Home Magagine」1904年3月号に挿絵「The Educated Wife」として、別紙著作物目録6記載のイラスト(以下「1904年作品@」という。)を、雑誌「Good Housekeeping」1904年4月号に「To Arms」イラストとして、別紙著作物目録7記載のイラスト(以下「1904年作品A」という。)を、雑誌「20th Century Home Magagine」1904年7月号に挿絵「The Laboratory of the Kitchen」イラストとして、別紙著作物目録8記載のイラスト(以下「1904年作品B」という。)を、同誌1904年8月号に挿絵「For the Woman Who Reads」イラストとして、別紙著作物目録9記載のイラスト(以下「1904年作品C」という。)を、同誌1904年9月20日号に挿絵「The Jarring Note」イラストとして、別紙著作物目録10記載のイラスト(以下「1904年作品D」という。)を、それぞれ創作発表した(以下、1904年作品@ないしDを総称して、「1904年作品」ともいう。)。
(なお、被告は、1904年作品の著作権は、それぞれ出版社に帰属すると主張している。) (エ) 1905年作品 ローズ・オニールは、雑誌「American Illustrated Magazine」1905年12月号に挿絵「The Exapantion of Alphonse」イラストとして、別紙著作物目録11記載のイラスト(以下「1905年作品@」という。)を、雑誌「Appleton's」1905年12月号に「The Sage Hen's Samson」イラストとして、別紙著作物目録12記載のイラスト(以下「1905年作品A」という。)を、それぞれ創作発表した(以下、1905年作品@及びAを総称して「1905年作品」ともいう。)。
(なお、被告は、1905年作品の著作権は、それぞれ出版社に帰属すると主張している。) (オ) 1906年作品 ローズ・オニールは、雑誌「Harper's Bazar」1906年7月号に、
挿絵「A Night with Little Sister」イラストとして、別紙著作物目録13記載のイラスト(以下「1906年作品」という。)を創作発表した。
(なお、被告は、1906年の著作権は、出版社に帰属すると主張している。) (カ) 1907年作品 ローズ・オニールは、雑誌「Harper's Bazar」1907年12月号に、別紙著作物目録14記載のイラスト(以下「1907年作品」という。)を創作発表した。
(なお、被告は、1907年作品の著作権は、出版社に帰属すると主張している。) (キ) 1908年作品 ローズ・オニールは、雑誌「Harper's Bazar」1908年9月号に、
挿絵「The Letter」イラストとして、別紙著作物目録15記載のイラスト(以下「1908年作品@」という。)を、同誌1908年12月号に、挿絵「Peter,Peter」イラストとして、別紙著作物目録16記載のイラスト(以下「1908年作品A」という。)を、それぞれ創作発表した(以下、1908年作品@及びAを総称して、「1908年作品」という。)。
(なお、被告は、1908年作品の著作権は、出版社に帰属すると主張している。) 〔以下、「1909年作品」、「1910年作品」、「1912年作品」及び「1913年作品」を合わせて「キューピー作品」と総称し、「1901年作品」、「1903年作品」、「1904年作品」、「1905年作品」、「1906年作品」、「1907年作品」及び「1908年作品」を合わせて「キューピー関連作品」と総称する。 また、「1909年作品」等に対する日本における著作権を各々「1909年著作権」等といい、別紙著作物目録1の(1)、2の(1)及び3記載のイラスト著作物、キューピー作品ないしキューピー関連作品に対する日本における著作権を「キューピー著作権」と総称する。〕 (4) ローズ・オニールの遺産財団 ローズ・オニールは、1944年(昭和19年)4月6日、米国ミズーリ州で死亡した。
ローズ・オニールの死後、その遺産財団(以下「RO遺産財団」という。)が設立され、Bが同財団の財産管理人として任命された。RO遺産財団は、
1964年(昭和39年)1月16日、遺産につき「現金612.47ドルとその他の動産なしと記載される残高が正確である」と認められ、同遺産につき法定相続人の間での分配に関する決定及び判決がなされて、清算した。
Cは、米国ミズーリ州タニー郡巡回裁判所に対し、1997年(平成9年)7月14日付け受理の「未処分財産の遺産管理状の交付申請」を行い、同裁判所は、同月15日、ローズ・オニールの遺産財団(以下「新RO遺産財団」といい、「RO遺産財団」と併せて「(新)RO遺産財団」という。)の法定代理人として、Cを任命した。
(5) キューピー第一次訴訟 本件訴訟に先立ち、原告は、平成10年、被告に対して、被告人形及び被告イラストが1913年作品の複製又は翻案であるとして、1913年著作権に基づき、前記第1の1ないし7と同様の内容の請求をする訴訟(以下「第一次訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起した(同裁判所平成10年(ワ)第13236号)。同裁判所は、平成11年11月17日、原告の請求は理由がないとして、原告の請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。その控訴審(東京高等裁判所平成11年(ネ)第6345号)において、原告は、1913年作品の著作権確認請求を追加した。東京高等裁判所は、平成13年5月30日、原告の控訴を棄却するとともに、控訴審で追加された請求については、原告が1913年作品に係る著作物の著作権者であることを確認する旨の判決を言い渡した(甲第28号証)。原告及び被告は、それぞれ最高裁判所に上告及び上告受理申立てをしたが、平成14年10月29日、最高裁判所は、いずれの申立てに対しても上告棄却及び上告審として受理しないとの決定をした(甲第26、第27号証)。
3 争点 (1) 第一次訴訟の確定判決の既判力 (2) 訴訟上の信義則 (3) 確認の利益 (4) キューピー作品の創作性 (5) 1912年作品の著作権の喪失 (6) キューピー作品の著作権の保護期間 (7) キューピー関連作品の著作権の保護期間 (8) キューピー著作権は原告に譲渡されたか (9) 被告イラスト及び被告人形とキューピー作品との類似性 (10) 被告イラスト及び被告人形のキューピー作品に対する依拠性 (11) キューピー著作権の相対的時効取得 (12) 権利の失効 (13) 権利濫用 (14) 原告の損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(第一次訴訟の確定判決の既判力ー本件訴訟の予備的請求3は、第一次訴訟の既判力に抵触するか)について 【原告の主張】 (1) 第一次訴訟の既判力が生じる訴訟物 第一次訴訟控訴審判決は、原告が、1913年著作権のみを主張し、1909年著作権及び1910年著作権を主張しないと述べたことを前提としており、
訴訟物を「1913年著作権」のみに基づく差止請求権及び損害賠償請求権であることを明言している。
(2) 本件における訴訟物 予備的請求3は、1913年著作権に基づく請求ではなく、1913年作品という二次的著作物の原著作物である1909年作品、1910年作品、1912年作品のそれぞれの著作権に基づく差止め、損害賠償請求等である。
したがって、本件訴訟の予備的請求3は、第一次訴訟の既判力に抵触しない。
【被告の主張】 第一次訴訟の訴訟物は1913年著作権に基づく差止請求、損害賠償請求等であった。原告は、第一次訴訟において1913年著作権に基づく請求が棄却された後、1913年作品に対して、1909年作品、1910年作品及び1912年作品が原著作物であることを理由に、原著作権(著作権法28条)に基づく差止請求、損害賠償請求等をしているが、これが別個の訴訟物であるとするのは、原告の独自の見解に基づく主張にすぎない。予備的主張3は、第一次訴訟の確定判決の既判力に抵触する。
2 争点(2)(訴訟上の信義則ー本件訴訟の提起は第一次訴訟の実質的な蒸し返しであって、訴訟上の信義則に反するか)について 【被告の主張】 (1) 本件訴訟における原告の主張は、第一次訴訟におけるものとほぼ同じであり、原告が本件訴訟で提出した証拠も実質的に第一次訴訟と同じである。原告が本件訴訟で著作権を主張している1909年作品、1910年作品及び1912年作品は、いずれも第一次訴訟当時存在が判明していたイラストである。したがって、
本件訴訟は、実質的には第一次訴訟の蒸し返しにほかならない。
(2) 原告は、1910年作品、1912年作品及び1913年作品を1909年作品の二次的著作物とも位置付けており、主位的請求である1909年作品に関する請求が否定されたときには、1909年作品の二次的著作物である1910年作品、1912年作品あるいは1913年作品の権利は存在し得ないから、予備的請求1ないし3は失当である。しかも、原告は、1913年作品の著作権に基づく請求を行わないと主張しているのであるから、予備的請求3は、主位的請求、予備的請求1あるいは2の蒸し返しにすぎない。
(3) 原告は、第一次訴訟控訴審判決が認定しているとおり、第一次訴訟第一審の口頭弁論期日において、「1909年作品について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはない」と述べていた。第一次訴訟控訴審判決でもそのように認定されたのであるから、合理的な通常人であれば、原告が第一次訴訟終了後に、新たに1909年作品を根拠に、実質的に同一の紛争を蒸し返す意図はないと理解する。したがって、被告としては、当然、第一次訴訟で、原告との間の、キューピーにまつわる紛争は終了したと期待していた。
原告が、1909年作品の創作的表現についても著作権の保護を及ぼしたいのであれば、第一次訴訟で1909年作品に基づく著作権侵害を主張すれば足りたのである。それにもかかわらず、原告は、第一次訴訟において、「1913年作品の著作権」及び「1913年作品に現れている1909年作品及び1910年作品の原著作権」を主張したものと思われるが、このような主張は著作権法の趣旨を歪める解釈であり、そのような原告の解釈が第一次訴訟で容れられなかったからといって、それは原告の責任であるから、その結果を甘受すべきである。原告が、本件訴訟で1909年作品、1910年作品及び1912年作品の著作権に基づく請求をすることは、自らの第一次訴訟での失敗を被告に転嫁するものであり、被告に不必要な応訴の負担を強要し、かつ司法制度をいたずらに浪費するものである。
以上からすれば、本件訴訟における主位的請求、予備的請求1ないし3は、第一次訴訟との関係で訴訟上の信義則に反するというべきである。
(4) 原告は、第一次訴訟から一貫してキューピーとは1909年作品において初めて創作されたと主張してきている。したがって、それ以前に制作された作品が、キューピー作品の原著作物であることを前提とする予備的主張4は訴訟上の信義則に著しく反する(最高裁昭和48年7月20日第二小法廷判決・民集27巻7号890頁参照)。
【原告の主張】 (1) 被告は、本件において原告が主張立証をほぼ同じくしており、実質上第一次訴訟の「蒸し返し」であるから、主位的請求及び予備的請求1ないし3は信義則違反であると主張する。
しかしながら、二次的著作物に複数の原著作物が用いられている本件のような場合、一個の原著作権に基づく主張しかできないと解する理由はないし、そのように解することは、原著作者の権利を著しく制限するものである。
そして、訴訟物が異なる以上は、@前訴と後訴の訴訟物を基礎付ける権利が同一であり、A後訴請求を基礎付ける主張が前訴において否定的に判断され、B後訴原告が前訴において予備的な請求をすることによって紛争の終了を企図した主張を行い、かつC公的処分等における高い法的安定性の要請がある、といった例外的な場合に限定して、信義則違反が認められるべきである。本件は、訴訟物を基礎付ける権利は別であり(@の否定)、第一次訴訟では1913年作品以外は何ら判断されておらず、むしろ審理の機会を剥奪されたものであり(Aの否定)、しかも第一次訴訟では、原告の予備的請求(1913年著作権以外の著作権に基づく請求)を行っていないと認定され、被告もこの予備的請求を審理対象とすることを拒んだのであるから、紛争の終了を企図した主張がなされていたということはできない(Bの否定)。また、本件において公的処分等における高い法的安定性の要請は認められない(Cの否定)。したがって、原告の請求が信義則違反であるこということはできない。
(2) 被告は、原告が譲り受けた作品は1909年以降の作品に限定されるとして、予備的請求4が失当であると主張する。
しかし、原告が譲り受けた著作権は、1909年以降の作品に限定されていないし、被告が引用する最高裁判決は、前訴と後訴における当事者の態度の違いに着目して禁反言の法理を適用するものであって、本件には該当しない。
よって、予備的請求4が失当であるとする被告の主張は何ら理由がない。
3 争点(3)(確認の利益)について 【原告の主張】 被告が著作権の発生・消滅・移転・範囲を争う以上、確認の利益は認められる。
【被告の主張】 (1) 確認の利益が認められる場合の要件とその具備の有無 確認の利益は、原告の権利又は法的地位に不安が現に存在し、かつ不安を除去する方法として、原告・被告間でその訴訟物たる権利又は法律関係の存否の判決をすることが有効適切である場合に認められ、その判断基準は、@原告・被告間の具体的紛争の解決に、確認訴訟・確認判決という手段が、有効・適切か、A確認対象として選択された訴訟物が、原告・被告間の紛争解決にとって有効・適切か、
B原告・被告間の紛争が確認判決によって即時に解決しなければならないほど切迫し成熟したものか、C訴訟物たる権利又は法律関係について確認判決による紛争解決を図るのに有効・適切な被告を選択しているか、であるとされる。
本件紛争の核心は、原告が著作権を有するか否かではなく、被告人形等がキューピー作品の複製又は翻案かという問題である。この問題解決のために原告・被告間で別紙著作物目録1の(1)、2の(1)及び3のイラストの著作物の著作権の確認を求めることは、有効でも適切でもないから、上記要件のうち、@とAを具備しない。
また、被告は、これらの著作権を被告が保有する旨主張したことはないし、原告に対し、被告の著作権の存在を前提とする権利行使や侵害差止請求等を行ったことはない。したがって、上記要件のうち、Bを具備しない。
さらに、被告は、原告に対して、著作権の帰属を主張したことはないから、紛争解決に著作権の帰属を確認する必要はなく、上記要件のうち、Cを具備しない。
したがって、別紙著作物目録1の(1)、2の(1)及び3のイラストの著作物の著作権が原告に帰属することの確認を求める請求には、確認の利益が認められない。
(2) 被告が、著作権の発生・消滅・移転・範囲を争うことの趣旨 確認の利益は訴訟要件の存否に関わる問題であるから、本案訴訟手続の主張とは区別して判断されるべきである。この点、本案前の訴訟要件に関して、被告は原告に対して反論したことはない。
被告は、本案訴訟において、被告人形等がキューピー作品の複製でも翻案でもないと主張し、予備的に原告の著作権の存在等を否認し争っているにすぎない。これは極めて自然な訴訟行為であり、これをもって、被告が確認訴訟に敗訴した場合の訴訟費用の負担を余儀なくされるとすれば、不当な応訴の負担である。
4 争点(4)(キューピー作品の創作性ー1909年作品、1910年作品及び1912年作品は、それぞれ創作性を有するか)について 【原告の主張】 (1) 「天使」、「子供」ないし「キューピッド」とキューピー作品 キリスト教、ユダヤ教及びイスラム教の神の遣いとされる「天使」、「子供」、ローマ神話に登場する愛の神で、愛と美と豊饒の女神ヴィーナスと軍神マルスの子供とされている「キューピッド」といった題材は、作者の個性・才能・技能によって異なった創作的表現がなされており、個性的表現の幅が大きい。
このように「天使」、「子供」、「キューピッド」の描き方が多彩であるのに対して、キューピー作品には顕著な特徴があり、しかもその特徴は、「子供」、「天使」、「キューピッド」の表現としてありふれたものではない。
(2) 1912年作品について キューピー作品の特徴は、1912年作品においてとりわけ顕著に認めることができる。
ア 顔と頭の形状における特徴 顔と頭の形状における特徴は、明るいかわいらしさを造形している以下の特徴である。これらの特徴は、キューピー作品創作以前においては見られなかったものであって、個別に、またその組み合わせにおいて、創作的である。
@ 顔は縦と横の長さがほぼ同じであり、丸顔(頭部の輪郭が略円)である。
A 頬はふっくらしている。
B 目は、丸く(目の輪郭が略円)大きく、顔の下半分にある。
C 瞳は、大きく、左方向(向かって右)を向いている。
D 眉があるが、眉は目から離れた位置に短い線として描かれている。
E 鼻は、目立たず、小さい。
F 唇が頬に食い込むように左右に引かれ、口角は上がっており、微笑んでいる。
G 頭頂部に髪の毛の突起がある。
H とがった部分から前に垂れた髪の毛がある。
I 左右側頭部に髪の毛の突起がある。
J 頭のその他の部分には髪の毛はない。
K 眉以外の顔のパーツは顔の下半分に集中するが、眉だけが顔面の上半分にある。
L 以上の特徴の組合せ イ 体型における特徴 体型における特徴は、かわいらしさを造形している以下の表現上の特徴である。これらの特徴は、キューピー作品創作以前においては見られなかったものであって、個別に、またその組み合わせにおいて、創作的である。
@ 頭部は、丸顔であり、頭頂に突起がある。
A 頭部が全身と比較して大きく、おおむね3頭身である。
B 裸である。
C 性別がはっきりせず、中性的である。
D 実際の子供よりも、ふっくらと描かれている。特に、腹部は実際の子供に比べて誇張して前方に突き出ている。
E 双翼があるが、極端に小さい。
F 天使やキューピッドと異なり宗教色はない。
G 頸部がない。
H 指は実際の子供に比べて短く(掌よりも短い)、形は先端がやや丸くなった略三角形である。
I 以上の特徴の組合せ ウ 姿勢における特徴(キューピー・ポーズ) 俗にキューピー・ポーズといわれる姿勢における特徴は、明るいかわいらしさを造形している以下の表現上の特徴である。これらの特徴は、キューピー作品創作以前においては見られなかったものであって、個別に、またその組み合わせにおいて、創作的である。
@ 全体的に略円という頭部輪郭を備えた約3頭身である。
A 直立である。
B 両腕を伸ばし、身体の側面から斜めの方向に下げている。
C 両手は、掌を紅葉状に広げている。
D 足は伸ばして両足をそろえている。
E つま先をそろえている。
F 以上の特徴の組合せ (3) 1909年作品の創作性 1909年作品は、@ほぼ直立又は動きのあるイラストであり、A乳幼児としての体型であり、頭部が全身と比較して大きく、おおむね3頭身である、B裸又はほぼ裸である、C性別がはっきりせず、中性的である、Dふっくらとしているが、乳幼児としてはやせ形である、E胴長短足である、F頭部の骨格について、後頭部の中心が突き出したように張ってはおらず、緩やかな円形曲線を形成している、G頭の中央部分がとがっており、とがった部分は髪の毛で前にたれており、頭の左右、後頭部下方にとがった形状の髪の毛が生えておらず、その他の部分に髪の毛はない、H顔は縦と横の長さがほぼ同じでありいわゆる丸顔であって、頬はふっくらしている、I目は丸く大きく、左又は右を向いている、J眉は目から離れた位置に点のように描かれている、K鼻は目立たず、小さく丸い、L口は、唇につき、
細く長く下向き円弧状に描かれているものがあり、また、口がやや短く描かれているものがあり、微笑んでいるような表情に描かれている、M小さな双翼が肩の付け根から生え、首に延びるような形で付けられている、N両腕を伸ばし、掌を広げているものはいない、O腹部は下腹部が前方に突き出している、P背中は平坦で、尻部は下方に向けて狭まっている、といった特徴を有しており、その結果創作性が認められる。
(4) 1910年作品の創作性 1910年作品は、1909年作品と比較して、よりかわいらしくなるよう誇張され、その点に創作性が認められる。具体的には、@目の形だけでなく、目の大きさを誇張している、A1909年作品に比べ、0.5頭身もの差があり、頭の大きさが誇張されている、B実際の子供よりもふっくらと描かれている、Cマンガ的である、D頸部がない、E腹部は実際の子供に比べ誇張して前方につきだしている、等の点において新たな創作性が認められる。
(5) 1901年作品について 1901年作品とキューピー作品、とりわけその特徴が顕著に表れている1912年作品を比較してみると、次のような相違点が指摘できる。したがって、
キューピー作品は、1901年作品に由来しない、全く新しい創作性を有する著作物というべきである。
ア 顔と頭の形状における特徴 顔と頭の形状については、1912年作品とは、瞳が左方向を向いている点、眉が短い線として描かれている点、鼻が目立たず小さいという点、頭頂部に髪の毛の突起がある点、左右側頭部に髪の毛の突起がある点において類似するが、
その他の点は全く異なる。特に、1912年作品においては、唇が頬に食い込むように左右に引かれ、口角は上がっており、微笑んでいるのに対して、1901年作品においては、指をくわえて暗い表情である。また、1912年作品においては、
眉だけが顔面の上半分にあるところ、1901年作品においては、眉を含めて顔のパーツが顔の下半分に集中し、「パッ」と目を見開いた独特の生き生きとした表情が存在しない点において1912年作品と大きく異なる。その結果、1901年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
イ 体型における特徴 体型については、1912年作品とは、頭頂に突起がある点、おおむね3頭身である点、裸である点、性別がはっきりせず中性的である点、極端に小さい双翼がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、全体的に頭髪が豊かであり、ふっくらしておらず、大人びた幼児の印象を与える。また、1901年作品は、教会でお祈りをしている女性とともに描かれた宗教色なイラストであり、暗い。その結果、1901年作品は、かわいらしさを造形していない。
ウ 姿勢における特徴(キューピー・ポーズ) 姿勢については、1901年作品は、斜め向きで前屈み、又は横向きで正座したやや前屈みであって、1912年作品とは全く異なる。その結果、1901年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
(6) 1903年作品について 1903年作品とキューピー作品、とりわけその特徴が顕著に表れている1912年作品を比較してみると、次のような相違点が指摘できる。したがって、
キューピー作品は、1903年のそれに由来しない全く新たな創作性の存する別個の著作物である。
ア 顔と頭の形状における特徴 顔と頭の形状については、1912年作品とは、鼻が目立たず小さいという点、頭頂部に髪の毛の突起がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、1903年作品においては、口は小さく点状であって、微笑む表情はない。また、1903年作品においては、眉がなく、瞳が小さくかつ上目遣いであって、「パッ」と目を見開いた独特の生き生きとした表情が存在しない。その結果、1903年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
イ 体型における特徴 体型については、1912年作品とは、頭頂に突起がある点、裸である点、性別がはっきりせず中性的である点、頸部がない点、極端に小さい双翼がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、3頭身ではない点、丸顔ではない点、教会でひざまずいた姿勢でお祈りをするようなポーズをとって宗教色がある点、指が表現されていない点において異なる。その結果、1903年作品は、かわいらしさを造形していない。
ウ 姿勢における特徴(キューピー・ポーズ) 姿勢については、1903年作品は、正面向きにひざまずいた姿勢でお祈りをするようなポーズをとっており、1912年作品とは全く異なる。その結果、1903年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
(7) 1905年作品@について 1905年作品@とキューピー作品、とりわけその特徴が顕著に表れている1912年作品を比較してみると、次のような相違点が指摘できる。したがって、キューピー作品は、1905年@のそれに由来しない全く新たな創作性の存する別個の著作物である。
ア 顔と頭の形状における特徴 顔と頭の形状については、1912年作品とは、眉が目から離れた位置に短い線として描かれている点、鼻が目立たず小さいという点、頭頂部に髪の毛の突起がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、1905年作品@においては、暗い表情である。また、1905年作品@においては、目を閉じ微笑みがなく、1912年作品のような「パッ」と目を見開いた独特の生き生きとして表情が存在しない。その結果、1905年作品@は、明るいかわいらしさを造形していない。
イ 体型における特徴 体型については、1912年作品とは、裸である点、性別がはっきりせず中性的である点、極端に小さい双翼がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、3頭身ではない点、丸顔ではない点、教会でひざまずいた姿勢でお祈りをするようなポーズをとって宗教色がある点、指が表現されていない点において異なる。その結果、1905年作品@は、かわいらしさを造形していない。
ウ 姿勢における特徴(キューピー・ポーズ) 姿勢については、1905年作品@は、横向きにひざまずいており、1912年作品とは全く異なる。その結果、1905年作品@は、明るいかわいらしさを造形していない。
(8) 1906年作品について 1906年作品とキューピー作品、とりわけその特徴が顕著に表れている1912年作品を比較してみると、次のような相違点が指摘できる。したがって、
キューピー作品は、1906年のそれに由来しない全く新たな創作性の存する別個の著作物である。
ア 顔と頭の形状における特徴 顔と頭の形状については、1912年作品とは、頬がふっくらしている点、鼻が目立たず小さいという点において類似するが、その他の点は全く異なる。
特に、1906年作品においては、口は小さく点状であって、微笑む表情はない。
また、1906年作品においては、眉がなく、目が小さくかつ上目遣いであって、
「パッ」と目を見開いた独特の生き生きとした表情が存在しない。その結果、1906年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
イ 体型における特徴 体型については、1912年作品とは、裸である点、性別がはっきりせず中性的である点、極端に小さい双翼がある点において類似するが、その他の点は全く異なる。特に、3頭身ではない点、丸顔ではない点、指が表現されていない点において異なる。その結果、1906年作品は、かわいらしさを造形していない。
ウ 姿勢における特徴(キューピー・ポーズ) 姿勢については、1906年作品は、斜め向きにひざまずいて、指をくわえており、1912年作品とは全く異なる。その結果、1906年作品は、明るいかわいらしさを造形していない。
(9) 1908年作品について 1908年作品は、1909年作品より前に描かれた作品の特徴である表情が暗い点、姿勢がうつむきがちであり暗い点が共通し、特に、ひざまずいてお祈りをするポーズであって宗教色が感じられる点で1903年作品と酷似する。
(10) 被告は、1903年作品によってキューピー作品の特徴が確立されたと主張する。
しかし、被告がその根拠とするところの、1909年にローズ・オニールが雑誌編集者に宛てた手紙(乙第16号証)の中の、「私は、長い間この人達を『キューピー』と呼んでおりました」との記述は、手紙の冒頭に「貴信を拝受して、アイデアを考えておりました」とあるとおり、アイデアとして暖めていた人物を、個人的にキューピーと呼んでいたことを明らかにしたものにすぎない。
また被告は、原告の著書において、先のとがった頭髪がキューピー作品の特徴であると記載されていることから、そのような特徴は既に1903年作品に現れていると述べる。しかし、先のとがった頭髪だけがキューピー作品の特徴ではない。1903年作品と1909年以降の作品を比較すると明らかなとおり、両者はとても同じ作者の作品とは思えないほど異質の雰囲気を出している。そもそも、同じ作者が描いたキャラクターは、若干の類似点があって当然であるが、同じ作者が描いたキャラクターであるからといって、後行著作物がすべて先行著作物の二次的著作物となるわけではない。
(なお、原告は、1904年作品、1905年作品A、1907年作品に関する主張をしていない。) 【被告の主張】 (1) キューピー作品の本質的な特徴とその確立時期 キューピー作品の特徴とは、@先のとがった頭髪、A背に付された小さな双翼、Bふっくらした幼児の体型、と考えるべきである。それ以外の原告の主張は、些末な問題であって本質的特徴といい得るものではない。
そして、これらの3つの特徴は、日米著作権条約の発効(1906年)以前に公にされた、したがって公有物(パブリックドメイン)となっている1903年作品で確立し、1904年作品や1905年作品に継承されている。
ローズ・オニールは、1909年の段階で雑誌の編集者に、1903年作品において確立していた上記3つの特徴を備えたイラストを指し、「私は長い間、
この人達をキューピッドの小さい者という意味でキューピーと呼んでおりまして」と書いているが、これは、1903年から1909年まで毎年上記3つの特徴を有しているイラストを描き続けてきたことを指していることにほかならない。
さらに、株式会社電通リサーチが1999年5月27日から同年6月6日にかけて実施した調査によれば、対象となった630人のうちの約85%にあたる535人が、1903年作品をみて「キューピー」と答えており、「エンゼル」(約4%)、「キューピッド」(約9%)と答えた人を大きく引き離している。このことからしても、1903年作品において、キューピー作品の本質的特徴が確立していることは明らかである。
(2) 1909年、1910年、1912年各作品の創作性の欠如 ア 日米著作権条約前に発行された1903年作品によって確立されたキューピー作品の本質的な特徴が既に公有に属している以上(この点については、後記7【被告の主張】において詳述する。)、かかる本質的な特徴を複製したにすぎない1909年作品、1910年作品及び1912年は、何ら創作性を有していないことが明らかである。
イ 原告は、1903年作品、1905年作品@及び1906年作品と、1912年作品とを対比してその相違を指摘し、1912年作品、さらにはキューピー作品すべてが、1903年作品等を先行著作物とする二次的著作物には当たらないと主張する。しかし、原告の指摘するキューピー作品の特徴を前提とする比較は、枝葉末節なものである。
ウ 原告は、1909年以降の作品には独自性があり、1903年及び1905年作品@とは異なると主張し、その理由として、1903年作品や1905年作品@は、@キューピー・ポーズがない、宗教色がある姿勢をしているゆえに、明るいかわいらしさがない、A「パッ」と目を開いた独特の生き生きとした表情が存在しない、B3頭身ではない、という点を挙げている。
しかしながら、1909年作品や1910年作品には、いわゆるキューピー・ポーズをとったイラストはない。また、「パッ」と目を開いた独特の生き生きとした表情を持つイラストもない。さらに、必ずしもすべてのイラストが3頭身であるわけではない。したがって、原告の、1909年以降の作品には独自性がある旨の主張は理由がない。なお、「宗教色がある姿勢」、「明るいかわいらしさがない」などの点は、原告の思い込みにすぎず、作品の本質的特徴ということはできない。また、同一キャラクターが異なる表情をした場合に別個の著作物として扱うべきではないから、表情が常にイラストの本質的な特徴となるわけではない。
5 争点(5)(1912年作品の著作権の喪失) 【被告の主張】 (1) 著作権表示の欠如 1909年米国著作権法の下では、著作権表示は、発行著作物の著作権を取得し維持するための必須の条件であった。著作物に著作権表示を付して発行することにより、初めて著作権法上の著作権による保護を取得することができたのであり、著作物に著作権表示を付さずに発行すると、当該著作物は公有物(パブリックドメイン)に陥り、公衆がこれを複製することが可能になった。
1912年作品は、著作権表示なしに発行されたものであり、その著作権表示の欠缺の故に、発行と同時に公有物となった。
(2) 意匠特許と著作権との間の二者択一 当時の米国著作権法の下では、申請者には、意匠特許による保護を受ける選択肢と著作権による保護を受ける選択肢という、2つの選択肢があったところ、
申請者があえて、意匠特許の選択肢を選択して、これを取得した場合は、同申請者は、意匠特許のみ取得するに止まり、意匠特許の有効期間中(14年間)であれ、
同有効期間満了後であれ、同一の作品につき、著作権を取得することはできなかった。
ローズ・オニールは、1912年12月17日、1912年作品につき、
意匠特許の申請をし、1913年3月4日、意匠特許(登録番号43680)として権利の登録を得た。したがって、同意匠特許の有効期間中(14年間)であれ、
同有効期間満了以後であれ、1912年作品について、著作権を取得していない。
(3) 米国で第一発行された米国人の作品である1912年作品は、前記のとおり、米国で著作権が保護されていない以上、日本国は、日本において、日本国民に許与されると同様の基礎において、これを保護する義務を負わない(日米著作権条約1条)。
けだし、日本国、米国とも、自国内で著作権が成立している作品について、相手国でも相手国の国民に与えられるのと「同様の基礎」の下に相手国の著作権上の保護が与えられることを期待して、同条約を締結したのに止まり、自国内で、そもそも著作権の成立を認めていない作品についてまで、同条約の効果として、相手国が自国を本国とする作品に対し著作権上の保護を与えるよう期待していたとは、合理的にみて考えられないからである。
【原告の主張】 (1) 著作権表示について 米国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国において保護を受けるためには、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、著作権表示のない意匠特許公報が公刊されたからといって、1912年作品が我が国において保護を受けることができなくなるものではない。
(2) 米国意匠特許との関係 また、被告は、1909年米国著作権法においては、意匠特許登録可能な著作物について意匠特許の登録を受けた場合には、著作権登録は受けられないと主張する。
しかし、仮に、1913年当時の米国が意匠特許の取得により同一形態の著作物の著作権が消滅するという法制度を採用していたとしても、日米著作権条約による内国民待遇が我が国における旧著作権法(明治32年3月4日法律第39号)による保護を意味する以上、1912年著作権が我が国において消滅したと解することはできない。また、ローズ・オニールが米国において意匠特許を取得したとしても、当該意匠特許の効力は、同国国内に限られ、我が国には及ばないから、
我が国において著作権と意匠権による二重の保護という事態は生じない。さらに、
日米著作権条約による内国民待遇によれば、米国において意匠特許を取得したとしても我が国旧著作権法による保護を否定される理由はない。
なお、米国意匠特許と米国著作権は相互に排斥しないということが米国の判例法理である。
6 争点(6)(キューピー作品の著作権の保護期間)について 【原告の主張】 明治39年(1906年)5月11日に公布された日米間著作権保護ニ関スル条約(明治39年4月28日批准)(以下「日米著作権条約」という。)は、同日以降に相手国民が「発行」した著作物に、自国民が創作した著作物と同じ保護すなわち内国民待遇を与えていた(同第1条)。
その後、昭和27年(1952年)4月28日に公布された日本との平和条約(昭和27年条約第5号)(以下「平和条約」という。)7条(a)により日米著作権条約は廃棄されたが、米国を本国とし、同国国民を著作者とする著作物に対し、平和条約12条(b)(1)(ii)及び平和条約第12条に基づく著作権に関する内国民待遇の相互許与に関する日米交換公文及び附属書簡(昭和29年外務省告示第4号)(以下「外務省告示」という。)により、昭和27年4月28日から4年間、
昭和31年(1956年)4月27日までの4年間、我が国において引き続き内国民待遇が与えられた。
その後、以上の著作物については、上記4年間の経過と同時に、万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和31年4月28日法律第86号)(以下「万国条約特例法」という。)11条に基づき、今日に至るまで引き続き内国民待遇が与えられている。
ローズ・オニールは、明治39年(1906年)5月11日以降にキューピー作品を創作・発行し、各々の作品について、日米著作権条約及び著作権法(明治32年3月4日法律第39号)(以下「旧著作権法」という。)に基づき、我が国における著作権を取得した。
キューピー作品の著作権の保護期間は、旧著作権法3条52条1項により、著作者であるローズ・オニールの死後38年とされた。また、ローズ・オニールは、1944年4月6日、米国ミズーリ州において死亡したが、キューピー作品の著作権の保護期間中である昭和46年(1971年)1月1日に施行された現行の著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)51条により、キューピー作品の著作権の保護期間著作者であるローズ・オニールの死後50年間とされ、また、
戦時加算に関する連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(昭和27年8月8日法律第302号)(以下「連合国特例法」という。)4条1項により、キューピー作品の著作権の保護期間について3794日間の戦時加算がされる結果、平成17年(2005年)5月6日まで存続することとなった。したがって、キューピー作品の著作権は、現在も保護期間が満了していない。
【被告の主張】 キューピー作品の著作権の保護期間は、平成5年(1993年)5月21日までであり、キューピー作品は本件訴訟提起時いずれも既に公有に帰している。
(1) 保護期間に関する法解釈の原点 著作権の保護期間については、相互主義を採用することが国際法上常識である。米国国民の著作物を、米国においては既に公有物となったにもかかわらず、
我が国において保護するような国益に反する法解釈をあえて採用しなければならない合理的理由は何ら認められない。
米国は、外務省告示において、日本が米国国民の著作物に与える限度においてのみ日本国民の著作物の著作権を保護する意図を有しており、相互主義的な考え方を採用していた。米国において既に存続期間満了により公有物となった著作物の著作権について、日本においてその後も保護されるとは考えなかったはずである。しかも、米国は、万国著作権条約(昭和31年条約第1号)(以下「万国条約」という。)に1955年(昭和30年)9月16日に批准加盟しているのであるから、保護期間に関する相互主義を採る万国条約を批准した後の外務省告示においても相互主義を採用するとの意思を有していたというべきである。
また、著作権法制定当時、立法者が、万国条約特例法11条の適用を受ける著作物を保護期間に関する相互主義の適用対象から除外し、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)や万国条約により保護を受ける他の著作物に比して、より厚く保護する意図を有していたことを示すものはない。したがって、著作権法の立法者は、国際法上の常識である相互主義を著作権法の中に規定しようとしていたというべきである。
しかも、著作権法5条によれば、日本が国際法上保護義務を負う著作物の著作権は、特段の規定(すなわち、著作権法58条、万国条約特例法3条1項及び著作権法5条の適用を排除する規定)がない限り、保護期間の相互主義が適用されることになる。
以上からすれば、日本において、米国国民の著作物について、その著作権存続期間に関し相互主義を適用すべきことは、日本の国益に照らして当然の事理といわなければならない。
(2) 1909年(明治42年)から1952年(昭和27年)4月27日の間 キューピー作品が発行された1909年(明治42年)ないし1913年(大正2年)当時、米国国民の著作物は、日本国内においては、日米著作権条約3条1条に基づき、旧著作権法により「日本国民に許与される保護と同様の基礎」において著作権が保護されることとされた。旧著作権法28条は、外国人著作物については、条約に別段の定めがあるものを除く他は、旧著作権法の規定を適用する旨規定していたが、日米著作権条約上、保護期間については旧著作権法28条における「別段の定め」が存在しなかった。
そのため、キューピー作品の著作権の存続期間は、旧著作権法3条9条に基づき、著作者の死後30年後の1974年(昭和49年)12月31日までとなる。
(3) 1952年(昭和27年)4月28日ないし1956年(昭和31年)4月27日の間 1952年(昭和27年)4月28日午後10時30分、日本と米国との間の平和条約が発効した。平和条約7条は、各連合国と日本との間に戦前結ばれた2国間条約について、今後も有効とするか又は復活させる場合の通告についての規定であるが、米国から日本に対し、日米著作権条約に関して同規定に基づく通告がなかったので、日米著作権条約は廃棄されることが確定した。その結果、日米間の著作権の保護については無条約状態になった。そこで、日米両国は、1953年(昭和28年)年11月10日、平和条約12条の規定を援用し、1952年(昭和27年)4月28日から1956年(昭和31年)4月27日までの4年間について、平和条約12条及び外務省告示により保護することとした。この外務省告示の下において、キューピー著作権の保護期間は、旧著作権法3条(死後30年間)、連合国特例法に基づく戦時加算がなされるまでとなった。
(4) 1956年(昭和31年)4月28日から1970年(昭和45年)12月31日までの間 平和条約及び外務省告示が失効した1956年(昭和31年)年4月28日、万国条約が発効し、その国内法として万国条約特例法が施行された。キューピー作品は、同法附則2項後段の「発行された著作物でこの法律の施行前に発行されたもの」に該当するから、同2項中の括弧書きされた11条を除外する旨の規定により、万国条約特例法中11条のみの適用を受け、「この法律の施行の際日本国との平和条約12条の規定に基づく旧著作権法(明治32年法律第39号)による保護を受けている著作物」について、「旧著作権法による保護と同一の保護を受ける」こととなった。
旧著作権法28条は、外国人の著作権については、条約に別段の規定がある場合には、旧著作権法の規定の適用を排除して、当該条約の規定を適用すべき旨規定していところ、1956年(昭和31年)年4月28日当時、日米間の著作権保護に関する条約としては、万国条約が存在した。
万国条約7条は、同条約は日本における同条約の発効日(昭和31年4月28日発効)に、日本において公有物となっていない著作物について適用される旨規定するところ、上記のとおり、キューピー作品は、万国条約特例法附則2項、同法11条により日本において保護を受けることとなっていたのである。したがって、キューピー作品の著作権の保護期間は、万国条約4条1項、同条2項(a)により、著作者の生存期間及び死後25年間より短くてはならないという制約の下、締約国である日本の国内法により定まることとなっており、結局、日本の国内法である旧著作権法に基づくこととなる。
よって、1956年4月28日当時、キューピー作品の著作権の存続期間は、旧著作権法3条9条、及び連合国特例法2条4条により、1985年(昭和60年)年5月21日までとされた。
さらに、1956年(昭和31年)4月28日の後、旧著作権法は、昭和37年4月5日法律第74号、昭和40年5月18日法律67号、昭和42年7月27日法律第87号、昭和44年12月8日法律第82号により、旧著作権法52条が追加、一部改正され、最終的に、著作権の存続期間は、著作者の生存期間及び死後38年間とされた。
この結果、キューピー作品の著作権の存続期間は、旧著作権法3条9条52条及び連合国特例法2条4条により1993年(平成5年)5月21日までとなった。
(5) 1971年(昭和46年)1月1日から1989年(平成元年)2月28日までの間 1971年(昭和46年)1月1日に、旧著作権法が廃棄され現著作権法が施行されるに際し、著作権法附則26条により、万国条約特例法11条が改正された。キューピー作品の著作権は、前記のとおり1993年5月21日まで保護されていたため、改正後の万国条約特例法11条に基づき、著作権法による保護へと引き継がれることとなった。なお、改正後の万国条約特例法11条は、単に「旧・現著作権法による保護と同一の保護」を与える旨規定しているに止まるのであって、「同条の適用対象たる著作物に内国民待遇を許与する」規定ではなく、また、
旧・現著作権法に対する特別法として、著作権保護の根拠となる規定でもない。なお、前記(4)記載のとおり、キューピー作品は万国条約により保護されているから、
著作権法6条3号により著作権法による保護を受け得たものであると解される。著作権法附則26条は、改正前の万国条約特例法11条の文言が廃棄される無意味な規定になることを防止する規定であり、また、国内法の適用に際し条約の適用も併存をすることは煩雑なので、予め国内法化した便宜的規定であるにすぎない。
そこで、著作権法による保護について検討するに、著作権法5条は、条約に別段の定めがある場合には、条約上の別段の定めを適用する旨規定している。1971年当時日米間において締結されていた著作権保護に関する条約は万国条約のみであり、万国条約によれば著作権の存続期間は著作者の生存期間及び死後25年間より短くしてはならないという成約の下、締約国である日本の国内法により定めることとなっていたから、結局その存続期間は、著作権法51条により、著作者の死後50年間となる(当時米国はベルヌ条約に加盟していなかったから、著作権法58条の適用はない。)。
それ故、キューピー作品の著作権の存続期間は、著作権法51条2項による著作者の死後50年間に、連合国特例法2条4条による戦時加算を含めた結果、2005年5月21日までとなる。
(6) 1989年(平成元年)3月1日以降 ア 米国が、ベルヌ条約に加盟したことにより(発効日は1989年3月1日である。米国ベルヌ条約実施13条(a)項参照)、日米間の著作権保護に関する条約は1971年にパリで改正された万国条約(昭和52年条約第5号)(以下「万国条約パリ改正条約」という。)とベルヌ条約となり、また、米国は著作権法58条の「本国」に該当することとなった。
万国条約パリ改正条約17条に関する附属宣言(c)により、ベルヌ条約が万国条約パリ改正条約に優先することが規定されている。ベルヌ条約18条は、
同条約上の「本国」において発効日までに公有物となっていないものについては、
同条約で保護することとしていたが、キューピー作品は、「本国」である米国で1989年2月28日以前に公有物になっているのであるから、ベルヌ条約の適用を受けない著作物ということになり、結果、キューピー作品について適用される、著作権法5条の「別段の定め」にベルヌ条約は含まれないこととなった。
万国条約パリ改正条約7条は、日本における同条約の発効日(1977年(昭和52年)10月21日)に、日本において公有物になっていない著作物に対して適用されると規定している。キューピー作品の著作権の存続期間は前記のとおり2005年5月21日とされていたから、万国条約パリ改正条約の適用を受ける。
そして、万国条約パリ改正条約4条1項、同条2項(a)によれば、万国条約と同様、キューピー著作権の存続期間は、著作者の生存期間及び死後25年間より短くてはならないという制約の下、締約国である日本の国内法により定まることになる。
著作権法51条は、保護期間の「原則」規定として、著作権の存続期間は、著作権法第2章第4節に別段の定めがある場合を除き、創作の時から著作者の死後50年存続する旨定める。
ところで、著作権法58条は、相互主義は国際法上の常識であること、
同条は日本国民の著作物のみを適用除外していること、同条は文言上著作物がベルヌ条約の適用を受けることを適用要件としていないことから、ベルヌ条約の適用を受ける著作物であるか否かを問わず、ベルヌ条約加盟国等との間では、すべての外国著作物に対して適用がある。その結果、本国である米国において1989年2月28日以前に公有物になっているキューピー作品の著作権の保護期間は、我が国においても終了していることとなる。
ただし、著作権法附則7条により、旧著作権法において認められていた保護期間は保護されることとなる。よって、キューピー作品の著作権は、旧著作権法において認められていた1993年5月21日まで存続する。
イ 万国条約特例法11条の趣旨を、平和条約及び外務省告示により内国民待遇を許与されていた外国著作物を、その失効後も継続して内国民待遇を許与する趣旨に解し、同条により保護される著作物については、保護期間の相互主義を定める著作権法58条は、当該趣旨に照らして適用されない旨の見解も考えられる。
しかしながら、ベルヌ条約5条1項7条1項の関係、万国条約2条1項4条2項(a)の関係、及び外務省告示の規定内容を総合的に解釈すれば、内国民待遇、あるいはそのような文言はないが趣旨として認められている内国民待遇の許与は、当該外国著作物を自国民の著作物と完全に同一に保護することを意味せず、保護期間に関して「特別の規定」があればその適用を受けることになるのである。そして、著作権法58条は、そのような「特別の規定」に該当する。
万国条約特例法11条は、単に著作権法による保護を与える旨規定したものに止まるから、同条により著作権法58条の規定を排除することはできないし、保護期間の相互主義を超えて外国著作物に「より厚い保護」を与える根拠規定ともならない。
ウ 万国条約特例法附則2項の趣旨は、保護期間に関する相互主義を定めた同法3条1項の適用を排除した点にあるから、同附則2項、同法11条に基づき保護される著作物については、同じく保護期間に関する相互主義を定めた著作権法58条の適用も排除されると解すべきであるとする見解もあり得る。
しかし、万国条約特例法附則2項は、同法3条1項のみを適用対象から除外したのではなく、同法11条を除いて、包括的に、万国条約特例法全体の規定を適用対象外とする規定である。そして、万国条約特例法附則2項は、平和条約及び外務省告示に基づき保護されていた著作物については、その失効後である1956年(昭和31年)4月28日以降は、万国条約特例法11条によって日本国内法上は保護されるものの、万国条約の適用を受けないため、日本は国際法上保護義務を負わなくなると立法者が誤解し、万国条約の適用を受ける著作物のために、同条約の実施を目的として立法された万国条約特例法の適用対象外としなければならないとの誤解により、規定されたものであるから、単に、同附則2項の対象となる著作物については、万国条約特例法全体の適用対象から除外する趣旨であったに過ぎないと解される。
万国条約特例法附則2項は、保護期間の相互主義を定める万国条約特例法3条1項の適用を排除し、したがって、著作権法58条の適用も排除するとの規定ではないのである。
(7) マラケシュ協定4条の「最恵国待遇」 1995年(平成7年)1月1日、日米間の著作権保護に関する条約として、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一C知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(平成6年12月28日条約第15号)」(以下「マラケシュ協定」という。)が加わった。マラケシュ協定4条は、同協定の加盟国(本件では日本)が他の国の国民(本件では米国国民)に与える利益、特典、特権又は免除は、
他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられる旨規定している。
仮に日本が万国条約に加盟する1956年(昭和31年)4月27日以前に創作された米国国民による著作物を、著作権の存続期間について相互主義を適用せず、「日本国民の著作物」と完全に同一に保護することとするならば、同協定4条により、即時かつ無条件に、同協定の他の加盟国の外国著作物に対しても、同様の保護を与えなければならないこととなり、現行の対外的著作権実務に著しい混乱を来すものである。
(8) 既得権の保護という考え方について ア 前記のとおり、キューピー作品の著作権の存続期間は、1971年(昭和46年)1月1日から1989年(平成元年)2月28日までの間、著作権法第2章第4節の「別段の定め」による条件付きで、2005年5月21日までとされていたが、米国がベルヌ条約に加盟した1989年3月1日以降、1993年5月21日までとなった。これは、米国のベルヌ条約加盟が著作権法58条不適用の解除条件であり、1989年2月末日まで同条がキューピー作品へ適用されるか否か未確定であったものが、1989年3月1日に条件が成就され、その結果、キューピー作品の著作権の存続期間が、1993年5月21日までに確定されたものと解することができる。
この結果は、著作権の保護を過去にさかのぼって消滅させるものではない。
イ 第一次訴訟控訴審判決は、既得権の保護という観点から、1913年著作権の保護期間を2005年5月21日までとした。
しかし、著作権法51条2項の文言から明らかなとおり、著作権法施行当初より、同条項が定める著作者の死後50年間という存続期間は、あくまでも、
「第2章第4節に別段の定めがある場合を除く」という条件付きの存続期間にすぎない。したがって、著作権法施行以来、今日に至るまで、キューピー作品の著作権が、「第2章第4節に別段の定めがある場合を除く」という条件なしで、著作者の死後50年間という存続期間を保障されたことは、過去において一度もない。それ故、被告の主張によっても、キューピー作品の著作権の著作権者の「既得権」を何ら害することはない。
また、法改正に伴って、旧法による保護期間終期よりも新法による保護期間終期の方が早いという事態は、しばしば生じることである。その場合に、新法が経過措置等の規定を置いていない以上、上記事態の発生は、新法の許容するところといわねばならない。著作権法は、経過措置として附則7条を置いており、本件では、これが経過措置規定として適用されるにすぎない。
7 争点(7)(キューピー関連作品の著作権の保護期間)について 【原告の主張】 1901年作品、1903年作品及び1905年作品@は、米国だけでなく、大英帝国領(当時の大英帝国領であり、カナダ等を含む。)においても同時発行されていた。その結果、後述のとおり、現時点においても我が国においてその著作権が保護されている。
また、1906年作品は、日米著作権条約による保護の始期である1906年5月10日(同条約第3条)以後である1906年7月に発行されているから、
1909年作品と同様、現時点においても我が国においてその著作権が保護されている。
なお、原告は、上記以外のキューピー関連作品については直接明示的に述べていないが、1904年作品及び1905年作品Aは、大英帝国領における同時発行を根拠として、1907年作品及び1908年作品については、日米著作権条約以降の保護を受けることを根拠として、いずれも現時点において我が国においてその著作権が保護されているとの趣旨の主張をしているものと理解される。
(1) 1891年交換公文について 1891年に英国と米国との間で交わされた次のような内容の交換公文第6公文によって、当時の英国著作権法においては、カナダ等を含む当時の大英帝国領内で同時発行された米国人の著作物が保護されていたことによる。「国王陛下の政府は以下のとおり通知します。現行の英国法においては、国王陛下の領土内で最初に著作物を発行した外国人は、英国著作権を取得することができます。また、外国における同時発行は著作者が英国著作権を取得することの妨げにはなりません。」、「国王陛下の領土内に住所を有することは、外国人が英国著作権を取得するための必要な条件ではありません。」、「英国において効力を有している著作権法は、米国市民に対して、英国国民と実質的に同一の条件で著作権を与えています。」 現行のベルヌ条約パリ改正条約18条は、「この条約は、その効力発生の時において保護期間の満了により既に公共のものとなった著作物以外のすべての著作物について適用される」との遡及規定であるから、現行パリ改正条約により、上記「同時発行」とは30日以内の発行をいうものと解すべきべきである。
被告は、国会主義の原則を主張するが、交換公文は著作権法の解釈を述べたものであって、原告は、交換公文のみに基づいて保護されると主張しているわけではない。なお、同交換公文は、1891年7月に両院に提出されている。
(2) 英国著作権法における保護期間等 ア FINE ARTS COPYRIGHT ACT 1862 1901年ないし1905年当時の英国法においては、著作物の種類に応じて個別の著作権法が存在した。そのうち、1901年作品、1903年作品及び1905年作品@のような「絵」に適用されるFINE ARTS COPYRIGHT ACT 1862は、著作権の保護期間について、1条で、著作者の生存中及び死後7年間と規定していた。
イ COPYRIGHT ACT 1911 1911年に制定されたCOPYRIGHT ACT 1911は、著作権の保護期間を、
3条著作者の生存中及び死後50年間に延長した。
ウ 現行法 さらに、英国においては、保護期間を更に著作者の死後70年に延長する法令が、1996年1月1日から発効しているが、同法令発効の時点でローズ・オニールの死後50年が経過してしまっているから、1901年ないし1905年の間に英国で同時に発行されたローズ・オニールの著作物は、英国法においてはローズ・オニールの死後50年間(1994年まで)保護される。
エ したがって、1901年作品、1903年作品、1904年作品及び1905年作品は、当時の大英帝国領内で同時発行していたというとができれば、英国法の下で保護を受け、ベルヌ条約の適用を受けて、我が国においても保護されることとなり、旧著作権法、著作権法、連合国特例法の適用により、平成17年(2005年)5月6日まで保護されることとなる。
(3) 1901年作品の大英帝国領(当時)における「同時発行」 ア 1901年作品が掲載された雑誌「Puck」1901年4月6日号には、
「出版社各位へ-Puck掲載のコンテンツは米国及び英国双方の著作権により保護されています。著作権侵害に対しては即時に断固として提訴いたします。」と記載されている。1897年に改正された米国著作権法では、虚偽の著作権表示は犯罪とされていた。
イ Dユニ著作権センター代表の鑑定書(甲第46号証) Dユニ著作権センター代表も、当時の米国とカナダの出版事情及び雑誌「Puck」1901年4月6日号の前記著作権表示により、1901年作品も米国及び大英帝国領内において同時に発行された旨述べている。
ウ 英国図書館による1901年作品の所蔵 英国図書館は1901年作品を掲載した雑誌「Puck」1901年4月6日号のマイクロフィルムを所蔵している(甲第42号証の1)が、このことからも、1901年作品が英国において同時発行されていたことは明らかである。
エ 同時発行の実態 当時、米国の出版者が大英帝国領内において著作物を最初又は同時に発行することが容易であり広く行われていたことは、1911年英国議会議事録2179頁及び同箇所で引用されている委員会記録(印刷物については米国国内で植字・製版したものにのみ米国著作権法による保護与えるという当時の米国著作権法について議論している。)からも明らかである。
オ 著作権登録が不要であること 英国では、1886年英国著作権法施行後は、外国人の著作物が英国で著作権を付与される要件として、登録・納本は不要になっていた。したがって、1901年作品について登録がなされていないことによって、著作権が付与されていないこととなるわけではない。
(4) 1903年作品の大英帝国領(当時)における「同時発行」 1903年作品は、英国図書館所蔵の「The Cosmopolitan」1903年12月号(甲第34号証)に掲載されている。
その最終頁には、「BRITISH MUSEUM」、「15 DE 1903」との受入印が押印されている。英国図書館、1973年に、大英博物館の蔵書部門が独立したものであるが、上記「The Cosmopolitan」1903年12月号は、大英博物館が1903年12月15日に受け入れたものなのである。かかる事実に照らし、1903年作品を掲載した「The Cosmopolitan」1903年12月号が、米国と大英帝国において同時発行されたことは明らかである。
当時、米国の出版者が大英帝国領内において著作物を最初又は同時に発行することが広く行われていたことは、前記(3)エ述べたとおりである。また、登録が不要であることは、前記(3)オで述べたとおりである。
(5) 1905年作品@の大英帝国領(当時)における「同時発行」 1905年作品@は雑誌「The American Illustrated Magazine vol.61 no.2」に掲載されているが、同誌には、「Copyright, 1905, in the United States and Great Britain」との著作権表示が記載されている(甲第35号証表紙最下部)。これは、前記交換公文により、当時の英国(カナダ等を含む)においては、
米国人の著作物であっても英国で同時発行されたものには著作権が与えられていたことに基づくものである。
したがって、上記著作権表示より、1905年作品@も米国及び英国において同時に発行されたことが明らかである。
よって、ベルヌ条約、我が国著作権法6条3号及び51条並びに連合国特例法4条に基づき、1901年作品、1903年作品及び1905年作品@は現在も著作権が存続する。
【被告の主張】 原告の主張は、記載に誤りのある1891年交換公文を前提とするものであり、あるいは「同時発行」がなされたことの立証のないものであるから、失当である。
(1) 1891年の交換公文の誤りについて 1901年ないし1905年当時、1862年のFINE ARTS COPYRIGHT ACTにより、素描や絵画などの美術的著作物の著作権は、著作者が英国国民又は英国領内に居住する者であった場合に限り、保護されていた(第1条「美術的著作物の著作権者は、著作者が英国国民又は英国領内に居住する者に限り保護する。」)。
したがって、これに反する1891年交換公文第6公文は誤っている。
そして、英国法の下では、条約それ自体に国内法的効力は認められていないのであるから、条約内容が改めて国会により立法化されない限り、条約によって既存の国内法の規定内容を変更することは許されない。前記交換公文によって、上記FINE ARTS COPYRIGHT ACTの規定を無視することは許されないのである。
(2) 同時発行の主張に対する反論 1891年交換公文を前提として、1901年作品、1903年作品及び1905年作品@についてベルヌ条約等が適用されるとの原告の主張は、交換公文自体が前記(1)のとおり誤っているほか、適用する条約を誤っており、さらに、上記作品について米国と英国領内で「同時」に発行されていたという立証がなされていないから、失当である。
ア 適用すべき条約の誤り 原告は、1901年ないし1905年当時、英国は、ベルヌ条約に加盟していたが、米国は、これに加盟していなかったことを理由に、1901年、1903年及び1905年の各作品について、「ベルヌ条約5条(4)(b)」を適用して「各作品の(ベルヌ条約上の)本国は英国である」としている。
ところで、原告は、1901年、1903年及び1905年各作品が発行された時期を基準に、適用すべきベルヌ条約上の条文を決めているのであるから、適用すべき条約そのものについても1901年ないし1905年当時の条約を適用しなければ一貫しないはずである。しかしながら、原告の指摘する「ベルヌ条約5条(4)(b)」は、1971年パリ改正条約を指していることが明らかである。したがって、原告の主張は、1886年のベルヌ創設条約あるいは1896年のパリ追加規定を適用していない点で誤っている。
イ 「同時」発行の意義 仮に1886年ベルヌ創設条約及び1896年パリ追加規定の下でも「ベルヌ条約の同盟国と非同盟国とで同時発行した著作物は、ベルヌ条約により保護される」との解釈を採用したとしても、原告は、1901年、1903年及び1905年各作品が米国と英国領内で「同時」に発行されたことを何ら立証しておらず、あるいはその立証の試みは完全に失敗している。
なぜなら、「同時」発行にいう「同時」とは、1886年ベルヌ創設条約及び1896年パリ追加規定の下では、「同日、すなわち全く同じ日」を意味するからである。
(ア) 「同時」発行とは「同日」発行を意味すること 1948年ブラッセル改正条約4条(3)及び1971年パリ改正条約3条(4)では「最初の発行の日から30日以内に発行されれば、同時発行とみなす」と明確に規定しているのに対し、それ以前の1928年ローマ改正条約4条(3)では、
そのような30日間の猶予期間に言及することなく、単に「同時発行」と規定しているにすぎない。したがって、「同時」発行とは「同日」発行を意味するものと解される。
(イ) 原告による「同時発行」の立証の失敗 原告は、「同時発行」されたことの根拠として、@1891年交換公文、A「米国の出版社が英国領内で当時、著作物を同時発行することが広く行われていた」とする「同時発行の実態」、B当該作品を掲載した雑誌は「米国と英国の著作権により保護されている」との著作権表示(1901年作品及び1905年作品@のみ)、C大英博物館による受入印(1903年作品のみ)など各作品に固有の事情を挙げている。しかしながら、これらはいずれも「同時発行」の根拠とはなり得ない。
a 1891年交換公文 1891年交換公文が英国法の解釈として誤っていることは、前記(1)で述べたとおりである。
b 同時発行の実態がないこと 1901年ないし1905年当時、米国の出版社が、米国人が作成した著作物について、ベルヌ条約上の保護を受けるために英国領内で同時発行をするという慣行はなかった。
原告が証拠として提出する1911年の英国議会議事録の内容は、
英国の著作者が、当時の片面的な米英関係を背景に、米国で著作物を無断で複製されないようにするために、著作物を米国で発行して米国著作権を確保するという実態について述べているにすぎない。米国の著作者が、ベルヌ条約加盟国においても同人の著作権が保護されるように、ベルヌ条約加盟国内で著作物を同時発行していたとは書いていないのである。
「米国とカナダの出版事情」に関して述べるD作成の鑑定書(甲第46号証)は、1926年以降の事情を挙げて「1901年作品が英国領たるカナダと米国で同時に発行されたものと考える」との意見を導いたものにすぎない。
原告は、1901年作品と1905年作品@については、掲載された雑誌に「英国と米国で著作権がある」との著作権表示がなされていることを指摘するが、この表示のみでは、同時に発行された証拠となるものではない。
(ウ) 各作品の個別事情について a 1903年作品について 同時発行とは、「同日」すなわち「全く同じ日」の発行を意味するところ、雑誌「The Cosmopolitan」1903年12月号が、1903年12月15日に米国と英国領内で「同日」すなわち「全く同じ日」に発行したことの立証はない。また、米連邦議会国会図書館の著作権登録記録によれば、同誌が米国で著作権登録されたのは1903年9月23日であり、英国の印刷出版会館では、著作権登録されていない。
b 1901年作品について 原告は、1901年作品が米国と英国領内で同時発行されたことの根拠として、雑誌「Puck」掲載のコンテンツは米国及び英国双方の著作権により保護されており、著作権侵害に対しては即時に断固として提訴する」との著作権表示があること、1897年に改正された米国著作権法では、虚偽の著作権表示は犯罪とされていたこと、英国図書館が1901年4月6日号のマイクロフィルムを所蔵している事実などを挙げているが、これらは1901年作品が同時発行されたことを立証するものではない。
1901年作品が掲載された雑誌「Puck」1901年4月6日号は、英国図書館、Colindale新聞図書館、ケンブリッジ大学図書館及びKewにある公文書館のいずれにおいても登録されていなかったし、これの4か所では、1901年にはおよそ一切の雑誌「Puck」が登録されていなかった。
また、米国著作権法は、あくまで米国著作権に関する規定であるから、同法の存在をもって、英国著作権の虚偽表示が処罰されることはない。したがって、雑誌「Puck」の著作権表示記載は、警告等の目的で、虚偽の英国著作権を表示したにすぎないと考えることも可能である。
1901年作品を掲載した雑誌「Puck」1901年4月6日号のマイクロフィルムを英国図書館が取得したのは1970年代の半ばであり、ケンブリッジ大学図書館がこれを取得したのは1980年である。したがって、英国図書館が1901年作品を掲載した雑誌「Puck」1901年4月6日号のマイクロフィルムを所蔵しているというだけでは、同号が米国と英国領内で「同時」すなわち「全く同じ日」に発行されたということの証明にはならない。
1901年ないし1905年当時、米国の出版社が、米国人が作成した著作物について、ベルヌ条約上の保護を受けるために英国領内で同時発行をするという慣行はなかった。
なお、原告は、1903年作品については、掲載雑誌の大英博物館による受入印によって同時発行を立証しようとするが、1901年作品についてはそのような証拠を提出していないことを指摘しておく。
c 1905年作品@について 原告は、1905年作品@が米国と英国領内で同時発行されたことの論拠として、甲第35号証の表紙最下部に「Copyright,1905,in the United States and Great Britain」との著作権表示があることを挙げているが、1901年作品においても議論したように、このような英国著作権の表示が虚偽であった蓋然性は極めて高い。
なお、1905年作品@が掲載された「The American Illustrated Magazine vol.61 no.2」は、1905年から1912年にかけて英国の印刷出版会館では一切登録されていない。
8 争点(8)(キューピー著作権は原告に譲渡されたかー譲渡の有無及び有効性)について 【原告の主張】 (1) ローズ・オニールの死後、キューピー作品及びキューピー関連作品の各著作権は、すべて、同人の遺産を管理するRO遺産財団に承継された。同遺産財団はいったんは清算されたものキューピーに関する新たな財産の発見に伴い、新RO遺産財団が設立された。
原告は、平成10年(1998年)5月1日、新RO遺産財団から、キューピーの作品に関する日本におけるすべての著作権を、頭金として1万5000米ドルを支払い、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー作品やキューピー関連作品を複製した製品及び物品に係る原告自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品及びキューピー関連作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた。
したがって、原告は、キューピー作品及びキューピー関連作品の各著作権を、有効に取得した。
(2) 被告は、譲渡の対象となったのは、1909年以降の作品であると限定する。しかし、新RO遺産財団管理人のCは、譲渡の対象は「ローズ・オニールが創作したすべてのキューピー著作物に対する日本の著作権及びキューピー著作物に関連するすべての権利」と述べており、1909年以降のものに限定していないし、
そのような限定解釈をすべき根拠もない。
また、被告は、キューピー関連作品の著作権は雑誌社にあるので、新RO遺産財団が原告に対して譲渡することはできないと主張する。しかし、被告がその主張とする根拠としている証拠は、雑誌社に編集著作権があることを示すものにすぎない。
(3) 被告は、RO遺産財団管理人Bが遅くとも1948年6月5日までに1913年作品を含むキューピーに関する作品に係る著作権をEに譲渡したと主張する。
しかし、そのような譲渡の事実は存在しない。被告が譲渡の存在を主張する根拠とする手紙(乙第47号証)の文脈からすれば、譲渡されたのは、著作権という無体財産権ではなく、キューピーの媒体物(有体物、人形)にすぎない。被告は、Eに譲渡された結果、その後に米国のキューピー人形の製造者からRO遺産財団に対して送られてきた金額は、年500ドルという廉価であったと主張するが、
当時の米国著作権法によりキューピーに関連する著作物が米国では公有に帰していたための値段であるから廉価ということはできず、この価格が「カドル・キューピー」(キューピーの抱き人形)の権利のみがRO遺産財団に残されていたことを裏付けることにもならない。「The One Rose」には、Eがキューピーに関する「使用の許可」があったと記載されており、このことからも当時Eが著作権の譲渡を受けていたわけではないことがうかがわれる。同書の中の「(C)JLK」との表記は、写真の著作者を表記したものにすぎない。
また、譲渡されたと主張する1947年当時の米国著作権法(1909年著作権法)では、著作権の譲渡がなされた場合、3か月以内に譲渡証書を登録しなければ、譲渡された権利を喪失することとされていた。Eは、自らの営業に必要な他の著作権の譲渡においてはこの手続を執っているにもかかわらず、キューピーに関する著作権等の譲渡に関しては、この手続を執っていない。したがって、譲渡の事実はなく、仮にあっても権利が喪失している。
さらに、仮に譲渡の事実が存在するとしても、原告とEとの二重譲渡の関係が生じているにすぎない。被告はEが対抗力を有していることを主張していないし(なお、原告は、1909年作品、1910年作品及び1913年作品の著作権譲渡については、著作権法77条1号に基づく登録手続を行っている。)、そもそも被告のような不法行為者に対しては、原告は、対抗要件を具備しなくても、権利行使をなし得る。
(4) 信託法11条違反との主張について 被告は、新RO遺産財団と原告との間の著作権譲渡契約は、訴訟信託目的の譲渡であるから、信託法11条に反し無効であると主張している。
しかしながら、訴訟信託目的の譲渡である証拠はないし、原告は訴訟自体を当初より弁護士に依頼している。さらに、新RO遺産財団も、著作権譲渡前に弁護士(訴訟代理人)を選任して、訴訟提起等を行っており、原告に対して訴訟信託目的で著作権譲渡契約を行う必要性は全くない。
なお、原告は、キューピーの収集家であり、昭和63年、収集した玩具を展示する「思い出博物館」を開館し、館長として活動していたが、その過程において、キューピーの著作権に興味を持つようになり、真の権利者を捜し出したのである。これらの経緯からしても、キューピーに関する著作権の譲渡が訴訟信託目的でなされたわけではないことは明らかである。
被告は、権利移転の金額が低廉であることなどを指摘するが、そのことをもって、これが訴訟信託目的であるなどということはできないし、そもそも対価として廉価であるということはできない。また、権利を譲り受けた者が侵害者に対して損害賠償等の請求を行うことは当然である。
(5) 弁護士法73条違反について 被告は、新RO遺産財団から原告へのキューピー著作権の譲渡は、弁護士法73条に違反すると主張する。
弁護士法73条の立法趣旨は、非弁護士が権利の譲渡を受けることにより、事実上他人に代わって訴訟活動を行うことによって生ずる弊害を防止し、国民の法律生活に関する利益を保護することにある。本件では、原告は、訴訟の遂行を弁護士である訴訟代理人に委任し、同代理人が訴訟を遂行しているのであるから、
弁護士法73条が想定する弊害があり得ないばかりか、そもそも弁護士法73条の「訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とする」場合に該当しない。
また、権利移転の金額が低廉とはいえないし、そもそも金額をもって弁護士法73条に反する行為であることを裏付けることはできない。また、権利を譲り受けた者が侵害者に対して損害賠償等の請求を行うことは当然である。
【被告の主張】 (1) 新RO遺産財団が、著作権を譲渡できないこと ア RO遺産財団の財産管理人であったBは、遅くとも1948年6月5日までに、キューピーに関するすべての権利を、Eに売却していた。
1964年には多くのキューピーに関するイラストや人形の写真が掲載されている「The One Rose」の第一版が出版されているが、同出版物にはEが著作権を有する旨、RO遺産財団の財産管理人であったBが協力した旨明記されていることからしても、「The One Rose」掲載のキューピーに関する著作物の著作権がEに譲渡されたことが推察される。そのほか、RO遺産財団が、キューピー人形の製造者から年500ドルという「カドル・キューピー」のみに関するライセンス契約としか考えられないような契約を締結していたことからも、Eへの著作権譲渡契約の存在が推認される。
そして、RO遺産財団が、1964年1月16日に、612.47ドルの資産しか有しないとして、遺産配分確定の判決を受け、同年3月18日に清算手続が完了されたことは、当時、同財団にキューピーに関する著作権が帰属していなかったことを示すものである。
イ 原告は、第一次訴訟から一貫して、1909年以降の作品をキューピー作品と称し、1909年がキューピーの誕生の年であると述べている。したがって、キューピーの作品の譲渡を受けたという場合は、キューピー関連作品は譲渡の対象となっていないというべきである。
ウ キューピー関連作品については、米国著作権登録原簿上、その著作権者は当該イラストを掲載した雑誌出版社となっている。そして、これらの作品の著作権がローズ・オニールに譲渡された記録はない。したがって、ローズ・オニールは、当初より、キューピー関連作品の著作権を有していなかった。
エ よって、新RO遺産財団も、キューピーに関する権利を有していないのであって、そのような新RO遺産財団から原告がキューピー作品やキューピー関連作品の各著作権を譲り受けることはできない。
(2) 原告と新RO遺産財団との売買契約が存在しないことをうかがわせる事情 被告は、キューピー作品の使用に関する交渉を当初より原告との間で行っていたが、訴訟自体は、平成9年(1997年)7月15日に、新RO遺産財団によって提起された。しかし、平成10年(1998年)5月には、原告が新RO遺産財団から著作権の譲渡を受けたとして、当事者変更の申立てを行っている。
この経過が不可解である上、第一次訴訟控訴審の結審直前まで、原告は、
著作権を売買により取得したと主張しながら、売買契約書の存否・内容等を明らかにしなかった。また、明らかにされた契約内容によれば、その権利移転金額は、第一次訴訟における損害賠償請求額10億円と比較して著しく低額である1万5000米ドル(約180万円)であった。
以上からすれば、原告と新RO遺産財団との間に、真実著作権売買契約が締結されたとは考えられない。
(3) 原告と新RO遺産財団との契約が無効であること 原告と新RO遺産財団との間の著作権の譲渡契約(甲第13号証)は、信託法11条あるいは弁護士法73条に反する、違法無効な契約である。
ア 信託法11条について 原告の主張する譲渡契約においては、対価がわずかに頭金1万5000ドルと低額であり、勝訴して10億円を得た場合には、その2分の1を原告が報酬として獲得することができるとされている。原告は、第一次訴訟で著作権譲渡契約書を控訴審口頭弁論終結時まで提出せず、金額を伏せたライセンス契約書しか提出していない。原告は一連のキューピー訴訟において、およそ金額に関しては誠実に立証することを拒み続けてきたのであるから、譲渡価格は相当との原告の主張は全く信頼性がない。
原告は、第一次訴訟の提起時点では新RO遺産財団が訴訟を遂行していたにもかかわらず、原告自らが被告を訴える意思を有する旨明らかにしていた。
また、原告は、権利移転時期(1998年5月1日)からわずか約1か月後(1998年6月16日)に第一次訴訟を提起している。
さらに、原告は、従前の取引先を含めて、20社以上の企業に、一方的なライセンス料を提示している。
以上の事実は、原告と新RO遺産財団が、訴訟信託のために著作権譲渡契約の形式を採ったことを裏付けるものであるから、当該著作権譲渡契約は信託法11条に反する無効な契約である。
なお、弁護士に委託したとしても、訴訟を主目的として信託したと認められるときは信託法11条の適用が認められるというべきである。
イ 弁護士法73条について 原告は、著作権の譲渡を受けた後、被告以外にも、複数社に対し、訴訟を提起しており、これらの訴訟において勝訴した場合には、高額の報酬を得ることとなっている。したがって、原告には、「反復継続する意思」を持って訴訟行為を行っていることが認められる。
原告は、被告を表す標識として広く認知されているキューピーブランド等の著名性にただ乗りして利益を図ろうとしており、国民の法律生活上の利益に反する弊害を誘発する行為ということができる。
よって、売買契約は、弁護士法73条に反する違法無効な契約である。
9 争点(9)(被告イラスト及び被告人形とキューピー作品との類似性) 【原告の主張】 被告イラスト及び被告人形は、1909年作品、1910年作品、1912年作品及び1913年作品の表現上の特徴ないしは本質的特徴と同一性を有する。
(1) 被告人形との対比 キューピー作品の本質的特徴は、1912年作品に顕著に表れており、
その内容については、前記4【原告の主張】(2)アのとおりである。
被告人形は、顔と頭の形状の特徴に関する前記4【原告の主張】(2)ア記載の@ないしLを備えており、ただ、Dの「眉」について、1912年作品においては「眉が短い線として描かれている」のに対し、被告人形においては「眉が長い線として描かれている」という些細な点が異なるにすぎない。また、体型における特徴に関する前記4【原告の主張】(2)イ記載の@ないしIを備えている。さらに、
姿勢における特徴に関する前記4【原告の主張】(2)ウ記載の@ないしFを備えている。このように、被告人形は1912年作品とほとんど共通しており、相違点は些細なものにすぎない。
被告人形と1909年作品、1910年作品及び1913年作品についても同様である。
したがって、被告人形は上記各作品の複製又は翻案にすぎないというべきである。
(2) 被告イラストとの対比 被告イラストは、顔と頭の形状における特徴に関する前記4【原告の主張】(2)ア記載の@ないしLを備えており、ただ、D及びKの「眉」について、1912年作品においては「眉がある」のに対して、被告イラストにおいては、「眉がない」ことのみが異なる。また、体型における特徴に関する前記4【原告の主張】(2)イ記載の@ないしI、姿勢における特徴(キューピー・ポーズ)に関する前記4【原告の主張】(2)ウ記載の@ないしFをいずれも備えている。このように、被告イラストは、1912年作品とほとんど共通しており、相違点は些細なものにすぎない。
被告イラスト、1909年作品、1910年作品及び1913年作品についても同様である。
したがって、被告イラストは、上記各作品の複製又は翻案にすぎないというべきである。
【被告の主張】 (1) 被告人形・被告イラストと1913年作品について 共通した特徴としては、@裸の中性的なふっくらとした乳幼児の体型をした人形であり、頭部が全身と比較して大きく、後頭部の中心が突き出し張り出ている点、A頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の特徴的な髪の毛が生え、中央部分の毛は前に垂れ、その余の部分には髪の毛がなく、B後頭部ないし両肩部に小さな双翼を備えている点などが挙げられる。 (2) しかし、被告人形と1913年作品は、次のような相違点を有する。
@眉について、被告人形は、円弧状にやや厚みをもって描かれているが、
1913年作品は、点のように描かれている、A口について、被告人形は、口の両端が膨れた頬に埋まるかのように厚みをもって表現され、長さは両目の間とほぼ同距離であり、わずかに開き、ほぼ直線であるが、1913年作品は、下向きの単純な円弧の線として表現され、左右の目の中央部付近にまで広がっている、B鼻について、被告人形は、2つの穴まで表現されているが、1913年作品は、わずかな膨らみで表現され2つの穴はない、C頬について、被告人形は、頬が膨らみ少し下方に垂れているが、1913年作品は、下方に垂れていない、D双翼について、被告人形は、両肩部に付けられ貝殻状をしているが、1913年作品は、後頭部から首の後方部左右に付けられている、E胴体は、被告人形は、尻の部分が最も太いが、1913年作品は、胴中央部が最も太い、F膝について、被告人形は、上下に溝を付けることで表現されているが、1913年作品は、溝がない、G手の甲及び指の根元について、被告人形は、くぼみが表現されているが、1913年作品は、
くぼみの表現がない、H尻について、被告人形は、背中部分に比べ後方に突き出しているが、1913年作品は、背中から尻にかけて突き出すことなく連続して、下方に向けて狭まっている。
(3) また、被告イラストと1913年作品は、次のような相違点を有する。
@髪の毛について、被告イラストは、頭頂部のみに髪の毛があるが、1913年作品は、頭部の中央部分及び左右の部分にわずかに髪の毛が生えている、A眉について、被告イラストはないが、1913年作品はある、B耳について、被告イラストは、はっきりと大きく丸みを帯びた耳が描かれているが、1913年作品は耳の存在が不明瞭である、C口について、被告イラストは短く描かれているが、
1913年作品は左右に細長い、D目について、被告イラストは、黒目が左下方に向いているが、1913年作品は黒目が左方を向いている、Eへそについて、被告イラストは黒く塗りつぶした円で強調されて表現されているが、1913年作品は強調した表現がされていない、F胴から両足の部分について、被告イラストは輪郭線が円弧状に連続的に描かれているが、1913年作品ではY字状のくびれが表現されている、G双翼について、被告イラストでは、両腕の上からはっきりと視認し得るが、1913年作品では、正面からはこれを明確には視認し得ない、H膝は、
被告イラストでは表現されていないが、1913年作品では膝小僧が表現されている。
(4) 前記共通点と相違点は、1909年作品、1910年作品、1912年作品との対比においても同様にいうことができる。したがって、被告人形、被告イラストは、キューピー作品に類似していないというべきである。
10 争点(10)(被告イラスト及び被告人形のキューピー作品に対する依拠性) 【原告の主張】 (1) 独自に創作された、すなわち依拠性の認められない著作物については、複製・翻案権侵害の対象から除外される。
依拠性を認定するための間接事実としては、@被疑著作物の作成者が作成当時、被害著作物の内容を知っていたこと、A被疑著作物の作成者が作成当時から見て更に過去に、被害著作物の内容を知っていたこと、B被疑著作物の作成者が作成当時又はそれより前に、被害著作物に接する機会があったこと、C被害著作物が、少なくともその分野で著名又は周知であること、あるいはその分野の著作者が参照するのが通常であること、D被疑著作物が、被害著作物を利用せずに作成されたとは考えられないほどの共通の内容、表現があること、E被疑著作物の作成者が被疑著作物を独自に創作することが時間的、予算的、能力的に困難であったこと、
が挙げられる。このうち、Dの共通性については、前記9【原告の主張】において述べたとおりである。@ないしCについては、次のような事情からこれらが認められる。
(2) 1909年作品及び1910年作品のようなキューピーのイラストは大変な人気を呼び、特にキューピーの人形である1913年作品が発売されるやキューピーはたちまち爆発的な人気を集め、世界中でいわゆる「キューピー狂時代」といわれる大ブームを巻き起こし、日本においても大流行し、その後も、キューピーの人気は衰えることなく続いている。
このような「キューピー狂時代」に、被告は、キューピー作品が人気急上昇の時期であること、キューピーは米国からやってきて、人気があるとともに、愛と幸せを運ぶといわれていることが、マヨネーズを売り出すのにイメージに合うと考え、「キューピー」を同社のマスコットとして使用し、社名を「キューピー株式会社」としたのである。被告は、自身のホームページにおいても、キューピーは、
ローズ・オニールが創り出したイラストであること、大正時代に流行し、被告の創業者がこれを商標とし、また社名も「キユーピー株式会社」に変更したことなどを認めている。
以上からすれば、被告人形及び被告イラストは、1913年作品に依拠しているというべきである。
(3) 1913年作品は、1909年作品、1910年作品及び1912年作品の二次的著作物であるから、被告イラスト及び被告人形が、1913年作品に依拠している関係にある以上、1909年作品、1910年作品及び1912年作品に依拠して作成されたということができる。
(4) 被告は、大正時代にキューピー、とりわけローズ・オニールのキューピー作品が一世を風靡したことはないので、これに依拠した事実は認められないと主張する。しかし、被告は、社名等に「キユーピー」の語を使用した合理的理由を説明していないし、不正競争防止法上の周知性・著名性の要件と、依拠性の要件とを完全に混同している。大正5年に発行された手芸書に、「キューピー」が米国の女性によって創作されたという記載がなされていることからも、キューピーが流行していたこと、それがローズ・オニールに関連して認識されていたことは、明らかである。
【被告の主張】 (1) 原告は、被告人形及び被告イラストが、キューピー作品に依拠したものであると主張する。しかし、具体的にいかなる著作物に依拠して被告人形等を創作したのかについては論旨不明である。1913年ころキューピー人形及びキューピーイラストが日本で流行していたという事実だけでは、それがいかなる「キューピー人形・イラスト」なのか、1909年作品、1910年作品、1912年作品ないし1913年作品といい得るものなのか不明である。
とりわけ、1913年作品については、甲第4号証に撮影されている写真が、真実日本において制作販売されていたのか、ローズ・オニールの許諾を得たものであるかについては不明であり、依拠の対象と認めることはできない。
(2) 被告イラストは、戦前より、被告の前身である「食品工業株式会社」からデザインの仕事を依頼されていたF(故人)が、戦前のイラストを参考に、1951年(昭和26年)ころ原案を作成し、同社創業者のG(故人)と相談の結果、現在の被告イラストになったのであり、その作成者は不明である。
また、1971年(昭和46年)ころ、被告人形の原型を制作したミヤタ企画代表のHは、被告人形を制作した当時、ローズ・オニールのことは全く知らず、彼女の制作したキューピーのイラストや人形を見たことがない旨述べている。
さらに、1971年(昭和46年)ころ、被告から依頼を受けて被告人形を製造した中島コーポレーション取締役会長のIも、キューピー人形の著作権について一切知らない旨述べている。
このように、被告人形をデザインしたH、また、その製造に当初から関わってきたIは、いずれもローズ・オニールの作品に依拠せず、被告人形を製造しているのである。
(3) 原告は、被告人形及び被告イラストが、ローズ・オニールの創作したキューピー作品に依拠していると主張し、これを裏付けるものとして、被告人形及び被告イラストの創作前に、キューピーが日本において一世を風靡していたと述べて、
証拠を提出する。
しかしながら、この裏付けとして提出された証拠は、いずれも原告自身が作成したものであって、客観的な証拠ではない。
むしろ、原告自身認めるように、ローズ・オニールの許諾を得ないキューピーに関する作品が日本において一世を風靡し、日本人はローズ・オニールという米国人の作品という認識を有していなかったのである。
すなわち、ローズ・オニールの創作したキューピー作品は被告人形や被告イラスト創作当時の日本において著名ではなく、被告人形や被告イラストは、ローズ・オニールとは無関係に日本で独自に発達した「ジャパニーズ・キューピー」ともいうべき作品に依拠しているにすぎない。なお、この場合、被告人形や被告イラストの作成者が、既存の著作物(ローズ・オニールの創作したキューピー作品)と同一性のある作品となるか否かについて配慮すべきことまでは要求されていない(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。
11 争点(11)(キューピー著作権の相対的時効取得) 【被告の主張】 被告は、@キューピーブランドについては、1945年(被告がキューピーブランドを使ってマヨネーズ等の販売を始めた1925年から20年後)までに、A被告イラストについては1972年(被告が被告イラストを使ってマヨネーズ等の販売を始めた1952年から20年後)までに、B被告人形については、1991年(被告が、被告人形を使ってマヨネーズ等の販売を始めた1971年から20年後)までに、少なくともローズ・オニール及びその承継人たる(新)RO遺産財団に対する関係では、被告人形等についての著作権を相対的に時効取得したと主張する。
ここにいう「著作権の相対的な時効取得」とは、「著作権者(本件の場合、ローズ・オニール及びその承継人たる(新)RO遺産財団)から複製禁止権等を行使されないという地位、換言すれば著作権者に対して複製禁止権不行使を要求することができる債権」を被告はローズ・オニール及びその承継人たる(新)RO遺産財団に対して保有している、ということである。
このような「著作権の相対的な時効取得」が認められる理由は次のとおりである。@著作権という権利の性質に応じて分割された「著作権の一部」は時効取得の対象となる。A原著作権者に対して、「(譲渡禁止権、翻案禁止権等の禁止権の総体である)著作権の不行使を要求できる地位又は権利の相対性」という性質に応じて分割された「著作権の一部」は、時効取得の対象となる。B上記Aの意味における「著作権の一部」の時効取得を主張する場合、その要件として求められる準占有を肯定するには、原著作権に対する関係でのみ、外形的に著作権者として著作権を独占的、排他的に行使する状態が継続すれば足りる。C上記Bのように「原著作権者に対する関係で、外形的に著作権者として著作権を独占的、排他的に行使する状態が継続している」と評価するには、時効制度の存在理由からして、時効を主張する者が長期間にわたり、権利者のように振る舞っているという永続した事実状態が明らかに存在すること、及び原著作権者がそのことを認識しているにもかかわらず、何ら対抗措置を講ずることなく事態を放置し、権利の上に眠っているという事情があること、である。
そして、原告は、被告がキューピー著作権を相対的に時効取得した後に、
新RO遺産財団から譲り受けているから、被告とは対抗関係にあるが、原告は背信的悪意者に該当する。
したがって、原告が新RO遺産財団からキューピー著作権を譲り受けたことを登録していたとしても、背信的悪意者排除の法理により、キューピー著作権を時効取得した被告に対して、キューピー著作権を譲り受けたことを対抗できないので、キューピー著作権の譲受を請求原因とする本件訴訟での請求には理由がない。
【原告の主張】 被告の主張するところの相対的時効取得によって、被告がキューピー著作権を時効取得することはあり得ない。なぜならば、時効取得するためには、権利を専有する状態、すなわち、外形的に著作者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続していることが要件となるところ(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)、被告には、この要件が欠落しているからである。
12 争点(12)(権利の失効) 【被告の主張】 (1) 権利失効原則の要件事実 長期間の権利不行使と、権利行使の相手方において、その権利がもはや行使されないものと信頼すべき正当事由を有し、権利者が権利を行使することが信義誠実に反する特段の事由(権利行使の不当性)が認められた場合には、当該権利は失効する。
ア 長期間の権利不行使 第一次訴訟以前において、被告に対し、被告が被告人形等の使用を開始してから70年を超える長期にわたり、キューピー著作権が行使されたことは一度もなかったのであるから、長期間の権利不行使の要件事実は、容易に認められる。
イ 権利行使の不当性 本件では、次の事実が認められるから、被告は、キューピー著作権が行使されないものと信頼すべき正当事由を有している。
@ 被告が事業活動を開始した1922年当時、日本において、多数の者が多数のキューピー人形等を独自に開発・販売している状況であった。
A 被告は、1970年ころから、キューピーブランドのルーツについて米国で調査を行ったところ、RO遺産財団が、1964年に、もはや見るべき資産がないとして清算されたことを確認した。
B 原告が、キューピー著作権が存在すると主張するに至った1995年(平成7年)に至るまで、キューピー著作権の存在を被告に対して主張した者は、日本はおろか、世界中誰一人いなかった。
C ローズ・オニールは、1917年当時、日本においてキューピー著作権が侵害されていることを知っていた。また、1940年前後、日本製のセルロイド玩具であるキューピー人形が、米国において広く出回っていたから、RO遺産財団の管理人は、日本製のキューピー人形等の存在を認識し、これを容認していた。にもかかわらず、ローズ・オニールも、RO遺産財団の管理人も、被告に対する権利行使行為を行わなかった。
D 被告は、日本において、78年間にわたり、キューピーブランドを用いて大々的に事業活動を行ってきた。また、被告は、米国でも、1965年にキューピー社商標等を登録し、被告によるキューピーブランドを用いたマヨネーズが、米国に出荷されている。さらに、被告のKEWPIEブランドを用いたマヨネーズのテレビコマーシャルが、米国で放映されたことがある。したがって、新RO遺産財団の管理人も、被告人形や被告イラストの存在を知っていたということができる。
にもかかわらず、同管理人は、しかるべき権利行使を行わなかった。
(2) 著名標識の積極的効力 営業標識が著名性を獲得していること、その著名性を獲得する前に著作権者が異議を述べず、権利行使も行わなかったこと、及び使用されていた商品と同一又は類似の商品について使用を継続すること、以上の要件が認められる場合には、著名標識としての積極的効力が認められるので、著名な標識の使用者は著作権者の権利行使を排斥できるというべきである。
そして、本件の場合、被告の営業標識(キューピーブランド)はおそらく日本国民の90%以上に知られており、また、被告の事業のうち、当該営業標識にかかわる部分が極めて大きく、その売上高の絶対額も極めて巨額である。また、
被告は、その営業標識を、一貫して公然と用いているが、著作物の登録から起算すれば80年以上、著作者の死亡から起算しても50年以上という非常な長期間使用してきた。さらに、食品の分野に関する限り、営業標識についての営業上の信用を蓄積したのは被告であって、原告ではない。したがって、被告から原告に対して何らかの請求を行うことがあっても、その逆の請求が成立する余地はない。
【原告の主張】 本件において権利失効の原則を適用する余地はない。
(1) 権利失効の原則の否定 ドイツ法上の「権利失効の原則」は、消滅時効制度・除斥期間制度の不備を補う制度である。しかし、我が国の民法は、ドイツ民法のように形成権の時効消滅を否定していないし、時効期間も一般的に短いのであるから、時効ないし除斥期間という権利行使の期間制限に関する規定があるにもかかわらず、しかも、その期間内における権利者の迅速な権利行使義務が課されていないにもかかわらず、その期間内でもなお失効の原則を適用して権利行使を否定するためには、特に相手方を保護すべき相当強い理由の存在を要するはずである。
日本において、権利失効を認めたと思われる最高裁昭和30年11月22日第三小法廷判決・民集9巻12号1781頁は、賃借人の保護が政策的に考慮されたものである。
この点で、仮に権利失効の原則が我が国において認められるとしても、
本件においてこれを適用すべき理由は見い出せない。
(2) 「長期間の権利不行使」の有無 原告は、本件著作物の存続期間内において、これに対する著作権を行使している。著作権の存続期間内に著作権を行使できるのは当然であるから、これをもってただちに長期の権利不行使に該当することはない。
また、原告は、権利の譲渡を受けてすぐに権利を行使しているのであって、原告と被告の関係においては、原告に長期間の権利不行使を認めることはできない。
(3) 「権利が行使されないと信ずべき正当の事由」の有無 権利者が長期にわたって権利行使を怠っていても、後に権利が行使されるかもしれないことを予想すべきであったときは、「権利が行使されないと信ずべき正当の事由」があるとは認められず、もっと顕著な事情が必要である(最高裁昭和40年4月6日第三小法廷判決・民集19巻3号564頁)。
しかも、契約当事者間の場合に比べて、第三者間においては、権利失効原則の要件たる「正当事由」は認められにくくなる。本件では、ローズ・オニール、RO遺産財団ないし原告と被告とは、何ら契約関係にはなく、キューピー著作権の行使に関して、ローズ・オニール、RO遺産財団ないし原告の不作為である単なる権利の不行使が、被告に対してもはや行使されないものと信頼すべき正当の理由を生じさせるような信頼関係はそもそも存在しない。
さらに、大正初期に、ローズ・オニールが製造したキューピー人形が日本で大流行した。そのキューピー人形には、著作権者がローズ・オニールである旨の著作権表示のほか、米国特許庁にも意匠登録がなされ、著作権を主張して米国著作権局に著作権登録も行われていた。
したがって、被告はキューピー著作権がいずれは行使されるかもしれないことを予想すべきであり、被告が、「キューピーに関して著作権が行使されない」と信頼したとしても、勝手な思い込みにすぎない。その他、被告がそのように信じたことについて正当な理由を認める顕著な事情は認められない。
(4) 「権利行使が信義誠実に反するものと認むべき特段の事由」の有無 権利者において、権利が行使されないとの正当な信頼を生じさせたことに対する「帰責性」がある場合には、権利行使が信義則違反となるというべきである。
著作権という無体財産権の侵害事例はそもそも権利行使が困難である上、権利行使の相手方の特定が困難であり、さらに権利行使の可否及びその損害額等の判断が難しい。また訴訟における立証活動も所有権侵害の場合に比べて困難であり、訴訟の見通しを立てづらい上に、訴訟費用も巨額なものとなる。
本件においては、ローズ・オニール及び(新)RO遺産財団が、被告がキューピー作品の違法な複製行為等を行っていたこと、及び被告の所在・連絡先、被告の財務体質をローズ・オニール及び(新)RO遺産財団が認識していたときに初めて帰責性が認められるというべきであり、この点において、ローズ・オニール及び同遺産財団には帰責性が存在せず、権利失効の原則が適用される余地はない。
米国において生活する一個人であるローズ・オニールが、日本において著作権を行使することは困難であるし、同人あるいはその遺族が日本における大量の著作権侵害行為を認識する余地はなかった。訴訟提起においてはなおさら困難である。なお、ローズ・オニールは、米国での著作権侵害行為など権利を容易に行使できるときは、訴訟を提起するなどして、適宜権利行使を行っていた。
被告は、遺産分配に関する決定書を根拠として、著作権不行使の信頼が基礎付けられると主張するが、この主張には何ら根拠がない。
ローズ・オニールや(新)RO遺産財団の管理人が日本製のキューピーが出回っていた事実を知っていたことは、被告による違法複製、被告の所在・連絡先、被告の財務体質等を知っていたことを裏付けるものではない。また、被告による商品の出荷やテレビCMは、ごく一部の地域に限られ、新RO遺産財団の管理人がその事実を認識していたことを裏付ける資料はない。
13 争点(13)(権利濫用) 【被告の主張】 (1) クリーン・ハンズの原則あるいは禁反言 原告は、昭和54年ころから長年にわたって、ローズ・オニールからのライセンスとは無関係に、キューピー人形やキューピーイラストのデザイナーとして活動を続けていた者である。すなわち、原告自身、著作権侵害行為を長期間にわたって行ってきた者である。にもかかわらず、本件訴訟のような請求を行うことは、クリーン・ハンズの原則に反し、また禁反言の原則に反する。
(2) 原告の請求が衡平性を欠くこと 現在、ローズ・オニールの故郷であるミズーリ州のオザーク地方ではともかく、米国では、キューピー人形等はそれほど認知されているわけではない。しかしながら、日本では、日本人の全員といっていいほどの人々がキューピー人形等の名前、姿、形を知っている。これは、被告が70年以上もの長きにわたって、その企業の総力を挙げて、被告人形等に、そののれん(good will)を積み上げて、自社ブランドとして大切に育ててきたからにほかならない。
原告の請求は、被告の長年にわたって確立していった自社ブランドに係る権利が、原告に帰属しているかのごとく振る舞う行為であり、資本金241億円、従業員2252名を有する被告の経営に深刻な影響を与えかねないものである。原告の請求を認めることは衡平の観点からも是認できない。
(3) 原告への著作権譲渡に違法性がうかがわれること 仮に、新RO遺産財団から原告へのキューピー作品等の著作権の譲渡が有効だとしても、原告の譲受には、売買金額が第一次訴訟第一審や本件訴訟における損害賠償請求額と比較して著しく低額であるなどの事情から、弁護士法73条
信託法11条に反する違法行為であることがうかがわれるのであって(その詳細な内容は、前記8【被告の主張】(3)参照)、そのような場合にキューピー著作権等を行使することは、権利濫用に該当し許されない。
(4) 背信的悪意者論 民法177条には背信的悪意者の法理、すなわち、「当該取引の動機、
意図等において反倫理的である場合」、「自己の過去の行為に矛盾し、信義則(禁反言)法理に反する場合」、「譲渡人と第二譲受人が実質上の同一の地位にあるとみられるケース」、及び「第二譲受行為の態様における背信性が問題となるケース」においては、権利行使が権利の濫用となるという法理が認められている。
原告と被告との関係は、民法177条が適用されるいわゆる対抗関係ではないが、本件では次の事情により上記法理が認められる場合であるということができる。したがって、原告の権利行使は、背信的悪意者論の観点からしても、権利濫用に当たり許されないというべきである。
@ 原告と新RO遺産財団との間の具体的な交渉を明らかにしておらず、
このことは、キューピー著作権の譲渡契約の締結に当たっては、正当な取引目的とはいい難い事情が介在したことを推認させる。
A それ故、原告は、被告が被告人形等を長年利用していることを知りつつ、被告に対して巨額訴訟を提起して巨額の利益を図るため、新RO遺産財団に対して、キューピー著作権を譲渡するよう積極的に働きかけて、これを承諾させたことが十分推定できる。また、著作権の売買価格が著しく低廉であることも、図利目的を推認させるものである。
B 新RO遺産財団から原告への著作権譲渡が、違法に訴権を行使することで、損害賠償という形で巨額の利益を上げるという反倫理的図利目的があった。
C 被告が、キューピーブランドを使用し始めた1925年ころ、日本では多数の者が多数のキューピー人形等の商品を独自に開発、販売していた状況があるため、キューピー人形などは公有物に属するものと信じるのが無理からぬ状況にあった。
D 著作物に表象される創作的表現は無体物であり、物理的な占有そのものは観念し得ない。しかし、被告が1925年ころから今日に至るまで78年間にもわたり、キューピーブランドを利用しており、被告イラストは1952年から51年間、被告人形は1971年から32年間、それぞれ独占的排他的に使用していきたことから、被告は、被告人形等を「占有」していたと同視し得るだけの、実質的な関係があったといえる。
E 原告と新RO遺産財団は、訴訟遂行において弁護士を同じくしている。
(5) 著名標識への便乗 多大な広告、宣伝費を投じて広く認識されるに至った標章について、その著名性に便乗し、利益を図る目的で、自己の保有する商標権に基づく商標の使用禁止を求めることは権利の濫用とされる。
この点、我が国において、被告が70年余にわたり、多大な費用を投下してその信用を蓄積し、広く認識されるに至った平成10年まで、被告に対し、著作権に基づく主張をした者はない。これに対し、原告は、昭和54年以来、自ら著作権侵害行為を行っていたところ、平成10年に突如として著作権を譲り受けたと主張している。したがって、著名標識に便乗して利益を得るために、知的財産権を行使しているということができ、原告が著作権に基づき、被告人形、被告イラストの差止めを求めることは、権利の濫用である。
(6) ローズ・オニールや(新)RO遺産財団は事業組織化すべきところ、これをしないまま漫然とし、また、ローズ・オニールや(新)RO遺産財団は、日本においてキューピーに関する著作権侵害行為がなされている事実を知っていたにもかかわらず、これに有効な処置を企てることなく放置していた。ローズ・オニール個人が1944年当時、キューピーに関連する収入により、当時の金額で140万ドル以上、現在の価格で約21億円に近い収入を得ていたことからすれば、海外での権利行使は十分容易であった。
以上の事情からしても、原告が、ローズ・オニールや、(新)RO遺産財団が行使しなかった著作権の譲渡を受け、その権利を行使することは権利の濫用というべきである。
【原告の主張】 (1) クリーン・ハンズの原則、禁反言原則に対して 英米法においては、@クリーン・ハンズの原則の前提である、非良心的行為は単なる過失ではなく、故意に基づく必要があり、また、A権利者が非良心的行為を行っていても権利行使の相手方がより非良心的行為を行っている場合には、
同原則は適用されず、さらに、B権利者が非良心的行為を行ってもそれが正された場合には、もはや権利者の手は汚れておらず、同原則は適用されない。英米法においても、クリーン・ハンズの原則は、法律で認められた権利行使を例外的に拒絶する法理であるから、極めて厳格に適用されている。日本において、仮に同原則を適用することができるとしても、上記要件が厳しくされることはあってもゆるめることはできないというべきである。
そして、@については、原告は、被告や訴外株式会社日本興業銀行のような日本を代表する大企業が公然とキューピー作品を複製している状況から、大多数の日本人と同様にキューピー作品に対する著作権は存続していないと考えていた。したがって、原告が著作権侵害行為を行っていたことについて過失は認められるとしても、故意に非良心的行為を行っていたと認定することはできない。
また、Aについては、被告は、大正11年から78年にわたって、被告の業務全般においてローズ・オニールが創作したキューピー作品を無許諾で複製しており、その間に著作権者が「通常受けるべき金銭の額」は、過去3年間だけでも合計240億4655万円という金額になる(なお、算定方法については、後記14【原告の主張】参照)。したがって、被告は、原告以上に非良心的行為を行っていたということができる。
さらに、Bについては、原告は権利者(C等)により過去の著作権侵害について宥恕されており、もはや原告の手は汚れていない。
(2) 被告の活動に関して 被告は、被告が被告人形等にそののれんを積み上げ、自社のブランドとして育ててきた等と主張するが、侵害行為を長年続けていることをもって侵害行為が適法となるわけではなく、原告の著作権行使を不可能とするものでもない。
(3) 被告は、原告の弁護士法違反、訴訟信託行為を主張する。しかし、前記8【原告の主張】(4)、(5)において述べたとおり、そのような違法行為は認められない。
(4) 背信的悪意者論に対して 被告は、原告が背信的悪意者に該当するから、原告の請求が権利濫用であると主張する。しかしながら、背信的悪意者論は、民法177条の規定の例外を権利濫用(民法1条3項)や信義則違反(民法1条2項)という一般的法理論に基づいて法理論化したものであるから、背信的悪意者に該当するから権利濫用であるという論理展開は同義反復にすぎない。
この点をおくとしても、原告はいわゆる背信的悪意者に該当しない。まず、被告は、著作権を侵害しているものであるから、背信的悪意者論によって保護されるべき利益を有していない。次に、被告は、著作権譲渡契約の金額に合理性がないので取引の動機・意図等において反倫理的であると主張するが、著作権譲渡契約における金額は、一部定額一部定率とするものであって何ら不合理な点はなく、
その他の証拠に照らしても、取引の動機・意図等が反倫理的であるということはできない。さらに、被告は著作権の譲渡を受けているわけではないから、二重譲渡の存在を前提とする背信的悪意者論を適用すべき利益を有していない。
(5) その他 ア 被告は、被告人形及び被告イラストを長期にわたり使用し続けていたが、平成10年に原告が被告に対して交渉するまでの間、侵害行為である等の指摘や抗議をされたことがないと主張する。
しかしながら、指摘や抗議がなかったことをもって、侵害行為が適法になるものではないし、被告が、ローズ・オニールのキューピーに関する作品等が既に公有物と軽信していたことは、被告の過失を自認したものにすぎない。RO遺産財団の清算は著作権の消滅を意味するものではないし、清算された事実を確認したのみであったことは、被告の調査が不十分であったことを示すことにほかならない。
イ 被告は、原告の著作権侵害や害意を主張するが、原告は、RO遺産財団に対し過去の著作権侵害を認め同財団から宥恕を受けた上で、著作権の譲渡を受けたものである。したがって、原告は、正当な権利者として当然の権利行使を行っているにすぎない。原告には害意は認められない。
ウ 「権利濫用の法理」の適用に関して、専ら権利行使により『得られる利益』と『失われる利益』とを比較するという客観的基準のみを用いる客観説によったとしても権利濫用法理の適用の余地はない。
すなわち、客観説において基準となる『失われる利益』とは単なる一私益ではなく社会的利益である。また、客観的基準のみを用いると既成事実を作り上げてしまった有力者のみが勝つという好ましくない結果を生ずる危険性があるため、その適用は慎重に行われる必要がある。ところで、被告の権利行使が否定されることにより得られる利益は一私企業の利益にすぎない。しかも、その利益は、被告が著作権侵害の下で積み上げた不当な利益にすぎない。他方、被告のような日本を代表する企業が公然と他人の著作権を侵害し続け、謙虚に著作権者を探しその権利を直視して正当に守ろうとしなかったばかりか、詭弁を用いて自己の責任を逃れようとしている状況を放置すれば、キューピー作品に対する著作権を侵害する者をいたずらに誘発するとともに、我が国における著作権保護の意識を低めることになる。したがって、本件においては、権利濫用法理の客観的基準も認められない。
エ 被告は、ローズ・オニールや(新)RO遺産財団が事業組織化していなかったことを指摘するが、この事実が著作権侵害者の反論にならないことは当然である。また、ローズ・オニールや(新)RO遺産財団が、日本における著作権侵害の事実を知っていただけでは処置を講じようがないのであって、侵害者や侵害行為を特定する必要があるのであり、そのために、個人あるいはその遺産財団が外国において著作権侵害に対する権利行使を行うことが困難であることはいうまでもない。なお、ローズ・オニールの収入が現在の金額にして21億円である等の被告の主張は為替レートや米国内の資産、物価指数等についていっさい考慮しない、詐術的言辞であって、ローズ・オニールが日本において権利行使を怠ったと評価する根拠とはならない。
14 争点(14)(原告の損害) 【原告の主張】 (1) 民法709条、著作権法114条2項に基づく損害賠償請求権 前記のとおり、被告は、原告の有する著作権を侵害する違法行為を行っている。
キューピー作品が日本を含む全世界で大流行している状況において、被告は、キューピー作品を他人が創作した物であることを認識しつつ複製したのである。したがって、被告には、違法行為について過失はもちろんのこと、故意まで認められる。
著作権の行使について著作権者が「受けるべき金銭の額」(著作権法第114条3項)は、各種キャラクター使用料率の実例に照らし、商品の小売価格の3%を下回ることはない。被告は被告イラスト又は被告人形を、その製造・販売するほとんどの商品に付するのみならず、自社のシンボルマークとしてその全営業にわたって使用しているから、使用料相当額は被告の総売上高に使用料率を乗じて算出される。
損害賠償請求権の消滅時効期間内である被告の過去3年分の総売上高は、
8015億5500万円である。
よって、原告は、被告に対し、合計金240億4665万円の使用料相当額の損害賠償請求権を有する。
原告は、その一部である合計金3億円(時効に先にかかるものから順次充当する。)の損害賠償請求権を、本件訴訟において行使するものである。
(2) 民法703条に基づく不当利得返還請求権 被告は、キューピー作品の使用料として、本来であればその総売上の3%に相当する金員を原告に支払うべきであった。しかし、被告はそのような使用料の支払を行っておらず使用料相当額の利得を得ており、また被告が使用料を支払わないことにより原告は使用料相当額の損失を被っている。かつ、このような被告の利得と原告の損失は、被告による著作権侵害に基づいており、法律上の原因がない。
不当利得返還請求権の時効期間内である過去10年分から前記損害賠償の対象とした過去3年分を除外した7年間の被告の総売上高は、1兆6638億9800万円である。
よって、不当利得返還請求権の額は499億1694万円に上る。
原告は、平成10年5月1日に、新RO遺産財団からキューピー著作権の譲渡を受けた際に、キューピー著作権の侵害に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の譲渡も受けている。
したがって、原告は、被告に対し、499億1694万円の不当利得返還請求権を有する。
原告は、その一部である合計金7億円(時効に先にかかるものから順次充当する。)の不当利得返還請求権を、本件訴訟において行使するものである。
【被告の主張】 否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(第一次訴訟の確定判決の既判力)について (1) 前記第2の2の前提となる事実、甲第26ないし第28号証及び弁論の全趣旨によれば、第一次訴訟の第一審では、原告は、本件訴訟における1913年作品と同じ人形の著作物の我が国における著作権に基づき、本件訴訟における被告人形及び被告イラストと同一のイラスト及び人形が1913年作品と同じ人形の著作物の複製又は翻案に当たると主張して、本件訴訟の請求第1項ないし第7項とほぼ同旨の内容による上記各人形及びイラスト(したがって対象物件は本件訴訟と同じである。)の複製、頒布等の差止め及び廃棄の請求と損害賠償の請求をしていたところ、第一審判決は、原告の請求をいずれも棄却したこと、第一次訴訟控訴審(損害賠償請求を棄却した部分は控訴の対象とされていない。)では、原告は、上記差止め及び廃棄請求のほかに、前記1913年作品と同じ人形に係る著作物の著作権を有することの確認請求を追加したこと、第一次訴訟控訴審判決は、原告が1913年作品(人形)に係る著作物の著作権者であることの確認請求は認容したが、1913年作品(人形)は1909年作品(イラスト)を原著作物とする二次的著作物であり、原著作物である1909年作品を立体的に表現した点においてのみ創作性を有するから、立体的に表現したという点を除く部分については、1909年作品と共通しその実質を同じくするものとして、著作権の効力は及ばないとした上で、被告イラストと被告人形は、1913年作品と相違し、全体的に考察しても受ける印象が異なるとして、「本件著作物(1913年作品)において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人(被告)イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものでもなく、また、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たらない」と判断して、原告の1913年作品の著作権に基づく差止め及び廃棄の請求を棄却した原審は相当であるとして控訴を棄却したこと、同判決は、最高裁判所の上告棄却及び上告不受理の決定により確定したこと、以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、第一次訴訟において訴訟物とされていたのは、1913年作品について原告が有している著作権(複製権翻案権等)の侵害による差止請求権及び損害賠償請求権である。これに対し、本件訴訟においては、第一次訴訟とは異なり、1913年作品の著作権(1913年著作権)(複製権ないし翻案権)に基づく差止請求権等は、予備的請求3を含め、訴訟物とされていない。したがって、本件訴訟は第一次訴訟とは訴訟物が異なるから、第一次訴訟の確定判決の既判力が本件訴訟に及ぶことはないというべきである。
(2) 被告は、1913年著作権に基づく各請求も、1913年作品を二次的著作物とする原著作物(1909年作品、1910年作品及び1912年作品)の原著作権(著作権法28条)に基づく各請求も、同一の訴訟物であるから、本件訴訟の予備的請求3は第一次訴訟の既判力に抵触すると主張する。
しかし、予備的請求3は、原告が、1913年作品を二次的著作物、1909年作品、1910年作品及び1912年作品を原著作物とする原著作物の著作権を保有し、被告人形及び被告イラストは1913年作品を複製又は翻案したものであるとして、原著作物の著作権者として有する著作権法28条の権利(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に基づき被告人形及び被告イラストの複製等の差止め等を請求するものであるから、1913年作品そのものの著作権に基づく差止請求権とは訴訟物が異なるものというべきである。二次的著作物に対する原著作物の著作権者は、当該二次的著作物の利用に関し、「当該二次的著作物著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する」(著作権法28条)とされており、
原著作物の著作権者は、二次的著作物著作者と同じ権利を有することになるが、
原著作物の著作権者の有するこの権利は、あくまで原著作物の著作権に基づくものであって、二次的著作物の著作権者が有する権利そのものではない。このことは、
原著作物の著作者二次的著作物著作者とが同一人の場合であっても異なるところはない。二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解すべきものであるから(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)、原著作物の著作権者が当該二次的著作物の利用に関して権利を及ぼし得る範囲と一致するものではない。このように、原著作者として有する著作権法28条の権利を行使するのと、原著作物の権利に依ることなく二次的著作物の著作権を行使するのとでは、権利の対象となる著作物及び権利の内容、範囲を異にするものであるから、両者は訴訟物を異にすると解されるのである。
したがって、前訴において二次的著作物の著作権に基づく請求のみが審理判断された場合には、後訴において原著作物の著作権に基づく請求を行ったとしても、訴訟物が同一であるということはできない。
よって、第一次訴訟判決と本件訴訟予備的請求3との間に、既判力の抵触はない。
2 争点(2)(訴訟上の信義則)について (1) 前記1のとおり、第一次訴訟における訴訟物と、本件訴訟における訴訟物は異なる。
しかしながら、権利の行使は信義に従い誠実にこれをしなければならず(民法1条2項)、民事訴訟においても、「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」(民事訴訟法2条)ものである。民事訴訟において、
後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合には、後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないと解すべき場合があり得る。信義則によって後訴の請求又は後訴における主張が許されないものとするかどうかを判断するに当たっては、前訴と後訴の内容、当事者が実際に行った訴訟活動、前訴において当事者がなし得たと認められる訴訟活動、後訴の提起又は後訴における主張をするに至った経緯、訴訟により当事者が達成しようとした目的、訴訟をめぐる当事者双方の利害状況、当事者の衡平、前訴の判決によって紛争が決着したと当事者が抱く期待の合理性、裁判所の審理の重複、時間の経過などを考慮して、後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせるような場合には、後訴の請求又は後訴における主張は信義則に反し許されないものと解するのが相当である。
(2) そこで、これを本件についてみるに、原告は、第一次訴訟では、1913年作品の著作権(複製権翻案権等)の侵害に基づく被告人形及び被告イラストの複製行為等の差止め、廃棄及び損害賠償の請求をしていたものである。そして、甲第28号証、第57ないし第59号証及び弁論の全趣旨によれば、第一次訴訟の経過として、次の事実が認められる。
ア 原告は、第一次訴訟において、本件訴訟で対象となる著作物を含むすべてのキューピーに関する著作物の、我が国における著作権の譲渡を受けている旨主張した。また、原告は、第一次訴訟において、1913年作品が1909年作品及び1910年作品の二次的著作物としての創作性を有する旨主張していたが(控訴審判決中の控訴人(原告)の主張欄)、これに対し、被告は、1913年作品は、
既に公有物(パブリックドメイン)である(日米著作権条約発効以前に発行された著作物である)1903年作品等の先行作品の複製物にすぎないと主張していた。
イ 原告は、第一次訴訟第一審で提出した平成11年4月15日付け原告第4準備書面において、第1の1(請求原因の追加的変更)として、「原告は、被告が本件著作物(本件訴訟の1913年作品)を二次的著作物であると主張するので、その原著作物である別紙『イラスト著作物目録一』(本件訴訟の別紙著作物目録1の(1)のイラスト)および『イラスト著作物目録二』(本件訴訟の別紙著作物目録2の(1)のイラスト)の各著作物を、本訴請求の被侵害著作物として請求原因に追加する。」と記載していた。
ウ しかし、原告は、第一次訴訟第一審の第4回口頭弁論期日において、前記第4準備書面を陳述するに際して、「右準備書面中、第1の1に記載の趣旨は、
別紙『イラスト著作物目録一』および『イラスト著作物目録二』の各著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはない。」旨釈明し、その旨調書に記載された。このことは、第一次訴訟控訴審判決が、その理由中で明らかにしているところでもある。
エ 原告は、第一次訴訟控訴審で提出した平成12年12月1日付け控訴人準備書面(四)において、裁判所からの求釈明に対する回答として、「控訴人(原告)が権利主張するのは、本件著作物(1913年に発行された人形)における表現上の特徴の全てである。すなわち、本件著作物における表現上の特徴には、1909年作品および1910年作品にすでに現れていた表現的特徴(ならびに、仮に本件著作物が1901年作品や1903年作品や1905年作品の二次的著作物であれば、これらにすでに現れていた表現的特徴)のほか、本件著作物に固有の表現的特徴がある。控訴人は、これら全てを含めて本件著作物における特徴すべてに対して権利主張するものである。控訴人は、かかる権利をもって『本件著作権』として主張している。したがって、控訴人は、右表現的特徴のうち、本件著作物に固有の表現的特徴のみに対して権利(二次的著作物に生ずる著作権)主張するものではない。」とし、さらに、「控訴人は、平成11年4月15日付原告第4準備書面において、1909年作品および1910年作品に対する権利主張を行っているが、
1909年作品および1910年作品を本件著作物とは別に訴訟物とする主張ではない。」と記載したほか、「予備的訴えの変更」として、「仮に本件著作物(1913年作品)の表現的特徴の全てに保護を求めるのに、原著作物について別個の訴訟物として権利主張する必要があると判断される場合には、原告(控訴人の誤記と解される。)は、1903年作品および1905年作品のほか、1901年作品、
1903年作品および1905年作品を訴訟物として追加する。ただし、その趣旨は、本件著作物の表現的特徴の全てに保護を求める範囲に限るものである。」と記載していた(なお、同準備書面の文脈からすれば、上記の「1903年作品および1905年作品のほか、1901年作品、1903年作品及び1905年作品を訴訟物として追加する」とある前段部分は「1909年作品及び1910年作品のほか」の誤記だと思われる。)。
オ これに対し、被告は、第一次訴訟控訴審で提出した平成12年12月6日付け被控訴人第4準備書面において、原告の前記エの予備的訴えの変更に関し、
原審第4回口頭弁論での前記ウ記載の陳述を引用して、原告は、原審で訴えの追加的変更の申立てを撤回したものであり、今更訴えの追加的変更を求めることはできないと主張した。
カ 第一次訴訟控訴審判決は、前記1(1)で述べたように、1913年作品は1909年作品を原著作物とする二次的著作物であると認定した。同判決は、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当であり、このことは、二次的著作物の著作権者が原著作について著作権を有していることによって影響を受けないと解するのが相当であるとした上で、原告は、本件において原著作権に基づく請求をしていない以上、原著作物の著作権について著作権者であるということは、結論に影響を及ぼさないと判示している。なお、第一次訴訟控訴審において、前記エに記載した原告(控訴人)による予備的訴えの変更がどのように扱われたのかは、第一次訴訟控訴審判決の判文上は明確でない。
(3) 原告の主張する、キューピーに関する著作物の著作権の保護期間の特殊性等として、次の事実を指摘できる。すなわち、原告は、第一次訴訟においても、本件訴訟においても、キューピーに関する著作物の本国である米国においては、1913年著作権は既に1941年にその保護期間が満了しているが、我が国においては、キューピーに関する著作権は、著作者であるローズ・オニールが死亡したのは1944年であるものの、諸条約、諸法令の適用により、その後60年を経過した今日においてもなお保護されていると主張している。また、原告は、この間、我が国の多数の国民や法人がキューピーに関する著作権について明確に認識しないままこれを利用してきたと指摘している。原告は、自らも昭和54年ころからキューピーに関するデザインをしてキューピー人形等を販売するなどしており(乙第56号証)、平成6年ころに他人から著作権について確認を求められ、初めて調査に乗り出した旨述べている(甲第73号証、第85号証)。これに対し、被告は、約70年の長期間にわたり「キューピー」の文字あるいはイラストを使用してきたが、その間誰からも著作権侵害との指摘を受けなかったと主張している。
(4) 原告は、本件訴訟において、第一次訴訟と訴訟物を同じくする1913年作品の著作権侵害自体に基づく請求はしていないが、1909年作品、1910年作品、1912年作品の著作権に基づいて、あるいは、1910年作品、1912年作品、1913年作品が先行著作物の二次的著作物であることを前提とする原著作権者の著作権法28条による権利に基づいて、差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得の各請求を行っており、いずれの請求においても、被告が直接依拠した作品は1913年作品である旨主張している。なお、原告は、本件訴訟において、1909年作品、1910年作品、1912年作品及び1913年作品における表現上の特徴を主張するに当たり、1912年作品(原告の主張によれば、1913年作品である人形が制作される基になった意匠特許の出願に用いられたデザイン画とされるもの)において最も良くその特徴が表れている旨主張している。
(5) そこで、以上の事情に照らして検討するに、まず、第一次訴訟と本件訴訟は、いずれも、ローズ・オニールが創作したすべてのキューピーに関する著作物の著作権者であると主張する原告が、その中の一部の作品を根拠として、被告人形及び被告イラストの複製等の行為について差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得の各請求を行っているものである。そして、これらの各請求の根拠となった作品、とりわけ1909年作品、1910年作品、1912年作品及び1913年作品については、原告自身、互いに原著作物と二次的著作物の関係にある可能性があることを前提としているものである。原告は、第一次訴訟においては、1913年作品における表現上の特徴には、1909年作品及び1910年作品に既に現れていた表現的特徴のほか、1913年作品に固有の表現的特徴を含めて1913年作品における特徴すべてに権利主張するものである旨主張しているが、このような主張は、第一次訴訟控訴審判決(甲第28号証)も理由中で引用している最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁の採る著作権法の解釈と相容れない独自の見解というべきである(この点は、後記9で再説する。)。原告は、独自の法解釈論を主張することはともかくとして、第一次訴訟においても、本件訴訟と同様の請求を行うことは可能であったものであり、これを妨げるような事情が存在したともうかがわれない。しかるに、原告は、第一次訴訟で結局そのような請求を行わず、かえって、第一審の口頭弁論において、1909年作品及び1910年作品の各著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはない旨陳述したのであるから、1909年作品及び1910年作品の各著作物について著作権の保護を求めることを放棄したものと解すべきである。そして、1909年作品及び1910年作品の二次的著作物であることを自認しつつ1913年作品の著作権に基づく差止め等を請求すること(第一次訴訟)と、1913年作品に依拠したとして、1913年作品を二次的著作物とする原著作物である1909年作品、1910年作品及び1912年作品の著作権に基づき、若しくは、著作権法28条の規定する二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利として、又は、1909年作品、1910年作品及び1912年作品のあるものを原著作物として、これらのうちの後発の作品を二次的著作物として著作権法28条の原著作権者の権利として差止め等を請求することは、法的な構成は異なるものの、実質的には同一の紛争を蒸し返すものと評価できる。
他方で、ローズ・オニールが死亡してから50年以上経過し、被告がキューピーを使用するに至ってから約70年経過した状態で、初めて著作権に基づく請求なり訴訟提起なりを受けた被告としては、原告が第一次訴訟において1909年作品や1910年作品の表現上の特徴も踏まえた主張をしながら、これらを原著作物とする主張をしない旨明言したことにより、今後1913年作品以外の作品の著作権に基づく訴訟提起はなされないであろうと期待したとしてもやむを得ないものというべきである。
そうすると、確かに第一次訴訟における訴訟物と、本件訴訟における訴訟物とは異なるものの、本件訴訟のうち、とりわけ主位的請求、予備的請求1ないし3は、実質的には第一次訴訟の蒸し返しというべきであるし、原告が、第一次訴訟において可能であった請求を、第一次訴訟の判決確定後、訴訟物が異なることのみを根拠として、あるいは第一次訴訟においては特段の言及をしなかった1912年作品の著作権を根拠として、本件訴訟を提起して第一次訴訟とほぼ同様の請求を行うことは、信義則に反し、禁反言の法理からしても不当であり、また、原告・被告間の紛争解決としても適正・衡平を著しく欠く行為というべきである。
したがって、本件訴訟のうち、差止め、廃棄、損害賠償及び不当利得返還請求に係る主位的請求、予備的請求1ないし3については、本件訴訟でそのような請求をすることは、訴訟上の信義則に反するものというべきであるから、本件訴訟のうち上記部分は不適法なものとして却下すべきである。
(6) 被告は、原告は、第一次訴訟から一貫してキューピーとは1909年作品において初めて創作されたと主張してきているのであるから、それ以前に制作された作品が、キューピー作品の原著作物であることを前提とする予備的主張4は訴訟上の信義則に著しく反すると主張する。
しかしながら、自己の主張と矛盾する内容の主張に係る請求を予備的請求としてできないわけではないし、そのような請求を後訴ですることも、それだけでただちに訴訟上の信義則に反して許されなくなると解するのも相当ではない。本件訴訟の予備的請求4に係る1901年作品等のキューピー関連作品については、キューピー作品と異なり、第一次訴訟において、原告が将来にわたって権利行使をしないと陳述したような事実もない。他に、予備的請求4を訴訟上の信義則に照らして排除しなければならないほどの事情も見出し難い。
したがって、予備的請求4についても訴訟上の信義則に反して許されないとする被告の主張は、採用できない。
3 争点(3)(確認の利益)について 原告は、本件訴訟において、別紙著作物目録1の(1)、2の(1)及び3記載のイラストを著作物とする著作権を有することを前提として、差止め、損害賠償等の請求を行っており、被告は、その中の人物イラストと被告人形あるいは被告イラストとが複製・翻案関係にないと争うとともに、著作権の発生、移転を否定し、また既に消滅した旨主張している。
したがって、原告・被告間の紛争解決のため、原告が上記各著作物の著作権者であることの確認を求める請求には、確認の利益が存在するというべきである。
被告は、本件のように紛争の核心が複製又は翻案に該当するか否かであるときに、予備的に著作権の発生、移転について争い、あるいは消滅したことを主張したことをもって確認の利益を認めることは、不当な応訴負担を課すことになると主張する。しかし、著作物の複製又は翻案であることを争う訴訟において、予備的にであれ当該著作物の著作権の発生、移転について争い、あるいは消滅したことを主張しなければならないわけではないから、被告があえて、争いあるいは主張したような場合には確認の利益が認められるというべきであり、敗訴の場合にその負担が課されることに何ら不当な点はない。
争点(3)に関する被告の主張は採用できない。
4 争点(4)(キューピー作品の創作性)について (1) 前記第2の2(前提となる事実)及び後掲証拠によれば、次の事実が認められる。
ア ローズ・オニールは、1874年6月25日、米国ペンシルバニア州ウイルケス・バレ市で出生し、1896年ころから本格的にイラストレーターとして活動を始めたが、1901年ころから、背中に小さな双翼を有する、裸の中性的な幼児のイラストを創作発表していた(甲第7、第8号証)。
イ ローズ・オニールは、1909年に、雑誌「Ladies' Home Journal」の編集者に対して手紙を出したが、その中で、頭頂部及び左右側頭部に髪の毛の突起があり、前頭部に髪の毛が垂れ、背中に小さな双翼を有する裸の中性的な幼児のイラストを描き、このイラストを長い間(for a long time)「キューピー」と呼んでいたことを明らかにし、さらに、この特徴を有するイラストを用いて創作を行いたい旨記した。
その後、ローズ・オニールは、雑誌「Ladies' Home Journal」1909年12月号に、自作のイラスト付き詩「The KEWPIES' Christmas Frolic(クリスマスでのキューピーたちの戯れ)」を創作発表した(甲第1号証)。この中には、様々なポーズ、表情をとる多数の幼児のイラストが描かれているが、中でも原告が1909年作品として指摘するイラストの特徴は、次のとおりである。
全体的な特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部が全身と比較して丸く大きく、3頭身である。A裸である。B全体的にふっくらとしている。C性別がはっきりせず、中性的である。D頭頂部にとがったような突起があり、前髪が数本垂れており、耳の側に髪の毛があるが、全体的には髪の毛が生えていない。E背中に非常に小さな翼がある。
細部の特徴としては、F目は顔の下半分に位置し、丸く大きい。瞳は目全体の3分の1程度の点で描かれており、左方向(向かって右方向)を向いた寄り目である。G眉は顔のほぼ中央に、目から若干離れて位置し、点のように描かれている。H鼻は点で描かれている。I口は下向き円弧状に描かれ、微笑んでいる。J頬はふっくらとしている。K腕で物を抱え込んでいる。L向かって左方向に向けて歩いている。M首はない。
ウ ローズ・オニールは、1910年、雑誌「Woman's Home Companion」1910年9月号に、自作のイラスト付き詩「DOTTY DARLING AND THE KEWPIES(ドッティー・ダーリンとキューピーたち)」を創作発表した(甲第2号証)。この中には、様々なポーズや表情をとる、複数の幼児のイラストが描かれているが、中でも原告が1910年作品として指摘するイラストの特徴は、次のとおりである。
全体的な特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部が丸く大きく、3頭身である。A裸である。B全体的にふっくらとしている。C性別がはっきりせず、中性的である。D頭頂部と両側頭部に髪の毛と思われるとがったような突起があり、前髪が1本垂れている。全体的には髪の毛はない。E背中に非常に小さな双翼と思われるものがある。
細部の特徴としては、F目は顔の下半分の位置し、丸く大きい。瞳は目全体の3分の1程度の点で描かれており、左方向(向かって右方向)を向いた寄り目である。G眉は顔の中央よりやや上に位置し、点のように描かれている。H鼻は点で描かれている。I口は線で描かれており、微笑んでいるようにも見える。J頬はふっくらとしている。K腕を後ろに回している。L腹部はへその当たりが最もふくらんでいる。M直立している。Nひも状のものが体の中央部に巻き付けてある。
O首はない。
エ ローズ・オニールは、1912年に「キューピー」人形用のデザイン画(1912年作品。甲第3号証)を創作し、同年12月17日、米国連邦特許商標庁に対し、意匠登録特許出願を行った。同意匠は、1913年3月4日に、登録第43680号意匠特許として登録され、公刊された(甲第3号証)。
1912年作品の特徴は次のとおりである。
全体的な特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部は全身に比較して丸く大きい。ほぼ3頭身である。A裸である。B全体的にふっくらとしている。C性別がはっきりせず、中性的である。D頭頂部に突起があり、両耳の上を後頭部を回るように髪の毛の突起がある。前髪が数本垂れている。それ以外に髪の毛はない。E背中に非常に小さな双翼がある。
細部の特徴としては、F目は顔の下半分に位置し、非常に丸く大きい。
瞳は目全体の3分の1程度であり、左方向(向かって右方向)を向いた寄り目である。G眉は顔の中央に目から離れて位置し、点のように描かれている。H鼻は鼻先が線で描かれている。I口は下方向に円弧状に描かれ、微笑んでいる。J頬はふっくらとしている。K腕を水平よりやや下向きに広げている。L掌を正面に向けて広げている。M腹部はへその当たりが最もふくらんである。N顔はやや左向き、体はやや右向きで、直立している。O首はない。
(2)ア 1909年作品は、従来の西欧神話のキューピッドやキリスト教等の天使などのイラストの範ちゅうに属するということはできるものの、前記各特徴及びその組み合わせは、キューピッドや天使において一般的あるいは必然的な特徴ということはできず(甲第29ないし第32号証、第36号証参照)、したがって、独創的な創作性を有する著作物ということができる(甲第29ないし第32号証、第36号証参照)。
イ 1910年作品は、1909年作品と比較して、乳幼児の体型であり、
ほぼ3頭身であること、裸であること、全体的にふっくらとしていること、頭頂部に突起があり、両耳の辺りに髪の毛があり、前髪が数本垂れているほかは、髪の毛がないこと、背中に非常に小さな双翼があること、目が丸く、左方向(向かって右方向)に寄り目であること、眉が点で描かれていること、微笑んでいること、頬がふっくらしていることなどの共通点を有する。他方で、1909年作品の頭部がほぼ円形状であるのに対し、1910年作品の頭部は下部がやや角張っていること、
1909年作品の両側頭部には髪の毛が必ずしも突起状にはなっていないのに対し、1910年作品の両側頭部に明確な髪の毛の突起があること、1909年作品の下腹部は明らかではないが、1910年作品の下腹部は明らかに強調されていること、1909年作品は物を持ち運んでいる姿勢であるのに対し、1910年作品は両腕を後に回し、直立していること、といった相違点が認められる。しかしながら、ここに認められる相違点は、いずれも些細なものであって、何らかの思想や感情が創作的に表現されたものと認めることはできない。したがって、1910年作品は、1909年作品の複製にすぎないというべきである。
ウ 1912年作品は、1909年作品と比較して、1910年作品と同様の共通点を有している。他方で、1909年作品の後頭部の髪の毛の状況が不明であるのに対し、1912年作品は両耳上あたりを後頭部において回るように髪の毛があること、1909年作品が物を持ち運んでいるのに対し、1912年作品は、
両腕を水平よりやや下向きに挙げ、掌を広げて、直立していることといった相違点が認められる。しかしながら、ここに認められる相違点は、いずれも些細なものであって、何らかの思想や感情による新たな創作性を認めることはできない。したがって、1912年作品は、1909年作品の複製にすぎないというべきである。
(3) ところで、被告は、キューピー作品の特徴は、@先のとがった頭髪、A背中に付された小さな双翼、Bふっくらとした幼児の体型と考えるべきであるところ、これらの特徴は、1903年作品において確立し、1904年作品や1905年作品等に継承されているものであるから、キューピー作品に新たな創作性を認めることができないと主張し、これに沿う鑑定書(乙第99号証、第157号証)を提出するので、この点を検討する。
ア ローズ・オニールは、1903年、雑誌「The Cosmopolitan」1903年12月号に挿絵「A Christmas Courtship」を創作発表した(1903年作品。甲第34号証)。1903年作品の特徴は次のとおりである。
全体的な特徴としては、@乳幼児の体型である。A頭部は縦長楕円形である。B裸である。C頭頂部、両側頭部に突起があり、前髪が数本垂れているほかは、髪の毛がない。D性別がはっきりせず、中性的である。E背中に非常に小さな双翼と思われるものがある。
細部の特徴としては、F目は顔の下半分に位置し、丸い。瞳は目全体の3分の1程度の点であって、上目遣いである。G眉は描かれていないか、上まぶたと同化している。H鼻は点で描かれている。I口は点で描かれている。J両手を前で合わせて、祈っている。Kひざまずいている。L腹部はへそ辺りが最もふくらんでいるが、足との区別が定かではない。
イ ローズ・オニールは、1904年に、雑誌「20th Century Home Magagine」1904年3月号に挿絵「The Educated Wife」イラスト(1904年作品@。乙第191号証の1)を、雑誌「Good Housekeeping」1904年4月号に「To Arms」イラスト(1904年作品A。乙第192号証の1)を、雑誌「20th Century Home Magagine」1904年7月号に挿絵「The Laboratory of the Kitchen」イラスト(1904年作品B。乙第193号証の1)を、同誌1904年8月号に挿絵「For the Woman Who Reads」イラスト(1904年作品C。乙第194号証の1)を、同誌1904年9月20日号に挿絵「The Jarring Note」イラスト(1904年作品D。乙第195号証の1)を、それぞれ創作発表した。
これらの1904年作品は、乳幼児の体型である、裸である、性別がはっきりせず、中性的である、頭頂部や両側頭部に髪の毛の突起が認められ、前髪は垂れている、背中に非常に小さな双翼がある、といった特徴を有している。
ウ ローズ・オニールは、1905年に、雑誌「American Illustrated Magazine」1905年12月号に、挿絵「The Exapantion of Alphonse」イラスト(1905年作品@。甲第35号証)を、雑誌「Appleton's」1905年12月号に「The Sage Hen's Samson」イラスト(1905年作品A。乙第196号証の1)を、創作発表した。
これらの1905年作品は、乳幼児の体型である、裸である、性別がはっきりせず、中性的である、頭頂部や両側頭部に髪の毛の突起が認められ、前髪が垂れている、背中に非常に小さな双翼がある、といった特徴を有している。
エ ローズ・オニールは、雑誌「Harper's Bazar」1906年7月号に、挿絵「A Night with Little Sister」イラスト(1906年作品。甲第48号証)を創作発表した。また、同誌1907年12月号に、イラスト(1907年作品。乙第198号証の1)を創作発表した。さらに、同誌1908年9月号に、挿絵「The Letter」イラスト(1908年作品@。乙第201号証の1)を、同誌1908年122月号に、挿絵「Peter,Peter」イラスト(1908年作品A。乙第202号証の1)を創作発表した。
これら1906年作品、1907年作品あるいは1908年作品も、乳幼児の体型である、裸である、性別がはっきりせず、中性的である、頭頂部や両側頭部に髪の毛の突起が認められ、前髪が垂れている、背中に非常に小さな双翼がある、といった特徴を有している。
なお、1906年作品、1907年作品、1908年作品は、頭頂部に突起があり、前髪が垂れ、両耳の辺りに髪の毛があるほか、全体的に髪の毛があるように描かれている、寄り目である、下腹部がふっくらしている、欧米の乳幼児のようであるなどの諸点において、1904年作品@ないしBとその特徴を共通するものであり、1904年作品@ないしBとの相違点は姿勢や表情(微笑んでいるか否か等)にすぎず、これらはいずれも創作性を認めることができない。
オ 以上からすれば、1903年作品は、乳幼児の体型であること、裸であること、全体的にふっくらしていること、性別がはっきりせず、中性的であること、頭頂部、両側頭部に突起があり、前髪が数本垂れているほか髪の毛がないこと、背中に非常に小さな双翼があること、といった特徴を有していることが、また、その大半の特徴は、1904年以降のキューピー関連作品においても認めることができる。そして、これらの特徴は、全体的に観察すれば、従来のキューピッド、子供あるいは天使の表現として、一般的あるいは必然的なものということはできないから、独創性のある表現ということができる。そして、前記のとおり、1909年作品、1910年作品及び1912年作品は、1903年作品の上記本質的特徴を感得させるものということができる。
他方で、1903年作品は頭部が縦長の楕円形であるのに対し、1909年作品は頭部が円形であること、1903年作品は眉がないあるいは上まぶたと同化しているのに対して、1909年作品には眉が目から離れたところで点で描かれていること、1903年作品は目が上目遣いであるのに対し、1909年作品は左に寄り目であること、1903年作品は口が点で描かれているのに対し、1909年作品は口が下向きの円弧状で描かれ、微笑んでいること、1903年作品は祈りの姿勢であるのに対し、1909年作品は物を運ぶ姿勢であること、1903年作品は欧米人の乳幼児を思わせるが、1909年作品は体型をふっくらさせたことによりより空想性のあるものとなっていること、1903年作品は顔の造作、表情や姿勢全体の印象から静かな、あるいは暗い雰囲気が醸し出されるが、1909年作品は顔の造作、表情や姿勢全体から、活発な茶目っ気のある雰囲気が醸し出されること、といった相違点が認められる。
そして、これらの相違点には思想や感情の表現といった創作性の違いとして認識できるから、1909年作品は、1903年作品を感得させるに止まらず、1903年作品に新たな創作性を付与したものというべきである。
(4) 以上により、1909年作品には創作性(ただし、1903年作品の二次的著作物である。)が認められるが、1910年作品及び1912年作品には創作性を認めることができない。
なお、別紙著作物目録1の(1)、2の(1)のイラストの著作物は、1909年作品、1910年作品のほか多数の人物イラストが、様々な姿勢や表情をした状況が描かれているものであり、その全体構成や配置において創作性が認められる。
1910年作品というその部分において1909年作品の複製であるということが、別紙著作物目録2の(1)のイラストの著作物全体の創作性を否定するものではない。
(5)ア 原告は、1909年作品等が1903年等キューピー関連作品と比較して、二次的著作物にとどまらない、新たな創作性を認めることができると主張し、
これに沿う鑑定書(甲第36号証、第92号証)が提出されている。
しかしながら、前記(3)オでも述べたとおり、1909年作品等と1903年作品が共通した特徴を有することは否定できないものであり、また、その共通した特徴は、全体的に見るならば従前の天使、子供あるいはキューピッドの表現方法として一般的でも必然的でもないものである。鑑定書において指摘されている相違点(1903年作品等キューピー関連作品は、表情が暗い、独特の生き生きした表情がない、姿勢などにおいて宗教性を感得できる)をもって、この共通性を超えた別個の創作性を認めることはできない。
したがって、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、1910年作品や1912年作品にも1909年作品に対する新たな創作性が認められると主張し、これに沿う鑑定書(甲第36号証、第92号証)が提出されている。
しかしながら、原告自身、「キューピー作品」は1912年作品においてその特徴がとりわけ顕著に認められると主張しており、キューピー作品が共通した特徴を有し、互いにその内容を感得させるものであることを自認している。原告が、創作性を認めるべきであるとして指摘する1909年作品、1910年作品及び1912年作品の相違点は、体型のふくよかさの程度、眉と目のはなれ具合、姿勢であるが、いずれの作品も乳幼児のふっくらとした体型をしており、眉と目は一定距離で離れており、いずれも些細な点であるからそこに新たな創作性を認めることはできないし、姿勢の点も後述するように新たな創作性を認め得るには至っていない。
また、鑑定書(甲第36号証、第92号証)においても、1909年作品と1910年作品との違いは、短めのふっくらした胴体と下肢であり、1909年作品と1912年作品との違いは、@短めのふっくらした胴体、Aほぼ直立した姿勢、B斜めに伸ばした両腕、C5本の指をぱっと広げた両掌、DB及びCの連関よりなる姿勢を指摘するにすぎない。これらの相違点も些細な点であって、新たな創作的表現を有すると認めることはできない。
なお、原告の主張や上記鑑定書においては、特に1912年作品が「キューピー・ポーズ」を取っていると指摘し、その点において新たな創作性があると主張する。しかしながら、著作者が、人物像を描くに当たって思想や感情を姿勢や動作においても表現することがあり得るとしても、一般には、同じ人物像として描かれた人物イラストが多様な姿勢、動作を取ることは当然のことであって、姿勢や動作によって新たな創作性が加わることになるとはいえず、1909年作品と1912年作品とを対比した場合に、1912作品に見られる原告のいう「キューピー・ポーズ」(掌を広げて腕を水平やや下向きに挙げた状態で直立するという姿勢)によって、新たな創作性が付加されたものと認めることはできない。
5 争点(6)(キューピー作品の著作権の保護期間)について (1) 明治39年(1906年)5月11日に交付された日米著作権条約は、日米両国民の内国民待遇を規定していた(1条)。著作権の存続期間についての定めをおいていなかったため、米国国民が著作権者となる著作物の我が国における保護期間は、当時の旧著作権法により定まることとなった(旧著作権法28条)。
同条約は、昭和27年(1952年)4月28日に公布された平和条約7条(a)により廃棄されたが、米国国民を著作権者とする著作物については、平成条約12条(b)(1)(A)及び外務省告示により、昭和27年4月28日から4年間、引き続き我が国において内国民待遇が与えられることとなり、著作権の保護期間も当時の旧著作権法及び連合国特例法により定まることとなった。
外務省告示が失効した昭和31年(1956年)4月28日に、万国条約が発効し、米国国民を著作権者とする著作物は同条約によって保護されることとなった。万国条約7条は、締約国における条約の効力発生日に当該締約国において最終的に保護を受けなくなっており、又は保護を受けたことのない著作物及び著作物についての権利には適用がないと規定し(いわゆる不遡及効)、万国条約特例法附則2項は、原則として発行されていない著作物で同法施行前に著作されたもの及び発行された著作物で同法の施行前に発行されたものについては、同法の適用がないと規定していたが、同法11条により、平和条約12条の規定に基づく旧著作権法による保護を受けている著作物については、万国条約特例法施行後も引き続き同一の保護を受けるものとされた。また、著作権法施行の際、同法附則26条により万国条約特例法11条は、平和条約12条の規定に基づく旧著作権法による保護を受けており、著作権法施行の際に保護を受けている著作物については、著作権法による保護と同一の保護を受けるものと改正された。
(2) キューピー作品は1909年から1913年の間に発行されたものであり、当時の日米著作権条約及び旧著作権法に基づいて、ローズ・オニールは我が国におけるキューピー作品に関する著作権を取得した。
ローズ・オニールは1944年4月6日に米国ミズーリ州において死亡したため、当時の日米著作権条約及び旧著作権法3条及び9条により、キューピー作品の著作権は死後30年間存続することとなったが、キューピー作品の著作権の存続期間中である1971年(昭和46年)1月1日に施行された著作権法51条により、その期間は著作者の死後50年間とされ、また、連合国特例法4条1項により3794日間の戦時加算がなされることとなった。この結果、キューピー作品の著作権は、平成17年(2005年)5月21日まで保護されることとなった。
(3)ア 被告は、著作権の保護期間については、相互主義を採用することが国際法上常識であるとし、相互主義の採用は外務省告示や万国条約における米国の意図、著作権法の立法者の立法意思、著作権法5条の解釈からも明らかである、したがって、本件においては相互主義が適用されるべきである、仮にこのように解さねばマラケシュ協定4条の「最恵国待遇」により同協定の他の加盟国の外国著作物に対しても同様の保護を与えなければならないこととなり、現行の対外的著作権実務に著しい混乱を来すと主張する。
しかしながら、内国民待遇とは、締約国の国民の著作物又は締約国で第一発行された著作物が、他の締約国において当該国の著作物と同様の保護を受けることを意味するところ(万国条約3条1項、ベルヌ条約5条(1)参照)、各国の著作権の保護期間がまちまちであるために生じる保護の実質的な不平等を調整するために規定されるのが、相互主義の規定である。相互主義の規定は保護期間の規定に関する例外とされており、その保護期間の短縮を肯定するものであるから、規定なくして、国際法上の常識、一国の意図あるいは立法者意思等によって解釈により当然に適用されると解することはできないというべきである。
イ 被告は、キューピー作品の著作権は、万国条約特例法附則2項、同法11条により我が国において保護されているため、万国条約7条により万国条約による保護を受けると主張する。
しかしながら、万国条約特例法11条は、平和条約12条及び外務省告示によりそれまで内国民待遇による保護が継続されていた連合国国民を著作権者とする著作物が、外務省告示による効力が失われることにより我が国において消滅することを避けるため、国際法上の信義、万国条約19条の趣旨及び既得権の尊重という一般的法理念に基づき、著作権法の特例として(万国条約特例法1条)、引き続き我が国において従前と同一の保護を受ける旨規定したものというべきである。
したがって、上記著作物は、万国条約特例法11条に基づき、我が国において保護されることとなる。
ウ 被告は、ベルヌ条約に米国が加盟した後は、米国人の著作物がベルヌ条約の適用を受けるか否かを問わず、著作権法58条が適用されることになると主張し、米国のベルヌ条約への加盟は、著作権法58条不適用の解除条件であって、条件成就後は保護期間が確定されることとなる、このように解しても、キューピー作品の著作権の保護を過去にさかのぼって消滅させることにはならないから、著作権を不当に害することはない、と述べる。
しかしながら、著作権の保護期間は、著作権法58条の存在を理由に、
ベルヌ条約加盟という解除条件成就によって初めて確定する、との被告の主張は、
法文上から導き出すことができず、また、私権保護及び法的安定性の観点からそのような解釈を導き出すこともできない。万国条約特例法附則2項は、「この法律(第11条を除く。)は、発行されていない著作物でこの法律の施行前に著作されたもの及び発行された著作物でこの法律の施行前に発行されたものについては、適用しない。」と規定しており、その結果、万国条約特例法施行前に発行された米国国民の著作物は、同法において保護期間の相互主義を規定した3条の適用がないものとなる。加えて、著作権法施行に際し、同法附則26条で、万国条約特例法11条を著作権法に沿って改正されたものの、その結果、著作権法58条に規定するベルヌ条約加盟国間における保護期間の相互主義との関係について、あるいは、後日ベルヌ条約に加盟する国との間の保護期間の相互主義に関して、何ら特段の規定を置かなかった。以上の点に鑑みれば、被告の主張するような解釈を採る法的根拠も合理的理由もないというべきである。被告の主張は採用できない。
被告は、その主張の結果は、キューピー作品の著作権の保護を過去にさかのぼって消滅させることにはならないから、著作権を不当に害することはないと述べるが、過去にさかのぼって消滅させることにならなくとも、保護期間を短縮させること自体、私権保護と法的安定性を害することになるというべきである。
6 争点(7)(キューピー関連作品の著作権の保護期間)について 日米著作権条約によれば、1906年4月28日以前に、米国人により米国において創作された著作物が我が国において保護を受けることはない。
この点、原告は、1891年交換公文第6公文(甲第44号証)により、大英帝国領下のカナダにおいて、米国と同時に発行された1901年作品、1903年作品及び1905年作品@については、英国国民と実質的に同一の条件で著作権を保護されていること、その結果、これらの作品は、英国のFINE ARTS COPYRIGHT ACT 1862、COPYRIGHT ACT 1911及び英国著作権法により、ローズ・オニールの死後50年間(1994年)まで保護されており、ベルヌ条約、我が国の著作権法、万国条約特例法により我が国においても現在に至るまで保護されていると主張する。
1904年作品及び1905年作品Aについては明確な主張はないが、同様の主張を行う趣旨と推察される。
しかしながら、1862年の英国のFINE ARTS COPYRIGHT ACTの1条は、絵画や素描及び写真に著作権を認めるには、「著作者が英国国民か又は英国領内に居住する者」(“The author, being a British subject or residence within the Dominions of the Crown.”)でなければならないと定めている。英国領土内で最初に著作物を発行した外国人も英国の著作権を取得できるとする1891年交換公文第6公文は、同条に反するものである(乙第180条ないし第182条)。
原告は、1891年交換公文は、FINE ARTS COPYRIGHT ACT1条を解釈したものであると主張するが、当該第6公文以外にそのような解釈が採られることを示す証拠はない。
よって、1901年作品、1903年作品、1904年作品、1905年作品の各著作権が、英国著作権法の適用等の結果、我が国において現在に至るも保護されているとする原告の主張を採用することはできない。これらの作品はいずれも公有に帰しているというべきである。
これに対し、日米著作権条約発効後に発行された1906年作品、1907年作品及び1908年作品については、前記5と同様、平成17年(2005年)5月21日まで我が国において保護されていることになる。
7 争点(8)(キューピー著作権は原告に譲渡されたか)について (1) 後掲証拠によれば、以下の事実が認められる。
ローズ・オニール制作の著作物にかかる著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理するRO遺産財団に承継され、Bが遺産財団管理人に選任された。Bは、1964年(昭和39年)1月6日に、米国ミズーリ州タニー郡検認裁判所に対し、遺産の配分確定書並びに相続権の分配決定の申立てを行い、その際、遺産については、現金が612.47ドル、その他の動産なしと報告した。同検認裁判所は、これを正確であると認めて相続の権利を決定し(乙第49号証)、
同年3月18日、Bはその任務を終了した。しかし、1997年(平成9年)7月14日、ローズ・オニールの新たな財産(ローズ・オニールの創作した絵画等の著作権、ローズ・オニールの著作物に対する編集権等及び外国におけるライセンス収入等)が発見されたとして、Cから米国ミズーリ州タニー郡巡回裁判所に対し遺産財団管理人選任の申立てがされ(甲第10号証)、同裁判所は、同月15日、Cを新RO遺産財団の管理人に選任した(甲第11号証)。
原告は、平成10年(1998年)5月1日、新RO遺産財団から、「ローズ・オニールが創作したすべてのキューピーの作品に対する日本における著作権」(「The Japanese copyright to all the Kewpie works created by Rose O'Neill」)及び「キューピーの作品に関する日本に基づくすべての権利」(「All rights under the Japanese law related to the Kewpie works , including any rights having accrued」)について、頭金として1万5000米ドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピーに係る原告自身の純収入の2%を支払うほか、
キューピーの作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた(甲第13号証、第71号証、第89号証)。
(2) 一般に、物権の内容、効力、得失の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ(法例10条参照)、また、物権が相続財産の処分として譲渡された場合に適用されるのは、原因事実の完成した当時における著作物の所在地法というべきである(最高裁平成6年3月8日第三小法廷判決・民集48巻3号835頁参照)。
本件では、日本において保護されてきた著作権の、日本における譲渡契約が問題となっているものであるから、譲渡契約及びその結果の著作権の変動に関する準拠法は、我が国の法令であると解するのが相当である。
そして、我が国の法令の下においては、上記著作権譲渡契約により、キューピー著作権は新RO遺産財団から原告に移転したということができる。
(3)ア 被告は、RO遺産財団管理人Bが遅くとも1968年6月5日までにキューピー作品に係るすべての著作権をEに譲渡したのであるから、新RO遺産財団管理人がこれを原告に対して譲渡することはできないと主張し、Eへの譲渡の証拠として、Bの手紙(乙第47号証)やJ(Eの相続人)の手紙(乙第93号証)を提出する。これらの手紙の中で、Bは、キューピーの抱き人形を除いて、すべてのキューピーの権利を、E氏に売却した旨(「I have sold all Kewpie rights to Mr. Joseph Kallus,(中略), except the Cuddly Kewpie.」)述べ、また、Jは、
ローズ・オニールがキユーピー人形に関して有していたすべての権利はEに譲渡した旨述べている。
しかしながら、仮にRO遺産財団管理人BがEに対しキューピーに関する著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、前記のとおり、新RO遺産財団から原告に対する著作権譲渡の有効性については、著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、キューピーに関する著作権について、Eに対する譲渡と原告に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、原告に対するキューピーに関する著作権の移転が効力を失うものではない。
そして、被告は、キューピー著作権について譲渡を受けあるいは利用許諾を受けるなど、原告がキユーピー著作権の譲渡を受けたことについて対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しない。したがって、原告は、被告に対して、対抗要件の具備を問うまでもなく、その著作権を行使することができる。
なお、原告は、新RO遺産財団から別紙著作物目録1の(1)記載の著作物、同目録2の(1)記載の著作物及び1913年作品の著作権の譲渡を受けたことについて我が国著作権法77条1号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10年8月25日に登録を受けた結果(甲第79ないし第81号証)、対抗要件を具備していることとなるから、この点においても、被告の主張は理由がない。
イ 被告は、原告が本件訴訟において「キューピー作品」について1909年以降の作品と定義していることをもって、譲渡契約にある「キューピー作品」にはそれ以前のキューピー関連作品が含まれておらず、原告はキューピー関連作品の著作権については譲渡されていないと主張する。しかし、譲渡契約書においてそのような限定があるということはできず、限定がないことを述べる新RO遺産財団の管理人の宣誓供述書(甲第89号証)が提出されているのであり、他に被告の主張するような限定がなされていたことをうかがわせる証拠はない。
ウ 被告は、米国著作権登録原簿上キューピー関連作品が一部となっているイラスト全体の著作物の著作権者は出版社となっているから(乙第191ないし第196号証、第198号証、第201号証、第202号証、第206号証、第208号証、第241号証、第242号証の各2)、ローズ・オニールや(新)RO遺産財団が著作権を有することはなく、譲渡することもできないと主張するが、これは編集著作物の著作権というべきである。
エ 被告は、第一次訴訟が当初新RO遺産財団管理人によって提起されていたこと、その後原告が新RO遺産財団から著作権の譲渡を受けたとして当事者変更の申立てを行ったこと、原告が著作権の譲渡を受けたと主張しながら、その契約書の存否や内容を控訴審の結審直前まで明らかにしなかったこと、また、明らかにされた契約内容によれば、損害賠償請求額10億円と比較して著しく低額の1万5000米ドル(約180万円)であったこと、などの事情からすれば、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約の存在自体が否定されると主張する。
しかしながら、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約については、
甲第13号証、第71号証及び第89号証が提出されており、被告の指摘する事情をもってして譲渡契約が存在しないということはできず、他に上記認定を覆すに足る証拠はない。
オ 被告は、原告と新RO遺産財団管理人との間の著作権譲渡契約は、実質的には原告が我が国において訴訟を提起し、キューピーに関する著作権に基づくロイヤリティを徴収すること等を目的とするものであって、訴訟信託行為というべきであるから、信託法11条あるいは弁護士法73条に反するものであって無効であると主張する。
しかしながら、原告は、実際にキューピーに関する作品等の普及活動等を行っている者であるから(甲第38号証ないし第40号証、第49号証ないし第51号証、第73号証、第85号証)、その著作権について譲渡を受ける動機や目的を有する者ということができるので、我が国におけるキューピーに関する著作権の譲渡を受けたとしてもそのことから直ちにその譲渡行為が訴訟信託行為であるということはできない。また、原告は、訴訟自体を弁護士に委託して遂行しており、
新RO遺産財団としても原告に訴訟行為を信託しなければならない必然性はない。
その他、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約が原告に訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする訴訟信託に当たる、あるいは弁護士法73条に反すると認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の主張は理由がない。
8 以上のとおりであるから、原告は、別紙著作物目録1の(1)及び2の(1)記載のイラスト著作物の著作権者であるというべきである。
9 争点(9)(被告イラスト及び被告人形とキューピー作品との類似性)について この争点に関しては、前記2の訴訟上の信義則に関して判示したところからすれば、判断する必要をみないが、本件訴訟の経過及び事案の内容に鑑みて、念のために判断することとする。
(1) 前記4で述べたとおり、1909年作品は、1903年作品(前記6のとおり、既に公有物となっている。)の二次的著作物であり、1910年作品及び1912年作品は1909年作品の複製にすぎない。1913年作品については、1912年作品に基づいて立体の人形として制作されたものであり、1909年作品と比べると、せいぜいこれを立体化したところに創作性が認められるにすぎないものであるが、その点ではなお創作性があるというべきであるから、1909年作品を原著作物とする二次的著作物と認められる(原告が1913年作品の著作権者であることは、第一次訴訟の確定判決によって確認されているところである。)。
二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。
そこで、以下では、各作品の関係を踏まえつつ、被告人形あるいは被告イラストが、原著作物に対する創作的部分において共通するか否かを検討する。
(2) 1909年作品に関して ア 被告人形について (ア) 1909年作品の特徴は、前記4(1)イで述べたとおりである。
(イ) これに対し、被告人形は、次のような特徴を有する。
全体的な特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部が丸く大きく、
ほぼ3頭身である。A裸である。B全体的にふっくらとしている。C性別がはっきりせず、中性的である。D頭頂部に一房の髪の毛があり、前頭部に垂れ、また、両耳の上あたり及び後頭部に髪の毛の突起がある。E背中に小さな双翼がある。
細部の特徴としては、F目は顔の下半分に位置し、丸く大きい。瞳は目のほぼ全部を占め、ほぼ正面視である。G眉は、上向きの円弧状の線で、いわゆる柳眉である。H鼻は小さな突起となっている。I口は下向き円弧状に描かれ、微笑んでいる。J頬はふっくらしている。K両腕を斜め上に上げ、直立し、いわゆる「バンザイ」の姿勢である。L掌は広げられ、やや上向きである。M下腹部がへその辺りで最も太い。N尻が垂れている。O首はない。
(ウ) 1909年作品はイラストであって平面であるが、被告人形は立体である。平面的な人物イラストと、立体的な人形とを比較する際には、平面的な人物イラストにおける内容及び形式を立体的な人形において感得できるか否かを検討すべきである。
1909年作品と被告人形とは、髪の毛が全体的には生えていないが、頭頂部と両側頭部において髪の毛の突起があること、裸であること、背中に羽根があること、乳幼児よりもふっくらと丸くなっていること、といった点が共通している。
他方で、1909年作品と被告人形とは、次のような相違点を有する。1909年作品は、眉が目から離れたところに点で描かれているのに対し、被告人形は、眉が目から離れたところに、上向き円弧状に描かれ、いわゆる柳眉である。1909年作品にはまつげがないが、被告人形には長い数本のまつげが描かれている。1909年作品は、瞳が目全体の3分の1程度であって寄り目であるが、
被告人形は、瞳が目のほぼ全体を占めており、ほぼ正面を向いている。1909年作品の髪の毛は、頭頂部に数本で突起が形成され、前頭部に数本垂れている程度であるが、被告人形は一房の髪が前頭部に垂れている。1909年作品の口元は明らかに微笑んでいるが、被告人形の口元はやや直線的であって、堅い微笑みである。
1909年作品の背中の双翼は非常に小さいが、被告人形の双翼はある程度の大きさがあり、貝殻状をしている。1909年作品は、物を持ち運んでいる姿勢であるが、被告人形は両手を上に挙げ、掌を開いていわゆる「バンザイ」の姿勢をしながら、直立している。1909年作品は、全体として、活動的な茶目っ気のある雰囲気を印象付けるのに対し、被告人形は、全体として、優しげな雰囲気を印象付ける。
(エ) 以上のとおり、1909年作品と被告人形は、共通点を有するが、
その共通点のほとんどは既に1903年作品において表れているし、1909年作品に付加された新たな創作的部分とはいえない。さらに、1909年作品と被告人形とは、多くの相違点が存在する。以上を総合的に判断すれば、被告人形は、1909年作品における本質的特徴を有しているとはいえないから、両者は類似していないと解するのが相当である。
イ 被告イラストについて (ア) 1909年作品の特徴は、前記4(1)イで述べたとおりである。
(イ) これに対し、被告イラストは、次のような特徴を有する。
全体的特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部も体型も楕円状であり、ほぼ3頭身である。A裸である。B全体的に縦長である。C性別がはっきりせず、中性的である。D頭頂部に突起があり、その他に髪はない。E背中に非常に小さな双翼がある。
細部の特徴としては、F目は顔の中央からやや下半分に位置し、楕円形である。G瞳は目全体の約2分の1で、下を向いている。H眉はない。I鼻は点で描かれている。J口は下向き円弧状に描かれ、微笑んでいる。K頬はふっくらとしている。L両腕を斜め上に上げ、直立し、いわゆる「バンザイ」の姿勢である。
M掌は広げられ、正面に向けられている。N下腹部がへそより少し上辺りで最も太く、水滴状である。O首はない。
(ウ) 以上からすれば、1909年作品と被告イラストは、乳幼児の体型であること、ほぼ3頭身であること、裸であること、性別がはっきりせず、中性的であること、頭頂部に突起があること、背中に非常に小さな双翼があること、目が丸いこと、微笑んでいること、において共通する。
他方で、1909年作品と被告イラストには次のような相違点が認められる。1909年作品では、頭頂部に数本の髪で形成されたような突起があり、
前に1本髪の毛が垂れ、また、耳の辺りに髪の毛が描かれているのに対し、被告イラストは、頭頂部に髪の毛が菱形状に描かれており、両側頭部に髪の毛はない。1909年作品は、丸く大きな目の中で、瞳が約3分の1程度であって寄り目であるのに対し、被告イラストは、瞳が約2分の1で下を向いている。1909年作品は、目から離れた点で描かれているのに対し、被告イラストには眉がない。1909年作品では物を持って歩いているのに対し、被告イラストは、両腕を上に挙げ、
バンザイの姿勢を取っている。1909年作品は全体的にふっくらしているのに対し、被告イラストは体型が略水滴状である。1909年作品は、立体的に描かれているのに対し、被告イラストは、単調で平面的に描かれている。1909年作品は、活動的な茶目っ気のある雰囲気が印象付けられるのに対し、被告イラストは静的な雰囲気であり、むしろ、1903年作品のイラストが立ち上がり、手を広げ、
若干微笑んだような印象を与えるもので、1903年作品に近いともいうべきものである。
(エ) 以上のとおり、1909年作品と被告イラストは、共通点を有するが、その共通点のほとんどは既に1903年作品において表れているし、1909年作品に付加された新たな創作的部分とはいえない。さらに、1909年作品と被告イラストとは、多くの相違点が存在する。以上を総合的に判断すれば、被告イラストは、1909年作品における本質的特徴を有しているとはいえないから、両者は類似していないと解するのが相当である。
(3) 1910年作品、1912年作品について 前記4で述べたとおり、1910年作品及び1912年作品には、1909年作品と比較して新たな創作性を認めることはできない。したがって、著作権侵害に該当するか否かを比較するまでもない。
(4) 1913年作品について 1913年作品は、前記(1)のとおり、1909年作品を立体化した点において創作性が認められるものであり、それ以外の点で特段創作性を認めるに足りる特徴はない。
ところで、原告は、予備的請求3において、1913年作品を、原著作物を1909年作品、1910年作品あるいは1912年作品とする二次的著作物であると位置付け、各原著作物の著作権法28条に基づく請求を行っているところ、
1910年作品及び1912年作品については著作権を認めることはできず、また、1909年作品と被告人形、被告イラストが類似しないことは前記(2)、ア(エ)及びイ(エ)で述べたとおりである。そうすると、1909年作品を立体化した点でのみ創作性が認められるにすぎない1913年作品について、被告人形及び被告イラストの類似性を肯定することはできない(1909年作品の二次的著作物である1913年作品において新たに付加された創作的部分が被告人形及び被告イラストにおいて感得されないことは、第一次訴訟控訴審判決の判示するところである。)。
(5) キューピー関連作品について 原告は、予備的主張4において、キューピー関連作品を1913年作品の原著作物として位置付け、キューピー関連作品の著作権を根拠として、著作権法28条の権利に基づく各種請求を行っている。
しかし、1901年作品、1903年作品、1904年作品及び1905年作品は既に公有に帰しており、1906年作品、1907年作品及び1908年作品は、1904年作品@ないしBの複製にすぎない。したがって、予備的請求4の帰趨は、結局、前記(4)で判示した1913年著作権に基づく主張に対する判断と同じになるから、ここで検討するまでもない。
10 以上の次第であるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告が、別紙著作物目録1の(1)、2の(1)記載のイラストの著作物の著作権を有することの確認請求については理由があるのでこれを認容し、原告が別紙著作物目録3記載のイラストを著作物とする著作権を有することの確認請求、並びに、原告の別紙著作物目録4ないし16記載の各イラストの著作物を原著作物とし、別紙本件人形写真の著作物を二次的著作物とする著作権法28条に基づく予備的請求はいずれも理由がないから棄却し、その余の請求に係る訴えは不適法であるから却下することとし、訴訟費用については、民事訴訟法61条64条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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