• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 27年 (ネ) 10123号 著作権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(一審被告) X
訴訟代理人弁護士内藤篤 村上斐子
被控訴人(一審原告) Y
訴訟代理人弁護士望月晶子 柳誠一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/12/26
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決主文第1項ないし第4項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1ないし7の表現を含む別紙物件目録記載の映画を上映し,複製し,公衆送信し,送信可能化し,又は同映画の複製物を頒布してはならない。
(2) 控訴人は,別紙人格権侵害認定表現目録記載1ないし4に記載の表現を含む別紙物件目録記載の映画を上映し,公衆送信し,送信可能化し,又は同映画の複製物を頒布してはならない。
(3) 控訴人は,別紙合意に基づく差止一覧記載の赤色部分,緑色部分及び水色部分の表現を含む別紙物件目録記載の映画を上映し,複製し,公衆送信し,送信可能化し,又は同映画の複製物を頒布してはならない。
-1-(4) 控訴人は,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1ないし7の表現を含む別紙物件目録記載の映画のマスターテープ又はマスターデータ及びこれらの複製物を廃棄せよ。
(5) 控訴人は,被控訴人に対し,55万円及びこれに対する平成26年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は,第1項(5)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の上記取消しに係る部分の請求をいずれも棄却する。
事案の概要
本件は,被控訴人が,控訴人に対し,(1)@控訴人の製作に係る別紙物件目録(原判決添付の別紙物件目録と同一であるから,これを引用する。)記載の映画(本件映画)は,被控訴人の執筆に係る本件各著作物の複製物又は二次的著作物(翻案物)であると主張して,本件各著作物について被控訴人が有する著作権(複製権,翻案権)及び本件各著作物の二次的著作物について被控訴人が有する著作権(複製権,上映権,公衆送信権〔自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化権を含む。〕及び頒布権) 並びに本件各著作物について被控訴人が有する著作者人格権 , (同一性保持 権)に基づき,本件映画の上映,複製,公衆送信及び送信可能化並びに本件映画の複製物の頒布(本件映画の上映等)の差止め(著作権法112条1項)を求めるとともに,本件映画のマスターテープ又はマスターデータ及びこれらの複製物(本件映画のマスターテープ等)の廃棄(同条2項)を求め,A本件映画は,被控訴人の人格権としての名誉権又は名誉感情を侵害するとして,同人格権に基づき,本件映画の上映等の差止めを求めるとともに,本件映画のマスターテープ等の廃棄を求め,B本件映画製作の前に控訴人・被控訴人間に成立した本件各著作物不使用の合意に基づいて,本件映画の上映等の差止めを求めるとともに,本件映画のマスターテープ等の廃棄を求め,(2)著作者人格権(同一性保持権)侵害(本件各著作物を被控訴人の意に反して改変されたこと)の不法行為による損害賠償金400万円(慰謝料300万円と弁護士費用100万円の合計)及びこれに対する不法行為の後である平成26年5月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(3)債務不履行(控訴人が被控訴人との本件各著作物不使用の合意に違反して本件映画を製作したこと)による損害賠償金(精神的苦痛に対する慰謝料)100万円及びこれに対する平成26年12月27日(同月26日付け訴えの変更申立書(2)の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお,被控訴人は,上記(2)及び(3)の請求について,仮執行宣言を申し立てた。。
) 原審は,(1)@(a)著作権及び著作者人格権に基づく本件映画の上映等の差止請求については,原判決別紙エピソード別対比表3,4,6及び7の本件映画欄に記載の表現を含む本件映画の上映等の差止めを求める限度(ただし,著作者人格権に基づく差止請求は,本件映画の複製の差止めを求める限度)で認容し,(b)著作権及び著作者人格権に基づく本件映画のマスターテープ等の廃棄請求については,原判決別紙エピソード別対比表3,4,6及び7の本件映画欄に記載の表現を含む本件映画のマスターテープ等の廃棄を求める限度で認容し,A(a)人格権に基づく本件映画の上映等の差止請求については,原判決別紙侵害認定表現目録1及び2の@〜Bに 記載の表現を含む本件映画の上映等(ただし,本件映画の複製を除く。)の差止めを求める限度で認容し,(b)人格権に基づく本件映画のマスターテープ等の廃棄請求については,これを棄却し,B(a)本件各著作物不使用の合意に基づく本件映画の上映等の差止請求については,原判決別紙確定稿対比表の赤色部分,緑色部分及び水色部分の表現を含む本件映画の上映等の差止めを求める限度で認容し,(b)本件各著作物不使用の合意に基づく本件映画のマスターテープ等の廃棄請求については,原判決別紙確定稿対比表の赤色部分,緑色部分及び水色部分の表現を含む本件映画のマスターテープ等の廃棄を求める限度で認容し,(2)著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求については,55万円(慰謝料50万円と弁護士費用5万円)及びこれに対する平成26年5月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,(3)本件各著作物不使用の合意違反の債務不履行に基づく損害賠償請求については,これを棄却した。
原判決に対し,控訴人のみが控訴を提起した。
1 前提事実 本件の前提事実は,原判決の「事実及び理由」欄の第2,2に記載のとおりである。
2 争点 本件の争点は,原判決「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。
3 争点に対する当事者の主張 本件の争点に対する当事者の主張は,下記(1)のとおり原判決を補正し,下記(2)及び(3)のとおり当審における控訴人の補充主張とそれに対する被控訴人の反論を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第4に記載のとおりである。
(1) 原判決の補正 原判決「事実及び理由」欄の第4の1(5頁1行〜9頁1行)を,次のとおり改 める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「1 争点1(著作権〔翻案権・複製権〕侵害の成否)について【被控訴人の主張】 (1) 本件各著作物の翻案権侵害について ア 本件映画のストーリーの構成と本件各著作物の構成 本件映画のストーリーは,@主人公の女性が性犯罪被害に遭い,Aそのことが原因で両親や恋人,夫との人間関係が壊れていくが,B実名で性犯罪被害者のためのウェブサイトを立ち上げ,テレビで性犯罪被害の実態について話したりしたことで多くの性犯罪被害者との交流が生まれる,Cしかし,両親にはついに理解されず,最後に両親に殺されてしまうというものである。この@ないしCのうちの@ないしBの構成は,本件各著作物と同じである。すなわち,起承転結のうちの「起承転」に当たる以下に掲げたエピソードまでは,本件各著作物と同じであり,本件映画の結末では,主人公が両親に殺されてしまうエピソードがあり,その点だけが異なるにすぎない。
イ 本件映画のエピソードから本件各著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できること (ア) 言語の著作物と映画は表現形態が異なるから,映画の形式で表現しようとすれば,原作の言語の著作物と同じ体裁にはならず,原作の言語の著作物の単語の選び方,語順,改行その他の文体といったものは,映画には表れない。また,言語の著作物において,言葉で明示的に表現されている登場人物の思考や感情なども,映画では明示的に描かれないことが多い。映画では,登場人物の台詞やストーリー,プロットなどだけでなく,登場人物の行動・仕草・表情,構図,カット割り,効果音,BGMといった言語の著作物にない様々な視覚的・聴覚的要素も駆使して表現するものであるから,台詞に表れない登場人物の思考や感情なども表現されていることに留意する必要がある。
しかし,これらのことをもって,映画とその原作であって事実を素材とする言語の著作物の共通点が,ストーリーを構成する事実それ自体にすぎないとみるべきではない。
(イ) 本件各著作物と本件映画とを比較すると,別紙エピソード別対比表4-1(以下「別紙対比表4-1」という。)のエピソード3,4,6,7の「本件映画」欄記載の本件映画の表現が,「翻案該当性」欄記載のとおり,「本件著作物1」欄記載の本件著作物1の叙述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,本件著作物1の翻案物に当たる。
また,別紙エピソード別対比表4-2(以下「別紙対比表4-2」という。)のエピソード3,6,7の「本件映画」欄記載の本件映画の表現が, 「翻案該当性」欄記載のとおり, 「本件著作物2」欄記載の本件著作物2の叙述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,本件著作物2の翻案物に当たる。
したがって,控訴人が本件映画を製作したことは,被控訴人が本件各著作物について有する翻案権の侵害に当たる。
(2) 台詞についての複製権又は翻案権の侵害について 本件各著作物において,被控訴人などの登場人物が言ったとして書かれている 「 」(かぎかっこ)付きの言葉は,全て被控訴人が創作したものである。素材となっている出来事が実際に起きた際にその場にいた人がどのような言葉をどのように言ったかを,被控訴人が全て正確に覚えていたはずもなく,また,実際の場面でその場にいた人たちが本件各著作物にあるように分かりやすい言葉で淀みなく喋ったはずもない。本件各著作物の登場人物の言葉は,被控訴人が記憶を踏まえつつも,各場面における人物の心の動き,エピソードが被控訴人や本件各著作物において有する意味,前後のエピソードとの因果の流れが読者に伝わりやすいようにすることといった様々な要素を考慮して,創作したものである。
このように,本件各著作物において登場人物が言ったとして書かれている言葉と会話には著作物性があるところ,本件映画では,別紙対比表4-1のエピソード4, 6,7,別紙対比表4-2のエピソード6,7で指摘しているとおり,本件各著作物の登場人物の言葉及び会話と全く同一,又は,ほぼ同一の台詞を用いている。
したがって,控訴人が当該台詞を含む本件映画を製作したことは,被控訴人が本件各著作物について有する複製権又は翻案権の侵害に当たる。
(3) 控訴人の主張に対する反論 ア 控訴人は,本件各著作物と本件映画の共通点はいずれも実際に起きた出来事である「事実」であり,実際に起きた出来事の中身は著作者が創作した「表現」ではないから,翻案権侵害は成立しないと主張する。
しかし,実際に起きた出来事の中身自体は著作権で保護されないとしても,実際に起きた出来事のうちどれを作品に用いるかという選択や作品中での配列は,それ自体が著作者の「思想又は感情」の「表現」たり得る。
本件各著作物についてみると,暴行事件の発生時やその後に現実に起きたのは,本件各著作物において描かれている事実だけではない。被控訴人は,無数の事実の中から本件各著作物のエピソードとして描く事実を取捨選択し,配列し,構成して本件各著作物の構成要素とし,本件各著作物によって読者に伝えたい著作者としての「思想又は感情」を「表現」したのであるから,その選択・配列自体が,創作性の極めて重要な要素であり,「表現」である。
したがって,本件映画と本件各著作物との間で共通する部分は,全て事実について記載したものであるから,本件映画は本件各著作物の翻案物ではないという控訴人の主張は,理由がない。
イ 控訴人は,本件各著作物と本件映画において共通するエピソードについて,本件のような事件について記述する際に選択すべき内容として特段珍しいものではないなどとして,本件各著作物のエピソードの選択には創作性がないと主張する。
しかし,本件各著作物のエピソードの選択が珍しいものでない,ありがちなものだからといって創作性がないという控訴人の主張には理由がない。
本件各著作物のエピソードは,無数に存在する事実の中から被控訴人が,性犯罪とその被害者の姿を被害者本人の目線で語り,周囲の人たちの理解が被害者に必要であることを訴え,また,被害者たちにそのままでいいから一緒に生きて行こうと伝えるという本件各著作物のテーマにふさわしい素材と判断して選択し配列したものなのであり,その選択は,被控訴人の精神活動の成果の所産であり,本件各著作物の個性を形成するものであり,被控訴人の個性の表出そのものである。
したがって,本件各著作物のエピソードの選択と配列は,被控訴人の思想感情の創作的な表現である。
【控訴人の主張】 (1) 本件各著作物の翻案権侵害について ア 控訴人は,本件映画において,被控訴人が実際に経験した「事実」のみを題材に使用したにすぎない。
また,本件各著作物と本件映画においてその構成が共通する部分があるとしても,本件各著作物における構成は時系列に沿ったものであって,創作性のあるものとはいえず,著作物たり得ない。
さらに,事実であっても,その選択や配列等に創作性が認められることはあり得るが,本件各著作物において本件映画と同一性が認められる点に関しては,@選択されている事実は,事件に遭った状況,事件直後の行動,その後の日常生活の様子,男女間及び親子間の人間関係の変化等であって,本件のような事件について記載する際に選択すべき内容として特段珍しいものではなく,Aその事実の配列も,時系列に沿った,最もありふれた配列であり,これらの事実の選択や配列に創作性が認められるものではない。仮に,創作性があるとしても,当該表現は短かすぎて著作物たり得ないものである。
イ 別紙対比表4-1のエピソード3について (ア) 被控訴人主張の本件著作物1と本件映画との類似点@〜Dは,いずれも事実であって,表現ではない。
また,Cについては,共通するのは事実ではなく,その表現の元となるアイディアやコンセプトにすぎない。
さらに,これらは強姦被害に遭った直後の被控訴人(主人公)と元恋人(婚約者)とのやりとりが時系列に沿って記載されたものにすぎず,その事実の選択や配列に創作性ないし特段の工夫があるものでもない。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(イ) 仮に創作性が認められるとしても,原判決は,@〜Bについて事実の記載にすぎないとしているのであるから,C及びDのみではなく,@〜Bについても著作権侵害であるとして差止めを認めたのは,表現の自由に対する過度な制約である。
(ウ) 本件著作物1では,徹頭徹尾,被控訴人の視点で,事件後のショックと混乱,別れた恋人を頼ってしまったことについての恥ずかしさや申し訳なさといった感情を,特に元恋人と落ち合うまでの場面において内省的に細かく記載しながら,被控訴人と元恋人とのやりとりが描かれているのに対し,本件映画では,婚約者に寄り添った視点で,主人公から強姦被害に遭ったことを聞いた際の婚約者の衝撃が中心に描かれており,本件著作物1において主に描かれていたところの主人公の心情といったものはほとんど描かれていない。
また,本件著作物1と本件映画とでは,被控訴人(主人公)が「ごめんなさい」と謝り続けた意味も大きく異なる。
よって,本件著作物1と本件映画とでは,その表現の本質的特徴が全く異なるから,翻案に当たらない。
ウ 別紙対比表4-2のエピソード3について (ア) 創作性差止めの範囲については,本件著作物1についての前記イ(ア)及び(イ)と同様である。
(イ) 本件著作物2では,徹頭徹尾,被控訴人の視点で,特に元恋人に連絡を取るまでの状況を中心に,事件後のショックと混乱を細かく内省的に描きつつ, 別れた恋人に対して謝り続けた理由についても,事後的に分析して記載しているのに対し,本件映画では,婚約者に寄り添った視点で,主人公から強姦被害に遭ったことを聞いた際の婚約者の衝撃が中心に描かれており,本件著作物2において主に描かれていたところの主人公の心情といったものはほとんど描かれていない。
また,本件著作物2と本件映画とでは,被控訴人(主人公)が「ごめんなさい」と謝り続けた意味も大きく異なる。
よって,本件著作物2と本件映画とでは,その表現の本質的特徴が全く異なるから,翻案に当たらない。
エ 別紙対比表4-1のエピソード4について (ア) 被控訴人主張の本件著作物1と本件映画との類似点@及びAは,いずれも事実であって,表現ではない。
また,仮に強姦被害に遭った女性がその翌日に出社するという会話をしたとすれば,そういった(特筆すべき)事実を選択することは,ありふれたものだといえる。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(イ) 本件著作物1では,何も後ろめたいことはないのに,嘘なんかついて仕事を休めない,という被控訴人のある種潔癖な姿が描かれているのに対し,本件映画では,いつも通りの生活を送ることで全てをなかったことにしたい,という主人公の姿が描かれている。
また,本件著作物1では,頑固に会社に行くと言い張る被控訴人に対して腹を立てる元恋人の様子(双方向の喧嘩)が描かれているのに対し,本件映画では,主人公を守ろうと決意した婚約者が主人公から拒否されるというパラドックス(一方的な拒絶)が描かれており,事件後の被控訴人(主人公)と元恋人(婚約者)との関係も異なる。
よって,本件著作物1と本件映画とでは,その表現の本質的特徴が全く異なるから,翻案に当たらない。
オ 別紙対比表4-1のエピソード6について (ア) 被控訴人は,本件著作物1の74頁5行目〜最終行(以下「エピソード6-1」という。)と,104頁9行目〜11行目(以下「エピソード6-2」という。)について,同一エピソードであると主張するが,これらは全く異なる場面を描いたもので,記載箇所も連続しておらず,およそ同一エピソードとは認められない。
また,このように連続性のない別の箇所に記載されたエピソードを,被控訴人が恣意的に選択して一つのエピソードとして著作権侵害を主張できるとする根拠も明らかではない。
(イ) 被控訴人主張の本件著作物1のエピソード6-1と本件映画との類似点@〜Bは,いずれも事実であって,表現ではない。
また,強姦事件が,その時点で被害者が交際していた異性との関係にどのような悪影響を与えるのかという点を,それを象徴的に示す事実を選択して記載することは,ありふれた選択だといえる。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(ウ) 被控訴人主張の本件著作物1のエピソード6-2と本件映画との類似点は,事実であって,表現ではない。
また,本件著作物1のエピソード6-2の記載は,余りにも短く,内容もありふれた表現である。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(エ) 本件著作物1のエピソード6-1では, 事件のことを知っている人は 「被控訴人を護らなければならないのだ」という観念に縛られた被控訴人の言動と,それに耐え切れなくなった恋人の様子が,別れのシーンとしてではなく恋人達の衝突のシーンとして描かれているのに対し,本件映画では,そういった主人公と恋人との衝突や主人公の感情には焦点を当てず,婚約者の視点で,浮気相手に唆されて婚約者が一方的に主人公の元から去っていくという残酷な別れ(婚約者の一方的な意思に基づく別れ)が,主人公の社会からの疎外の第一段階として描かれている。
また, 「俺のことは忘れて幸せになってくれ」という言葉も,本件著作物1のエピソード6-2では,別れた後も被控訴人のことを心配し,被控訴人の幸せを願う元恋人の言葉として描かれているのに対し,本件映画では,婚約者による一方的な別れの捨て台詞として描かれている。
よって,本件著作物1と本件映画とでは,描かれているシーンも,その表現の本質的特徴も全く異なるから,翻案に当たらない。
カ 別紙対比表4-2のエピソード6について (ア) 被控訴人主張の本件著作物2と本件映画との類似点@及びAは,いずれも事実であって,表現ではない。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(イ) 本件著作物2では, 事件のことを知っている人は被控訴人を護られな 「ければならないのだ」という観念に縛られた被控訴人の言動と,それに耐え切れなくなった恋人との衝突,恋人に感謝しているはずであるにもかかわらず,酷い言葉を発せさせるほどに追い詰めてしまった被控訴人の当時の状況が,別れのシーンとしてではなく恋人同士の衝突のシーンとして,現在の被控訴人による謝罪の気持ちとともに描かれているのに対し,本件映画では,そういった経緯や恋人の感情には焦点を当てず,婚約者の視点で,浮気相手に唆されて婚約者が一方的に主人公の元から去っていく別れ(婚約者の一方的な意思に基づく別れ)の様子が,主人公の社会からの疎外の第一段階として描かれている。
よって,本件著作物2と本件映画とでは,描かれているシーンも,その表現の本質的特徴も全く異なるから,翻案に当たらない。
キ 別紙対比表4-1のエピソード7について (ア) 被控訴人は,本件著作物1の80頁7行目〜82頁6行目(以下「エピソード7-1」という。,83頁7行目〜10行目(以下「エピソード7-2」 )という。)と84頁2行目〜4行目(以下「エピソード7-3」という。)について,同一エピソードであると主張するが,これらはそれぞれ異なる場面を描いたもので, 記載箇所も連続しておらず,およそ同一エピソードとは認められない。
また,このように連続性のない別の箇所に記載されたエピソードを,被控訴人が恣意的に選択して1つのエピソードとして著作権侵害を主張できるとする根拠も明らかではない。
(イ) 被控訴人主張の本件著作物1のエピソード7-1と本件映画との類似点@〜B,本件著作物1のエピソード7-2と本件映画との類似点,本件著作物1のエピソード7-3と本件映画との類似点は,いずれも事実であって,表現ではない。
また,本来であれば一番の味方だと思われる家族から,思いがけず配慮に欠ける心ない態度をとられた場合に,そういった事実を選択して記載するということは,事実の選択としてありふれたものだといえる。
さらに,エピソード7-2及び7-3の各記載は,いずれも,余りにも短く,ありふれた表現である。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(ウ) 本件著作物1のエピソード7-1は,被控訴人が両親に事件を打ち明けた日の様子というより,むしろ事件を告白した直後の被控訴人と母親との関係についての被控訴人による分析が主に記載されているのに対し,本件映画では,そのような分析の視点は一切なく,事件を告白したその日に,一気に両親と対立する構造になる様子が,本件著作物1とは異なるスピードと激しさをもって描かれている(親に対してどなりつける主人公と,それに対し平手打ちで応酬する父親など,極めて動的な描写がなされている。。
) また,本件著作物1のエピソード7-2及び7-3は,事件を告白してしばらく経った後も,被控訴人と両親との関係が修復されるどころか悪化した状態であることを示すエピソード(両親からの二次被害)が記載されているのに対し,本件映画では,エピソード7は,事件を告白した日の激しい対立の様子のみが描かれているのであって,場面が大きく異なる。
さらに,本件映画では,それまでは「普通に」社会生活を送っていた(社会的弱者ではなかった)主人公が,強姦被害に遭って社会的弱者に陥ったことによって,社会的弱者ではない両親との会話が成り立たなくなり,婚約者に続き両親からも疎外されたこと(社会からの疎外第二段階) 他方で同じ社会的弱者である兄との会話 ,が成立するようになることで,主人公の住む世界がそれまでと変わってしまったことが,フランツ・カフカの『変身』になぞらえて象徴的に描かれているが,本件著作物1には,そのような記載は一切ない。
よって,本件著作物1と本件映画とでは,その本質的特徴は異なるから,翻案に当たらない。
ク 別紙対比表4-2のエピソード7について (ア) 被控訴人主張の本件著作物2と本件映画との類似点@〜Bは,いずれも事実であって,表現ではない。
また,本来であれば一番の味方だと思われる家族から,思いがけず配慮のない心ない態度をとられた場合に,そういった事実を選択して記載するということは,事実の選択としてありふれたものだといえる。
よって,創作性がなく,著作物ではない。
(イ) 本件著作物2では,被控訴人が両親に事件を打ち明けた日の出来事というより,むしろ事件について告白した際の母親の対応とそれについてショックを受けたという被控訴人の心情が端的に記載されているのに対し,本件映画では,強姦被害を告白したその日に,主人公と両親とが一気に対立する構造になる様子が,スピードと激しさをもって描かれている(親に対してどなりつける主人公と,それに対し平手打ちで応酬する父親など,極めて動的な描写がなされている。。
) また,本件映画では,それまでは「普通に」社会生活を送っていた(社会的弱者ではなかった)主人公が,強姦被害に遭って社会的弱者に陥ったことによって,社会的弱者ではない両親との会話が成り立たなくなり,婚約者に続き両親からも疎外されたこと(社会からの疎外第二段階) 他方で同じ社会的弱者である兄との会話が , 成立するようになることで,主人公の住む世界がそれまでと変わってしまったことが,フランツ・カフカの『変身』になぞらえて象徴的に描かれているが,本件著作物2には,そのような描写や視点は一切描かれていない。
よって,本件著作物2と本件映画とでは,その本質的特徴は異なるから,翻案に当たらない。
(2) 台詞についての複製権又は翻案権侵害について 被控訴人が共通しているという台詞はいずれも短く,また,表現内容もありふれたものであって,およそ著作物たり得ない。また,仮に,著作物性が認められるとしても,このような短い表現についての同一性又は類似性が認められる範囲は狭く,いわゆるデッドコピーのようなもの以外は認められるべきではない。さらに,各台詞が発言された状況は,本件各著作物と本件映画とではそれぞれ異なり,当該台詞により表現される内容も異なるから,これらの表現に同一性又は類似性はない。
以上のとおり,本件映画におけるこれらの台詞と本件各著作物における台詞との間に同一性又は類似性はなく,複製又は翻案になることはない。」 (2) 当審における控訴人の補充主張 ア 人格権に基づく請求について (ア) 本件映画の主人公が被控訴人と同定されるおそれがないこと 本件映画の主人公と被控訴人との同定可能性は,本件映画が本件各著作物と無関係であることを示すテロップ(例えば「この映画はY氏その他の実在の人物・団体等とは一切関係なく,Y氏その他の人物・団体等の許諾を得ずに作成されたものです。この映画の主人公の言動及び主人公とその両親との関係については,すべてフィクションであり,Y氏その他実在の人物・団体等とは一切関係ありません。」といったテロップ)を入れることで可及的に防止できる。
そして,控訴人は,本件映画と被控訴人又は本件映画と本件各著作物とが関係があると解されることは本意ではないから,そうしたテロップの記載なしに本件映画を上映等することは考えていない。
したがって,人格権侵害の危険性は,存在しない。
原判決は,控訴人が原審においても具体的な打消し表示を提案したにもかかわらず,これを何ら顧慮することなく,同定可能であると断定したもので,不当である。
(イ) 主人公の両親が主人公を殺害する表現は主人公の社会的評価を低下させないこと 一般論として,家族に犯罪者がいるということが,犯罪者の家族についても「犯罪者側」の一員とみなされて,その社会的地位を低下させることがあり得るとしても,その犯罪の被害者自身が犯罪者の家族である場合には, 「犯罪者側」の一員とみなされて,その社会的地位が低下するということは,およそ考え難い。
(ウ) 主人公が「おちんちん」と発言したことは主人公の社会的評価を低下させないこと 「おちんちん」という言葉は,女性が公衆の面前で発言することは憚られる言葉ではあるが,男性器を示す言葉として一般に広く使用されている言葉であり,幼い男児がいる家庭ではそれこそ日常的に使用されている言葉であるから,おちんちん」 「という言葉を発言したことが直ちに発言者の社会的地位を低下させるものではない。
そして,主人公が「おちんちん」という言葉を発言した相手は,恋人,兄,夫であり,いずれも主人公の周囲の人間の中でも最も親しい人として描かれている人である。そのような関係性の人に対して,二人きりのときに「おちんちん」と発言することがあったとしても,主人公の社会的地位を低下させることはおよそ考え難い。
(エ) 名誉感情の侵害に基づく差止請求は認められないこと 名誉感情の侵害は,客観的な認定が困難であり,社会的影響が大きいとはいえない主観的な評価の侵害である。表現の自由が民主主義の根幹である憲法上の権利であることに鑑みれば,そのような名誉感情の侵害のみに基づく差止請求は認められない。
(オ) 差止の対象となる範囲が不必要に広範であること 原判決別紙侵害認定表現目録記載1については,両親が実際に主人公を殺害する 「和代は,背後から玲奈の首に浴衣の帯をかけると締め上げていく」以降の差止めを認めれば足りるはずであり,それ以前の表現を差し止める必要はない。
また,原判決別紙侵害認定表現目録記載2については, 「おちんちん」の言葉についてのみ差止めを認めれば足りるはずであり,それ以外の表現を差し止める必要はない。
イ 本件各著作物不使用の合意に基づく請求について (ア) 本件各著作物不使用の合意は成立していないこと 控訴人は,当初は本件各著作物の翻案に該当し得る内容の映画を製作しようと考えていたが,乙4メールにより上映予定日の約3か月前に被控訴人に拒否されたことから,被控訴人をモデルとはしない映画を製作しようと考えた。著作権侵害にならない範囲で映画を製作する以上,本来,被控訴人に連絡する必要はないが,控訴人は,本件各著作物に記載されている事実や設定等については利用したいと考えており,そのためには被控訴人の許諾を得る必要があると考え,乙5メールによりAに連絡した。
このように,乙5メールは,本件各著作物の著作権侵害になり得ない事実の部分についてまで使用しないことを合意するものではない。乙5メールには, 「事実に即して『参考文献』としてクレジットすべきかとは存じますが」と記載されているが,本件各著作物の事実を一切使用しないのであれば,参考文献として本件各著作物を記載する必要はないはずである。乙5メールの「『著作権侵害』に抵触する行為は一切いたしません」との記載をも併せ考慮すると,控訴人は,本件各著作物の著作権侵害になり得ない事実の部分については参考として使用するつもりであったといえる。
このことは,@上映予定日まで時間がないという状況で,一方的に控訴人のみが義務を負い,不必要に自らを制約するような申し出をすることは考え難いこと,A控訴人が上映直前にあえて被控訴人に連絡をしたこととも符合する。
原判決は,被控訴人が著作権を有していない事実や設定についてまで不使用の合 意を安易に認定すべきではないという前記@の点について,何ら検討をしていない。
甲8メールの「Yさんに否定された脚本の一部を使用したことにつきまして,あらためて心よりお詫び申し上げます」との記載は,本件各著作物の事実を使用することについては既に承諾を得ているものの,結果として被控訴人が拒否した第1稿の脚本の一部を使用したことを,被控訴人の心情に配慮して謝罪したにすぎず,謝罪の対象は,被控訴人が否定した脚本の一部を使用したことであり,本件各著作物の事実を使用したことではない。
(イ) 本件各著作物不使用の合意は錯誤無効であること 控訴人は,乙5メールの作成当時,本件各著作物に記載されている事実や設定等については利用したいと考えており,乙5メールにおける「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします」という記載が本件各著作物の事実の利用をも制限するものであると認識していれば,そのような記載はしなかったし(乙26),一般的にも,何の見返りもなく一方的に,法令で定められている以上の義務を自らに課す内容となっていることを認識していれば,そのような記載をしないことが通常である。
また,控訴人が上記記載を行ったのでは,@ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の上映日まで間もなく,今から新しい映画を作ることは不可能であり,非常に動揺していたこと,A今まで長い時間をかけて話を練ってきた被控訴人から何らの説明もなく,しかも本人ではなく代理人から,ただ原作・原案としての使用を拒否する旨の通知が届いたことに驚愕したこと,Bなんとか性犯罪被害をテーマにした映画を製作し,被控訴人の事実等を利用させてもらうため,被控訴人に対しておもねる内容の記載をせざるを得なかったこと,C控訴人は法律の専門家ではなく,難解な著作権法の理解が十分ではない一般人であること,D正式な文書ではなく,簡易なやり取りである電子メールでの連絡であり,十分な吟味がなされなかったことといった事情によるものであり,控訴人に重過失はない。
したがって,本件各著作物不使用の合意は,錯誤(民法95条)により無効であ る。
(ウ) 本件各著作物不使用の合意に基づく差止請求は認められないこと 仮に,本件各著作物不使用の合意が認められたとしても,本件各著作物不使用の合意に基づき使用が禁止される場面・台詞の範囲は余りにも不明確であるし,原審が差止めを認めた本件著作物1と同一趣旨の場面・台詞の使用についても,これを禁止することは乙5メール及び乙6メールに明示されていない。
通常,差止請求が認められるのは,法令上規定がある場合,判例上認められている場合,あるいは明確に合意がある場合に限られている。合意自体に争いがある場合や,差止めの対象となる範囲が合意内容からは明らかでないような場合は,特に差止めの対象が表現物であるときには,差止めは認められるべきではない。合意の範囲の認定という名目で,何らの明確な基準もなく,裁判所による事前抑制が行われてしまうからである。
上記のとおり,本件各著作物不使用の合意の内容が表現物を差し止めるほどに明確に特定されたものではない以上,裁判所による表現物差止めは,表現の自由への配慮から慎重になされる必要があるという観点からも,本件各著作物不使用の合意に基づく差止請求は認められず,金銭賠償により処理すべきである。
(エ) 本件映画が本件各著作物不使用の合意に反して使用した場面・台詞を認定した原判決別紙確定稿対比表には誤りがあること 原判決別紙確定稿対比表は,被控訴人の陳述書の添付資料をそのまま流用したものであり,別紙控訴人確定稿対比表の「控訴人の見解」欄記載のとおり,本件映画では使用されていない場面が含まれている。
原判決別紙確定稿対比表における本件映画が本件各著作物不使用の合意に反して本件各著作物の場面・台詞を使用したとの認定に対する控訴人の反論は,別紙控訴人確定稿対比表の「控訴人の見解」欄記載のとおりである。
(3) 被控訴人の反論 ア 人格権に基づく請求について (ア) 本件映画と本件各著作物との共通点が極めて多いにもかかわらず,控訴人主張のテロップによって,被控訴人が本件映画の主人公のモデルであることを認識しないということはあり得ない。
(イ) ある人の親が誰かを殺そうとした,あるいは殺しかねない人間であるという事実が公になった場合,その被害者が他人である場合には子の社会的評価が低下するのに,子が被害者であれば一転して子の社会的評価が低下しないということはあり得ない。
(ウ) 本件映画の主人公である若い大人の女性が,わずか90分間の映画の中の異なる3つの場面で,全く必要がないにもかかわらず, 「おちんちん」という言葉を口にしているのは,その主人公が「おちんちん」という言葉を頻繁に口にする人間であるという印象を観客に与えるものである。
(エ) 名誉感情は,主観的なものとはいえ,侵害の認定は可能であり,人格権の侵害が認定される場合に差止めを否定すべき理由はない。
(オ) 原判決別紙侵害認定表現目録記載1については,薄暗い寝室で主人公が母と2人で寝ているところで,母が唐突に「あなたのしたことは間違いだったわね」と言い,出張に行っていると聞かされていた父がいつのまにか主人公の足元に立っていて, 「毒をまき散らす虫は,駆除しなけりゃならん,お父さん,そう思うんだ」と言うのは,それだけで両親が主人公を殺すことを観客に想像させる。
また,原判決別紙侵害認定表現目録記載2について, 「おちんちん」という言葉の差止めを認めたのでは,主人公の台詞のうち「おちんちん」という部分だけをアテレコで男性器の別の呼び方に替えるだけで差止めの対象外となってしまい,それでは主人公が男性器の名称を無闇に口にする品位のない女性であることに変わりがない。
イ 本件各著作物不使用の合意に基づく請求について (ア) 控訴人は,その製作する性犯罪被害をテーマとする映画に本件各著作物の場面・台詞を使用しないことを条件として,その映画の製作の続行に異議を述 べないこと(完成した映画にクレームや批判をしないことも含む趣旨と解される。)を被控訴人に求め,被控訴人はその求めに応じたのであるから,本件各著作物不使用の合意は控訴人のみが一方的に義務を負うものではない。
また,控訴人は,被控訴人から前記の約束を得るのが何よりも重要だと考え,控訴人自身が認めているように被控訴人におもねるために,文字通りの意味を被控訴人に伝えるつもりで, 「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします。」と記載したものである。
さらに,参考文献という言葉は,様々な意味に使える言葉であり,他の著作物の事実や設定を使うことを当然に意味する言葉ではない。
(イ) 前記(ア)のとおり,乙5メールでの「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします。」という意思表示の真意が,「本件各著作物の設定や事実を利用します(させてください)」といったものだったというのは,極めて非現実的であるが,仮にそのような錯誤があったのであれば,真意と正反対の意思表示をしたことに重過失があるのは明白である。
(ウ) 本件各著作物不使用の合意が,本件各著作物のものと同一の場面・台詞と,本件各著作物の読者が本件映画を鑑賞した場合に本件各著作物のものが利用されていると同定できる程度に類似している場面・台詞の使用を禁止するものであることは明らかであり,全く不明確ではない。また,本件映画には,差止めの対象となるかどうかの判断が微妙な境界線上のケースなどはなく,その場面や台詞の相当部分(原判決別紙確定稿対比表の赤色,緑色及び水色部分)が,本件各著作物不使用の合意によって禁止される範囲に含まれることが明らか,つまり,本件各著作物のものと同一か,あるいは,本件各著作物のものが利用されていると本件各著作物の読者が同定できる程度に類似していることが明らかである。
(エ) 控訴人は,原判決別紙確定稿対比表の赤色,緑色,水色部分において,本件各著作物の場面・台詞が本件映画に使用されているとの原判決の認定に対し,別紙控訴人確定稿対比表の「控訴人の見解」欄において,るる反論しているが,細 かい違いがあっても,本件各著作物の読者が本件映画を鑑賞した場合に,本件各著作物のものが利用されていると同定できる程度に類似している場面・台詞は,本件各著作物不使用の合意による禁止の範囲に含まれるのであるから,控訴人確定稿対比表における控訴人の反論には理由がない。
当裁判所の判断
当裁判所は,主文のとおり原判決を変更すべきものと判断する。その理由は,下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の第5に記載のとおりである。
1 原判決の補正 (1) 原判決「事実及び理由」欄の第5の2(2)(30頁18行〜40頁20行)を,次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (2) 別紙対比表4-1及び4-2の各エピソードについて ア 別紙対比表4-1のエピソード3について (ア) 別紙対比表4-1のエピソード3において,本件著作物1と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,A公園に駆け付けた元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,B被控訴人(主人公)はうなずくことしかできなかったこと,C元恋人(婚約者)が,被控訴人(主人公)が性犯罪被害を受けたことを知ってやり場のない怒りで手近な物に当たる様子,D被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対して「ごめんなさい」と謝り続けたこと,及びその著述(描写)の順序が共通し,同一性がある。
なお,被控訴人は, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に助けを求めたことも,本件著作物1と本件映画とで共通する点として主張するが,本件著作物1では,被控訴人が元恋人に電話を掛け,電話越しに異変を察知した元恋人が被控訴人の状況を確認しようとし,その場にいることを命じ たという,助けを求める具体的な場面が著述されているのに対し,本件映画では,婚約者が息を切らしながら走っていることの描写と上記A〜Dのやりとりを通じて,主人公が元恋人に助けを求めたことが暗に表現されているのであるから,言語の著作物映画の著作物との表現形態の差異を考慮しても,本件著作物1における被控訴人が元恋人に助けを求める場面の著述と共通する描写が,本件映画においてなされているものと認めることはできない。
(イ) そして,前記(ア)の本件著作物1の著述中の同一性のある部分(以下「本件著作物1-3の同一性ある著述部分」という。)は,それぞれの著述だけを切り離してみれば,事実の記載にすぎないようにも見えるものの,本件著作物1-3の同一性ある著述部分全体としてみれば,自ら助けを求めた元恋人から尋ねられたにもかかわらず,性犯罪被害に遭った事実を告げることができず,うなずくことと「ごめんなさい」を繰り返すことしかできない性犯罪被害直後の被害女性の様子と,助けを求められて駆け付けたにもかかわらず,何も助けることができなかったというやり場のない怒りを,大声を出すことと物にぶつけるしかない元恋人の様子とを対置して,短い台詞と文章によって緊迫感やスピード感をもって表現することで,単に事実を記載するに止まらず,被害に遭った事実を口に出すことの抵抗感や,被害に遭ってしまった悔しさ,やるせなさ,被害者であるにもかかわらず込み上げてくる罪悪感をも表現したものと認められる。
そうすると,本件著作物1-3の同一性ある著述部分は,被控訴人が被害を受けた当事者としての視点から,前記A〜Dの各事実を選択し,被害直後の被控訴人の状況や元恋人とのやりとりを格別の修飾をすることなく短文で淡々と記述することによって,被控訴人の感じた悔しさ,やるせなさ,罪悪感等を表現したものとみることができ,その全体として,被控訴人の個性ないし独自性が表れており,思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。
(ウ) 本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード3の本件映画欄の描写(ただし,「公園近く・路上(夜)」から「公園の入口が視界に飛びこんでくる。」 までの冒頭3行を除く。)は,前記(ア)認定の表現上の共通性により,本件著作物1-3の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画の上記描写に接することにより,本件著作物1-3の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件著作物1-3の同一性ある著述部分を翻案したものと認められる。
(エ) 控訴人は,前記(ア)の類似点A〜Dは,いずれも事実であり,その選択や配列にも創作性ないし特段の工夫があるものではないし,Cに至っては,共通するのは事実ではなく,その表現の元となるアイディアやコンセプトにすぎないから,本件著作物1-3の同一性ある著述部分には,創作性がなく,著作物ではないと主張する。
しかしながら,上記Cは,性犯罪被害を打ち明けられた元恋人(婚約者)がやり場のない怒りを大声と手近な物にぶつける様子であり,なお事実としての具体性を失ってはいないものといえるから,アイディアではなく,事実又は表現が共通するということができる。そして,上記A〜Dの著述を含む本件著作物1-3の同一性ある著述部分は,単なる事実の記載に止まらず,思想又は感情を創作的に表現したものであって,創作性があり,著作物性を認めることができることは,前記(イ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
(オ) 控訴人は,本件著作物1では被控訴人の視点で描かれているのに対し,本件映画では婚約者に寄り添った視点で描かれているなど,本件著作物1と本件映画とでは,その表現の本質的特徴が全く異なるから,翻案に当たらないと主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,翻案に当たるか否かは,本件映画に接する者が本件著作物1-3の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか否かにより判断されるべきものであり,控訴人の主張するような視点やその表現部分の意味内容などは,表現(形式)上の本質的な特徴を構成する限度で考慮されるにすぎないというべきである。そして,本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード3の本件映画欄の描写(ただし,「公園近く・路上(夜)」から 「公園の入口が視界に飛びこんでくる。」までの3行を除く。)に接した者は,前記(ア)の表現上の共通性により,本件著作物1-3の同一性ある著述部分における表現上の本質的な特徴を直接感得することができることは,前記(ウ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
イ 別紙対比表4-2のエピソード3について (ア) 別紙対比表4-2のエピソード3において,本件著作物2と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,A公園に駆け付けた元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,B被控訴人(主人公)はうなずくことしかできなかったこと,C元恋人(婚約者)が,被控訴人(主人公)が性犯罪被害を受けたことを知ってやり場のない怒りで手近な物に当たる様子,D被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対して「ごめんなさい」と謝り続けたこと,及びその著述(描写)の順序が共通し,同一性がある。
また,言語の著作物映画の著作物との表現形態の差異を考慮しても,本件著作物2における@被控訴人が元恋人に助けを求める場面の著述と共通する描写が,本件映画においてなされているものと認めることはできない。
(イ) 前記(ア)認定の本件著作物2と本件映画との表現上の共通点は,前記アの別紙対比表4-1のエピソード3と同一である。
そうすると,前記アと同様の理由により,本件映画のうち,別紙対比表4-2のエピソード3の本件映画欄の描写(ただし,「公園近く・路上(夜)」から「公園の入口が視界に飛びこんでくる。」までの3行を除く。)は,前記(ア)の本件著作物2の著述中の同一性のある部分を翻案したものと認められる。
ウ 別紙対比表4-1のエピソード4について (ア) 別紙対比表4-1のエピソード4において,本件著作物1と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@事件翌朝に元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)に仕事を休むように勧めたこと,Aそれに対し,被控訴人(主人公)が,事件を理由に仕事を休むことはできないと拒んだことが共通し,同一性がある。また, Aの場面の本件著作物1の「なんて言って休めばいいの?」という言葉と,本件映画の「なんて言って休んだらいいの?」という台詞とは,ほぼ同一である。
(イ) そして,前記(ア)の本件著作物1の著述中の同一性のある部分(以下「本件著作物1-4の同一性ある著述部分」という。)は,性犯罪被害に遭った翌朝の元恋人との会話の形式で,被害を他人に知られることに対する恐怖,被害に遭った事実は現実であるのにこれを正直に話すことはできないやるせなさ,平常を装うしかない無力感,不条理さ等を表現したものと認められ,そのための事実の選択や感情の形容の仕方,叙述方法の点で被控訴人の個性ないし独自性が表れており,表現上の創作性が認められる。
(ウ) 本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード4の本件映画欄の描写は,前記(ア)認定の表現上の共通性により,本件著作物1-4の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画の上記描写に接することにより,本件著作物1-4の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件著作物1-4の同一性ある著述部分を翻案したものと認められる。
(エ) 控訴人は,前記(ア)の類似点@及びAは,いずれも事実であり,そのような特筆すべき事実の選択もありふれたものであるから,本件著作物1-4の同一性ある著述部分には,創作性がなく,著作物ではないと主張する。
しかしながら,前記(イ)のとおり,上記@及びAの著述を含む本件著作物1-4の同一性ある著述部分は,単なる事実の記載に止まらず,思想又は感情を創作的に表現したものであって,創作性があり,著作物性を認めることができるから,控訴人の主張は,理由がない。
(オ) 控訴人は,本件著作物1と本件映画とでは,被控訴人(主人公)における仕事を休めないとする意味合いや,被控訴人(主人公)と元恋人(婚約者)との関係が異なり,その表現の本質的特徴が全く異なるから,翻案に当たらないと主張する。
しかしながら,前記ア(オ)と同様の理由により,控訴人の主張するような表現部分の意味内容や登場人物の関係性などは,表現(形式)上の本質的な特徴を構成する限度で考慮されるにすぎないというべきである。そして,本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード4の本件映画欄の描写に接した者は,前記(ア)の表現上の共通性により,本件著作物1-4の同一性ある著述部分における表現上の本質的な特徴を直接感得することができることは,前記(ウ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
エ 別紙対比表4-1のエピソード6について (ア) 別紙対比表4-1のエピソード6について,被控訴人は,エピソード6-1及び6-2を一体のものとして,本件映画と対比しているが,本件著作物1において,エピソード6-1と6-2とは,30頁以上離れた著述であり,エピソード6-1が「第二反応」という章の後半に位置するのに対し,エピソード6-2は,その次の「二次被害」という章の更に次の「ゼロ地点」という章の中盤に位置するものであって,時系列的にも,エピソード6-1が,事件の1週間ほど前に喧嘩別れした元恋人が事件後に再び被控訴人の様子を見に来るなどしてくれていた時期の出来事であるのに対し,エピソード6-2は,事件から9か月ほど経ち,元恋人と再び喧嘩別れした後の出来事であり,一体のエピソードとは認め難いものである。
そうすると,本件映画に接した者が,エピソード6-1及び6-2について,その間に30頁以上もの著述(表現)があるにもかかわらず,それらの著述を考慮することなく,エピソード6-1及び6-2を合わせた著述の表現上の本質的な特徴を本件映画から直接感得するということは,およそ考え難いというべきであるから,エピソード6-1及び6-2を一体のものとして,本件映画と対比することは相当でないというべきである。
そして,被控訴人の主張は,エピソード6-1と6-2とをそれぞれ別個に本件映画と対比して,翻案を主張する趣旨を含むと解されるから,以下,エピソード6 -1と6-2とをそれぞれ別個に本件映画と対比して検討する。
(イ) 別紙対比表4-1のエピソード6において,エピソード6-1と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対し,また自分が襲われてもいいのかなどと挑発的,脅迫的な発言をしたこと,A元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)に対し,被控訴人(主人公)が被害に遭ったことを本当は喜んでいたとか,スリルがあって気持ちいいと思っていたとか,被害を受けた被控訴人(主人公)と付き合っているだけで感謝して欲しいなどという,被控訴人(主人公)の気持ちを逆撫でし,被控訴人(主人公)を絶望させるような発言をしたことが共通し,同一性がある。また,@の場面の本件著作物1の「また襲われてもいいの?」という言葉と,本件映画の「健ちゃんはまた私が襲われてもいいの?」という台詞,Aの場面の本件著作物1の「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」や「お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ。感謝しろ!」という言葉と,本件映画の「おまえさあ,その二人組だっけ,犯されているとき,本当は興奮して濡れてたんだろ?また犯されたいって,今もそう思ってるんだろう?」や「今までつきあってやっただけでも感謝してほしいね」という台詞とは,ほぼ同一である。
(ウ) そして,前記(イ)の本件著作物1(エピソード6-1)の著述中の同一性のある部分(以下「本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分」という。)は,事件後の被控訴人と元恋人との会話の中から,激しい挑発的な内容の発言を選択して,これを続けざまに列挙して著述(表現)することにより,単に事実を記載するに止まらず,性犯罪被害に遭った被控訴人が元恋人に対して甘えて依存し,元恋人には自分を護るべき義務があるというような気持ちを抱き,これを元恋人に対し脅迫的な言動でぶつけてしまうしかなかった被控訴人の不条理かつ不安定な精神状態や,被控訴人の気持ちを理解しようとしながらも,受け止めることが負担になり,被控訴人に反発し,あるいは,支えようとした被控訴人を逆におとしめてでも,自らを正当化しようとするまでに,精神的に追い詰められていった元恋人の精神状態 などをも表現したものと認められる。
そうすると,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分は,被控訴人が被害を受けた当事者としての視点から,前記@及びAの各事実を選択し,事件後の被控訴人と元恋人との会話を生々しく記述することによって,被控訴人の感じた上記の不条理かつ不安定な精神状態や,元恋人を精神的に追い詰めてしまったことに対する申し訳なさ等を表現したものとみることができ,その全体として,被控訴人の個性ないし独自性が表れており,思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。
(エ) 本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード6の本件映画欄の描写(ただし, 「玲奈『ごめんなさい,これからは健ちゃん」から「とは忘れて,幸せになって』【画像6-4】」までの末尾5行を除く。)は,前記(イ)認定の表現上の共通性により,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画の上記描写に接することにより,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分を翻案したものと認められる。
(オ) 控訴人は,前記(イ)の類似点@及びAは,いずれも事実であり,強姦事件が被害者が交際していた異性との関係に与える悪影響を象徴的に示す事実を選択することはありふれた選択であるから,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分には,創作性がなく,著作物ではないと主張する。
しかしながら,上記@及びAの著述を含む本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分は,単なる事実の記載に止まらず,思想又は感情を創作的に表現したものであって,創作性があり,著作物性を認めることができることは,前記(ウ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
(カ) 控訴人は,本件著作物1のエピソード6-1では,別れのシーンではなく恋人たちの衝突のシーンとして描かれているのに対し,本件映画では,婚約者の一方的な意思に基づく別れが,主人公の社会からの疎外の第一段階として描かれ ており,本件著作物1と本件映画とでは,描かれているシーンも,その表現の本質的特徴も全く異なるから,翻案に当たらないと主張する。
しかしながら,前記ア(オ)と同様の理由により,控訴人の主張するような表現部分の意味内容などは,表現(形式)上の本質的な特徴を構成する限度で考慮されるにすぎないというべきである。そして,本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード6の本件映画欄の描写(ただし,「玲奈『ごめんなさい,これからは健ちゃん」から「とは忘れて,幸せになって』 【画像6-4】」までの末尾5行を除く。)に接した者は,前記(イ)の表現上の共通性により,本件著作物1-6-1の同一性ある著述部分における表現上の本質的な特徴を直接感得することができることは,前記(エ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
(キ) 他方,エピソード6-2は,わずか3行から成るごく短いものであり,その著述自体もありふれたものであって,被控訴人の個性が表れているということはできないから,創作性を認めることはできない。
オ 別紙対比表4-2のエピソード6について (ア) 別紙対比表4-2のエピソード6において,本件著作物2と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対し,また自分が襲われてもいいのかなどと挑発的,脅迫的な発言をしたこと,A元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)に対し,被害を受けた被控訴人(主人公)と付き合っているだけで感謝して欲しいという,被控訴人(主人公)の気持ちを逆撫でし,被控訴人(主人公)を絶望させるような発言をしたことが共通し,同一性がある。また,@の場面の本件著作物2の「また襲われてもいいの?」という言葉と,本件映画の「健ちゃんはまた私が襲われてもいいの?」という台詞,Aの場面の本件著作物2の「お前みたいな女と付き合ってやってるんだよ」という言葉と,本件映画の「今までつきあってやっただけでも感謝してほしいね」という台詞とは,ほぼ同一である。
(イ) 前記(ア)認定の本件著作物2と本件映画との表現上の共通点は,前記エ のエピソード6-1と本件映画との対比とほぼ同一である。
そうすると,前記エと同様の理由により,本件映画のうち,別紙対比表4-2のエピソード6の本件映画欄の描写(ただし, 「玲奈『ごめんなさい,これからは健ちゃん」から「とは忘れて,幸せになって』【画像6-4】」までの末尾5行を除く。)は,前記(ア)の本件著作物2の著述中の同一性のある部分を翻案したものと認められる。
カ 別紙対比表4-1のエピソード7について (ア) 別紙対比表4-1のエピソード7について,被控訴人は,エピソード7-1,7-2及び7-3を一体のものとして,本件映画と対比しているのに対し,控訴人は,エピソード7-1,7-2及び7-3は,同一エピソードとは認められず,これらを被控訴人が恣意的に選択して一つのエピソードとして著作権侵害を主張できるとする根拠も明らかではないと主張する。
そこで,検討すると,エピソード7-1,7-2及び7-3は,いずれも「二次被害」という章の前半に位置するものであり,エピソード7-1の冒頭である80頁7行目からエピソード7-3の末尾である84頁4行目まで,わずか4頁足らずの著述に含まれるものであり,その間の52行の著述のうち34行を抜き出したものである。また,その内容は,いずれも,被控訴人が事件後に両親から二次被害を受けたと感じた両親との会話を記述したもので,同一のテーマによる一塊の記述ということができる。以上に加え,引用されていない20行の中には,時系列的に過去の出来事に関して著述されているその余の部分とは異なり,著述時の被控訴人の考え方などが記載された異質な著述(82頁7行〜11行)も含まれていることをも併せ考慮すると,本件映画に接した者が,エピソード7-1,7-2及び7-3を合わせた著述の表現上の本質的な特徴を直接感得するということも,十分あり得るといえるから,エピソード7-1,7-2及び7-3を一体のものとして,本件映画と対比した上で,翻案権侵害の有無を判断することは,相当である。
(イ) 別紙対比表4-1のエピソード7において,本件著作物1と本件映画 とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@被控訴人(主人公)が意を決して,性犯罪被害に遭ったことを母親に告白したこと,Aそれに対して母親が被控訴人(主人公)を優しくいたわるどころか,逆に被害を打ち明けた被控訴人(主人公)を怒ったこと,Bその後も両親は被控訴人(主人公)を気遣うどころか厳しい言葉を投げ,それに対して被控訴人(主人公)が失望と怒りをぶつけたこと,C被控訴人(主人公)は母親に優しく抱きしめてもらいたかったが,その願いがかなわなかった点において共通し,同一性がある。また,Aの場面の本件著作物1の「なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!!」という言葉と,本件映画の「どうして今頃になってそんなことを打ち明けるの?お母さん,あなたの神経が信じられない!」という台詞,Bの場面の本件著作物1の「お前は強い子だから,そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないでしょ」という言葉と,本件映画の「お前は強い子だから,そんなことは気にせずに今までどおり生きていけるはずだ」という台詞,Bの場面の本件著作物1の「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど,私たちのせいでもないんだから,そんなことで私たちを責めないでよね!」という言葉と,本件映画の「あなたが襲われたのは,私たちのせいだって言うの?そんなの筋違いだわ!」という台詞とは,ほぼ同一である。
(ウ) そして,前記(イ)の本件著作物1の著述中の同一性のある部分(以下「本件著作物1-7の同一性ある著述部分」という。)は,性犯罪被害を受けた被控訴人が,母親に対し,母親にいたわってもらいたい,すぐに真実を告白できなかった自分を理解して欲しいとの思いで事件を告白したにもかかわらず,両親が,娘である被控訴人が被害を受けた現実を受け止めることができず,被害に遭った被控訴人を逆に叱責するという態度を示したことを叙述することにより,被控訴人の悲しみ,失望,やるせなさ,被害者であるのに被害に遭った事実を隠さなければならないことに対する矛盾や怒り等を表現したものと認められる。
そうすると,本件著作物1-7の同一性ある著述部分は,被控訴人が被害を受けた当事者としての視点から,前記@〜Cの各事実を選択し,事件後の被控訴人と両 親とのやりとりを生々しく著述することによって,被控訴人の悲しみ,やるせなさ,怒り等を表現したものとみることができ,その全体として,被控訴人の個性ないし独自性が表れており,思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。
(エ) 本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード7の本件映画欄の描写は,前記(イ)認定の表現上の共通性により,本件著作物1-7の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画の上記描写に接することにより,本件著作物1-7の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件著作物1-7の同一性ある著述部分を翻案したものと認められる。
(オ) 控訴人は,前記(イ)の類似点@〜Cは,いずれも事実であり,家族から思いがけず配慮に欠ける心ない態度をとられた場合に,そのような事実を選択することはありふれた選択であるから,本件著作物1-7の同一性ある著述部分には,創作性がなく,著作物ではないと主張する。
しかしながら,前記(ウ)のとおり,上記@〜Cの著述を含む本件著作物1-7の同一性ある著述部分は,単なる事実の記載に止まらず,思想又は感情を創作的に表現したものであって,創作性があり,著作物性を認めることができるから,控訴人の主張は,理由がない。
(カ) 控訴人は,本件著作物1と本件映画とでは,事件を告白した直後の被控訴人(主人公)と母親との関係についての被控訴人(主人公)による分析の視点の有無や,被控訴人(主人公)と両親とが対立するスピードと激しさの相違,フランツ・カフカの『変身』になぞらえた象徴的な描写の有無が異なり,その本質的特徴が異なるから,翻案に当たらないと主張する。
しかしながら,前記ア(オ)と同様の理由により,控訴人の主張するような表現部分の意味内容などは,表現(形式)上の本質的な特徴を構成する限度で考慮されるにすぎないというべきである。そして,本件映画のうち,別紙対比表4-1のエピソード7の本件映画欄の描写に接した者は,前記(イ)の表現上の共通性により,本件著 作物1-7の同一性ある著述部分における表現上の本質的な特徴を直接感得することができることは,前記(エ)のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。
キ 別紙対比表4-2のエピソード7について (ア) 別紙対比表の4-2のエピソード7において,本件著作物2と本件映画とは, 「翻案該当性」欄記載のとおり,@被控訴人(主人公)が意を決して,性犯罪被害に遭ったことを母親に告白したこと,Aそれに対して母親が被控訴人(主人公)を優しくいたわるどころか,逆に被害を打ち明けた被控訴人(主人公)を怒ったこと,B被控訴人(主人公)は母親に優しく抱きしめてもらいたかったが,その願いがかなわなかった点において共通し,同一性がある。また,Aの場面の本件著作物2の「なんで今さらそんなこと言うの?あんたの言うこと,信じられない!」という言葉と,本件映画の「どうして今頃になってそんなことを打ち明けるの?お母さん,あなたの神経が信じられない!」という台詞とは,ほぼ同一である。
(イ) 前記(ア)認定の本件著作物2と本件映画との表現上の共通点は,前記カ(イ)の別紙対比表4-1のエピソード7の共通点のうち,Bその後も両親は被控訴人(主人公)を気遣うどころか厳しい言葉を投げ,それに対して被控訴人(主人公)が失望と怒りをぶつけたことを除く3点において同一であり,本件映画の台詞とほぼ同一の発言が3か所から1か所に減ったものである。
そして,前記カ(イ)の別紙対比表4-1のエピソード7の共通点として不足する部分を考慮してもなお,前記カと同様の理由により,本件映画のうち,別紙対比表4-2のエピソード7の本件映画欄の描写(ただし,1枚目17行の「玲奈『だって……』」から末行の「玲奈が部屋を出ていく。」までの37行を除く。)は,前記(ア)の本件著作物2の著述中の同一性のある部分を翻案したものと認められる。」 (2) 原判決「事実及び理由」欄の第5の2(4)及び(5)(41頁4行〜42頁25行)を,次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (4) 台詞の著作権の侵害について ア 被控訴人が,本件各著作物の台詞の著作権が侵害されているとして,別紙対比表4-1及び4-2において主張するのは,以下のとおりである。
@ 別紙対比表4-1のエピソード4における本件著作物1の「なんて言って休めばいいの?」という台詞について,本件映画の「なんて言って休んだらいいの?」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 A (a)別紙対比表4-1のエピソード6における本件著作物1の「また襲われてもいいの?」という台詞及び(b)別紙対比表4-2のエピソード6における本件著作物2の「また襲われてもいいの?」という台詞について,それぞれ本件映画の「健ちゃんはまた私が襲われてもいいの?」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 B 別紙対比表4-1のエピソード6における本件著作物1の「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」という台詞について,本件映画の「おまえさあ,その二人組だっけ,犯されているとき,本当は興奮して濡れてたんだろ?また犯されたいって,今もそう思ってるんだろう?」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 C (a)別紙対比表4-1のエピソード6における本件著作物1の「お前みたいな汚れた女とつき合ってやったんだ。感謝しろ!」という台詞及び(b)別紙対比表4-2のエピソード6における本件著作物2の「お前みたいな女と付き合ってやってるんだよ」という台詞について,本件映画の「今までつきあってやっただけでも感謝してほしいね」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 D 別紙対比表4-1のエピソード6における本件著作物1の「頼むから,もう俺のことは忘れて,幸せになってくれ。」という台詞について,本件映画の「頼むから,おれのことは忘れて,幸せになって」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 E (a)別紙対比表4-1のエピソード7における本件著作物1の「なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!!」という台詞及び(b)別紙対比表4-2のエピソード7における本件著作物2の「なんで今さらそんなこ と言うの?あんたの言うこと,信じられない!」という台詞について,本件映画の「どうして今頃になってそんなことを打ち明けるの?お母さん,あなたの神経が信じられない!」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 F 別紙対比表4-1のエピソード7における本件著作物1の「お前は強い子だから,そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないでしょ」という台詞について,本件映画の「お前は強い子だから,そんなことは気にせずに今までどおり生きていけるはずだ」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 G 別紙対比表4-1のエピソード7における本件著作物1の「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど,私たちのせいでもないんだから,そんなことで私たちを責めないでよね!」という台詞について,本件映画の「あなたが襲われたのは,私たちのせいだって言うの?そんなの筋違いだわ!」という台詞による複製権又は翻案権の侵害 イ 前記@ないしGの本件各著作物の台詞自体は,いずれもごく短いものであり,台詞そのものに表現上の創作性があるとはいえず,ありふれたものであって,各台詞はそれ自体で被控訴人の個性が表れているということはできない。
したがって,仮に,前記@ないしGの各台詞が類似又は同一と解されるとしても,上記台詞のみでは,思想又は感情を創作的に表現したものとはいえない。被控訴人の主張は,理由がない。
(5) まとめ 以上のとおり,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の本件映画における表現は,それに対応する本件各著作物の前示部分の著述を翻案したものと認められる。
そして,前記1認定の事実によれば,被控訴人が,控訴人に対し,本件映画の製作に本件各著作物を利用することについて許諾したとは認められないから,仮に,控訴人自身が,本件映画は本件各著作物から事実のみを抽出したものであり,著作権侵害に当たらないと認識していたとしても,少なくとも本件各著作物の利用について過失が存するものと認められる。
したがって,控訴人は,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現を不可分的に有する本件映画を製作したことにより,被控訴人が本件各著作物について有する著作権(翻案権)を侵害したものと認められる。」 (3) 原判決「事実及び理由」欄の第5の3(42頁26行〜43頁12行)を,次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「3 争点2(著作者人格権同一性保持権〕侵害の成否)に対する判断 同一性保持権を侵害する行為とは,他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいう(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁,同平成6年(オ)第1082号同10年7月17日第二小法廷判決・判時1651号56頁参照)。
控訴人は,前記2において当裁判所が翻案を認めた別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の本件映画における表現に対応する本件各著作物の各記述を視覚的又は聴覚的効果を生じさせる方法で表現し,かつ,これを媒体に固定する方法により,被控訴人の本件各著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつ,その表現形式に改変を加え,本件映画における別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の描写を行ったものであるから,控訴人は,被控訴人が本件各著作物について有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものと認められる。」 (4) 原判決「事実及び理由」欄の第5の5(1)(47頁5行〜48頁7行)を,次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (1) 前記1に認定した事実経過のとおり,控訴人は,本件各著作物に依拠した本件脚本1を完成させて被控訴人に送付したところ,平成25年12月11日,被控訴人から本件映画において本件各著作物を原作・原案として使用することを認めない旨の結論に達したとの乙4メールを受け取った。そして,控訴人は,被控訴人 の代理人であるAに対し,乙5メールにおいて, 『性犯罪被害』をテーマにした映 「画の制作を続行いたしたく存じます。, 」「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします。」と記載し,これに対し,被控訴人は,Aを通じて,控訴人に対し,乙6メールにおいて, 「どういうかたちであれど,映像化はできなかったと思います。, 参考資料として明記するのは問題ないそうで 」「す。」と伝えたことが認められる。
したがって,上記事実経過に照らせば,控訴人は,性犯罪被害をテーマにした映画の製作を続行する旨を被控訴人に約し,これに対して,被控訴人は,控訴人が本件各著作物に記載された場面・台詞を使用しないで映画の製作を続行するものと理解し,その限りにおいて,控訴人の性犯罪被害をテーマにした映画製作に同意したものと認められ,乙6メールを控訴人が受け取った時点で,控訴人と被控訴人との間で,控訴人が本件各著作物の場面・台詞を使用しないことを条件として性犯罪被害をテーマにした映画製作を続行することについての合意(以下「本件各著作物不使用の合意」という。)が成立したものと評価できる。
一方,証拠(甲1,2,4,6,7)によれば,控訴人が平成26年1月17日に完成させた確定稿は,その相当部分が本件脚本1のままであり(原判決別紙確定稿対比表における黄色部分は本件脚本1と同一の箇所であり,別紙合意に基づく差止一覧における赤色部分は本件著作物1と同一の箇所,緑色部分は本件著作物1とほぼ同趣旨の箇所,水色部分は本件著作物2と同一又は同趣旨の箇所である。 ,控 )訴人は,本件各著作物に記載された場面・台詞を使用して確定稿を完成したことが認められる。
以上によれば,控訴人は,本件各著作物不使用の合意に違反して,本件映画を製作したものと認められる。」 (5) 原判決49頁16行目に「エンドロールに『参考文献』と記したり」とあるのを「エンドロールに本件各著作物を参考文献として掲げている部分を削除したり」と改める。
(6) 原判決49頁25行目に「その点のみで」とあるのを「被控訴人が実名を公表して活動している性犯罪被害者であるということのみによって」と改める。
(7) 原判決「事実及び理由」欄の第5の6(1)(51頁5行〜52頁23行)を次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (1) 本件映画の上映等の差止請求について ア 本件映画のうち,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現が本件各著作物の翻案物に当たること,本件映画のその余の部分については,本件各著作物の複製又は翻案に当たらないか,複製又は翻案に当たる旨の主張がないことは,前記2において認定,説示したとおりである。
したがって,本件各著作物について被控訴人が有する著作権(翻案権)及び本件各著作物の二次的著作物について被控訴人が有する著作権(複製権,上映権,公衆送信権〔自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化権を含む。〕及び頒布権〔著作権法27条,28条,21条,22条の2,23条,26条〕 に基づく差止請求は, )別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現を含む本件映画の上映等の差止めを求める限度で理由がある。
また,本件各著作物について被控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権)に基づく差止請求は,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現を含む本件映画の複製物の頒布の差止めを求める限度で理由があるが,控訴人のみが控訴した本件においては,本件映画の複製物の頒布の差止めを認めなかった原判決を控訴人の不利益に変更することは許されない(なお,同一性保持権は,著作者の意に反する著作物及びその題号を「変更,切除その他の改変」をする行為のみを侵害行為としており,これらの改変がされた後の利用行為は侵害行為とされていない(著作権法20条) また, 。 著作権法113条1項同一性保持権の侵害とみなす行為として規定しているのは,同一性保持権の侵害行為によって作成された物を情を知って頒布する行為のほか,頒布目的の所持や頒布の申出,業としての輸出やその目的の所持等 の行為にとどまり,上映,複製,公衆送信及び送信可能化は含まれていない。そうすると,本件各著作物について被控訴人が有する同一性保持権に基づいて請求することができるのは,本件映画の複製物の頒布の差止め(控訴人は,同一性保持権を侵害する本件映画を自ら製作した者である上,本件映画が同一性保持権を侵害する旨判断した原判決にも接しているから,頒布時に情を知っていることは明らかである。)にとどまり,本件映画の上映,複製,公衆送信及び送信可能化差止めを求めることはできない。。
) イ 原判決別紙侵害認定表現目録記載の場面が被控訴人の人格権としての名誉権及び名誉感情を害する性質のものと認められることは,前記4において認定,説示したとおりである。
そして,前記前提事実のとおり,本件映画は,未だ公衆に対し公開されていないものであるから,憲法21条が保障する表現の自由に鑑み,被控訴人は,人格権としての名誉権に基づいて,上記場面のうち名誉権侵害に係る表現を含む限りにおいて,本件映画の公衆への提供,すなわち,上映,公衆送信及び送信可能化並びに本件映画の複製物の頒布の停止を求めることができるというべきである。
他方,同表現を含む本件映画が複製されたとしても,公衆に提供されない限り,被控訴人の名誉権及び名誉感情が害されるものではないから,人格権としての名誉権及び名誉感情に基づいて同映画の複製の差止めを求めることはできないものというべきである。
そして,上記場面のうち名誉権侵害に係る表現は,前記4(3)のとおり,原判決別紙侵害認定表現目録記載1の場面においては,主人公の両親が主人公の殺害の動機を示唆する発言も含めて,その全体が,主人公の両親が主人公を殺し,主人公の兄もまた両親に殺害されたことを示唆する表現であるから,同目録記載1の表現全部であるということができる。他方,同目録記載の2の場面においては,主人公があえて口にした「おちんちん」との表現が,主人公の社会的評価(ひいては主人公と同定される被控訴人の社会的評価)を低下させるのであるから,名誉権侵害に係る 表現は,同目録記載2の表現全部ではなく,同目録記載2のうち「おちんちん」との表現に限られるというべきである。
したがって,人格権としての名誉権に基づく差止請求は,別紙人格権侵害認定表現目録1〜4記載の表現を含む本件映画の上映,公衆送信及び送信可能化並びに本件映画の複製物の頒布の差止めを求める限度で理由がある。
ウ 控訴人が,被控訴人との間で,性犯罪被害をテーマにした映画を製作・発表するに際し,被控訴人の名前を使用せず,かつ,本件各著作物の場面・台詞を使用しないことを約し,かかる条件の下で当該映画の製作を続行する旨の合意(本件各著作物不使用の合意)をしたと認められること,並びに,本件映画には,別紙合意に基づく差止一覧記載の赤色部分,緑色部分及び水色部分において,それぞれ本件各著作物の場面・台詞が使用されていることは,前記5において認定,説示したとおりである。
そして,控訴人は,本件各著作物不使用の合意を前提とすれば,被控訴人に対し,本件各著作物の場面・台詞を使用した映画を製作したり,これを公表したりしないこと,換言すると,本件各著作物を使用した映画の上映,複製,公衆送信及び送信可能化を行わないこと,並びに本件映画の複製物の頒布を行わないことを約したものと認めるのが相当である。
したがって,本件各著作物不使用の合意に基づく差止請求は,本件各著作物の場面・台詞が使用されている別紙合意に基づく差止一覧記載の赤色部分,緑色部分及び水色部分の表現を含む本件映画の上映等の差止めを求める限度で理由がある。」 (8) 原判決「事実及び理由」欄の第5の6(2)(52頁24行〜54頁3行)を次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (2) 本件映画のマスターテープ等の廃棄請求について ア 本件映画のうち,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現が本件各著作物の翻案に当たることは,前記2において認定,説示したとおりである。
したがって,本件各著作物について被控訴人が有する著作権(翻案権)及び本件各著作物の二次的著作物について被控訴人が有する著作権(複製権,上映権,公衆送信権〔自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化権を含む。〕及び頒布権〔著作権法27条,28条,21条,22条の2,23条,26条〕)に基づく廃棄請求,並びに本件各著作物について被控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権)に基づく廃棄請求は,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現を含む本件映画のマスターテープ等の廃棄を求める限度で理由がある。
イ 原判決別紙侵害認定表現目録記載の場面が被控訴人の人格権としての名誉権及び名誉感情を害する性質のものと認められることは,前記4において認定,説示したとおりである。
しかしながら,人格権に基づく差止請求については,著作権法112条1項のような,侵害の予防に必要な作為を当然に請求することができる旨の法律の明文の規定がないこと,また,上記場面の表現を含む本件映画のマスターテープ等が存在していても,これらが公衆に提供されない限り,被控訴人の名誉権及び名誉感情が害されるものではないことに照らせば,同人格権に基づいて本件映画のマスターテープ等の廃棄を求めることはできないというべきである。
したがって,被控訴人の人格権に基づく本件映画のマスターテープ等の廃棄請求は,理由がない。
ウ 控訴人が,被控訴人との間で,性犯罪被害をテーマにした映画を製作・発表するに際し,被控訴人の名前を使用せず,かつ,本件各著作物の場面・台詞を使用しないことを約し,かかる条件の下で当該映画の製作を続行する旨の合意(本件各著作物不使用の合意)をしたと認められること,並びに,本件映画には,別紙合意に基づく差止一覧記載の赤色部分,緑色部分及び水色部分において,それぞれ本件各著作物の場面・台詞が使用されていることは,前記5において認定,説示したとおりである。
しかしながら,本件各著作物不使用の合意は,控訴人が,被控訴人に対し,本件 各著作物の場面・台詞を使用した映画を製作したり,これを公表したりしないことを約したものであって,そのような約定に反して本件各著作物の場面・台詞を使用した映画が製作された場合に,これを固定した媒体を廃棄することまで,当然にその内容に含むものということはできない。そして,本件各著作物不使用の合意に係る意思表示がされた乙5メール及び乙6メールを子細に検討しても,控訴人と被控訴人との間において,控訴人が本件各著作物の場面・台詞を使用した映画が製作された場合に,これを固定した媒体を廃棄する旨を合意したことを認めることはできない。
したがって,被控訴人の本件各著作物不使用の合意に基づく本件映画のマスターテープ等の廃棄請求は,理由がない。」 (9) 原判決「事実及び理由」欄の第5の7(1)(54頁5行〜22行)を次のとおり改める(なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。。
)「 (1) 著作者人格権の侵害による損害について 証拠(甲1,2,7,被控訴人本人〔12頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,突然,性犯罪の被害を受け,被害者であるにもかかわらず,社会ではかえってこれを公然といえない苦しみ,家族や周囲の人たちに理解されない悲しみや絶望,それを乗り越えて踏み出すためのきっかけ,勇気,他の性犯罪被害者達への支援と交流などを本件各著作物に著述したにもかかわらず,控訴人が,被控訴人の許諾を得ずに,別紙翻案権侵害認定表現目録記載1〜7の表現により本件各著作物を翻案したことが認められ,控訴人は,これにより前記3のとおり被控訴人の本件各著作物に係る著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものである。
したがって,被控訴人は,控訴人による上記行為により,相当な精神的苦痛を被ったものと推認するのが相当であり,上記侵害の内容及び本件記録に顕れた諸事情を考慮すれば,被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料の額は50万円とするのが相当である。
なお,控訴人は,本件映画祭の直前になって被控訴人が翻意して映画化について許諾しなかったことをもって,被控訴人に過失がある旨主張しており,同主張は,過失相殺をいう趣旨と解されるが,そもそも,被控訴人が,最終的な脚本の内容を確認した上で,本件各著作物の映画化を正式に許諾する予定であったことについては,控訴人も了解していたものであって,本件映画祭直前に映画化についての許諾をしなかったことをもって,被控訴人に過失があるということはできない。」 (10) 原判決55頁1行目及び10行目にそれぞれ「本件合意」とあるのをいずれも「本件各著作物不使用の合意」に改める。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断 (1) 人格権に基づく請求について ア 控訴人は,本件映画が本件各著作物と無関係であることを示すテロップを入れることにより,本件映画の主人公と被控訴人との同定可能性を可及的に防止できるから,人格権侵害のおそれはないと主張する。
しかしながら,原判決の引用部分で適切に認定説示されているとおり,本件映画の主人公と被控訴人とは,本件映画の全般にわたる多数の共通点により同定されるものであり(原判決「事実及び理由」欄の第5の4(1)参照),控訴人主張のテロップを入れたとしても,上記共通点が維持されている限り,本件映画の主人公が被控訴人であると同定することはなお可能であるというべきである(原判決「事実及び理由」欄の第5の5(2)イ参照)。控訴人の主張は,理由がない。
イ 控訴人は,一般論として,家族に犯罪者がいるということが,犯罪者の家族についても「犯罪者側」の一員とみなされて,その社会的地位を低下させることがあり得るとしても,その犯罪の被害者自身が犯罪者の家族である場合には, 「犯罪者側」の一員とみなされて,その社会的地位が低下するということは,およそ考え難いから,本件映画の主人公の両親が主人公を殺害する場面は主人公の社会的評価を低下させるものではないと主張する。
しかしながら,両親が殺人という反倫理性が極めて高い犯罪に及ぶ者であるという事実を摘示することは,そのような両親に育てられたことにより同様の倫理観,価値観を有するのではないかなどとみられるおそれがあり,その者の社会的評価を低下させる側面を有することは否定できない。そして,このことは,その者が当該犯罪の被害者となり相応の同情を集めることがあるとしても,容易に回復するものではない。控訴人の主張は,理由がない。
ウ 控訴人は,本件映画の主人公が「おちんちん」という言葉を発言した相手が恋人,兄,夫という最も親しい人であり,そのような者と二人きりのときに「おちんちん」と発言したとしても,主人公の社会的地位を低下させるものではないと主張する。
しかしながら,原判決の引用部分で適切に認定説示されているとおり,控訴人主張のような最も親しい人と二人きりであるという「プライベートな会話」であるとしても,不必要に「おちんちん」という言葉を発することは,主人公が品位のない女性であるとの印象を与えるものであり,その社会的評価を低下させるものというべきである(原判決「事実及び理由」欄の第5の4(3)イ参照)。控訴人の主張は,理由がない。
エ 控訴人は,名誉感情の侵害のみに基づく差止請求は認められないと主張する。
しかしながら,本訴において,被控訴人に人格権としての名誉権に基づく差止請求が認められる以上,これとは別に人格権としての名誉感情に基づく差止請求の成否を検討する必要はない。
オ 控訴人は,原判決の人格権に基づく差止めの対象が不必要に広範であると主張するが,これに対する判断は,前記1(7)の補正のとおりである。
(2) 本件各著作物不使用の合意に基づく請求について ア 控訴人は,上映予定日まで時間がないという状況で,一方的に控訴人のみが義務を負い,不必要に自らを制約するような申し出をするとは考え難いことや, 乙5メールの「事実に即して『参考文献』としてクレジットすべきかとは存じますが」という記載及び「『著作権侵害』に抵触する行為は一切いたしません」という記載等を考慮すれば,本件各著作物不使用の合意は成立していないと主張する。
しかしながら,前記1(4)のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおり,控訴人と被控訴人との間においては,乙5メール及び乙6メールに先立ち,本件各著作物に記載された場面・台詞を使用した本件脚本1が共通認識となっていたところ,乙5メールには, 「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします。」と明記されている上,被控訴人の著作権が及ばないことが明らかである 『性犯罪被害』 「 をテーマにした映画の制作」についても, 「今後について,ご相談申し上げます。私どもは『性犯罪被害』をテーマにした映画の制作を続行いたしたく存じます。, 」「もし,それでも映画の製作は続行せず即刻中止してほしい,というご希望でしたら,お申しつけ下さい。」と記載されている。以上に加え,テレビ番組等の制作に携わるという職業に従事し,著作権が問題となる場面に接する機会が多い控訴人において,出版社の担当者として,同様に著作権が問題となる場面に接する機会が多いAに対し,著作権侵害を行わないという当然の事柄のみを約する趣旨で,あえて長文の乙5メールに記載したものとは考え難いことを考慮すれば,控訴人は,乙5メールにより,性犯罪被害をテーマにした映画の製作を続行するに当たっては,本件各著作物に記載された場面・台詞を使用しないことを約し,被控訴人は,乙6メールにより,これに同意したものというべきであり,本件各著作物不使用の合意の成立を認めることができる。
乙5メールの時点で,上映予定日まで時間がないという状況にあったことは,控訴人主張のとおりであるが,上記のとおり,乙5メールには,被控訴人に対し,控訴人が「性犯罪被害」をテーマにした映画の製作の続行を中止することを希望するか否かを尋ねる記載もあるから, 「性犯罪被害」をテーマにした映画の製作の続行をする中で,著作権法による制約を超える制約を甘受する旨を約することが不合理であるとはいえないし,かえって出版社の担当者に宛てた乙5メールにおいて,著作 権侵害を行わないという当然の事柄のみを条件として「ご相談」したとみる方が不自然というべきである。そして,このことは,控訴人が甲8メールにおいて, 「Yさんに否定された脚本の一部を使用したことにつきまして,あらためまして心よりお詫び申し上げます。」とわざわざ記載していることにも沿うものである。
また,控訴人が本件各著作物に記載された場面・台詞を使用せずに,性犯罪被害に関する映画を製作する場合であっても,控訴人において,本件各著作物に記載された,性犯罪被害を受けた女性の事件後の心理状態やそれに基づく行動特性などの自ら体験し得ない事実を参考にする余地があることは明らかであって,控訴人指摘の「事実に即して『参考文献』としてクレジットすべきかとは存じますが」という記載は,本件各著作物不使用の合意と何ら矛盾するものではないし, 「『著作権侵害』に抵触する行為は一切いたしません」という記載については,既に説示したとおり,そのような当然の事柄のみを条件としたものとは考えられない。
控訴人の主張は,理由がない。
イ 控訴人は,乙5メールの作成当時,本件各著作物に記載されている事実や設定等については利用したいと考えており,乙5メールにおける「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします」という記載が本件各著作物の事実の利用をも制限するものであると認識していれば,そのような記載はしなかったから,本件各著作物不使用の合意は錯誤により無効であると主張する。
しかしながら,乙5メールにおける「脚本の内容において,書籍から使用している場面・台詞に関しては,すべて削除いたします」という記載は,それ自体極めて単純な記載であって,二義を許すような複雑な記載ではない上,前示のとおり,控訴人と被控訴人との間においては,乙5メールに先立ち,本件各著作物に記載された場面 台詞を使用した本件脚本1が共通認識となっていたこと, ・ 乙5メールには,被控訴人に対し,控訴人が「性犯罪被害」をテーマにした映画の製作の続行を中止することを希望するか否かを尋ねる記載まであることや,控訴人が甲8メールにお いて「私は,『性犯罪被害にあうということ』の脚本として以前お送りした内容を,全編にわたって改稿しましたが,最終的に一部の設定を初期の脚本に戻す,という判断をしました。・ ・ ・私にとっては,二冊のご著書やYさんとの会話が鮮烈すぎて,どのように改稿しても『嘘』にしか感じられず,苦渋の選択ではありましたが,Yさんに否定された脚本の一部を使用したことにつきまして,あらためて心よりお詫び申し上げます」と記載していることに照らせば,乙5メールの作成当時,控訴人は,乙5メールに表示されたとおり,性犯罪被害をテーマにした映画の製作を続行するに当たっては,本件各著作物に記載された場面・台詞を使用しないことを約する意思を有していたものと認めることができ,法律行為の要素に錯誤があったものと認めることはできない。
また,以上の事実関係に加え,控訴人がテレビ番組等の制作に携わるという職業に従事し,著作権が問題となる場面に接する機会が多いことを併せ考慮すると,仮に錯誤があったとしても,控訴人に重大な過失があったものと認められる。
控訴人の主張は,理由がない。
ウ 控訴人は,本件各著作物不使用の合意が認められるとしても,その内容が表現物を差し止めるほどに明確に特定されたものではない以上,金銭賠償により処理すべきであり,本件各著作物不使用の合意に基づく差止請求は認められないと主張する。
しかしながら,前示のとおり,控訴人と被控訴人との間においては,乙5メールに先立ち,本件各著作物の映画化を目指し,被控訴人に対し本件各著作物に記載された場面・台詞を使用した本件脚本1が提示されたものの,被控訴人からAを介して「Yさんの名前や本のタイトルが出ること,Yさんの本を原作,原案として使用するというのは,著作権者として認められないという結論に達しました。 という乙 」4メールが送られた上で,本件各著作物不使用の合意に至ったという合意成立の経緯を踏まえて,乙5メールの記載をみれば,本件各著作物不使用の合意には,本件各著作物の場面・台詞と全く同一の場面・台詞の使用を禁止することに加え,本件 各著作物の場面・台詞と同定可能な程度に類似する場面・台詞の使用を禁止することが含まれることは明らかであって,合意の内容が不明確であるということはできない。控訴人の主張は,理由がない。
エ 控訴人は,原判決別紙確定稿対比表は,被控訴人の陳述書の添付資料をそのまま流用したものであり,別紙控訴人確定稿対比表の「控訴人の見解」欄記載のとおり,原判決別紙確定稿対比表の認定には誤りがあると主張するが,これに対する判断は,別紙合意に基づく差止一覧についての補足説明記載のとおりである。
結論
以上によれば,被控訴人の請求は,前示の限度において理由があり,その余は理由がないところ,上記限度を超えて認容した原判決は一部失当であるから,控訴人の控訴によりこれを変更し,被控訴人の請求を上記限度において認容し,その余を棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)翻案権侵害認定表現目録1本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-1のエピソード3の本件映画欄(ただし,「公園近く・路上(夜)」から「公園の入口が視界に飛びこんでくる」までの冒頭3行を除く。)の描写2本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-2のエピソード3の本件映画欄(ただし,「公園近く・路上(夜)」から「公園の入口が視界に飛びこんでくる」までの冒頭3行を除く。)の描写3本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-1のエピソード4の本件映画欄の描写4本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-1のエピソード6の本件映画欄(ただし,「玲奈『ごめんなさい,これからは健ちゃん」から「とは忘れて,幸せになって』【画像6-4】」までの末尾5行を除く。)の描写5本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-2のエピソード6の本件映画欄(ただし,「玲奈『ごめんなさい,これからは健ちゃん」から「とは忘れて,幸せになって』【画像6-4】」までの末尾5行を除く。)の描写6本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-1のエピソード7の本件映画欄の描写7本件映画のうち,別紙エピソード別対比表4-2のエピソード7の本件映画欄(ただし,1枚目17行の「玲奈『だって……』」から末行の「玲奈が部屋を出ていく。」までの37行を除く。)の描写以上 別紙エピソード別対比表(対比表4-1)エピソードの概要本件著作物1本件映画翻案該当性〔本件著作物125頁11行目乃至27頁9行目〕〔11:04〜12:29〕画像3-1〔11:22〕本件著作物1のエピソード3と本件映画のエピソード3は、
@原告(主人公)が元恋人(恋人)に助けを求めたこと結局、「B」に電話をしてしまった。公園近く・路上(夜)A公園に駆け付けた恋人(元恋人)が原告(主人公)の様子「もしもし?」に驚いて、誰かに何かされたのかと聞いたこと電話ごしの彼の声に、涙が溢れ出た。いつもと違う私の様子に気づいた彼健司が息を切らしながら走っていく。B原告(主人公)はうなずくしかできなかったことは、公園の入口が視界に飛びこんでくる。C元恋人(恋人)が、原告(主人公)が暴行されたことを知っ「どうしたんだ?絶対に動くな!そこにいろ!」てやり場のない怒りで物に当たる様子と、私に命じた。公園(内)(夜)D原告(主人公)は被害者であるにもかかわらず元恋人(恋しかし、彼を待つ間も、やはりじっとはしていられなかった。誰かに来てほしい人)に「ごめんなさい」と謝り続けたことような、見られたくないような、別れた人にこんな情けない姿を見られる恥ずかし健司が息を切らして走ってくる。とこれらの著述(描写)の順序が共通し、同一性がある。
さ、関係ない人を巻き込んでいいのかという迷いが加わり、また暗闇を求めて、玲奈が外灯の下でひとりぽつんとベンチに歩いていた。座っている。本件著作物1のエピソード3中の、やり場のない怒りを物に公衆トイレにも、もう一度行った。健司は玲奈の前にたどりつく。ぶつける元恋人に対して原告が被害者であるにもかかわらず夢であってほしい、夢なんじゃないかという思いが、そうさせた。健司「(息荒く)どうした?……何?……これ」「ごめんなさい」と謝り続けたことの記述は、単にその事実自一時間ほど経っただろうか。携帯電話が鳴った。【画像3-1】体を表現するだけでなく、原告の、被害に遭ってしまった悔し「どこにいるんだ?」玲奈のブラウスは破れており血が付着してい画像3-2〔11:39〕さ、被害者であるにもかかわらず込み上げてくる罪悪感、やる「公園の周りをうろうろしてる……」る。顔を泣きはらしている。せなさをも表現している。特に、怒りを露わにする元恋人と並「バカ!早く分かるところに来い!コンビニの前に来られるか?」健司「何かされた?」べて描いて原告がただ謝り続けるのを際立たせることによ「うん……」玲奈「……(うなずく)」り、原告が強い罪悪感を植え付けられてしまったことを表現し彼が来た。健司「誰?」ている。
泣いている私と、私の服を見て、彼は、玲奈「……(首を振る)」したがって、本件著作物1のうち上記同一性のある部分「何かされたのか!?」健司は遊具を蹴り上げ、夜空に向かって声のは、原告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各と、驚いた顔で言った。何をされたのか、思い出したくない。かぎりに叫び声を上げ、地面に跪く。【画像3-事実を選択し、事件直後の原告の状況や行動を自分なりに「……されたのか?」2】工夫して記述することによって、原告の悔しさ、罪悪感、やる私は頷くのが精一杯だった。健司「ああああああ!!!なんでだあああああ!!!」せなさ等を表現したものであるから、上記同一性のある部分(元)恋人が公園「くそっ!!」玲奈「(泣きじゃくって)ごめんなさい……ごめ全体として、原告の個性ないし独自性が表れており、思想又3彼のバイク用のヘルメットが、道路にたたきつけられた。んなさい……」【画像3-3】は感情を創作的に表現したものである。
に駆け付けた「ごめんなさい」健司が玲奈の頭を両手で包んで、額と額を合私は謝り続けた。わせる。そして、本件映画のエピソード3における描写は、上記認定健司「謝んないで、玲奈は謝んないでいいよの表現上の共通性により、本件著作物1の著述の表現上の……」画像3-3〔11:57〕本質的な特徴の同一性を維持しており、本件映画におけるエピソード3部分に接することにより、本件著作物1のエピソード3における著述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件映画のエピソード3は本件著作物1のエピソード3を翻案したものである。
別紙エピソード別対比表(対比表4-1)エピソードの概要本件著作物1本件映画翻案該当性〔本件著作物136頁3行目乃至11行目〕〔12:44〜13:10〕画像4-1〔12:54〕本件著作物1のエピソード4と本件映画のエピソード4は、
@事件翌朝に元恋人(恋人)が原告(主人公)に仕事を休む私は六時に起きて、仕事に行った。長時間泣いていたせいで瞼が腫れ、ひど玲奈のアパート・居室(朝)ように勧めたことく不細工な顔だった。彼も仕事だったので、朝、目覚ましついでに謝罪の電話をAそれを原告(主人公)が、事件を理由に仕事を休むことはで入れた。スーツを着た玲奈が鏡台に座って化粧をしてきないと拒んだこと「お前、仕事行くのか?こんな日くらい休めよ……」いる。が共通し、同一性がある。
そんな返事が返ってきたが、仕事を休む理由が見つからない。健司が床に座って鏡越しに玲奈を見ている。また、Aの場面の、本件著作物1の「なんて言って休めば「こんなことで仕事を休んでいいの?なんて言って休めばいいの?ホントのこ健司「仕事…休めない?」いいの?」という言葉と本件映画の「なんて言って休んだらいとなんて言えないよ!」玲奈「……なんて言って休んだらいいの?いの?」という台詞はほぼ完全に同一である。
「体調悪いって言えばいいだろ?」『ゆうべ強姦されたから、今日はお休みしま「なんで嘘つかなきゃいけないのよ!」す』って言ったら、みんな同情してくれんの?」本件著作物1のエピソード4中の上記同一性のある部分「じゃあホントのこと言うのか?そんなことまで正直に言わなくたっていいだ【画像4-1】は、単に元恋人が仕事を休むよう勧めたのを原告が断った事ろ!?」実を記述するだけでなく、原告を心配する元恋人に原告が強い言葉で喰ってかかったやりとりを描くことで、原告の、被害を他人に知られることに対する恐怖、自分は被害者であるのにその事実を隠していなければならないことに対するやるせなさ、無力感、怒り等、また原告は仕事を休んで事件に向き合うことになるのが堪えられなかったこと、何もなかったと自事件の翌朝に分自身に言い聞かせなければ心が壊れてしまいそうな恐怖(元)恋人が仕事をを感じていたことを表現している。
4休ませようとするしたがって、本件著作物1の上記同一性のある部分には、
が、それを聞き入それらの感情を表現するための事実の選択や感情の形容のれずに出勤する仕方、叙述方法の点で原告の個性ないし独自性が表れており、表現上の創作性がある。
そして、本件映画のエピソード4における描写は、上記の共通性により本件著作物1の著述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており、本件映画におけるエピソード4に接することにより、本件著作物1のエピソード4における著述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件映画のエピソード4は本件著作物1のエピソード4を翻案したものである。
別紙エピソード別対比表(対比表4-1)エピソードの概要本件著作物1本件映画翻案該当性〔本件著作物174頁5行目乃至最終行〕〔25:35〜27:06〕画像6-1〔26:00〕本件著作物1のエピソード6と本件映画のエピソード6は、
@原告(主人公)が元恋人(恋人)に対して、また自分が襲わ一人で帰らなければならないときは、「また襲われてもいいの?心配じゃな玲奈のアパート・一室(内)(昼)れてもいいのかなどと挑発的、脅迫的な言葉を発することいの?」と、脅迫じみた電話をして彼に迎えに来てもらったことが、何度もあっ健司はダンボールに荷物をまとめている。A元恋人(恋人)が原告(主人公)に対して、原告(主人公)た。玲奈は健司の背後に近づいてくる。は本当は暴行されるのを喜んでいたとかスリルがあって気持別れ話を切り出されれば、玲奈「私を置いて出ていくの?」ちいいと思っていたとか、原告(主人公)と付き合っている(付「逃げる気?ずっと側にいてくれるって言ったじゃない!」健司「お互いのためだよ」き合ってきた)だけで感謝してほしいなどという、原告(主人「あのとき私が公園の周りを通ったのはあなたのせいよ!」玲奈「健ちゃんはまた私が襲われてもいい公)の気持ちを逆撫でし、原告(主人公)を絶望させるような「結局そんな薄情な人間なんだ!」の?きっと私、同じ目に遭うよ?」【画像6-言葉をかけたことという具合に彼をなじる始末。ひど過ぎる。1】B最後には元恋人(恋人)が原告(主人公)に対し、もう俺のそんな私の相手をすることに疲れたのか、喧嘩をすると、彼の口からも、健司はふいに立ち上がると玲奈に顔を近づけことは忘れて幸せになってくれなどと言って原告(主人公)の「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」る。壁際まで追いつめていく。元を去っていくこと「お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ。感謝しろ!」健司「おまえさあ、その二人組だっけ、犯されが共通し、同一性がある。
という言葉が出るようになった。ているとき、本当は興奮して濡れてたんだまた、@の場面の本件著作物1の「また襲われてもいいろ?また犯されたいって、今もそう思ってるの?」という言葉と本件映画の「健ちゃんはまた私が襲われんだろう?」【画像6-2】画像6-2〔26:16〕てもいいの?」という台詞、Aの場面の本件著作物1の「お前〔本件著作物1107頁9乃至11行目〕玲奈「……どうしてそんなことがいえるの?」ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思っ健司「このままおまえといると頭がおかしくなてたんだろ」という言葉と本件映画の「おまえさあ、その二人「B」に電話をしてしまう・・・。る、今までつきあってやっただけでも感謝して組だっけ、犯されているとき、本当は興奮して濡れてたんだ「頼むから、もう俺のことは忘れて、幸せになってくれ」ほしいね」【画像6-3】ろ?また犯されたいって、今もそう思ってるんだろう?」という彼は言った。玲奈「ごめんなさい、これからは健ちゃんのい台詞、本件著作物1の「お前みたいな汚れた女とつき合ってうこと何でも聞くから、ねえ別れるなんて言わやったんだ。感謝しろ!」という言葉と本件映画の「今までつないで、お願い」きあってやっただけでも感謝してほしいよ」という台詞、Bの健司「ほんっと無理。頼むから、おれのことは場面の本件著作物1の「頼むから、もう俺のことは忘れて、幸忘れて、幸せになって」【画像6-4】せになってくれ。」という言葉と本件映画の「頼むから、おれのことは忘れて、幸せになって」という台詞は、いずれもほぼ一致しており同一性がある。
(元)恋人に過大な本件著作物1のエピソード6中の上記同一性のある部分負担をかけて、遂は、単に原告が元恋人との間でしたやりとりの内容を記述し6には別れるに至っただけでなく、双方の痛烈な言葉を続けざまに列挙して記述た画像6-3〔26:39〕することによって、被害に遭ったやり場のない悔しさを当時身近にいてくれた元恋人に脅迫的な言動でぶつけてしまうしかなかった原告の不安定な精神状態と、そのような原告の精神状態を理解しながらも受け止めることが負担になり精神的にも追い詰められていった元恋人の無念さや無力感をも表現している。
したがって、本件著作物1のうち上記同一性のある部分は、原告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各事実を選択し、原告と元恋人のやりとりを自分なりに工夫して記述することによって、原告の悔しさ、やるせなさ、不安定な精神状態や元恋人の無念さ、無力感を表現したものであるから、上記同一性のある部分全体として、原告の個性ないし独自性が表れており、思想又は感情を創作的に表現したもので画像6-4〔26:58〕ある。
そして、本件映画のエピソード6における描写は、上記の表現上の共通性により、本件著作物1の著述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており、本件映画のエピソード6に接することにより本件著作物1のエピソード6における著述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、
本件映画のエピソード6は本件著作物1のエピソード6を翻案したものである。
別紙エピソード別対比表(対比表4-1)エピソードの概要本件著作物1本件映画翻案該当性〔本件著作物180頁7行目乃至82頁6行目〕〔27:41〜31:30〕画像7-1〔27:50〕本件著作物1のエピソード7と本件映画のエピソード7は、
@原告(主人公)が意を決して、暴行被害に遭ったことを母親二〇〇一年のお正月、私は改めて母に、本当は逃げ切れなかった事実を話し玲奈「お母さん、大切な話があるの、聞いてくに告白したことた。れる?」【画像7-1】Aそれに対して母親が原告(主人公)をやさしくいたわるどこ毎年、お正月には父が都内の神社で、演奏会を行う。それを家族で聴きに行ろか逆に原告(主人公)に怒ったことくのが恒例だった。玲奈の実家・二階・廊下(午後)Bその後も両親は原告(主人公)を気遣うどころか厳しい言葉神社の境内で、甘酒を飲みながら父を待っているときのことだった。昼食の食器をのせた盆が廊下のドアの前にを投げ、それに対して原告(主人公)が失望と怒りをぶつけた「なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!」無造作に置かれている。ご飯とおかずの一部こと母は私に怒りをぶつけてきた。私を心配するどころか、驚くような勢いで怒っが食べ残されている。C母親にやさしく抱きしめてもらいたかったが、その願いが叶た。その日は、それ以上何も話さずに帰った。和代(声)「なんですって?」わなかったことショックだった。ドアが小さく開く。が共通し、同一性がある。
私は、事実を話せないでいることに、罪悪感や悔しさを感じていた。その結ドアの向こうの影(雅彦)がじっと階下に耳を澄また、Aの場面の本件著作物1の母親の「なんでいまさら果、母にこそ事実を伝える決断をしたが、間違っていたのか。もしかしたら、母ましている。そんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!!」はショックをうまく表現できていなかったのかもしれないが、そのときの私がそこという言葉と本件映画の母親の「どうして今頃になってそんなまで気を回す必要もないと思った。私は、最近まで、このときのことで親と衝突玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)画像7-2〔28:02〕ことを打ち明けるの?お母さん、あなたの神経が信じられなしてきた。和代は興奮して唇をぶるぶる震わせている。い!」という台詞、Bの場面の本件著作物1の父親の「お前和代「どうして今頃になってそんなことを打ちは強い子だから、そんなこと(事件のこと)を気にするような子「親ならもっと心配するんじゃないの?」明けるの?お母さん、あなたの神経が信じらじゃないでしょ」という言葉と本件映画の父親の「お前は強い「だったら最初から本当のこと言えばいいじゃないの!親の気も知らないれない!」【画像7-2】子だから、そんなことは気にせずに今までどおり生きていけるで!」玲奈「だって……」はずだ」という台詞、同じくBの場面の本件著作物1の母親「言えなかったんだよ……」和代「そんなことがご近所に知られたら、どうの「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど、私た「だから信じらんないって言ってんのよ!」するのよ?恥ずかしい」【画像7-3】ちのせいでもないんだから、そんなことで私たちを責めないで玲奈「強姦されるって恥ずかしいことなの?よね!」という言葉と本件映画の母親の「あなたが襲われたこの繰り返し。きっと、母は私以上に事実を受け止められずにいたのかもしれな私は被害者なんだよ?」【画像7-4】のは、私たちのせいだって言うの?そんなの筋違いだわ!」い、と思うようになった。だから必死に、私の言葉を信じようとして、憎まれ口も、という台詞は、いずれもほぼ一致しており同一性がある。
安心させようとして隠したことも、そのまま受け止めてしまう。玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)『なぜ当事者の私のことを一番に考えてくれない?“辛かったね”ってたった一恵三は腕組みして、じっと目を閉じている。和本件著作物1のエピソード7中の上記同一性のある部分度でも抱きしめてくれたらどんなに安心したか……』代は恵三の隣に座っている。は、意を決して事件を告白した原告とその現実を受け止めら私が求めているのはそんなことだった。それをそのまま母に伝えたこともあ玲奈はテーブルをはさんで両親と向かいあっれなかった両親のやりとりを記述することで、それらの事実自事件のことを聞か7る。しかし私の母は、それができない。それは、きっと、母にとっては、母が「娘て立っている。画像7-3〔28:13〕体を表現するだけでなく、特に両親が言った厳しくて思い遣りされた両親の反応を傷つけられた」当事者だから……。恵三「(あっさりと)忘れたほうがいいね」のない言葉を列挙して描くことにより、それらの言葉によって『でもね、事件の当事者は私なんだ……』玲奈「……は?」原告が抱いた悲しみ、失望、やるせなさ、怒りや、性犯罪被母は、それを見失うほどのショックを受けていたのかもしれない。恵三「おまえは強い子だから、そんなことは気害を隠すべきものとする社会の風潮をも表現している。
にせず今までどおり、生きていけるはずだ」したがって、本件著作物1の上記同一性のある部分は、原【画像7-5】告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各事実を玲奈「(耳を疑って)今なんていったの?」選択し、自分なりに工夫して記述することによって、原告の悲〔本件著作物183頁7乃至10行目〕恵三「野良犬に手を噛まれただけだろう、さっしみ、失望、やるせなさ、怒りや、性犯罪被害を隠すべきものさと忘れるんだ」とする社会の風潮を表現したものであるから、上記同一性の「お前は強い子だから、そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないで玲奈「忘れられるわけないでしょ?ねえわある部分全体として原告の個性ないし独自性が表れており、
しょ」かってるの?私、強姦されたの、見ず知らず思想又は感情を創作的に表現したものである。
「お前はいつまでそんなこと言ってるんだ。そうやって親を責めてるつもりか!」の男たちに!それを、ぜんぶ、なかったこと「またそんなことを引き合いに出して脅かしてるつもりか?」にしろっていうの?あんたたち頭おかしいんそして、本件映画のエピソード7における描写は、上記の表じゃないの!」【画像7-6】現上の共通性により、本件著作物1のエピソード7の著述の玲奈が部屋を出て行こうとする。表現上の本質的な同一性を維持しているものと認められ、本〔本件著作物184頁2乃至4行目〕恵三が立ち上がって玲奈をつかまえ平手打ち画像7-4〔28:21〕件映画におけるエピソード7に接することにより、本件著作物「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど、私たちのせいでもないんにする。【画像7-7】1のエピソード7における著述の表現上の本質的な特徴を直だから、そんなことで私たちを責めないでよね!」玲奈「(頬を手でおさえて)……」接感得することができるから、本件映画のエピソード7は本件これは母の言葉である。恵三「親に向かって……、何だその口のきき著作物1のエピソード7を翻案したものである。
かたは!」和代「(涙声になって)あなたが襲われたのは、私たちのせいだって言うの?そんなの筋違いだわ!」【画像7-8】玲奈「私は……」玲奈が部屋を出ていく。
別紙エピソード別対比表(対比表4-1)エピソードの概要本件著作物1本件映画翻案該当性玲奈の実家・二階・廊下(夜)画像7-5〔28:52〕玲奈は閉じられたドアの前に立っている。
(中略)玲奈「(涙あふれて)お母さんが抱きしめてくれるだけで、救われる気がしてた、それだけで……」画像7-6〔29:29〕事件のことを聞か7画像7-7(29:33)された両親の反応画像7-8〔29:44〕「本件映画」欄の文章は甲第4号証の脚本をベースとして、同号証が本件映画と一致していない部分を原告代理人が本件映画に合わせて変更したもの。「本件映画」欄の各エピソードの冒頭の〔〕内の数字は甲第3号証における当該エピソードの始めと終わりの経過時間。
「本件映画」欄の各画像は当該画像の番号が付記されている脚本部分の映像であり、各画像の上に付記されている〔〕内の数字は甲第3号証における当該映像の経過時間。
別紙エピソード別対比表(対比表4-2)〔本件著作物216頁10行目乃至18頁12行目〕〔11:04〜12:29〕画像3-1〔11:22〕本件著作物2のエピソード3と本件映画のエピソード3は、
@原告(主人公)が元恋人(恋人)に助けを求めたことトイレから出ると、人に見られるのがいやで、明かりの届かない公園の植木の公園近く・路上(夜)A公園に駆け付けた恋人(元恋人)が原告(主人公)の様子間の岩に座り、バッグを抱きしめて、震えを抑えていました。に驚いて、誰かに何かされたのかと聞いたこと帰ろうと思うのに、身体が動きません。健司が息を切らしながら走っていく。B原告(主人公)はうなずくしかできなかったことひとりで歩いていくことを思うと、怖くて仕方がないのです。公園の入口が視界に飛びこんでくる。C元恋人(恋人)が、原告(主人公)が暴行されたことを知っ車でものの5分のところには、両親と兄、弟が住む実家があります。でも、家てやり場のない怒りで物に当たる様子族に話すことなどとてもできません。公園(内)(夜)D原告(主人公)は被害者であるにもかかわらず元恋人(恋近くに住んでいる友人もいますが、こんな姿を見せられない。人)に「ごめんなさい」と謝り続けたこと結局、私が助けを求めたのは、1週間前に別れたばかりの、Bでした。健司が息を切らして走ってくる。とこれらの著述(描写)の順序が共通し、同一性がある。
後で話しますが、その日、Bは会社の仲間たちとの飲み会で、地下のお店に玲奈が外灯の下でひとりぽつんとベンチに入っていたそうで、ようやく電話が通じたのは、最初に留守電を入れてからかな座っている。本件著作物2のエピソード3中の、やり場のない怒りを物にり時間が経ってからでした。健司は玲奈の前にたどりつく。ぶつける元恋人に対して原告が被害者であるにもかかわらず私の記憶ではすぐに電話で話せたと思っていたのです。ところが、後にBから健司「(息荒く)どうした?……何?……これ」「ごめんなさい」と謝り続けたことの記述は、単にその事実自聞いたところでは、私は何通ものメールを送っていたそうです。【画像3-1】体を表現するだけでなく、原告の、被害に遭ってしまった悔し「死にたい」玲奈のブラウスは破れており血が付着してい画像3-2〔11:39〕さ、被害者であるにもかかわらず込み上げてくる罪悪感、やると一言だけ書いて。る。顔を泣きはらしている。せなさをも表現している。特に、怒りを露わにする元恋人と並とにかく、ようやく通じた電話で彼は、「そこにいろ、絶対に動くな」と、私に指健司「何かされた?」べて描いて原告がただ謝り続けるのを際立たせることによ示しました。玲奈「……(うなずく)」り、原告が強い罪悪感を植え付けられてしまったことを表現し駆けつけてくれたBは、私の洋服を見て、健司「誰?」ている。
「何かされたのか?」玲奈「……(首を振る)」したがって、本件著作物2のうち上記同一性のある部分と尋ねました。健司は遊具を蹴り上げ、夜空に向かって声のは、原告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各何も言えず、黙ったままの私に、かぎりに叫び声を上げ、地面に跪く。【画像3-事実を選択し、事件直後の原告の状況や行動を自分なりに「されたのか?」2】工夫して記述することによって、原告の悔しさ、罪悪感、やる私がうなずくと、彼は乗ってきたバイクのヘルメットを、思い切り道路に叩きつ健司「ああああああ!!!なんでだあああああ!!!」せなさ等を表現したものであるから、上記同一性のある部分(元)恋人が公園けたのでした。玲奈「(泣きじゃくって)ごめんなさい……ごめ全体として、原告の個性ないし独自性が表れており、思想又3私は泣きじゃくりながら、何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けていんなさい……」【画像3-3】は感情を創作的に表現したものである。
に駆け付けたました。健司が玲奈の頭を両手で包んで、額と額を合今思えば、私が悪いことをしたわけではない。にもかかわらず、元恋人を前にわせる。そして、本件映画のエピソード3における描写は、上記認定して、私はひたすら謝っていたのです。健司「謝んないで、玲奈は謝んないでいいよの表現上の共通性により、本件著作物2の著述の表現上のすでにこのときから、私は自分が汚れてしまったと強烈に思っていたのだと思……」画像3-3〔11:57〕本質的な特徴の同一性を維持しており、本件映画におけるエいます。同時に、ついこの間まで付き合っていた彼を呼び出したことが申し訳なピソード3部分に接することにより、本件著作物2のエピソードく、情けなく、「ごめんなさい」としか言えませんでした。3における著述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件映画のエピソード3は本件著作物2のエピソード3を翻案したものである。
別紙エピソード別対比表(対比表4-2)エピソードの概要本件著作物2本件映画翻案該当性〔本件著作物226頁10行目乃至27頁11行目〕〔25:35〜27:06〕画像6-1〔26:00〕本件著作物2のエピソード6と本件映画のエピソード6は、
@原告(主人公)が元恋人(恋人)に対して、また自分が襲わ当時の私は、玲奈のアパート・一室(内)(昼)れてもいいのかなどと挑発的、脅迫的な言葉を発すること「私が事件にあったことを知っている人は、私を護らなければならない」健司はダンボールに荷物をまとめている。A元恋人(恋人)が原告(主人公)に対して、原告(主人公)とそんなひとりよがりで、押し付けがましい心情でいました。それが甘えでしか玲奈は健司の背後に近づいてくる。付き合っている(付き合ってきた)だけで感謝してほしいというないことに気づくまでに、いったいどれだけの時間を要したことか。玲奈「私を置いて出ていくの?」意味の、原告(主人公)の気持ちを逆撫でし、原告(主人公)私の感情の坩堝に巻き込んでしまったBには、本当に申し訳ないことをしてし健司「お互いのためだよ」を絶望させるような言葉をかけたことまったと思います。玲奈「健ちゃんはまた私が襲われてもいいが共通し、同一性がある。
ひとりで帰らなければならないときには、の?きっと私、同じ目に遭うよ?」【画像6-また、@の場面の本件著作物2の「また襲われてもいい「また襲われてもいいの?心配じゃないの?」1】の?」という言葉と本件映画の「健ちゃんはまた私が襲われと、脅すようなことを言ってまで迎えに来させたり。健司はふいに立ち上がると玲奈に顔を近づけてもいいの?」という台詞、Aの場面の本件著作物2の「お前そんな私に疲れた彼が、別れ話を切り出せば、る。壁際まで追いつめていく。みたいな女と付き合ってやってるんだよ」という言葉と本件映「逃げる気?ずっとそばにいてくれるって言ったじゃない」健司「おまえさあ、その二人組だっけ、犯され画の「今までつきあってやっただけでも感謝してほしいよ」とと、なじったり。ているとき、本当は興奮して濡れてたんだいう台詞は、いずれもほぼ一致しており同一性がある。
やがて私の罵倒に疲れた彼の口からも、ろ?また犯されたいって、今もそう思ってる「お前みたいな女と付き合ってやってるんだよ」んだろう?」【画像6-2】画像6-2〔26:16〕本件著作物2のエピソード6中の上記同一性のある部分――なんていう言葉が出てしまう。玲奈「……どうしてそんなことがいえるの?」は、単に原告が元恋人との間でしたやりとりの内容を記述し健司「このままおまえといると頭がおかしくなただけでなく、双方の痛烈な言葉を続けざまに列挙して記述る、今までつきあってやっただけでも感謝してすることによって、被害に遭ったやり場のない悔しさを当時身ほしいね」【画像6-3】近にいてくれた元恋人に脅迫的な言動でぶつけてしまうしか玲奈「ごめんなさい、これからは健ちゃんのいなかった原告の不安定な精神状態と、そのような原告の精神うこと何でも聞くから、ねえ別れるなんて言わ状態を理解しながらも受け止めることが負担になり精神的にないで、お願い」も追い詰められていった元恋人の無念さや無力感をも表現し健司「ほんっと無理。頼むから、おれのことはている。
忘れて、幸せになって」【画像6-4】したがって、本件著作物2のうち上記同一性のある部分は、原告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各事実を選択し、原告と元恋人のやりとりを自分なりに工夫して記述することによって、原告の悔しさ、やるせなさ、不安定な(元)恋人に過大な精神状態や元恋人の無念さ、無力感を表現したものであるか負担をかけて、遂ら、上記同一性のある部分全体として、原告の個性ないし独6には別れるに至っ自性が表れており、思想又は感情を創作的に表現したものでた画像6-3〔26:39〕ある。
そして、本件映画のエピソード6における描写は、上記の表現上の共通性により、本件著作物2の著述の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており、本件映画のエピソード6に接することにより本件著作物2のエピソード6における著述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、
本件映画のエピソード6は本件著作物2のエピソード6を翻案したものである。
画像6-4〔26:58〕 別紙エピソード別対比表(対比表4-2)エピソードの概要本件著作物2本件映画翻案該当性〔本件著作物230頁1乃至9行目〕〔27:41〜31:30〕画像7-1〔27:50〕本件著作物2のエピソード7と本件映画のエピソード7は、
@原告(主人公)が意を決して、暴行被害に遭ったことを母親年が明けて01年のお正月、私はあらためて母に本当のことを話しました。や玲奈「お母さん、大切な話があるの、聞いてくに告白したことはり、母にだけでも知っておいてもらいたい、事実をきちんと話しておかなけれれる?」【画像7-1】Aそれに対して母親が原告(主人公)をやさしくいたわるどこばならないと思ったからです。すると母は、怒りをあらわにしてこう言いました。ろか逆に原告(主人公)に怒ったこと「なんで今さらそんなこと言うの?あんたの言うこと、信じられない!」玲奈の実家・二階・廊下(午後)B母親にやさしく抱きしめてもらいたかったが、その願いが叶ショックでした。昼食の食器をのせた盆が廊下のドアの前にわなかったこと当時の私は、無造作に置かれている。ご飯とおかずの一部が共通し、同一性がある。
“被害にあったのは私だよ。なぜ、なぐさめてくれないの?「かわいそうに」とが食べ残されている。また、Aの場面の本件著作物2の母親の「なんで今さらそ言って抱きしめてくれないの?”和代(声)「なんですって?」んなこと言うの?あんたの言うこと、信じられない!」という言そんな思いでいっぱいでした。ドアが小さく開く。葉と本件映画の母親の「どうして今頃になってそんなことを打ドアの向こうの影(雅彦)がじっと階下に耳を澄ち明けるの?お母さん、あなたの神経が信じられない!」といましている。う台詞は、ほぼ一致しており同一性がある。
玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)画像7-2〔28:02〕本件著作物2のエピソード7中の上記同一性のある部分和代は興奮して唇をぶるぶる震わせている。は、意を決して事件を告白した原告とその現実を受け止めら和代「どうして今頃になってそんなことを打ちれなかった母親のやりとりを記述することで、それらの事実自明けるの?お母さん、あなたの神経が信じら体を表現するだけでなく、特に母親が言った厳しくて思い遣りれない!」【画像7-2】のない言葉を描くことにより、それらの言葉によって原告が抱玲奈「だって……」いた悲しみ、失望、やるせなさをも表現している。
和代「そんなことがご近所に知られたら、どうしたがって、本件各著作物の上記同一性のある部分は、原するのよ?恥ずかしい」【画像7-3】告が被害を受けた当事者としての視点から上記の各事実を玲奈「強姦されるって恥ずかしいことなの?選択し、自分なりに工夫して記述することによって、原告の悲私は被害者なんだよ?」【画像7-4】しみ、失望、やるせなさを表現したものであるから、上記同一性のある部分全体として原告の個性ないし独自性が表れて玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)おり、思想又は感情を創作的に表現したものである。
恵三は腕組みして、じっと目を閉じている。和代は恵三の隣に座っている。そして、本件映画のエピソード7における描写は、上記の表玲奈はテーブルをはさんで両親と向かいあっ現上の共通性により、本件著作物2のエピソード7の著述の事件のことを聞か7て立っている。画像7-3〔28:13〕表現上の本質的な同一性を維持しているものと認められ、本された両親の反応恵三「(あっさりと)忘れたほうがいいね」件映画におけるエピソード7に接することにより、本件著作物玲奈「……は?」2のエピソード7における著述の表現上の本質的な特徴を直恵三「おまえは強い子だから、そんなことは気接感得することができるから、本件映画のエピソード7は本件にせず今までどおり、生きていけるはずだ」著作物2のエピソード7を翻案したものである。
【画像7-5】玲奈「(耳を疑って)今なんていったの?」恵三「野良犬に手を噛まれただけだろう、さっさと忘れるんだ」玲奈「忘れられるわけないでしょ?ねえわかってるの?私、強姦されたの、見ず知らずの男たちに!それを、ぜんぶ、なかったことにしろっていうの?あんたたち頭おかしいんじゃないの!」【画像7-6】玲奈が部屋を出て行こうとする。
恵三が立ち上がって玲奈をつかまえ平手打ち画像7-4〔28:21〕にする。【画像7-7】玲奈「(頬を手でおさえて)……」恵三「親に向かって……、何だその口のききかたは!」和代「(涙声になって)あなたが襲われたのは、私たちのせいだって言うの?そんなの筋違いだわ!」【画像7-8】玲奈「私は……」玲奈が部屋を出ていく。
別紙エピソード別対比表(対比表4-2)エピソードの概要本件著作物2本件映画翻案該当性玲奈の実家・二階・廊下(夜)画像7-5〔28:52〕玲奈は閉じられたドアの前に立っている。
(中略)玲奈「(涙あふれて)お母さんが抱きしめてくれるだけで、救われる気がしてた、それだけで……」画像7-6〔29:29〕事件のことを聞か7画像7-7(29:33)された両親の反応画像7-8〔29:44〕「本件映画」欄の文章は甲第4号証の脚本をベースとして、同号証が本件映画と一致していない部分を原告代理人が本件映画に合わせて変更したもの。「本件映画」欄の各エピソードの冒頭の〔〕内の数字は甲第3号証における当該エピソードの始めと終わりの経過時間。
「本件映画」欄の各画像は当該画像の番号が付記されている脚本部分の映像であり、各画像の上に付記されている〔〕内の数字は甲第3号証における当該映像の経過時間。
(別紙)人格権侵害認定表現目録1本件映画のうち,原判決別紙侵害認定表現目録記載1の描写2本件映画のうち,上記目録記載2@の玲奈の発言中,「おちんちん」との表現3本件映画のうち,上記目録記載2Aの玲奈の発言中,「おちんちん」との表現4本件映画のうち,上記目録記載2Bの玲奈の発言中,「おちんちん」との表現以上 (別紙)合意に基づく差止一覧・赤色部分:本件著作物1と同一の箇所と認定できる箇所・緑色部分:本件著作物1とほぼ同趣旨の箇所と認定できる箇所・水色部分:本件著作物2と同一又は同趣旨の箇所と認定できる箇所完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解『あなたもまた虫である(仮題)』(十四年一月十七日・決定稿)登場人物白石玲奈(二十四歳〜三十一歳)=会社員白石恵三(五十四歳〜六十一歳)=玲奈の父親白石和代(五十一歳〜五十八歳)=玲奈の母親白石雅彦(二十六歳)=玲奈の兄中山健司(二十四歳)=玲奈の恋人島崎香織(二十二歳)=玲奈の後輩菊池隆(三十二歳)=玲奈の夫菊池晴江(六十一歳)=玲奈の義母水野亜紀(十四歳)=玲奈と交流する中学生水野正治(四十二歳)=亜紀の父親 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解柏木比佐子(三十四歳)=テレビディレクターゲイバーのママ・中西(三十八歳)関谷加世子(五十二歳)=玲奈と交流する女性丸岡(三十二歳)=玲奈を泊める中年男性A北嶋(三十六歳)=玲奈を泊める中年男性B重松(四十六歳)=武田の客産婦人科医・藤沢(五十八歳)武田誠一(二十一歳)=犯人A阿部(二十一歳)=犯人B直樹(後ろ姿のみ)=亜紀の同級生玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)酒に酔った白石玲奈(二十四歳)は、弾けるように笑っている。
玲奈は、隣にいる健司の肩を激しく叩いたり、笑いすぎてあふれた涙を指で拭っている。
恵三(声)「これはね、アフリカの戦場の話だ」テロップ 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解『二〇〇六年十一月六日午後七時二十三分』玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)玲奈はテーブルの下で、婚約者である中山健司(二十四歳)と手を握りあっている。
健司「(恵三に)……はい?」泥酔した白石恵三(五十四歳)は、健司のコップに焼酎を注いでいく。
恵三「アフリカの内戦を取材したときに聞いた話さ、対立する部族を壊滅させるために、もっとも有効な兵器とは何か、きみわかるかね?」健司「兵器?ナパーム弾とかそういうものですか?」玲奈は、健司のコップを取り上げると、テーブルの端へと引き離す。
玲奈「(恵三に)お父さん、もうそのくらいにしてあげて、健ちゃん、お酒弱いんだから」恵三「(健司に)強姦だ、部族の娘を犯すわけだね」玲奈「よしてよ、そんな話聞きたくない」恵三「それが戦場では、もっとも金のかからない破壊兵器といわれているんだ」玲奈「(健司に小声で)お酒飲むと、特派員だった頃の思い出ばかりなの、今は子会社に出されちゃって、暇だから」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解恵三「強姦は、民族の誇りを最大限に傷つける攻撃だ、恐怖と屈辱に陥れて、兵士の士気を著しく低下させる、犯された娘の家族だけでなく、やがて民族すべてを崩壊させる」新品のスーツにネクタイをした健司は、神妙に聞いている。
健司「(うなずく)はあ」恵三「きみのしていることはね、それと同じなんだ」健司「(思わず)え?すみません」玲奈「何よ、それ、同じじゃないでしょ?馬鹿みたい」恵三「(酔って健司を指さして)父親にとっては同じことだぞ、きみ、わかってるのか?」料理の皿を下げた白石和代(五十一歳)が、デザートを運んでくる。
和代「(健司に)玲奈はね、小さい頃から、全然手・(控訴人指摘1)のかからない子供だったんですよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「『Yは放っておいても大丈夫』両親にはそう思っていてほしかった」(87頁3行目)との記載があるが、これは被控訴人自身の主観的な心情を述べたものであり、被控訴人の母親の発言・心情として記載されたものではない。また、本映画でのこの台詞は結婚を前提に恋人が主人公の両親に挨拶に来たときの母親の台詞であるが、
本件著作物1にはそのような記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解健司「(うなずいて)はい」和代「玲奈はね……」和代はふと天井を見上げる。
恵三「(健司に)きみフランツ・カフカの『変身』は読んだかね?あれと同じだよ、ある朝グレーゴル・ザムザは巨大な虫に変身して、もはや言葉がつうじなくなっていた……日本国内に七十万人以上いる、というけどね」天井から、かすかに物音がしている。
玲奈の実家・二階・廊下(夜)夕飯の食器をのせた盆が廊下のドアの前に無造作に置かれている。ご飯やおかずが一部食べ残されている。
玲奈と健司はドアの前に立っている。
玲奈「(ドアをノックして)……お兄ちゃん?起きてるんでしょ?健司さん、もう帰るから……私ね、健司さんと結婚するつもりなの……大切な人だから、次はきっと会ってね……結婚式では、
お兄ちゃんに、ピアノ弾いてほしいな、(健司に)上手なの」健司「(ドアの向こうに)中山健司です、いつか、お兄さんと一緒にお酒でも飲めたら、嬉しいけど……また、きますから」ドアの内側から反応はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「……」玲奈は健司をうながして去っていく。
玲奈の実家・玄関(外)(遠景)(夜)健司(声)「ごちそうさまでした」楽しげに帰っていく玲奈と健司を、和代がサンダル履きで見送りに出てくる。
和代(声)「(健司に)また遊びにいらしてね、(玲奈に)玲奈ちゃんは泊まっていったらいいのに」玲奈(声)「うん、明日会社あるから、会議の資料、
アパートに置いてきちゃったしさ、また電話するね」駅までの道路(夜)酔った玲奈が上機嫌で自転車のペダルを漕いでいく。
健司は荷台に座って二人乗りしている。
玲奈(声)「疲れたでしょ?」健司(声)「楽しかった、すてきなご両親で」玲奈(声)「……ごめんね、生理だから、今夜、できなくて……おちんちん我慢できる?」健司(声)「(笑って)そういうこと、口に出していうかな?」駅近く・路上(夜)玲奈と健司は別れがたく、握りあった手を離せな 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解い。
駅・改札口(遠景)(夜)健司が手を振って、(改札の)向こうへと消えていく(ホームへの階段を降りていく)。
駅前・路上(夜)玲奈は健司が見えなくなるまで小さく手を振っている。
駅近く・路上(夜)玲奈はしゃがんで、駐車した自転車のタイヤをさわっている。後輪がパンクしているらしく、空気が抜けていく。
×××玲奈は自転車を押しながら、しばらく黙々と歩いていく。
犯人A(声)「あの、すみません」・(控訴人指摘2)本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では被控訴人は犯人から「ねぇ!」と言って呼び止められている(本件著作物1・12頁7行目、本件著作物2・11頁13行目)。
玲奈が顔を上げると、窓にスモークを張った黒い・(控訴人指摘3)ワゴンの助手席から、さわやかな微笑を浮かべ本件著作物1に同一の記載はない。
て、赤いキャップをかぶった武田誠一(二十一歳)なお、本件各著作物においては、被控訴人を呼び 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解が顔を出している。止めた男は「いかにも軽そうな痩せ型の茶髪の男」(本件著作物1・13頁4行目)、「髪を茶色に染めた見知らぬ男」(本件著作物2・12頁3行目)と記載されており、記載内容が異なる。
玲奈「?」・(控訴人指摘4)本件著作物1に同一の記載はない。
武田「ちょっと道に迷っちゃって、教えていただけま・(控訴人指摘5)せんか?」本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では『○○駅はどっちですか』(本件著作物1・12頁14行目)、『駅はどっち』(本件著作物2・12頁2行目)と記載されており、台詞の内容が異なる。
玲奈「はい」・(控訴人指摘6)本件著作物1に同一の記載はない。
武田は、地図帳を広げて、その一部を指さしてい・(控訴人指摘7)る。助手席から降りてこようとはしない。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物において犯人が地図の一部を指差している旨の記載や、助手席から降りてこようとはしないという記載はない。
武田「この通りに抜けたいんだけど」・(控訴人指摘8)本件著作物1に同一の記載はない。
玲奈は自転車にスタンドをかけると、助手席のほう・(控訴人指摘9)に近づいていく。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に自転車にスタンドをかけるという記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解武田が、ふいにドアを開けて助手席から降りてくる。
突然、後部座席のスライド式のドアが開く。乗って・(控訴人指摘10)いた阿部(二十一歳)が左手で玲奈の口を背後か本件著作物1に同一の記載はない。
ら塞ぐ。阿部は間髪入れず、右手で玲奈の胴体を抱えると、武田が、玲奈の足首を持ち上げる。二人は一瞬のうちに玲奈を車内へと引きずりこみ、ド・(控訴人指摘11)アがすばやく閉まる。本件著作物1に同一の記載はない。
引きずり込まれた際の態様が異なる。本件著作物1では、取られた鞄を取り返そうとして手を伸ばしたところ引きずり込まれた(13頁10行目以下)のに対し、本件映画では、主人公は羽交い絞めにされて引きずり込まれている。
あたりには、誰もいない。
深い闇轟音のような重低音のダンスミュージックが再生さ・(控訴人指摘12)れる。本件映画に対応する表現がない。最終稿の記載とは異なり、そもそも本件映画においてダンスミュージックを含む音楽は使用されていないため該当しない。
駅近く・路上(夜)・(控訴人指摘13)路上駐車したワゴンの内部は、窓にス本件著作物1に同一の記載はない。
モークが貼られているため、外側からわからない。犯行で使用された車が路上駐車されていた旨の記載、窓ガラスにスモークが張られていた旨の記 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解載はない。
ダンスミュージックが小さく響いている。
例えば、近隣の大学の運動部員たち数名が、ワゴンのすぐ脇をランニングしていく。
例えば、買い物帰りらしい親子づれが通り過ぎてくる。
しかし誰も異変に気づかない。・(控訴人指摘14)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、誰も異変に気づかないということを直接摘示した記載はない。
深い闇駅近く・別の路上(夜)ワゴンが静かに徐行していく。・(控訴人指摘15)本件著作物1に同一の記載はない。
一旦停止すると、スライド式のドアが開いて、まる・(控訴人指摘16)で荷物のように、玲奈を地面に落としていく。本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件各著作物には、走ってきた車が一旦停止したという記載、スライド式のドアという記載、被控訴人を荷物のように落としたという記載はない。なお、本件著作物1では、「『ほら降りろよ』と車のドアを開けられ、外に出た」(19頁13行)、と記載されており、外に出た際の態様が異なる。
ワゴンは静かに走り去っていく。・(控訴人指摘17) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物には、車が走り去っていく点についての描写はない。本件著作物1に「車はいつの間にかいなくなっていた」(20頁2行目)との記載があるが、表現が異なる。
玲奈の着衣は乱れており、肌が露出している。・(控訴人指摘18)×××本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は足を引きずるようにして、着衣の乱れもそまた、本件映画において、主人公の着衣の乱れやのままに歩いていく。肌の露出は描写されていない(主人公はダウンコートを着ているので、着衣の乱れや肌の露出は分からない)。
本件著作物1では「胸のはだけたシャツを押さえて自転車を押して歩き始めた」と記載されているが(20頁15行目)、本件映画では、主人公がシャツを押さえている描写や、また自転車を押して歩いたという描写はない。また、本件各著作物においては、本件映画のように、被控訴人が足を引きずっていたという記載はない。
また、仮に「場面として同一又は同趣旨」であっても、いわゆる「一般的な記述」まで使えないというのは、行き過ぎである。例えば、本件著作物に「辛かったね」という台詞がある限り、控訴人は映画で「辛かったね」という台詞を一切使用できなかったり、強姦の被害者が辛そうにしているシーンを描けないというのは妥当ではない。また被控訴人は、
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解控訴人が性犯罪被害者をテーマとした映画を製作することを応援していた以上、性犯罪被害において一般的な場面や台詞についても使用が認められないとするのも妥当ではない。
そして、強姦被害に遭った後で、着衣にいささかも乱れがないというのは考え難い描写である。
公園(内)(夜)玲奈は足を引きずるようにして歩いていく。誰もい・(控訴人指摘19)ない。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に被控訴人が足を引きずるようにして歩いたという表現はない。
公衆トイレの女性用へと入っていく。・(控訴人指摘20)屋外で強姦被害に遭ったのであれば、まずは利用できる公衆トイレに入って自身の状況を確認するということは、一般的な行動だといえる。
公園・公衆トイレ(内)・洗面台(前)(夜)玲奈は茫然として鏡の前に立っている。・(控訴人指摘21)白いブラウスには血が付着している。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人が公衆トイレの洗面台の前で鏡に立ったという記載はなく、また鏡の自分を見たという記載もない。
阿部(声)「マジで?」・(控訴人指摘22)本件著作物1に同一の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件各著作物に、被控訴人がトイレで体を拭いていたときに、犯人の台詞が思い出されたという描写はない。
玲奈の回想・路上駐車したワゴン(車内)武田は、泣きじゃくる玲奈の両腕を押さえつけ、首・(控訴人指摘23)の下あたりにサバイバルナイフの刃を突きつけて本件著作物1に同一の記載はない。
いる。下半身を露出した阿部がべっとり血の付着連れ込まれた車の中で被控訴人が泣きじゃくってした二本の指をこちらに見せる。いたという記載はない。
両腕を押さえられて首の下にナイフを突きつけられるという記載もない。
本件各著作物では、「耳元で、『カタカタカタ』という音がした。それがカッターの刃を出し入れする音だと、すぐに解った。・・・カッターに触れるのが怖かったのもある」(本件著作物1・14頁11行目)「耳のかたわらで鳴っている、カタカタカタという音。カッターの刃を出し入れする音だとすぐにわかりました」(本件著作物2・13頁3行目)と記載されており、本件映画では殺傷能力の高いサバイバルナイフが首の下に突きつけられているのに対し、本件各著作物ではカッターナイフの音がした、という程度で直接押し付けられたという記載もなく、刃物の種類及びその態様が異なる。
・(控訴人指摘24)犯人が血のついた指をみせたという描写はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解阿部「(武田に)こいつ生理中だな、どうするよ?」・(控訴人指摘25)本件著作物1に同一の記載はない。
被控訴人が生理であることに気付いた犯人が、他方の犯人に対し、どうするか確認したという台詞はない。
タイトスカートと下着を脱がされた玲奈は、激しく両足を動かして抵抗している。
武田「(玲奈に)ねえ、おまえ殺されたいの?だっ・(控訴人指摘26)たらそういって、絶対誰にも気づかれないところ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
に、埋めてあげるから」本件各著作物ではカッターナイフで「静かにしろよ、怪我したいのか」(本件著作物1・14頁10行目)は『怪我したくなければ静かにしていろ!』(本件著作物2・13頁5行目)と傷害を仄めかして脅したのに対し、本件映画はサバイバルナイフで「殺されたいのか」「埋めてあげる」と殺害を仄めかしている。本件各著作物には、直接殺害を仄めかした脅迫の記載はない。
玲奈は、はっとして体が動かなくなる。・(控訴人指摘27)本件著作物1に同一の記載はない。
両目を固く閉じる。恐怖で涙があふれてくる。・(控訴人指摘28)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
また、本件映画において、涙があふれてくる点の表現はない。
武田「(阿部に)なあ別の女にしない?シート汚し・(控訴人指摘29)ちゃうと、おまえの兄貴に怒られるじゃん」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件各著作物では、犯人の兄の存在については何ら言及されていない。また、別の女にしようという提案はなされていない。
阿部は、破れた玲奈のブラウスで手についた血を・(控訴人指摘30)拭ってから、じっと玲奈を見下ろす。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
阿部「……」・(控訴人指摘31)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は固く目を閉じて、泣きながら震えている。・(控訴人指摘32)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
また、本件映画において、主人公が泣きながら震えている表現はない。
阿部「いいや、こいつで」・(控訴人指摘33)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では『関係ねぇ。もったいねーし』(16頁4行)という台詞であり、台詞の内容が異なる阿部の露出した下半身が、玲奈の中に入ってい・(控訴人指摘34)く。本件著作物1に同一の記載はない。
本件映画では、露出された犯人の下半身が入っていく点を直接描写した表現はない。
そもそも、被控訴人は性犯罪被害についての映画の製作自体は応援していた以上(乙6)、強姦の要件である姦淫行為(刑法177条)の描写までもが禁止されていたとはおよそ考えられない。
公衆トイレ・洗面台(前)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解恐怖がこみ上げた玲奈は、鏡に向かって声にならない叫びを上げる。
タイトル『あなたもまた虫である(仮題)』公園近く・路上(夜)・(控訴人指摘35)健司は憔悴しきった表情で、息を切らしながら走っ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
ていく。本件各著作物に被控訴人の元恋人が公園に来るふいに公園の入口が視界に飛びこんでくる。際の様子についての記載はない。本件著作物1では、コンビニの前で落ち合ったと推察される記載がある(26頁13行)。
また、恋人から強姦されたと電話を受ければ、その場に走って駆け付けるというのは、一般的な行動だといえる。
公園(内)(夜)・(控訴人指摘36)健司が息を切らして走っていく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に被控訴人の元恋人が走ってきた旨の記載はない。
玲奈が外灯の下でひとりぽつんとベンチに座っている。
健司は玲奈の前にたどりつく。・(控訴人指摘37)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈のブラウスは破れており血が付着している。・(控訴人指摘38)顔を泣きはらしている。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人のブラウスが破れてい 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解たという点、泣きはらした顔をしていたとの記載はない。
健司「何かされたのか?」玲奈「……(うなずく)」健司「誰に?」・(控訴人指摘39)本件著作物1に同一の記載はない。
玲奈「……(首を振る)」・(控訴人指摘40)本件著作物1に同一の記載はない。
健司は頭をかきむしって、地面の土を蹴り上げる。・(控訴人指摘41)夜空に向かって声のかぎりに叫び声を上げる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では元恋人が『くそっ』と言いヘルメットを地面に叩き付けたという記載はあるが(27頁6行)、本件映画とはその態様が異なる。
また、恋人が強姦されたことを知れば、犯人に対する怒りがこみ上げてくるというのは、当然のことであり、一般的な行動だといえる。
なお、脚本と異なり、本件映画では、主人公の恋人は地面の土ではなく、公園の遊具を蹴っている。
玲奈「(泣きじゃくって)ごめんなさい……ごめんなさい……」健司は玲奈の前にひざまずくと、手のひらで玲奈・(控訴人指摘42)の涙をぬぐってやる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
健司「謝らないでくれよ、おまえは被害者じゃない・(控訴人指摘43)か……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解また、本件映画では「お前は被害者じゃないか……」との台詞は発言されていない。
玲奈のアパート・浴室(内)(早朝)玲奈はシャワーを浴びている。
玲奈のアパート・一室(内)(早朝)玲奈は泣きはらした顔に化粧している。すでに窓から朝日が射している。
壁にもたれた健司は、鏡越しにじっと玲奈を見ている。
健司「仕事休めないのか?」・(控訴人指摘44)本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では『こんな日くらい休めよ』(本件著作物1・36頁7行)、『少し、休め』(本件著作物2・21頁8行目)と記載されているが、それらは電話越しでの会話であるのに対し、本件映画では直接の会話であり、また台詞のニュアンスも異なる。
また、社会人の恋人が強姦された場合、次の日に会社を休むよう進言するということも、一般的な対応だといえる。
玲奈「……なんていって休めばいいの?『ゆうべ・(控訴人指摘45)強姦されたので今日はお休みします』っていった発言の状況が異なるら、みんな同情してくれるの?」本件各著作物では電話越しでの会話として記載されている。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解健司「今からでも遅くないよ、玲奈、やっぱり警察いこう」玲奈「いや!」健司「犯人が野放しになっていいのか?」玲奈「犯人なんて、どうだっていいよ、警察で質問されて思い出したくないの、ぜんぶ記憶から消せばいいんだから」健司「……記憶から……消せるのか?」玲奈「……」玲奈は無言で通勤用のバッグを手にして立ち上がる。
健司「駅まで送るよ、これからは、いつも一緒にい・(控訴人指摘46)るから」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1では、元恋人が事情聴取の際に、
「ずっと側にいてやるから」と約束した旨の記載があるが(30頁1行目)、これは事情聴取中側にいる、という趣旨と考えられる。
健司は立ち上がると、玲奈の体を正面から抱きしめようとする。
玲奈はビクッとおびえるように、体を引き離して、あとずさる。
健司「……おれが怖いの?」玲奈「……ごめん」青い空 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ゆっくりと白い雲が流れていく。
雑居ビル・非常階段(午後)会社の制服を着た玲奈は風に吹かれている。
玲奈「(鼻歌を歌っている)……」玲奈の回想・犯行現場(記憶の断片として)玲奈の鼻歌(例えば『ケ・セラ・セラ』)だけが響いている。
(映像の音声は聞こえない)。
赤いキャップを被った武田がさわやかな笑顔で助・(控訴人指摘47)手席から顔を出してくる。本件映画に対応する表現はない。
黒っぽいワゴンがアイドリングしながら、路上駐車・(控訴人指摘48)している。(ナンバーは、はっきりしない)。本件映画に対応する表現はない。
突然後部座席のスライド式ドアが開くと、玲奈は車・(控訴人指摘49)内へと引きずりこまれる。ドアがすばやく閉まる。本件映画に対応する表現はない。
武田がサバイバルナイフを玲奈の首に突きつけな・(控訴人指摘50)がら声をあらげている。本件映画に対応する表現はない。
玲奈は恐怖に泣き出す。・(控訴人指摘51)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人が強姦された際に泣いていた旨の記載はない。
阿部は後部座席に玲奈の体を押し倒して、ブラウ・(控訴人指摘52)スを引きちぎる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件各著作物に、被控訴人のブラウスが引きちぎられる旨の記載はない。本件各著作物では「シャツのボタンを弾かれた」(15頁7行)との記載はあるが、本件映画ではブラウス自体が引きちぎられて破かれており、態様が異なる。また、これは強姦の描写における一般的な記述である。
玲奈のタイトスカートと下着が乱暴に引き下げられ・(控訴人指摘53)る。逃れようとした玲奈の尻があらわになる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
被控訴人はズボンをはいていたのであり、タイトスカートをはいていた旨の記載はない。
本件各著作物では、ズボンのベルトが切られた以降の記憶が一瞬消え、開放されるまでは聴覚での記憶しかないと記載されており(本件著作物1・15頁6行、本件著作物2・14頁2行)、本件映画のような、実際に強姦されている場面を客観的に記載した描写はない。また、本件映画では、回想シーンの音声は、主人公の鼻歌のみであり、聴覚の記憶しかないという本件各著作物の描写とは大きく異なる。
・(控訴人指摘54)本件映画では「逃れようとした玲奈の尻があらわになる」という表現はない。
玲奈は泣きわめいている。・(控訴人指摘55)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、強姦被害に遭っていたときに被 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解控訴人が泣きわめいていたという記載はない。
雑居ビル・非常階段(午後)玲奈は鼻歌をやめる。目の前に都会の空が広がっている。
玲奈は、突然非常階段の鉄柵に両足をかけると身を乗り出す。強い風が吹き上げてくる。
香織(声)「白石さん」玲奈「(ビクッとして振り返る)香織ちゃん」玲奈の後輩・島崎香織(二十二歳)が、煙草にライターと携帯電話を手にしたまま、階段の下から玲奈を指さしている。
香織「ひょっとして今、飛び降りようと……、してました?」玲奈「(吹き出して)まさか、やめてよ、部長に遅刻怒られたくらいで」香織「だって〜、びっくりした〜」玲奈「こっちがびっくりしたよ〜」玲奈はすれちがいざまに「お疲れさま」と香織の肩を叩いて、非常階段に靴音を響かせながら降りていく。
玲奈のアパート・一室(内)(早朝)健司は、絨毯の上に敷いた布団のなかで目を醒ます。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解起き上がると、玲奈がベッドにいない。
玲奈のアパート・浴室(内)(早朝)玲奈はシャワーを浴びている。
健司(声)「玲奈?」全裸になった玲奈はヒステリックにスポンジで体を・(控訴人指摘56)洗っている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、生理中に「シャワーでずっと身体を洗っていることもあった」(60頁9行)という記載はあるが、本件映画で描かれているような態様で洗っていたという記載はない。
また、強姦被害に遭った女性が、自分が汚されたと感じて必要以上に体を洗うことは、一般的だといえる浴槽用洗剤を直接体に吹きつけては、力をこめて・(控訴人指摘57)体を洗っていく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
健司は、パジャマ代わりのスウェットのまま浴室に入ってくる。
健司「おまえ今夜シャワー何回目だよ?もうよせって」玲奈「(無表情で)落ちない……落ちない……」健司「(見て)おい、これ洗剤じゃないか、体に毒だぞ」健司は玲奈の手から洗剤の容器を取り上げると、
タイルの床に投げ捨てる。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解健司はスウェットのまま、ずぶ濡れになりながら裸の玲奈を抱きしめる。シャワーが二人の頭上から降りそそぐ。
玲奈「(つぶやく)だって、汚れが……落ちないから・(控訴人指摘58)……」本件映画ではこのシーンで「汚れが」という発言は健司は玲奈の両肩をつかんで、裸の体をじっくりされていない。
見る。
健司「(泣きながら)よく見せてみろよ、きれいだよ……玲奈の体は、きれいだよ……」玲奈「(つぶやく)落ちない……落ちないよ……」雑居ビル・通用口(前)(夜)スーツを着た健司が所在なげに煙草をすっている。
私服に着がえた香織が出てくる。
香織「(健司に気づいて)こんばんは」健司「(見て)香織ちゃん」香織「玲奈さん、部長に残業頼まれてたから、あと一時間くらい出てきませんよ」健司「いいの、なれてるから」香織「そのへんでコーヒーでも飲みませんか?」健司「(腕時計見て)……そうしようかな」×××健司は香織とともに去っていく。
香織(声)「毎日送り迎えなんて、愛されてるんです 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ね、玲奈さん、うらやましいな、結婚式はいつになったんですか?」健司(声)「(話そらして)また三人でカラオケいこうよ」玲奈のアパート・一室(内)(夜)寝そべった健司は、雑誌を眺めながら、煙草をすっている。
玲奈は、台所で食器を洗っている。
健司はふと腕時計を見ると、絨毯の上に置いた灰皿で煙草を消す。
コートをはおると玄関で靴を履く。
玲奈「出かけるの?またパチンコ?」健司「ちょっと、散歩だよ」玲奈はタオルで濡れた手をぬぐうと、玄関に追いかけてくる。
玲奈「ねえ健ちゃん」健司「うん?」玲奈「(笑って)幸せになるための切符を、私、もってなかった」健司「……何の話?」玲奈「神様がそれを気づかせるために、あの事件をおこしてくれたの、そうでしょ?」健司「何いってんだよ、切符をもってないなら、駅で買ったら済む話だろう?(靴紐結んで)遅くならな 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解いうちに帰るから(出ていく)」駅近く・路上(遠景)(夜)健司は、事件現場に立って、通り過ぎていく車のテ・(控訴人指摘59)ールランプを見つめている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
×××健司は路上駐車している車を一台ずつ見て、車内・(控訴人指摘60)に誰か乗っていると、コンコンとノックしてガラス窓本件著作物1に同趣旨の記載はない。
を開けさせては、話しかける。本件著作物2に元恋人が犯人を捜すために事件現場に行き車が止まっていれば中をのぞいたりもした、という記載はあるが(138頁2行)、単に車の中をのぞいたにとどまり、直接乗車している者に質問をしていたといった記載はない。
健司「地元のかたですか?最近このあたりで黒・(控訴人指摘61)っぽいワゴン見かけませんでした?」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈のアパート・一室(内)(深夜)玲奈はシングルベッドに寝そべっている。
玲奈「健ちゃん、起きてる?」健司は、布団の上で目を開けている。
健司「起きてるよ」玲奈「どうして私を抱こうとしないの?」健司は起き上がると、玲奈の頬にそっと手をふれる。
健司「それは、おまえを傷つけたくないから……」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「またきれいごといってさ、私が強姦された汚れた女だから抱きたくないんでしょ?はっきり言えよ」健司は、いきなり玲奈の唇に、みずからの唇を重ねる。
玲奈「(涙声で)無理すんなよ」健司は、玲奈の上に体を重ねると胸をまさぐる。首に舌を這わせていく。
玲奈は目を閉じて受け入れている。
玲奈「……」突然、玲奈は健司の体から逃れると、トイレに駆け・(控訴人指摘62)こんでいく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
なお、PTSDとして吐き気の症状がでるということは一般的なものである。
本件著作物1にでは「後の夫となる人」が家に泊まりに来た時に吐いてしまう、という記載はあるが(108頁7行)元恋人と肉体関係を持ったということや、その際に被控訴人がトイレに駆け込んだという記載はない。
玲奈のアパート・トイレ(内)(深夜)玲奈は洋式の便器に激しく嘔吐する。・(控訴人指摘63)本件著作物1に同一の記載はない。
健司が玲奈の背後にしゃがんで、背中をさすってやる。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解健司「大丈夫か?」玲奈はなおも激しく嘔吐している。・(控訴人指摘64)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
雑居ビル・非常階段(午後)会社の制服を着た玲奈が、資料のファイルを抱えて階段を上がっていく。
武田(声)「(笑いながら)おまえは女が生理中でも関係ないじゃん」阿部(声)「(笑いながら)だって、もったいないから・(控訴人指摘65)さ〜」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1に、強姦をされた際に犯人が『関係ねぇ。もったいないねーし』と発言したという記載はあるが(16頁4行)、本件映画ではこの台詞は主人公が聞いた幻聴として描かれているところ、本件各著作物ではそのような形でこの犯人の台詞が描かれていない。
武田と阿部が事件のときとまったく同じ服装で、玲奈とすれちがい階段を降りていく(それは玲奈の幻想である)。
玲奈は背筋が凍る思いで、ゆっくりと振り返る。
玲奈は、しばらく茫然としているが、我にかえると二人を追って階段を駆け降りていく。
雑居ビル・通用口(前)(午後) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈は、武田と阿部が去っていったあとを追いかけてくる。
財布を手にコンビニエンスストアから帰ってきた香織とぶつかって、資料のファイルを地面に落とす。
香織「(思わず)あ、ごめんなさい」玲奈「(息荒く)今、若い男が二人、階段から降りてきたでしょ?どっちにいった?」香織は驚いて、玲奈の顔をまじまじと見る。
香織「誰も、降りてきませんでしたよ」玲奈「(香織の肩を揺さぶって)どうして嘘つくの?教えてよ!」香織「……は?嘘なんて、ついてませんけど」玲奈は、憔悴しきった顔で立ちすくんでいる。
玲奈「……」ラブホテルの一室(内)(夜)通勤用のバッグを投げ出してダブルベッドに寝そべった香織は天井を見ながら、くわえた煙草に火をつける。
香織「あの人と心中でもするの?別れないと、本当にそうなるよ」スーツを着た健司は、香織の隣に横たわる。
健司「あいつには、おれがいてやらないと、」香織「(起き上がって)だから違うって!健ちゃんと一緒にいるかぎり、あの人ずっとあのままだよ、
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解わからないの?」健司「……おれのせいなのか?」香織「忌まわしい過去を知っているひとに、ずっとそばにいられたら、誰だって苦しいよ、心を鬼にして別れてあげるのも優しさじゃない?」健司「……」香織(声)「ね、健ちゃん」健司が顔を向けると、香織はさっさと服を脱いで下着姿になっている。
香織「(ふざけてセクシーなポーズをとりながら)悪いこといわないからさ〜、私にしといたら〜?」玲奈のアパート(外)(夜)健司はドアの前で煙草をすっている。
健司「(悩んで)……」突然内側からドアが開く。
玲奈「あら?おかえり、そこで何してんの?」玲奈のアパート・一室(内)(夜)健司はダンボールに荷物をまとめている。
玲奈は健司の背後に近づいてくる。
玲奈「私を置いて出ていくの?」健司「お互いのためだよ」玲奈「健ちゃんはまた私が襲われてもいいの?・(控訴人指摘66)きっと私、同じ目に遭うよ?」本件著作物1に同一の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解被控訴人が一人で帰らなければならない時に、元恋人に迎えに来てもらうために同様の台詞を言ったという記載はあるが、(本件著作物1・74頁5行、
本件著作物2・27頁4行)、元恋人と別れる際の台詞としては描かれていない。
健司はふいに立ち上がると玲奈に顔を近づける。
壁際まで追いつめていく。
健司「おまえ二人組に犯されているとき、本当は興・(控訴人指摘67)奮して濡れてたんだろ?また襲われたいって、今本件著作物1に同趣旨の記載はない。
もそう思ってるんだろう?」本件著作物1に、喧嘩した際の元恋人の発言として、『お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ』との記載があるが(本件著作物1・74頁13行)、別れ際の台詞ではない。
なお、「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」という台詞と「おまえ二人組に犯されているとき、本当は興奮して濡れてたんだろ?」という台詞とではそもそも内容が異なる。
玲奈「……どうしてそんなことがいえるの?」健司「このままおまえといたら頭がおかしくなる、今・(控訴人指摘68)までつきあってやっただけでも、感謝してほしいよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、『お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ、感謝しろ』(本件著作物1・74頁14行)、『お前みたいな女と付き合ってやってるん 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解だよ』(本件著作物2・27頁10行)との記載があるが、これらは被控訴人の罵倒に対して元恋人が発言した台詞であって、喧嘩中の“売り言葉に買い言葉”としての発言である。他方、本件映画における台詞は、そのようなものではなく、別れ際における恋人からの一方的な発言であり、内容も趣旨も異なる。
玲奈「ごめんなさい、これからは何でも健ちゃんのいうとおりにするから、別れるなんて、いわないで、
お願い」健司「(頭を深々と下げて)頼むから、もうおれのこ・(控訴人指摘69)とは忘れて、幸せになってくれ」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1で『頼むから、もう俺のことは忘れて幸せになってくれ』同様の台詞が使用されている場面があるが(本件著作物1・107頁10行)、これは別れた後でもつい電話をかけてしまう被控訴人に対しての元恋人の台詞であり、別れ際の発言として記載されたものではない。
玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)テーブルの上には、おせち料理が準備されている。
和代(声)「中山さんとはうまくいかなかったの、残念だわ」玲奈と和代は、台所にならんで立って雑煮を準備 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解している。
和代「お父さん、中山さんのこと、とても気に入っていたのよ、『次はいつ遊びにくるんだ?』なんていってね」玲奈「そうは見えなかったけど」和代「暗い顔しないの、玲奈ちゃんなら、すてきな人と、またすぐに出会えるわよ」玲奈「お母さん、大切な話があるの、聞いてくれる?」玲奈の実家・二階・廊下(午後)昼食の食器をのせた盆が廊下のドアの前に無造作に置かれている。ご飯とおかずの一部が食べ残されている。
和代(声)「なんですって?」ドアが小さく開く。
ドアの向こうの影(雅彦)がじっと階下に耳を澄ましている。
玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)和代は興奮して唇をぶるぶる震わせている。・(控訴人指摘70)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「どうして今頃になってそんなことを打ち明け・(控訴人指摘71)るの?お母さん、あなたの神経が信じられな本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解い!」本件著作物1では、『なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!』という台詞があるが(80頁12行)、本件映画では、「神経」が信じられないといっているのに対し、本件著作物1では、「あんたの言うこと」が信じられないといっており、内容が異なる。
特に、本件映画では、事件から1ヶ月半経って初めて告白したことについてその神経が信じられないといってなじっているのに対し、本件著作物1では、被控訴人は、事件から2週間後に『車に連れ込まれたけど、必死に逃げてきた』と言ったのに対してその5ヶ月後に実はそれは嘘で本当は逃げ切れなかった、ということを打ち明けた際の母親の言葉であり、本件著作物1では、一度は大丈夫だと「言った」のにあえて嘘をつかれた、ということから「あんたの言うこと信じられない」という発言に繋がったものだと考えられるところ、そもそも台詞の内容及びその意図するものが異なる。
玲奈「だって……」和代「(うろたえて)ご近所に知られたら、どうするの?恥ずかしい」玲奈「強姦されるって恥ずかしいことなの?私は被害者なんだよ?」玲奈の実家・一階・居間(内)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解恵三は腕組みして、じっと目を閉じている。和代は恵三の隣に座っている。
玲奈はテーブルをはさんで両親と向かいあっている。
恵三「(あっさりと)忘れたほうがいいね」玲奈「……は?」恵三「おまえは強い子だから、そんなことは気にせ・(控訴人指摘72)ず今までどおり、生きていけるはずだ」本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、被控訴人の両親から被控訴人に対する、「お前は強い子だから、そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないでしょ」という台詞はあるが(83頁8行)、それは事件から1年半が過ぎて新しい男性と同棲するときに言われた台詞であり、事件から1年半経ってもまだ事件のことを忘れられない被控訴人に対して、父親が前向きに生きて欲しいという趣旨で発言したもので、一般的ななぐさめの言葉といえる。他方本件映画は、事件を告白した当日の父親発言であり、
この台詞は単に事件を受け止められない父親を描いたものである。
玲奈「(耳を疑って)今なんていったの?」恵三「野良犬に手を噛まれただけだろう、さっさと忘れるんだ」玲奈「忘れられるわけないでしょ?ねえわかってるの?私は犯されたの、見ず知らずの男たち 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解に!それを、ぜんぶ、なかったことにしろっていうの?あんたたち頭おかしいんじゃない?」恵三は、突然身を乗り出すと、玲奈を平手打ちに・(控訴人指摘73)する。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、被控訴人の父親が、被控訴人が小さい頃に言うことを聞かないと殴られたという記載はあるが(85頁6行)、被控訴人が事件を告白した日に殴ったという記載はない。
玲奈「(頬を手でおさえて)……」・(控訴人指摘74)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
恵三「親に向かって……、その口のききかたは、何・(控訴人指摘75)だ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、被控訴人が小さい頃に、
父親の言うことを聞かないと殴られたという記載はあるが(85頁6行)、被控訴人が事件を告白した日に殴られたという記載はない。
和代「(涙声になって)あなたが襲われたのは、私・(控訴人指摘76)たちのせいかしら?親を責めるなんて、筋違いだ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
わ」本件著作物1に「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど、私たちのせいでもないんだから、そんなことで私たちを責めないでよね!」(本件著作物1・84頁2行〜)という台詞はあるが、事件を告白した日の台詞としては描かれたものではない。
玲奈「私は……」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈は立ち上がると出ていく。
玲奈の実家・二階・廊下(夜)玲奈は閉じられたドアの前に立っている。
玲奈「(ドアに)お兄ちゃん、いま聞こえてたでしょ?私ね、強姦されたんだよ、わかる?若い二人組だった、あそこにおちんちん挿(い)れられて犯されたの……ねえ、就職して、上司にいじめられて会社辞めてから四年間、ずっと引きこもってるお兄ちゃん?そこからは、どんな景色が見えるの?私は地獄をみてるよ」ドアの内側から反応はない。
玲奈「(涙あふれて)お母さんが抱きしめてくれたら・(控訴人指摘77)救われる気がしてた、それだけで……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「『辛かったね』ってたった一度でも抱きしめてくれたらどんなに安心したか・・・」(81頁15行目)との記載があるが、これは兄に向けられた台詞ではないし、またその内容も「抱きしめてくれたらそれだけで救われる気がしていた」というものと「『辛かったね』といって抱きしめてくれたら安心しただろう」と内容が異なる。
玲奈は涙をぬぐってドアに背を向ける。
玲奈「さよなら」玲奈の背後でふいにドアが開く。
ドアの隙間の暗闇から、無精髭を生やした長髪の 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解雅彦(二十六歳)が弱々しく、こちらを見ている。
玲奈「お兄ちゃん」雅彦「(小さな、か細い声で)……どんなことが、あっても、生きのびることだよ」玲奈「(思わず笑って)……偉そうに、引きこもりのくせして」雅彦「(笑って)そうだな」玲奈「(うなずく)……わかったよ」雅彦「元気で」公園(内)(午後)二年後。冬。休日。
菊池隆(三十二歳)と玲奈(二十六歳)は、笑いながら競いあうようにブランコを漕いでいる。
菊池がさっと飛び降りて、あざやかに着地する。
玲奈「(漕ぎながら)すごい!私も!」玲奈も飛び降りるが、激しくよろける。菊池は玲奈が転ばないように、思わず抱きしめる。
玲奈「……」玲奈は不快感をどうにもできず、視線を泳がせる。
無言で立ち去っていく。
菊池「おい、どうした?」公園・トイレ・個室(内)玲奈は、便器に激しく嘔吐している。・(控訴人指摘78) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件著作物1に同趣旨の記載はない。
公園(内)(午後)菊池は缶コーヒーを二つ持ってくる。
ブランコに座っていた玲奈は、ひとつ受けとる。菊池は隣のブランコに座る。
玲奈「このあいだ、プロポーズしてくれたこと、ありがとう、嬉しかった」菊池「……」玲奈「ごめんなさい、結婚はできません」菊池「どうして?」玲奈「……私は、」菊池「冷えてきた、もっと温かいところで、話さないか」玲奈「(首を振って)ここで」菊池「(うなずく)わかった」玲奈「……二年前、転職して菊池さんと知り合う少し前に、私は強姦されました……、見知らぬ二人組に、車の中で……、警察に届けなかったので、
犯人はわかりません」菊池「……」玲奈「『フラッシュバック』といって、そのときの記憶・(控訴人指摘79)が突然よみがえってくるの、そうなると、体が震え本件著作物1に同趣旨の記載はない。
て、涙があふれてきて、じぶんでは、どうすることも本件著作物1では、「フラッシュバックが起こるときできない……」は、目の前が真っ暗になる。そして身体が硬直し、
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解何かが過ぎ去るのを待っているような感覚に襲われる。」と記載されており(59頁5頁)、その内容も異なる。
なお、強姦された被害者が、体が震える、涙が出るというフラッシュバックに襲われるということも一般的なものである。
菊池「……」玲奈「今でも男の人にちょっとでもさわられると、吐・(控訴人指摘80)き気がして、胃のなかのもの、ぜんぶ出しちゃう…本件著作物1に同趣旨の記載はない。
…さっき、菊池さんに、ふれられたときも……」菊池「すまなかった、知らなくて……」玲奈「(首を振って)だから、私には結婚なんて、……菊池さん、すてきだから、もっとふさわしい女の人がいるよ」菊池「つらかったね」玲奈「……」菊池「きみにさわれない?それがどうした?そばにいられるだけで、じゅうぶん幸せだ……」玲奈「……」菊池「結婚しようよ」玲奈は言葉に窮して、沈黙する。
菊池「結婚しよう」玲奈「……(うなずく)」菊池のマンション・台所(内)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈は、台所に立って料理をしている。
菊池(声)「きみと、ご両親との関係はわかった」玲奈の回想・公園(内)(午後)菊池「今は、入籍だけにしよう、いずれ玲奈のことを理解してもらえるときがきたら、結婚式を挙げよう」玲奈「あなたの好きなようにして」菊池「(笑って)ウェディングドレス、きっとすてきだろうな、楽しみだ」菊池のマンション・台所(内)(夜)玲奈は左手の薬指にした指輪をじっと見ている。
玲奈「(微笑して)……」ドアベルが鳴る。玲奈は思わず玄関に駆けていく。
玲奈「(息を弾ませて)おかえり」菊池「(入ってきて)ただいま」玲奈は菊池の顔をじっと見つめている。
菊池「どうした?」玲奈「こんなに幸せでいいのかな?」菊池「(笑って)いいさ」菊池のマンション・寝室(内)(夜)玲奈がパジャマとシャツを脱ぐと、裸の背中が闇 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解のなかに浮かび上がる。
菊池は、ベッドの上に裸で寝そべっている。
菊池「やっぱり、やめておこう」玲奈「大丈夫だから、お願い」玲奈は裸の胸を隠すようにしてベッドに横たわる。
菊池は玲奈の上に体を重ねていく。
闇のなかに二人の息遣いだけが響いている。
阿部(声)「いいや、こいつで」玲奈の回想・ワゴン(車内)(夜)下半身を露出した阿部が玲奈の中に入ってくる。
菊池のマンション・寝室(内)(夜)ベッドの上の玲奈は、唇を噛みしめて声を押し殺し・(控訴人指摘81)ている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈が涙を流しているのに気づかず、菊池は息荒・(控訴人指摘82)く、妻の体をむさぼることに没頭している。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は思わず菊池を突き飛ばす。
玲奈「怖いよ」・(控訴人指摘83)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
菊池「……ごめん、つい夢中になって」・(控訴人指摘84)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
菊池は裸のまま熟睡している。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈は、洗面台に嘔吐する。胃が痙攣して苦痛に・(控訴人指摘85)顔をゆがめる。玲奈は口を水ですすぐ。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「(つぶやく)幸せになってやる……私だって、
幸せに……」菊池のマンション・リビング(内)(午後)三年後(二〇一一年)。初夏。
菊池の母・晴江(六十一歳)が扇子で顔をあおぎながら、テーブルの上にある「ニシンの山椒漬け」を箸でつまんでいる。玲奈は瓶ビールを晴江のコップに注ぐ。
玲奈「お義母さん、長唄のほうは最近いかがですか?」晴江「(関西弁で)さぼってばかりやねん、ちっとも上達せえへんから、嫌になってしもてね」菊池もまたビールを飲んでいる。
菊池「(関西訛りで)趣味のひとつも見つけとかんと、老後が淋しいよ」晴江「(玲奈に)あんたら入籍してから、どのくらいになるやろか?」玲奈「もう三年が過ぎました、本当にあっという間で」晴江「ええかげん、孫の顔見せてちょうだいよ」・(控訴人指摘86)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「……」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解菊池「授かりものやから、まあそのうち」晴江「なあ玲奈さん、あんた体に欠陥でも、あるんちゃうの?いっぺん病院で診てもらったら?」菊池「よけいなお世話や」晴江「あら、隆くんのこと心配して、いうてるんやないの、こういうことはね、誰かが、はっきりいうてあげないと」玲奈「……すみません」晴江「(ニシンの山椒漬けを口に運び)これ、とってもおいしいわ〜、なに?」玲奈「おとなりが、福島から避難してこられたご家族なんですよ……おすそわけで、福島の名産をいただいて」晴江は、食べかけのニシンの山椒漬けを皿に吐き出す。
晴江「あんたテレビ観てへんの?福島の名産なんて、ぜんぶ毒のかたまりなんやで!」玲奈「でも、放射線量は基準値以下の……安全な品だって……」晴江「そんなん見ためじゃわからへんやないの!」菊池のマンション・リビング(内)(夜)玲奈は、瓶ビールを飲みながら、ニシンの山椒漬けの残りを箸でつまんでは口に運んでいく。
玲奈「(ニシンの山椒漬けを見て)私と同じだね、
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解見ためは変わらないのに、汚染されている……」菊池(声)「やめろって」菊池はソファの上でこちらに背を向け、横たわっている。
菊池「(背を向けたまま)おふくろのいったことなんか、気にするなよ」玲奈は、コップのビールを飲み干す。
玲奈「いちどもセックスしたことないのに妊娠するわけないよね?イエス・キリストじゃないんだから、お義母さんに教えてあげようかな?『(関西弁をまねて)あんたとこの嫁ね、強姦されてしもてから、おちんちん、受けつけへん体になったんですよ、お気の毒やね』」菊池はこちらに顔を向ける。
菊池「おれは、玲奈と一緒に暮らしていけるだけで幸せだよ」公園(内)(午後)同じ年の冬。
三年前と同じように菊池隆(三十五歳)と玲奈(二十九歳)は、競いあうようにブランコを漕いでいる。
菊池がさっと飛び降りて、あざやかに着地する。
玲奈も飛び降りるがやはりよろける。
菊池は、玲奈が転ばないよう、思わず両手を差し出すが、結局ふれられずに、下ろす。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解菊池「……」×××菊池は缶コーヒーを二つ持ってくる。
ブランコに座っていた玲奈は、三年前と同じように、ひとつ受けとる。菊池は隣のブランコに座る。
二人はしばらく無言のままでいる。
菊池「……他に好きなひとができた、取引先の女性でね」玲奈「なんとなく、わかってた、夫婦だもん」菊池「(頭を深々と下げて、関西訛りで)別れて……くれませんか」玲奈「よしてよ、みじめじゃん」玲奈は左手の薬指からさっと結婚指輪を抜いて、
菊池にわたす。
玲奈「さよなら、楽しかった」玲奈は突然、ブランコを激しく漕ぎはじめる。
菊池も隣でブランコを漕ぐ。
玲奈「せいのッ、で一緒に飛ぼうよ!」菊池「いいよ!」玲奈「ねえ、もしあなたより遠くまで飛べたら、離婚するの、やめてくれる?」菊池「(真顔になって)……え?」玲奈「(笑って)冗談だよ、何よ、マジになっちゃって、器小さいな〜」菊池「(笑って)なんだ、そうか」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「(淋しく)……冗談だよ」二人は無言でブランコを漕いでいる。
玲奈のマンション(内)(夜)二年後。冬。
玲奈(三十一歳)がパソコンに向かって、キーボードを叩いている。
玲奈(声)「七年前の今日、私は強姦されました、
警察に被害届を出すことができず、時効まではあと三年を残していますが、これからも出すつもりはありません」玲奈の顔のディスプレイ画面の青い光が反射している。
玲奈(声)「性犯罪の被害を受けながら、私のよう・(控訴人指摘87)に、警察に被害届を出さない女性は、統計による本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
と九割近く……つまりほとんどだと知りました」「『どこにも届けていない』が断トツの85%です」という記載はあるが(本件著作物2・101頁11行)、
表現が異なる。
ディスプレイ画面『性犯罪被害者のあなたと』という交流サイトのトッ・(控訴人指摘88)プページ。風景写真などを配した落ち着いたデザ本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
インに、「メールはこちらへ」などの項目がある。
玲奈(声)「同じ境遇の方々と交流したい……そう・(控訴人指摘89)考えてこのようなウェブサイトを設立しました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈のマンション(内)(夜)玲奈はコーヒーをいれてパソコンの前に戻ってくる。
玲奈(声)「仮に、犯人を裁くことができたとしても、
現在の刑法では、強姦は強盗よりも罪が軽く、最短の場合、懲役はわずか三年です……(声が震える)しかし、強姦は心を殺す……殺人罪と同じです……」玲奈はパソコンに向かっている。
キーボード入力している玲奈の目から涙があふれていく。
玲奈(声)「(涙あふれて)私の心は壊れてしまいました……両親や夫、かつての恋人……誰もが私から離れていって……事件から七年を経た今でも……毎日、死ぬことばかり考えて……」喫茶店(内)(午後)玲奈は、テーブルをはさんで向かいあった柏木比佐子(三十四歳)の名刺を見ている。
比佐子「ウェブサイトを見て、同じ女性として、たい・(控訴人指摘90)へん衝撃を受けました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
テレビ局の名前が記載されている。・(控訴人指摘91)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「テレビの報道番組へ……私が出演を?」・(控訴人指摘92) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
比佐子「白石さんの経験したことや感じたことを話していただけませんか?」玲奈「私には……とてもそんな……」比佐子「性犯罪の被害者たちは、いやおうなく沈黙を強いられています、あなたがそれを代弁するんです」玲奈「……私にできるでしょうか?」比佐子「(微笑してうなずく)大丈夫」玲奈「(しばらくじっと考えてから)……ひとつ条件があります」比佐子「何でしょう?」玲奈「私は白石玲奈という実名で、顔にもモザイクをかけたりせず、正々堂々と出演したいです、同じ境遇にいる方々のためにも」比佐子「……いいんですか?」玲奈「(うなずく)……」照明機材が突然発光するテレビ局・スタジオ(内)白い壁を背景に椅子に座った玲奈は、まぶしさに目を細める。
(ビデオカメラによるインタビュー収録である)。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解テレビカメラの映像玲奈の顔へ極端に寄ったり引いたり、レンズを調整している。ヘアメイク係が、玲奈の額の汗をおさえる。
テレビ局・スタジオ(内)テレビカメラに向かって、玲奈は静かに語りはじめる。
玲奈「私は白石玲奈といって、性犯罪被害者のウ・(控訴人指摘93)ェブサイトを運営しています……まず私自身のこと本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
を話します、七年前、私は強姦されました……」本件各著作物に『Yです。七年前に、性犯罪の被害にあいました』という言葉でシンポジウムでの発言を始めたとの記載があるが(本件著作物1・192頁7行目、本件著作物2・153頁10行目)、本件映画はテレビ番組での発言であり、またその内容も異なる。
テレビ画面玲奈がインタビューを受けている。
画面右上に「性犯罪がもたらす悲劇とは」「被害女性覚悟の実名証言」などのテロップが表示されている。
玲奈(音声)「性犯罪被害に遭った女性たちと交流を深めることができたら、と思いたって、私はウェブ 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解サイトを開設することに……」丸岡のアパート(内)(夜)バスタオルを体に巻いた少女・水野亜紀(十四歳)・(控訴人指摘94)がドライヤーで髪を乾かしながらテレビを観てい本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
る。なお、本件映画の水野亜紀の設定(父親から強姦されてきた)が、本件著作物2の「C」と同じあるとしても、水野亜紀と父親との関係、父親に対する感情、家出をしてインターネットで知り合った男の家を泊まり歩いていること、妊娠したこと、そして父親が逮捕されるという展開は、「C」とは大きく異なる以上、同じ場面とはいえない。
テレビには玲奈の映像が映し出されている。
玲奈(音声)「十代から六十代まで、二千人を超える性犯罪被害者から、心の叫びというべきメールが届いて……」亜紀はドライヤーのスイッチを切って、コップのオレンジジュースを飲みながら、画面に見入っている。
玲奈(音声)「自殺未遂などの自傷行為におよぶ女性が驚くほど多く、誰もがみずからを責めています……どうして?私たちは被害者なのに」丸岡(三十二歳)が、パンツ一枚で、待ちきれないように、亜紀に近づいてくる。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解丸岡「おい、もう電気消すぞ」亜紀「うん」玲奈のマンション(内)玲奈は、訪ねてきた恵三と和代にコーヒーを差し出している。
ソファに座っていた恵三(六十二歳)は、突然玲奈を平手打ちにする。
恵三「この恥知らずめ!」和代(五十九歳)は恵三の隣でため息をついている。
和代「どうして、わざわざテレビなんかに……うちはね、いたずら電話が鳴りっぱなしなのよ」恵三「親に断りもなく、結婚して、離婚して、ようやく落ち着いたかと思ったら、こんどは、マスコミの口車にのせられて、わざわざ世の中に恥をさらそうとしている、親の……親の顔に泥をぬって……」玲奈「親らしいことなんて、何ひとつしてくれなかっ・(控訴人指摘95)たよね?」本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、男性と同居すると言って両親に勘当された際の発言として、『親らしいこともできないくせに、こんなときだけ親面しないでよ!』という記載があるが(111頁4行)、台詞が発せられた状況(テレビを出たときのものか男性と同居を始めるときものか)が異なる。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解また、親子喧嘩をする際に「親らしいことなんて何もしてくれなかった」という趣旨の発言をすること自体は、ある意味一般的なものといえる。
恵三「おまえは、お父さんの知っている、玲奈じゃ・(控訴人指摘96)なくなってしまった……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「……私もある朝、虫になっていたってこと?」恵三「虫だって?」玲奈「お兄ちゃんのこと昔そう呼んでた、虫に変身したから言葉がつうじないって」恵三「いったい何の話だ?」玲奈「カフカの『変身』の主人公だって……、憶えてないなら、別にいいよ……」恵三「(涙あふれて)会社から帰ってくると、『パパ、・(控訴人指摘97)おかえりなさい』って、よちよち歩きで、出迎えてく本件著作物1に同趣旨の記載はない。
れた可愛い玲奈は、どこへ消えてしまったんだよ……お父さん、おまえがわからないよ……」玲奈「……」恵三「(泣きながら)勘当だ……、二度と家の敷居・(控訴人指摘98)をまたぐな……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、被控訴人が男性と同居したときに両親から勘当されたという記載はあるが(111 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解頁4行目)、テレビに出演したことで勘当されたという記載はない。
また、激しい親子喧嘩の末に、親から「勘当だ」と言われることは、一般的なことといえる。
恵三と和代はあわただしく出ていく。
和代は突然戻ってくると、風呂敷に包んだおにぎりや煮物などを詰めたパックを玲奈に差し出す。
和代「食べてね、テレビに映ったあなた、顔色悪かったから」玲奈「お母さん……」和代は恵三を追って去っていく。
ドアが遠くで静かに閉まる。
玲奈「……」ゲイバー(内)(夜)玲奈と比佐子はカウンターの隅で乾杯している。
比佐子「(玲奈に)すごい反響ですよ、第二弾をぜひ……」派手な化粧をしたゲイバーのママ・中西(三十八歳)がグラスを片手に話に割りこんでくる。
ママ「テレビ観たわよ」玲奈「ありがとうございます」ママ「あんたってさあ、結局世の中のうわっつらしか見てこなかったのよ、そのまま何も知らずにボーッと生きていられたら、一生幸せだったのに」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「……そうですね」ママ「『平凡な人生よ、さようなら』ってことね、(手をあわせて)ご愁傷様」玲奈「……」ママ「(じっと玲奈を見つめて)応援してるのよ、負けないで」玲奈「(微笑して)はい」ゲイバー(外)・路上(夜)玲奈と比佐子が店を出ると、リュックを肩にかけた亜紀が物陰から突然近づいてくる。
亜紀「あの、テレビ観ました、白石玲奈さんですよ・(控訴人指摘99)ね?握手して下さい」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「本当に?ありがとう、ずっとここで待ってたの?」比佐子「あなた中学生?こんな夜中に繁華街にいて、親御さんは心配しないの?」亜紀は玲奈と握手したまま離さない。
玲奈「?」亜紀「へえ、テレビより美人なんだ?」玲奈「……」亜紀「あんた、ようするに露出狂でしょ?じぶんが犯されたことを、わざわざテレビで誇らしげに喋ってさ、次はアダルトビデオにでも出たら?」比佐子「(亜紀に)帰りなさい!あんた家出したん 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解でしょ、警察に通報するわよ」亜紀は玲奈の手を離すと、繁華街へと走って逃げていく。
ゲイバー近く・路上(夜)亜紀は、リュックを肩にかけて歩いていく。数日間髪を洗っていないらしく、べとついており、衣服も薄汚れている。
亜紀(声)「こんにちは、十四歳の女の子です、今夜泊めてくれる親切な男の人はいませんか?」繁華街(夜)亜紀は、街をさまようように歩いていく。・(控訴人指摘100)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
×××亜紀は、閉店した店舗のシャッターにもたれて、スマートフォンをいじっている。
亜紀(声)「ご連絡をお待ちしています」北嶋のアパート・玄関(外)(夜)北嶋(三十六歳)はドアを開けると、亜紀の体を下から上へと、舐めるように見る。ミニスカートから白い足が露出している。
北嶋「(嬉しそうに)ほ、ほんとに十四歳?」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解北嶋のアパート・寝室(内)(夜)亜紀は、ベッドに寄りかかって、玲奈と握手した右手を見ている。入浴後らしく髪が濡れており、北嶋のパジャマを着ている。
北嶋は電灯を消す。
北嶋「(息荒く)ね、寝ようよ」亜紀「うん」亜紀はシングルベッドの布団のなかへと入る。北嶋は、当然の権利を行使するように、布団にもぐり亜紀のパジャマを脱がせながら、息荒く体をむさぼっていく。
亜紀は、無表情で天井を見ている。
亜紀「……」喫茶店(内)(午後)比佐子は、封書の束をいくつもテーブルの上に差し出す。
比佐子「視聴者からの手紙です」比佐子はさらにプリントアウトした紙の束を置く。
比佐子「番組へのメールをプリントアウトしました」玲奈「こんなに?」比佐子「白石さんと同じように、性犯罪の被害にあった女性からの声が、たくさん届いていて……」玲奈のマンション(内)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈は手紙とメール一通ずつに、じっくりと目をとおしている。
玲奈「……」喫茶店(内)(午後)関谷加世子(五十二歳)は立ち上がって、入ってき・(控訴人指摘101)た玲奈に一礼する。本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
なお、本件映画の関谷加世子の設定が、本件著作物2の「D」と似ている部分があるとしても、「D」は今も強姦されたという事実と向かいながら戦っているのに対し、関谷加世子は主人公に「あなたもまた呪いから逃れられない」とメッセージを残して突然飛び降り自殺するという大きく異なる展開を辿るものである以上、同一または同趣旨の場面とはいえない。
加世子「お会いできて嬉しいわ」玲奈「私もです」×××加世子「私は中学三年生のとき、当時大学生だっ・(控訴人指摘102)た兄から、実家の蔵の中で、強姦されました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物2に「それは中学3年生のときのものでした。彼女は大学生のお兄さんの友人ふたりに、実家の物置で強姦されていたのです」との記載はあるが(124頁2行目)、これは「D」からのメールの内容を被控訴人が要約したものであって、本 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解人の直接の台詞として記載されているものではない。また、加世子は実の兄から蔵の中で強姦されているのに対し、「D」は兄の友人2人から物置で強姦されたものであって、その内容も異なる。
玲奈「そのことをご両親には?」加世子「(首を振って)誰にもいえなかったわ、この話をするのは、あなたがはじめて」玲奈「……」加世子「ずっと記憶を封印して生きてきたの、でもね、『フラッシュバック』、わかるでしょう?」玲奈「はい」加世子「四十年近く経っても、いまだに『フラッシュバック』に襲われるの、強姦されているときの恐怖が鮮明によみがえってきて、涙がとまらなくなる」玲奈「……わかります」加世子「結婚するまで私を犯しつづけた兄は、立派な会社に入って、幸せな家庭をもって、豊かな人生を過ごしたわ……、それなのに私は?私は誰も愛することができず、人生を棒にふってしまった」玲奈「……」加世子「私はあなたが心配なの、性犯罪と闘おうとしているのは、すばらしいことよ、でもあなた自身は、幸せ?」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「……わかりません」加世子はふとハンドバッグを開くと一通の封書を取り出す。
加世子「あとで読んで」加世子は玲奈に封書を差し出す。
加世子「ちょっと電話してくるわね」玲奈「はい」加世子は席を立つと携帯電話を手にして店を出ていく。
玲奈はコーヒーに口をつける。
×××玲奈は腕時計を見る。
玲奈「(つぶやく)遅いな……」玲奈は、加世子の封書を開封すると、便箋を広げる。
「あなたもまた呪いから逃れられない」と走り書きしてある。
突然、地響きのような音がして、店内が騒然となる。
客A(声)「ちょっと、飛び降り自殺よ!」店長A(声)「誰か警察に電話しろ!」喫茶店の前に人だかりができている。
玲奈「(茫然として)……」玲奈のマンション(内)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解電灯はついておらず室内は闇に包まれている。玲奈は両手で顔を覆って、ソファの上で体を丸めるようにしている。
×××玲奈はパソコンに向かっている。
亜紀(声)「こんばんは、玲奈ちゃん、先日は、失礼なことをいってごめんなさい」玲奈の顔にディスプレイ画面の青い光が反射している。
亜紀(声)「私のこと憶えていますか?」玲奈「……」×××ドアベルが鳴る。
玲奈がドアを開けると、リュックを肩にかけた亜紀が立っている。
亜紀「水野亜紀といいます」玲奈「(微笑して)入って」×××亜紀はテーブルの上で、パスタを食べている。
玲奈「夜中だから、パスタぐらいしかできなくて、ごめんね」亜紀「おいしい」亜紀はフォークを、まるで棒を握るように持って、
次々と口にパスタを押しこんでいく。
玲奈「ねえ、そのフォークのもちかた、どうにかなら 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ないの?」亜紀「(笑って)お母さんみたい」玲奈は亜紀の左手首の傷に目がとまる。自殺未遂の傷跡が無数にある。
玲奈「(亜紀の左手首をつかんで)これ、どうしたの?」亜紀「痛いよ、玲奈ちゃん」玲奈「(手を離して)ごめん」亜紀は、しばらく無言のままフォークでパスタをもてあそんでいる。
亜紀「お母さんが亡くなったのは、私が十一歳のと・(控訴人指摘103)きだった……それから、お父さんが毎晩ベッドに入本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
ってくるようになって……子供だったけど、何をさ本件著作物2において描かれている「C」は、母親れているのかくらいは、わかってた……」は生きており、また、「C」が父親と性的関係を持つようになったのは物心がついたころからと記載されており(108頁3行)、本件映画の水野亜紀とは状況が大きく異なる。
玲奈「そのこと誰かに言った?」・(控訴人指摘104)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
亜紀「誰にも言えないよ、死にたかったけど、死に・(控訴人指摘105)きれなかった、怖くて……」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物2では、「C」にとっては、父親と性的関係を持つことについて違和感を覚えることなく育ってきたと記載されており(109頁7行)、死にたかった、怖いというような感覚ではない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「うん」亜紀「二か月くらい前に家出したの、ネットに書きこんだら、泊めてくれる男の人がいるって友達がいってたけど、本当だね」玲奈「だって泊めてくれる代わりに体を要求さされるでしょう?」亜紀「しかたないよ、お金ないんだもん」玲奈「もう二度としないって約束して」亜紀「……わかった」玲奈「ずっとここに泊まっていいからね、明日、警察に相談しよう」亜紀「玲奈ちゃん、それより病院に一緒にいってほしいんだ……、妊娠してるみたいなの……たぶんお父さんの……赤ちゃん……」玲奈「……」×××玲奈と亜紀は抱きあうようにしてシングルベッドの上で眠っている。
亜紀「(寝言で)お母さん……」玲奈「……(思わず亜紀を抱きしめる)」病院(産婦人科)・診察室(内)(午後)産婦人科医・藤沢(五十八歳)が険しい顔で、亜紀と玲奈の顔を見比べる。
産婦人科医「妊娠しています……中絶手術をする 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解には保護者の同意書をいただかないと」玲奈「(亜紀に)お父さんに電話して、今から、きてもらうこと、できる?」亜紀「田舎だから、四、五時間はかかるよ」産婦人科医「夜でもかまいません、まだ十四歳ですから、処置するなら、いそいだほうが、いいでしょう」病院(産婦人科)・待合室(内)(夜)玲奈と亜紀はならんで長椅子に座っている。亜紀はスマートフォンの写真を誇らしげに玲奈に見せる(画面は見えない)。
亜紀「ほら直樹くん、チョーかっこいいでしょ、サッ・(控訴人指摘106)カー部のキャプテンで、生徒会長なの」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「そういうやつに、ろくな男はいないよ、おばさん恋愛経験豊富だから、教えといてあげる」亜紀「直樹くんのカノジョにしてくれないかな、……・(控訴人指摘107)でも無理だよね、私なんか、ずっとお父さんに犯さ本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
れて、知らない男の人からも……私みたいな汚れた女の子は、直樹くん、きっと嫌いだよね……」玲奈「(突然声をあらげて)あんたは汚れてなんかいない!」亜紀「(驚いて)玲奈ちゃん、どうしたの?」玲奈「あんたまだ十四歳でしょ?これから恋した 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解り、夢みたり、傷ついたり、人生は楽しいことばかりなんだから、汚れてる、とか、そんなこと、絶対にいったらだめ!」亜紀「……うん、わかったよ」二人は暗い廊下で沈黙している。
亜紀「このあいだは失礼なこと言ってごめんね、玲奈ちゃんのことテレビで観て、『苦しんでいるのは、
あんただけじゃない』って、言ってやりたくなったの、生意気だよね?怒ってる?」玲奈は長椅子の上で亜紀の手を握る。
玲奈「いいの、怒ってなんかいないよ」正治(声)「亜紀か?」廊下の向こうから水野正治(四十二歳)が歩いてくる。
亜紀「……お父さん」正治「ここで何してるんだ、亜紀……さんざん心配させて、(玲奈を見て)あんた、どちらさんですか?」玲奈は立ち上がると、突然正治を平手打ちにする。
正治「(驚いて)……」玲奈「おまえのせいで……おまえみたいなやつのせいで……」亜紀「玲奈ちゃん」玲奈は、怒りをむきだしにして正治を両手で何回も 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ひっぱたく。
正治「おい、ちょっと、やめろよ」玲奈「おまえは父親なんかじゃない!」玲奈は正治に殴りかかっていく。数人の産婦人科の男性職員が駆けつけて玲奈を羽交い絞めにして、正治と引き離す。
玲奈「おまえなんか……(泣き崩れる)」玲奈のマンション(内)(朝)玲奈は鏡に向かって化粧している。
亜紀(声)「おはよう、玲奈ちゃん、旭川の寒さにもなじんできたよ、私は母方の親類の家にお世話になってます」×××玲奈は通勤用のバッグを持って玄関を出ていく。
亜紀(声)「今日直樹くんからメールがきたんだ、すごいでしょ?いつか旭川に遊びにきたいって」バス停近く・路上(朝)玲奈はバス停までの道を歩いていく。
亜紀(声)「警察に逮捕されてからのお父さんのことは誰も教えてくれない、いつか面会にいきたいとは思ってるけど……」亜紀(声)「ねえ玲奈ちゃん」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解バス停(朝)玲奈はバス停でスマートフォンの画面を見ている。
亜紀(声)「玲奈ちゃんと私は、『戦友』だね」玲奈「(つぶやく)……戦友か」玲奈のマンション(内)(休日の午後)化粧していない玲奈は、部屋着のままソファに寝ころんで、ぼんやりとテレビを眺めている。
玲奈は眠りに落ちていく。
深い闇どこかで遠くで電子音が鳴っている。
玲奈のマンション(内)(休日の午後)玲奈が目を醒ますとスマートフォンが鳴っている。
玲奈「(出て)お母さん、どうしたの?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)布団がふたつ敷かれており、玲奈と和代が横たわ・(控訴人指摘108)っている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
電灯は消されており、あたりは暗い。本件著作物1に「その晩、母と並んで寝た」という記載はあるが(203頁6行)、その客観的な状況についての記載はない。
また、その後の展開は全く異なるものであるから、
二人出で並んで寝ることのみで同じ場面とはいえ 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ない。
和代「こうして玲奈ちゃんと枕をならべて寝るなん・(控訴人指摘109)て、何年ぶりかしらね」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「出張中に私が泊まりにきたことを知ったら、・(控訴人指摘110)お父さん、怒るんじゃないの?」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「お父さんの発案なの、今朝出張先の金沢か・(控訴人指摘111)ら電話してきてね」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「ふうん、『勘当』っていったくせに」・(控訴人指摘112)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「許してあげてね」玲奈は無言で天井を見ている。
玲奈「……ねえお母さん、私のこと抱きしめてくれる?」和代「あらあら、玲奈ちゃんたら、小さい頃に戻っちゃったの?」和代は、布団にもぐりこんできた玲奈は、子供のように抱きしめる。髪の匂いを愛おしそうに嗅ぐ。
玲奈は、ふと床の間に、水晶玉が安置されていることに気づく。
玲奈「(水晶玉が気になって)ねえ、これ何?」和代「ご利益があるんですってよ」玲奈「(笑って)ちょっと〜、ヘンな宗教にでも、ハマッてんじゃないの?」玲奈の実家・二階・雅彦の部屋(内)(夜) 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ドアは開け放たれており、がらんとした室内に月光が射している。
世界地図と、アフリカの大地の写真が一枚、壁に貼ってある。
玲奈(声)「お兄ちゃん、アフリカのどこだっけ?タンザニア?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)玲奈と和代が布団をならべて横たわっている。・(控訴人指摘113)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「その晩、母と並んで寝た」という記載はあるが(203頁6行)、その客観的な状況についての記載はない。
和代「海外青年協力隊……今年三十四だから、もう『青年』って歳でもないけどね」玲奈「ずっと引きこもりだったくせに、タンザニアで役にたつのかな?」和代「雅彦からは絵葉書が一枚きたきりよ、(笑って)うちの子供たちは個性的で困るわね」玲奈「(笑って)お兄ちゃんから絵葉書きたの?見せてよ」和代「明日ね、もう遅いから」玲奈「うん、じゃ明日」和代「……ねえ玲奈ちゃん、女の子は幸せを手に・(控訴人指摘114)入れるためには、秘密は隠しておくものなのよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解本件著作物1に『女の子は誰かと一緒になるまでは、自分のことなんて隠してでも、精一杯よく見せていたほうが、楽だと思うのよ』という台詞があるが、これは、女性は結婚するまでは自分のことはできるだけ隠して、最大限良いところだけ見せるようにして、本当の自分を見せるのは結婚してしまってからにした方が楽だ、という発言と思われる。他方、本件映画の台詞は、母親が主人公を殺害するために、その真意(秘密)を隠して呼び出したこととの伏線として発せられたものであり、発言の趣旨が異なる。
また「女には秘密がある」というのは一般的な台詞である。
玲奈「へえ、お母さんにも、秘密があるの?」和代「(おどけて)あら、ありますわよ〜、女ですから〜」玲奈「(笑って)はあ、そうでございますか」和代はふいに沈黙する。
和代「あなたのしたことは間違いだったわね」玲奈「……え?」玲奈がふと目を向けると、いつのまにか足元に恵三が立っている。
恵三「毒をまき散らす虫は、駆除しなけりゃならん、お父さん、そう思うんだ」玲奈は驚いて、布団から起き上がる。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解玲奈「お父さん!」和代は、背後から玲奈の首に浴衣の帯をかけると締め上げていく。
玲奈「!」恵三は和代と力をあわせて、玲奈の首を絞めていく。
玲奈「(苦しげに)……お兄ちゃんも?」玲奈の実家・二階・雅彦の部屋(内)(夜)ドアは開け放たれており、がらんとした室内に月光が射している。
玲奈(声)「……お兄ちゃんのことも……殺したの?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)玲奈の両目から涙があふれる。
恵三と和代は息荒く、玲奈の首にかけた浴衣の帯を力のかぎり引いていく。
和代「玲奈ちゃん、来世(らいせ)でまた親子になりましょうね」玲奈の意識は遠のいていく。
玲奈の幻想・旭川の風景雪景色のなかで、亜紀がこちらに手を振っている。
直樹らしき中学生(後ろ姿)が走ってきて亜紀に、
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解雪玉を投げつける。
二人は楽しそうに雪合戦している。
――暗転。
深い闇ゲイバーのママ(声)「武田、武田」ゲイバー(外)・通用口(夜)七年前。
赤いキャップを被った武田誠一(二十一歳)がエプロンをして、ビールケースを片づけている。
ゲイバーのママ・中西(三十一歳)が通用口から出てくる。
ママ「あんた、ちょっと『ホテル・ローズ』まで、いってきてくれる?今日男の子の出勤が少なくてさ〜、まいっちゃって」武田「あの、おれ、そういう仕事は無理だって、最初に……」ママ「……武田、あんた、あたしにいくら借金あると思ってるの?今月俳優の仕事いくつあった?」武田「エキストラ一本だけで」ママ「ちょっと、ちんぽ、しゃぶるだけだろ?カマトトぶってないで、やれよ、金になるんだから、金欲しくないの?」武田「……」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解ラブホテルの一室(内)(夜)裸になった武田の体を、ベッドに座った重松(四十六歳)がスーツのネクタイをほどいて、煙草を吸いながら眺めている。
重松「役者の卵だって?」武田「はい」重松「(笑って)売れねえよ、おまえなんて」武田「……」×××ベッドが軋んでいる。
裸になった重松は、ベッドの上で武田をうしろから犯している。
重松の背中には、鮮やかな刺青がほどこされている。
武田は苦痛に耐えきれず泣き出す。
武田「(泣きながら)もうやめてください……」重松「いい声で鳴くじゃん、興奮してきちゃった……ほら、もっと鳴けよ」路上駐車したワゴン(車内)(夜)赤いキャップを被った武田が、腕組みして助手席で眠っている。
阿部(二十一歳)が運転席に乗りこんできて熱い缶コーヒーを武田に差し出す。
完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解阿部「忘れろって」武田「……うん」阿部「なあ、そのへん歩いている女でも、やっちまおうぜ、楽しいよ」武田「……」×××武田は、声をかける練習をしている。
武田「あの、すみません、ちょっと道に迷ってしまって」阿部「(笑って指さして)いいね、スカッとさわやかで、……おまえコカ・コーラのCM決まるんじゃないの?」武田「(苦笑いして)オーディション一次で落ちたよ」武田が煙草を取り出すと、阿部がすばやくそれを取り上げる。
阿部「だめだって、兄貴の車、禁煙だから」武田と阿部の手がふれる。
阿部「(激しく拒絶して)手、握ってくんなよ、気持ちわりいな、こっち(オカマ)に目醒めた?」武田「……」阿部「(気まずく)……ほら、練習、練習」武田「あの、すみません、ちょっと道に迷ってしまって」阿部「(からかって)お〜スカッとさわやか〜」 完成稿(当裁判所の判断)控訴人の見解テロップ『二〇〇六年十一月六日午後八時五十二分』路上駐車したワゴン(車内)(夜)阿部はスモークを張ったガラス越しに、通りをずっと観察している。
阿部「お、きたきた、いいんじゃない?」武田は助手席から外に顔を出す。
武田(声)「あの、すみません」深い闇『あなたもまた虫である(仮題)』(おわり) (別紙)控訴人確定稿対比表・赤色部分:原判決で本件著作物1と同一の箇所と判示された箇所・緑色部分:原判決で本件著作物1とほぼ同趣旨の箇所と判示された箇所・水色部分:原判決で本件著作物2と同一又は同趣旨の箇所と判示された箇所完成稿(原判決判断)控訴人の見解『あなたもまた虫である(仮題)』(十四年一月十七日・決定稿)登場人物白石玲奈(二十四歳〜三十一歳)=会社員白石恵三(五十四歳〜六十一歳)=玲奈の父親白石和代(五十一歳〜五十八歳)=玲奈の母親白石雅彦(二十六歳)=玲奈の兄中山健司(二十四歳)=玲奈の恋人島崎香織(二十二歳)=玲奈の後輩菊池隆(三十二歳)=玲奈の夫菊池晴江(六十一歳)=玲奈の義母水野亜紀(十四歳)=玲奈と交流する中学生水野正治(四十二歳)=亜紀の父親 完成稿(原判決判断)控訴人の見解柏木比佐子(三十四歳)=テレビディレクターゲイバーのママ・中西(三十八歳)関谷加世子(五十二歳)=玲奈と交流する女性丸岡(三十二歳)=玲奈を泊める中年男性A北嶋(三十六歳)=玲奈を泊める中年男性B重松(四十六歳)=武田の客産婦人科医・藤沢(五十八歳)武田誠一(二十一歳)=犯人A阿部(二十一歳)=犯人B直樹(後ろ姿のみ)=亜紀の同級生玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)酒に酔った白石玲奈(二十四歳)は、弾けるように笑っている。
玲奈は、隣にいる健司の肩を激しく叩いたり、笑いすぎてあふれた涙を指で拭っている。
恵三(声)「これはね、アフリカの戦場の話だ」テロップ 完成稿(原判決判断)控訴人の見解『二〇〇六年十一月六日午後七時二十三分』玲奈の実家・一階・居間(内)(夜)玲奈はテーブルの下で、婚約者である中山健司(二十四歳)と手を握りあっている。
健司「(恵三に)……はい?」泥酔した白石恵三(五十四歳)は、健司のコップに焼酎を注いでいく。
恵三「アフリカの内戦を取材したときに聞いた話さ、対立する部族を壊滅させるために、もっとも有効な兵器とは何か、きみわかるかね?」健司「兵器?ナパーム弾とかそういうものですか?」玲奈は、健司のコップを取り上げると、テーブルの端へと引き離す。
玲奈「(恵三に)お父さん、もうそのくらいにしてあげて、健ちゃん、お酒弱いんだから」恵三「(健司に)強姦だ、部族の娘を犯すわけだね」玲奈「よしてよ、そんな話聞きたくない」恵三「それが戦場では、もっとも金のかからない破壊兵器といわれているんだ」玲奈「(健司に小声で)お酒飲むと、特派員だった頃の思い出ばかりなの、今は子会社に出されちゃって、暇だから」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解恵三「強姦は、民族の誇りを最大限に傷つける攻撃だ、恐怖と屈辱に陥れて、兵士の士気を著しく低下させる、犯された娘の家族だけでなく、やがて民族すべてを崩壊させる」新品のスーツにネクタイをした健司は、神妙に聞いている。
健司「(うなずく)はあ」恵三「きみのしていることはね、それと同じなんだ」健司「(思わず)え?すみません」玲奈「何よ、それ、同じじゃないでしょ?馬鹿みたい」恵三「(酔って健司を指さして)父親にとっては同じことだぞ、きみ、わかってるのか?」料理の皿を下げた白石和代(五十一歳)が、デザートを運んでくる。
和代「(健司に)玲奈はね、小さい頃から、全然手・(控訴人指摘1)のかからない子供だったんですよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「『Yは放っておいても大丈夫』両親にはそう思っていてほしかった」(87頁3行目)との記載があるが、これは被控訴人自身の主観的な心情を述べたものであり、被控訴人の母親の発言・心情として記載されたものではない。また、本映画でのこの台詞は結婚を前提に恋人が主人公の両親に挨拶に来たときの母親の台詞であるが、
本件著作物1にはそのような記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解健司「(うなずいて)はい」和代「玲奈はね……」和代はふと天井を見上げる。
恵三「(健司に)きみフランツ・カフカの『変身』は読んだかね?あれと同じだよ、ある朝グレーゴル・ザムザは巨大な虫に変身して、もはや言葉がつうじなくなっていた……日本国内に七十万人以上いる、というけどね」天井から、かすかに物音がしている。
玲奈の実家・二階・廊下(夜)夕飯の食器をのせた盆が廊下のドアの前に無造作に置かれている。ご飯やおかずが一部食べ残されている。
玲奈と健司はドアの前に立っている。
玲奈「(ドアをノックして)……お兄ちゃん?起きてるんでしょ?健司さん、もう帰るから……私ね、健司さんと結婚するつもりなの……大切な人だから、次はきっと会ってね……結婚式では、
お兄ちゃんに、ピアノ弾いてほしいな、(健司に)上手なの」健司「(ドアの向こうに)中山健司です、いつか、お兄さんと一緒にお酒でも飲めたら、嬉しいけど……また、きますから」ドアの内側から反応はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「……」玲奈は健司をうながして去っていく。
玲奈の実家・玄関(外)(遠景)(夜)健司(声)「ごちそうさまでした」楽しげに帰っていく玲奈と健司を、和代がサンダル履きで見送りに出てくる。
和代(声)「(健司に)また遊びにいらしてね、(玲奈に)玲奈ちゃんは泊まっていったらいいのに」玲奈(声)「うん、明日会社あるから、会議の資料、
アパートに置いてきちゃったしさ、また電話するね」駅までの道路(夜)酔った玲奈が上機嫌で自転車のペダルを漕いでいく。
健司は荷台に座って二人乗りしている。
玲奈(声)「疲れたでしょ?」健司(声)「楽しかった、すてきなご両親で」玲奈(声)「……ごめんね、生理だから、今夜、できなくて……おちんちん我慢できる?」健司(声)「(笑って)そういうこと、口に出していうかな?」駅近く・路上(夜)玲奈と健司は別れがたく、握りあった手を離せな 完成稿(原判決判断)控訴人の見解い。
駅・改札口(遠景)(夜)健司が手を振って、(改札の)向こうへと消えていく(ホームへの階段を降りていく)。
駅前・路上(夜)玲奈は健司が見えなくなるまで小さく手を振っている。
駅近く・路上(夜)玲奈はしゃがんで、駐車した自転車のタイヤをさわっている。後輪がパンクしているらしく、空気が抜けていく。
×××玲奈は自転車を押しながら、しばらく黙々と歩いていく。
犯人A(声)「あの、すみません」・(控訴人指摘2)本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では被控訴人は犯人から「ねぇ!」と言って呼び止められている(本件著作物1・12頁7行目、本件著作物2・11頁13行目)。
玲奈が顔を上げると、窓にスモークを張った黒い・(控訴人指摘3)ワゴンの助手席から、さわやかな微笑を浮かべ本件著作物1に同一の記載はない。
て、赤いキャップをかぶった武田誠一(二十一歳)なお、本件各著作物においては、被控訴人を呼び 完成稿(原判決判断)控訴人の見解が顔を出している。止めた男は「いかにも軽そうな痩せ型の茶髪の男」(本件著作物1・13頁4行目)、「髪を茶色に染めた見知らぬ男」(本件著作物2・12頁3行目)と記載されており、記載内容が異なる。
玲奈「?」・(控訴人指摘4)本件著作物1に同一の記載はない。
武田「ちょっと道に迷っちゃって、教えていただけま・(控訴人指摘5)せんか?」本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では『○○駅はどっちですか』(本件著作物1・12頁14行目)、『駅はどっち』(本件著作物2・12頁2行目)と記載されており、台詞の内容が異なる。
玲奈「はい」・(控訴人指摘6)本件著作物1に同一の記載はない。
武田は、地図帳を広げて、その一部を指さしてい・(控訴人指摘7)る。助手席から降りてこようとはしない。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物において犯人が地図の一部を指差している旨の記載や、助手席から降りてこようとはしないという記載はない。
武田「この通りに抜けたいんだけど」・(控訴人指摘8)本件著作物1に同一の記載はない。
玲奈は自転車にスタンドをかけると、助手席のほう・(控訴人指摘9)に近づいていく。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に自転車にスタンドをかけるという記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解武田が、ふいにドアを開けて助手席から降りてくる。
突然、後部座席のスライド式のドアが開く。乗って・(控訴人指摘10)いた阿部(二十一歳)が左手で玲奈の口を背後か本件著作物1に同一の記載はない。
ら塞ぐ。阿部は間髪入れず、右手で玲奈の胴体を抱えると、武田が、玲奈の足首を持ち上げる。二人は一瞬のうちに玲奈を車内へと引きずりこみ、ド・(控訴人指摘11)アがすばやく閉まる。本件著作物1に同一の記載はない。
引きずり込まれた際の態様が異なる。本件著作物1では、取られた鞄を取り返そうとして手を伸ばしたところ引きずり込まれた(13頁10行目以下)のに対し、本件映画では、主人公は羽交い絞めにされて引きずり込まれている。
あたりには、誰もいない。
深い闇轟音のような重低音のダンスミュージックが再生さ・(控訴人指摘12)れる。本件映画に対応する表現がない。最終稿の記載とは異なり、そもそも本件映画においてダンスミュージックを含む音楽は使用されていないため該当しない。
駅近く・路上(夜)・(控訴人指摘13)路上駐車したワゴンの内部は、窓にス本件著作物1に同一の記載はない。
モークが貼られているため、外側からわからない。犯行で使用された車が路上駐車されていた旨の記載、窓ガラスにスモークが張られていた旨の記 完成稿(原判決判断)控訴人の見解載はない。
ダンスミュージックが小さく響いている。
例えば、近隣の大学の運動部員たち数名が、ワゴンのすぐ脇をランニングしていく。
例えば、買い物帰りらしい親子づれが通り過ぎてくる。
しかし誰も異変に気づかない。・(控訴人指摘14)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、誰も異変に気づかないということを直接摘示した記載はない。
深い闇駅近く・別の路上(夜)ワゴンが静かに徐行していく。・(控訴人指摘15)本件著作物1に同一の記載はない。
一旦停止すると、スライド式のドアが開いて、まる・(控訴人指摘16)で荷物のように、玲奈を地面に落としていく。本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件各著作物には、走ってきた車が一旦停止したという記載、スライド式のドアという記載、被控訴人を荷物のように落としたという記載はない。なお、本件著作物1では、「『ほら降りろよ』と車のドアを開けられ、外に出た」(19頁13行)、と記載されており、外に出た際の態様が異なる。
ワゴンは静かに走り去っていく。・(控訴人指摘17) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物には、車が走り去っていく点についての描写はない。本件著作物1に「車はいつの間にかいなくなっていた」(20頁2行目)との記載があるが、表現が異なる。
玲奈の着衣は乱れており、肌が露出している。・(控訴人指摘18)×××本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は足を引きずるようにして、着衣の乱れもそまた、本件映画において、主人公の着衣の乱れやのままに歩いていく。肌の露出は描写されていない(主人公はダウンコートを着ているので、着衣の乱れや肌の露出は分からない)。
本件著作物1では「胸のはだけたシャツを押さえて自転車を押して歩き始めた」と記載されているが(20頁15行目)、本件映画では、主人公がシャツを押さえている描写や、また自転車を押して歩いたという描写はない。また、本件各著作物においては、本件映画のように、被控訴人が足を引きずっていたという記載はない。
また、仮に「場面として同一又は同趣旨」であっても、いわゆる「一般的な記述」まで使えないというのは、行き過ぎである。例えば、本件著作物に「辛かったね」という台詞がある限り、控訴人は映画で「辛かったね」という台詞を一切使用できなかったり、強姦の被害者が辛そうにしているシーンを描けないというのは妥当ではない。また被控訴人は、
完成稿(原判決判断)控訴人の見解控訴人が性犯罪被害者をテーマとした映画を製作することを応援していた以上、性犯罪被害において一般的な場面や台詞についても使用が認められないとするのも妥当ではない。
そして、強姦被害に遭った後で、着衣にいささかも乱れがないというのは考え難い描写である。
公園(内)(夜)玲奈は足を引きずるようにして歩いていく。誰もい・(控訴人指摘19)ない。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に被控訴人が足を引きずるようにして歩いたという表現はない。
公衆トイレの女性用へと入っていく。・(控訴人指摘20)屋外で強姦被害に遭ったのであれば、まずは利用できる公衆トイレに入って自身の状況を確認するということは、一般的な行動だといえる。
公園・公衆トイレ(内)・洗面台(前)(夜)玲奈は茫然として鏡の前に立っている。・(控訴人指摘21)白いブラウスには血が付着している。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人が公衆トイレの洗面台の前で鏡に立ったという記載はなく、また鏡の自分を見たという記載もない。
阿部(声)「マジで?」・(控訴人指摘22)本件著作物1に同一の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件各著作物に、被控訴人がトイレで体を拭いていたときに、犯人の台詞が思い出されたという描写はない。
玲奈の回想・路上駐車したワゴン(車内)武田は、泣きじゃくる玲奈の両腕を押さえつけ、首・(控訴人指摘23)の下あたりにサバイバルナイフの刃を突きつけて本件著作物1に同一の記載はない。
いる。下半身を露出した阿部がべっとり血の付着連れ込まれた車の中で被控訴人が泣きじゃくってした二本の指をこちらに見せる。いたという記載はない。
両腕を押さえられて首の下にナイフを突きつけられるという記載もない。
本件各著作物では、「耳元で、『カタカタカタ』という音がした。それがカッターの刃を出し入れする音だと、すぐに解った。・・・カッターに触れるのが怖かったのもある」(本件著作物1・14頁11行目)「耳のかたわらで鳴っている、カタカタカタという音。カッターの刃を出し入れする音だとすぐにわかりました」(本件著作物2・13頁3行目)と記載されており、本件映画では殺傷能力の高いサバイバルナイフが首の下に突きつけられているのに対し、本件各著作物ではカッターナイフの音がした、という程度で直接押し付けられたという記載もなく、刃物の種類及びその態様が異なる。
・(控訴人指摘24)犯人が血のついた指をみせたという描写はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解阿部「(武田に)こいつ生理中だな、どうするよ?」・(控訴人指摘25)本件著作物1に同一の記載はない。
被控訴人が生理であることに気付いた犯人が、他方の犯人に対し、どうするか確認したという台詞はない。
タイトスカートと下着を脱がされた玲奈は、激しく両足を動かして抵抗している。
武田「(玲奈に)ねえ、おまえ殺されたいの?だっ・(控訴人指摘26)たらそういって、絶対誰にも気づかれないところ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
に、埋めてあげるから」本件各著作物ではカッターナイフで「静かにしろよ、怪我したいのか」(本件著作物1・14頁10行目)は『怪我したくなければ静かにしていろ!』(本件著作物2・13頁5行目)と傷害を仄めかして脅したのに対し、本件映画はサバイバルナイフで「殺されたいのか」「埋めてあげる」と殺害を仄めかしている。本件各著作物には、直接殺害を仄めかした脅迫の記載はない。
玲奈は、はっとして体が動かなくなる。・(控訴人指摘27)本件著作物1に同一の記載はない。
両目を固く閉じる。恐怖で涙があふれてくる。・(控訴人指摘28)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
また、本件映画において、涙があふれてくる点の表現はない。
武田「(阿部に)なあ別の女にしない?シート汚し・(控訴人指摘29)ちゃうと、おまえの兄貴に怒られるじゃん」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件各著作物では、犯人の兄の存在については何ら言及されていない。また、別の女にしようという提案はなされていない。
阿部は、破れた玲奈のブラウスで手についた血を・(控訴人指摘30)拭ってから、じっと玲奈を見下ろす。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
阿部「……」・(控訴人指摘31)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は固く目を閉じて、泣きながら震えている。・(控訴人指摘32)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
また、本件映画において、主人公が泣きながら震えている表現はない。
阿部「いいや、こいつで」・(控訴人指摘33)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では『関係ねぇ。もったいねーし』(16頁4行)という台詞であり、台詞の内容が異なる阿部の露出した下半身が、玲奈の中に入ってい・(控訴人指摘34)く。本件著作物1に同一の記載はない。
本件映画では、露出された犯人の下半身が入っていく点を直接描写した表現はない。
そもそも、被控訴人は性犯罪被害についての映画の製作自体は応援していた以上(乙6)、強姦の要件である姦淫行為(刑法177条)の描写までもが禁止されていたとはおよそ考えられない。
公衆トイレ・洗面台(前)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解恐怖がこみ上げた玲奈は、鏡に向かって声にならない叫びを上げる。
タイトル『あなたもまた虫である(仮題)』公園近く・路上(夜)・(控訴人指摘35)健司は憔悴しきった表情で、息を切らしながら走っ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
ていく。本件各著作物に被控訴人の元恋人が公園に来るふいに公園の入口が視界に飛びこんでくる。際の様子についての記載はない。本件著作物1では、コンビニの前で落ち合ったと推察される記載がある(26頁13行)。
また、恋人から強姦されたと電話を受ければ、その場に走って駆け付けるというのは、一般的な行動だといえる。
公園(内)(夜)・(控訴人指摘36)健司が息を切らして走っていく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に被控訴人の元恋人が走ってきた旨の記載はない。
玲奈が外灯の下でひとりぽつんとベンチに座っている。
健司は玲奈の前にたどりつく。・(控訴人指摘37)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈のブラウスは破れており血が付着している。・(控訴人指摘38)顔を泣きはらしている。本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人のブラウスが破れてい 完成稿(原判決判断)控訴人の見解たという点、泣きはらした顔をしていたとの記載はない。
健司「何かされたのか?」玲奈「……(うなずく)」健司「誰に?」・(控訴人指摘39)本件著作物1に同一の記載はない。
玲奈「……(首を振る)」・(控訴人指摘40)本件著作物1に同一の記載はない。
健司は頭をかきむしって、地面の土を蹴り上げる。・(控訴人指摘41)夜空に向かって声のかぎりに叫び声を上げる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では元恋人が『くそっ』と言いヘルメットを地面に叩き付けたという記載はあるが(27頁6行)、本件映画とはその態様が異なる。
また、恋人が強姦されたことを知れば、犯人に対する怒りがこみ上げてくるというのは、当然のことであり、一般的な行動だといえる。
なお、脚本と異なり、本件映画では、主人公の恋人は地面の土ではなく、公園の遊具を蹴っている。
玲奈「(泣きじゃくって)ごめんなさい……ごめんなさい……」健司は玲奈の前にひざまずくと、手のひらで玲奈・(控訴人指摘42)の涙をぬぐってやる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
健司「謝らないでくれよ、おまえは被害者じゃない・(控訴人指摘43)か……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解また、本件映画では「お前は被害者じゃないか……」との台詞は発言されていない。
玲奈のアパート・浴室(内)(早朝)玲奈はシャワーを浴びている。
玲奈のアパート・一室(内)(早朝)玲奈は泣きはらした顔に化粧している。すでに窓から朝日が射している。
壁にもたれた健司は、鏡越しにじっと玲奈を見ている。
健司「仕事休めないのか?」・(控訴人指摘44)本件著作物1に同一の記載はない。
本件各著作物では『こんな日くらい休めよ』(本件著作物1・36頁7行)、『少し、休め』(本件著作物2・21頁8行目)と記載されているが、それらは電話越しでの会話であるのに対し、本件映画では直接の会話であり、また台詞のニュアンスも異なる。
また、社会人の恋人が強姦された場合、次の日に会社を休むよう進言するということも、一般的な対応だといえる。
玲奈「……なんていって休めばいいの?『ゆうべ・(控訴人指摘45)強姦されたので今日はお休みします』っていった発言の状況が異なるら、みんな同情してくれるの?」本件各著作物では電話越しでの会話として記載されている。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解健司「今からでも遅くないよ、玲奈、やっぱり警察いこう」玲奈「いや!」健司「犯人が野放しになっていいのか?」玲奈「犯人なんて、どうだっていいよ、警察で質問されて思い出したくないの、ぜんぶ記憶から消せばいいんだから」健司「……記憶から……消せるのか?」玲奈「……」玲奈は無言で通勤用のバッグを手にして立ち上がる。
健司「駅まで送るよ、これからは、いつも一緒にい・(控訴人指摘46)るから」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1では、元恋人が事情聴取の際に、
「ずっと側にいてやるから」と約束した旨の記載があるが(30頁1行目)、これは事情聴取中側にいる、という趣旨と考えられる。
健司は立ち上がると、玲奈の体を正面から抱きしめようとする。
玲奈はビクッとおびえるように、体を引き離して、あとずさる。
健司「……おれが怖いの?」玲奈「……ごめん」青い空 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ゆっくりと白い雲が流れていく。
雑居ビル・非常階段(午後)会社の制服を着た玲奈は風に吹かれている。
玲奈「(鼻歌を歌っている)……」玲奈の回想・犯行現場(記憶の断片として)玲奈の鼻歌(例えば『ケ・セラ・セラ』)だけが響いている。
(映像の音声は聞こえない)。
赤いキャップを被った武田がさわやかな笑顔で助・(控訴人指摘47)手席から顔を出してくる。本件映画に対応する表現はない。
黒っぽいワゴンがアイドリングしながら、路上駐車・(控訴人指摘48)している。(ナンバーは、はっきりしない)。本件映画に対応する表現はない。
突然後部座席のスライド式ドアが開くと、玲奈は車・(控訴人指摘49)内へと引きずりこまれる。ドアがすばやく閉まる。本件映画に対応する表現はない。
武田がサバイバルナイフを玲奈の首に突きつけな・(控訴人指摘50)がら声をあらげている。本件映画に対応する表現はない。
玲奈は恐怖に泣き出す。・(控訴人指摘51)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、被控訴人が強姦された際に泣いていた旨の記載はない。
阿部は後部座席に玲奈の体を押し倒して、ブラウ・(控訴人指摘52)スを引きちぎる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件各著作物に、被控訴人のブラウスが引きちぎられる旨の記載はない。本件各著作物では「シャツのボタンを弾かれた」(15頁7行)との記載はあるが、本件映画ではブラウス自体が引きちぎられて破かれており、態様が異なる。また、これは強姦の描写における一般的な記述である。
玲奈のタイトスカートと下着が乱暴に引き下げられ・(控訴人指摘53)る。逃れようとした玲奈の尻があらわになる。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
被控訴人はズボンをはいていたのであり、タイトスカートをはいていた旨の記載はない。
本件各著作物では、ズボンのベルトが切られた以降の記憶が一瞬消え、開放されるまでは聴覚での記憶しかないと記載されており(本件著作物1・15頁6行、本件著作物2・14頁2行)、本件映画のような、実際に強姦されている場面を客観的に記載した描写はない。また、本件映画では、回想シーンの音声は、主人公の鼻歌のみであり、聴覚の記憶しかないという本件各著作物の描写とは大きく異なる。
・(控訴人指摘54)本件映画では「逃れようとした玲奈の尻があらわになる」という表現はない。
玲奈は泣きわめいている。・(控訴人指摘55)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、強姦被害に遭っていたときに被 完成稿(原判決判断)控訴人の見解控訴人が泣きわめいていたという記載はない。
雑居ビル・非常階段(午後)玲奈は鼻歌をやめる。目の前に都会の空が広がっている。
玲奈は、突然非常階段の鉄柵に両足をかけると身を乗り出す。強い風が吹き上げてくる。
香織(声)「白石さん」玲奈「(ビクッとして振り返る)香織ちゃん」玲奈の後輩・島崎香織(二十二歳)が、煙草にライターと携帯電話を手にしたまま、階段の下から玲奈を指さしている。
香織「ひょっとして今、飛び降りようと……、してました?」玲奈「(吹き出して)まさか、やめてよ、部長に遅刻怒られたくらいで」香織「だって〜、びっくりした〜」玲奈「こっちがびっくりしたよ〜」玲奈はすれちがいざまに「お疲れさま」と香織の肩を叩いて、非常階段に靴音を響かせながら降りていく。
玲奈のアパート・一室(内)(早朝)健司は、絨毯の上に敷いた布団のなかで目を醒ます。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解起き上がると、玲奈がベッドにいない。
玲奈のアパート・浴室(内)(早朝)玲奈はシャワーを浴びている。
健司(声)「玲奈?」全裸になった玲奈はヒステリックにスポンジで体を・(控訴人指摘56)洗っている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、生理中に「シャワーでずっと身体を洗っていることもあった」(60頁9行)という記載はあるが、本件映画で描かれているような態様で洗っていたという記載はない。
また、強姦被害に遭った女性が、自分が汚されたと感じて必要以上に体を洗うことは、一般的だといえる浴槽用洗剤を直接体に吹きつけては、力をこめて・(控訴人指摘57)体を洗っていく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
健司は、パジャマ代わりのスウェットのまま浴室に入ってくる。
健司「おまえ今夜シャワー何回目だよ?もうよせって」玲奈「(無表情で)落ちない……落ちない……」健司「(見て)おい、これ洗剤じゃないか、体に毒だぞ」健司は玲奈の手から洗剤の容器を取り上げると、
タイルの床に投げ捨てる。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解健司はスウェットのまま、ずぶ濡れになりながら裸の玲奈を抱きしめる。シャワーが二人の頭上から降りそそぐ。
玲奈「(つぶやく)だって、汚れが……落ちないから・(控訴人指摘58)……」本件映画ではこのシーンで「汚れが」という発言は健司は玲奈の両肩をつかんで、裸の体をじっくりされていない。
見る。
健司「(泣きながら)よく見せてみろよ、きれいだよ……玲奈の体は、きれいだよ……」玲奈「(つぶやく)落ちない……落ちないよ……」雑居ビル・通用口(前)(夜)スーツを着た健司が所在なげに煙草をすっている。
私服に着がえた香織が出てくる。
香織「(健司に気づいて)こんばんは」健司「(見て)香織ちゃん」香織「玲奈さん、部長に残業頼まれてたから、あと一時間くらい出てきませんよ」健司「いいの、なれてるから」香織「そのへんでコーヒーでも飲みませんか?」健司「(腕時計見て)……そうしようかな」×××健司は香織とともに去っていく。
香織(声)「毎日送り迎えなんて、愛されてるんです 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ね、玲奈さん、うらやましいな、結婚式はいつになったんですか?」健司(声)「(話そらして)また三人でカラオケいこうよ」玲奈のアパート・一室(内)(夜)寝そべった健司は、雑誌を眺めながら、煙草をすっている。
玲奈は、台所で食器を洗っている。
健司はふと腕時計を見ると、絨毯の上に置いた灰皿で煙草を消す。
コートをはおると玄関で靴を履く。
玲奈「出かけるの?またパチンコ?」健司「ちょっと、散歩だよ」玲奈はタオルで濡れた手をぬぐうと、玄関に追いかけてくる。
玲奈「ねえ健ちゃん」健司「うん?」玲奈「(笑って)幸せになるための切符を、私、もってなかった」健司「……何の話?」玲奈「神様がそれを気づかせるために、あの事件をおこしてくれたの、そうでしょ?」健司「何いってんだよ、切符をもってないなら、駅で買ったら済む話だろう?(靴紐結んで)遅くならな 完成稿(原判決判断)控訴人の見解いうちに帰るから(出ていく)」駅近く・路上(遠景)(夜)健司は、事件現場に立って、通り過ぎていく車のテ・(控訴人指摘59)ールランプを見つめている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
×××健司は路上駐車している車を一台ずつ見て、車内・(控訴人指摘60)に誰か乗っていると、コンコンとノックしてガラス窓本件著作物1に同趣旨の記載はない。
を開けさせては、話しかける。本件著作物2に元恋人が犯人を捜すために事件現場に行き車が止まっていれば中をのぞいたりもした、という記載はあるが(138頁2行)、単に車の中をのぞいたにとどまり、直接乗車している者に質問をしていたといった記載はない。
健司「地元のかたですか?最近このあたりで黒・(控訴人指摘61)っぽいワゴン見かけませんでした?」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈のアパート・一室(内)(深夜)玲奈はシングルベッドに寝そべっている。
玲奈「健ちゃん、起きてる?」健司は、布団の上で目を開けている。
健司「起きてるよ」玲奈「どうして私を抱こうとしないの?」健司は起き上がると、玲奈の頬にそっと手をふれる。
健司「それは、おまえを傷つけたくないから……」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「またきれいごといってさ、私が強姦された汚れた女だから抱きたくないんでしょ?はっきり言えよ」健司は、いきなり玲奈の唇に、みずからの唇を重ねる。
玲奈「(涙声で)無理すんなよ」健司は、玲奈の上に体を重ねると胸をまさぐる。首に舌を這わせていく。
玲奈は目を閉じて受け入れている。
玲奈「……」突然、玲奈は健司の体から逃れると、トイレに駆け・(控訴人指摘62)こんでいく。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
なお、PTSDとして吐き気の症状がでるということは一般的なものである。
本件著作物1にでは「後の夫となる人」が家に泊まりに来た時に吐いてしまう、という記載はあるが(108頁7行)元恋人と肉体関係を持ったということや、その際に被控訴人がトイレに駆け込んだという記載はない。
玲奈のアパート・トイレ(内)(深夜)玲奈は洋式の便器に激しく嘔吐する。・(控訴人指摘63)本件著作物1に同一の記載はない。
健司が玲奈の背後にしゃがんで、背中をさすってやる。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解健司「大丈夫か?」玲奈はなおも激しく嘔吐している。・(控訴人指摘64)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
雑居ビル・非常階段(午後)会社の制服を着た玲奈が、資料のファイルを抱えて階段を上がっていく。
武田(声)「(笑いながら)おまえは女が生理中でも関係ないじゃん」阿部(声)「(笑いながら)だって、もったいないから・(控訴人指摘65)さ〜」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1に、強姦をされた際に犯人が『関係ねぇ。もったいないねーし』と発言したという記載はあるが(16頁4行)、本件映画ではこの台詞は主人公が聞いた幻聴として描かれているところ、本件各著作物ではそのような形でこの犯人の台詞が描かれていない。
武田と阿部が事件のときとまったく同じ服装で、玲奈とすれちがい階段を降りていく(それは玲奈の幻想である)。
玲奈は背筋が凍る思いで、ゆっくりと振り返る。
玲奈は、しばらく茫然としているが、我にかえると二人を追って階段を駆け降りていく。
雑居ビル・通用口(前)(午後) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈は、武田と阿部が去っていったあとを追いかけてくる。
財布を手にコンビニエンスストアから帰ってきた香織とぶつかって、資料のファイルを地面に落とす。
香織「(思わず)あ、ごめんなさい」玲奈「(息荒く)今、若い男が二人、階段から降りてきたでしょ?どっちにいった?」香織は驚いて、玲奈の顔をまじまじと見る。
香織「誰も、降りてきませんでしたよ」玲奈「(香織の肩を揺さぶって)どうして嘘つくの?教えてよ!」香織「……は?嘘なんて、ついてませんけど」玲奈は、憔悴しきった顔で立ちすくんでいる。
玲奈「……」ラブホテルの一室(内)(夜)通勤用のバッグを投げ出してダブルベッドに寝そべった香織は天井を見ながら、くわえた煙草に火をつける。
香織「あの人と心中でもするの?別れないと、本当にそうなるよ」スーツを着た健司は、香織の隣に横たわる。
健司「あいつには、おれがいてやらないと、」香織「(起き上がって)だから違うって!健ちゃんと一緒にいるかぎり、あの人ずっとあのままだよ、
完成稿(原判決判断)控訴人の見解わからないの?」健司「……おれのせいなのか?」香織「忌まわしい過去を知っているひとに、ずっとそばにいられたら、誰だって苦しいよ、心を鬼にして別れてあげるのも優しさじゃない?」健司「……」香織(声)「ね、健ちゃん」健司が顔を向けると、香織はさっさと服を脱いで下着姿になっている。
香織「(ふざけてセクシーなポーズをとりながら)悪いこといわないからさ〜、私にしといたら〜?」玲奈のアパート(外)(夜)健司はドアの前で煙草をすっている。
健司「(悩んで)……」突然内側からドアが開く。
玲奈「あら?おかえり、そこで何してんの?」玲奈のアパート・一室(内)(夜)健司はダンボールに荷物をまとめている。
玲奈は健司の背後に近づいてくる。
玲奈「私を置いて出ていくの?」健司「お互いのためだよ」玲奈「健ちゃんはまた私が襲われてもいいの?・(控訴人指摘66)きっと私、同じ目に遭うよ?」本件著作物1に同一の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解被控訴人が一人で帰らなければならない時に、元恋人に迎えに来てもらうために同様の台詞を言ったという記載はあるが、(本件著作物1・74頁5行、
本件著作物2・27頁4行)、元恋人と別れる際の台詞としては描かれていない。
健司はふいに立ち上がると玲奈に顔を近づける。
壁際まで追いつめていく。
健司「おまえ二人組に犯されているとき、本当は興・(控訴人指摘67)奮して濡れてたんだろ?また襲われたいって、今本件著作物1に同趣旨の記載はない。
もそう思ってるんだろう?」本件著作物1に、喧嘩した際の元恋人の発言として、『お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ』との記載があるが(本件著作物1・74頁13行)、別れ際の台詞ではない。
なお、「お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ」という台詞と「おまえ二人組に犯されているとき、本当は興奮して濡れてたんだろ?」という台詞とではそもそも内容が異なる。
玲奈「……どうしてそんなことがいえるの?」健司「このままおまえといたら頭がおかしくなる、今・(控訴人指摘68)までつきあってやっただけでも、感謝してほしいよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件各著作物に、『お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ、感謝しろ』(本件著作物1・74頁14行)、『お前みたいな女と付き合ってやってるん 完成稿(原判決判断)控訴人の見解だよ』(本件著作物2・27頁10行)との記載があるが、これらは被控訴人の罵倒に対して元恋人が発言した台詞であって、喧嘩中の“売り言葉に買い言葉”としての発言である。他方、本件映画における台詞は、そのようなものではなく、別れ際における恋人からの一方的な発言であり、内容も趣旨も異なる。
玲奈「ごめんなさい、これからは何でも健ちゃんのいうとおりにするから、別れるなんて、いわないで、
お願い」健司「(頭を深々と下げて)頼むから、もうおれのこ・(控訴人指摘69)とは忘れて、幸せになってくれ」本件著作物1に同一の記載はない。
本件著作物1で『頼むから、もう俺のことは忘れて幸せになってくれ』同様の台詞が使用されている場面があるが(本件著作物1・107頁10行)、これは別れた後でもつい電話をかけてしまう被控訴人に対しての元恋人の台詞であり、別れ際の発言として記載されたものではない。
玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)テーブルの上には、おせち料理が準備されている。
和代(声)「中山さんとはうまくいかなかったの、残念だわ」玲奈と和代は、台所にならんで立って雑煮を準備 完成稿(原判決判断)控訴人の見解している。
和代「お父さん、中山さんのこと、とても気に入っていたのよ、『次はいつ遊びにくるんだ?』なんていってね」玲奈「そうは見えなかったけど」和代「暗い顔しないの、玲奈ちゃんなら、すてきな人と、またすぐに出会えるわよ」玲奈「お母さん、大切な話があるの、聞いてくれる?」玲奈の実家・二階・廊下(午後)昼食の食器をのせた盆が廊下のドアの前に無造作に置かれている。ご飯とおかずの一部が食べ残されている。
和代(声)「なんですって?」ドアが小さく開く。
ドアの向こうの影(雅彦)がじっと階下に耳を澄ましている。
玲奈の実家・一階・台所(内)(午後)和代は興奮して唇をぶるぶる震わせている。・(控訴人指摘70)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「どうして今頃になってそんなことを打ち明け・(控訴人指摘71)るの?お母さん、あなたの神経が信じられな本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解い!」本件著作物1では、『なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言うこと信じられない!』という台詞があるが(80頁12行)、本件映画では、「神経」が信じられないといっているのに対し、本件著作物1では、「あんたの言うこと」が信じられないといっており、内容が異なる。
特に、本件映画では、事件から1ヶ月半経って初めて告白したことについてその神経が信じられないといってなじっているのに対し、本件著作物1では、被控訴人は、事件から2週間後に『車に連れ込まれたけど、必死に逃げてきた』と言ったのに対してその5ヶ月後に実はそれは嘘で本当は逃げ切れなかった、ということを打ち明けた際の母親の言葉であり、本件著作物1では、一度は大丈夫だと「言った」のにあえて嘘をつかれた、ということから「あんたの言うこと信じられない」という発言に繋がったものだと考えられるところ、そもそも台詞の内容及びその意図するものが異なる。
玲奈「だって……」和代「(うろたえて)ご近所に知られたら、どうするの?恥ずかしい」玲奈「強姦されるって恥ずかしいことなの?私は被害者なんだよ?」玲奈の実家・一階・居間(内)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解恵三は腕組みして、じっと目を閉じている。和代は恵三の隣に座っている。
玲奈はテーブルをはさんで両親と向かいあっている。
恵三「(あっさりと)忘れたほうがいいね」玲奈「……は?」恵三「おまえは強い子だから、そんなことは気にせ・(控訴人指摘72)ず今までどおり、生きていけるはずだ」本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、被控訴人の両親から被控訴人に対する、「お前は強い子だから、そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないでしょ」という台詞はあるが(83頁8行)、それは事件から1年半が過ぎて新しい男性と同棲するときに言われた台詞であり、事件から1年半経ってもまだ事件のことを忘れられない被控訴人に対して、父親が前向きに生きて欲しいという趣旨で発言したもので、一般的ななぐさめの言葉といえる。他方本件映画は、事件を告白した当日の父親発言であり、
この台詞は単に事件を受け止められない父親を描いたものである。
玲奈「(耳を疑って)今なんていったの?」恵三「野良犬に手を噛まれただけだろう、さっさと忘れるんだ」玲奈「忘れられるわけないでしょ?ねえわかってるの?私は犯されたの、見ず知らずの男たち 完成稿(原判決判断)控訴人の見解に!それを、ぜんぶ、なかったことにしろっていうの?あんたたち頭おかしいんじゃない?」恵三は、突然身を乗り出すと、玲奈を平手打ちに・(控訴人指摘73)する。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、被控訴人の父親が、被控訴人が小さい頃に言うことを聞かないと殴られたという記載はあるが(85頁6行)、被控訴人が事件を告白した日に殴ったという記載はない。
玲奈「(頬を手でおさえて)……」・(控訴人指摘74)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
恵三「親に向かって……、その口のききかたは、何・(控訴人指摘75)だ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、被控訴人が小さい頃に、
父親の言うことを聞かないと殴られたという記載はあるが(85頁6行)、被控訴人が事件を告白した日に殴られたという記載はない。
和代「(涙声になって)あなたが襲われたのは、私・(控訴人指摘76)たちのせいかしら?親を責めるなんて、筋違いだ本件著作物1に同趣旨の記載はない。
わ」本件著作物1に「あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど、私たちのせいでもないんだから、そんなことで私たちを責めないでよね!」(本件著作物1・84頁2行〜)という台詞はあるが、事件を告白した日の台詞としては描かれたものではない。
玲奈「私は……」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈は立ち上がると出ていく。
玲奈の実家・二階・廊下(夜)玲奈は閉じられたドアの前に立っている。
玲奈「(ドアに)お兄ちゃん、いま聞こえてたでしょ?私ね、強姦されたんだよ、わかる?若い二人組だった、あそこにおちんちん挿(い)れられて犯されたの……ねえ、就職して、上司にいじめられて会社辞めてから四年間、ずっと引きこもってるお兄ちゃん?そこからは、どんな景色が見えるの?私は地獄をみてるよ」ドアの内側から反応はない。
玲奈「(涙あふれて)お母さんが抱きしめてくれたら・(控訴人指摘77)救われる気がしてた、それだけで……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「『辛かったね』ってたった一度でも抱きしめてくれたらどんなに安心したか・・・」(81頁15行目)との記載があるが、これは兄に向けられた台詞ではないし、またその内容も「抱きしめてくれたらそれだけで救われる気がしていた」というものと「『辛かったね』といって抱きしめてくれたら安心しただろう」と内容が異なる。
玲奈は涙をぬぐってドアに背を向ける。
玲奈「さよなら」玲奈の背後でふいにドアが開く。
ドアの隙間の暗闇から、無精髭を生やした長髪の 完成稿(原判決判断)控訴人の見解雅彦(二十六歳)が弱々しく、こちらを見ている。
玲奈「お兄ちゃん」雅彦「(小さな、か細い声で)……どんなことが、あっても、生きのびることだよ」玲奈「(思わず笑って)……偉そうに、引きこもりのくせして」雅彦「(笑って)そうだな」玲奈「(うなずく)……わかったよ」雅彦「元気で」公園(内)(午後)二年後。冬。休日。
菊池隆(三十二歳)と玲奈(二十六歳)は、笑いながら競いあうようにブランコを漕いでいる。
菊池がさっと飛び降りて、あざやかに着地する。
玲奈「(漕ぎながら)すごい!私も!」玲奈も飛び降りるが、激しくよろける。菊池は玲奈が転ばないように、思わず抱きしめる。
玲奈「……」玲奈は不快感をどうにもできず、視線を泳がせる。
無言で立ち去っていく。
菊池「おい、どうした?」公園・トイレ・個室(内)玲奈は、便器に激しく嘔吐している。・(控訴人指摘78) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件著作物1に同趣旨の記載はない。
公園(内)(午後)菊池は缶コーヒーを二つ持ってくる。
ブランコに座っていた玲奈は、ひとつ受けとる。菊池は隣のブランコに座る。
玲奈「このあいだ、プロポーズしてくれたこと、ありがとう、嬉しかった」菊池「……」玲奈「ごめんなさい、結婚はできません」菊池「どうして?」玲奈「……私は、」菊池「冷えてきた、もっと温かいところで、話さないか」玲奈「(首を振って)ここで」菊池「(うなずく)わかった」玲奈「……二年前、転職して菊池さんと知り合う少し前に、私は強姦されました……、見知らぬ二人組に、車の中で……、警察に届けなかったので、
犯人はわかりません」菊池「……」玲奈「『フラッシュバック』といって、そのときの記憶・(控訴人指摘79)が突然よみがえってくるの、そうなると、体が震え本件著作物1に同趣旨の記載はない。
て、涙があふれてきて、じぶんでは、どうすることも本件著作物1では、「フラッシュバックが起こるときできない……」は、目の前が真っ暗になる。そして身体が硬直し、
完成稿(原判決判断)控訴人の見解何かが過ぎ去るのを待っているような感覚に襲われる。」と記載されており(59頁5頁)、その内容も異なる。
なお、強姦された被害者が、体が震える、涙が出るというフラッシュバックに襲われるということも一般的なものである。
菊池「……」玲奈「今でも男の人にちょっとでもさわられると、吐・(控訴人指摘80)き気がして、胃のなかのもの、ぜんぶ出しちゃう…本件著作物1に同趣旨の記載はない。
…さっき、菊池さんに、ふれられたときも……」菊池「すまなかった、知らなくて……」玲奈「(首を振って)だから、私には結婚なんて、……菊池さん、すてきだから、もっとふさわしい女の人がいるよ」菊池「つらかったね」玲奈「……」菊池「きみにさわれない?それがどうした?そばにいられるだけで、じゅうぶん幸せだ……」玲奈「……」菊池「結婚しようよ」玲奈は言葉に窮して、沈黙する。
菊池「結婚しよう」玲奈「……(うなずく)」菊池のマンション・台所(内)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈は、台所に立って料理をしている。
菊池(声)「きみと、ご両親との関係はわかった」玲奈の回想・公園(内)(午後)菊池「今は、入籍だけにしよう、いずれ玲奈のことを理解してもらえるときがきたら、結婚式を挙げよう」玲奈「あなたの好きなようにして」菊池「(笑って)ウェディングドレス、きっとすてきだろうな、楽しみだ」菊池のマンション・台所(内)(夜)玲奈は左手の薬指にした指輪をじっと見ている。
玲奈「(微笑して)……」ドアベルが鳴る。玲奈は思わず玄関に駆けていく。
玲奈「(息を弾ませて)おかえり」菊池「(入ってきて)ただいま」玲奈は菊池の顔をじっと見つめている。
菊池「どうした?」玲奈「こんなに幸せでいいのかな?」菊池「(笑って)いいさ」菊池のマンション・寝室(内)(夜)玲奈がパジャマとシャツを脱ぐと、裸の背中が闇 完成稿(原判決判断)控訴人の見解のなかに浮かび上がる。
菊池は、ベッドの上に裸で寝そべっている。
菊池「やっぱり、やめておこう」玲奈「大丈夫だから、お願い」玲奈は裸の胸を隠すようにしてベッドに横たわる。
菊池は玲奈の上に体を重ねていく。
闇のなかに二人の息遣いだけが響いている。
阿部(声)「いいや、こいつで」玲奈の回想・ワゴン(車内)(夜)下半身を露出した阿部が玲奈の中に入ってくる。
菊池のマンション・寝室(内)(夜)ベッドの上の玲奈は、唇を噛みしめて声を押し殺し・(控訴人指摘81)ている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈が涙を流しているのに気づかず、菊池は息荒・(控訴人指摘82)く、妻の体をむさぼることに没頭している。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈は思わず菊池を突き飛ばす。
玲奈「怖いよ」・(控訴人指摘83)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
菊池「……ごめん、つい夢中になって」・(控訴人指摘84)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
菊池は裸のまま熟睡している。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈は、洗面台に嘔吐する。胃が痙攣して苦痛に・(控訴人指摘85)顔をゆがめる。玲奈は口を水ですすぐ。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「(つぶやく)幸せになってやる……私だって、
幸せに……」菊池のマンション・リビング(内)(午後)三年後(二〇一一年)。初夏。
菊池の母・晴江(六十一歳)が扇子で顔をあおぎながら、テーブルの上にある「ニシンの山椒漬け」を箸でつまんでいる。玲奈は瓶ビールを晴江のコップに注ぐ。
玲奈「お義母さん、長唄のほうは最近いかがですか?」晴江「(関西弁で)さぼってばかりやねん、ちっとも上達せえへんから、嫌になってしもてね」菊池もまたビールを飲んでいる。
菊池「(関西訛りで)趣味のひとつも見つけとかんと、老後が淋しいよ」晴江「(玲奈に)あんたら入籍してから、どのくらいになるやろか?」玲奈「もう三年が過ぎました、本当にあっという間で」晴江「ええかげん、孫の顔見せてちょうだいよ」・(控訴人指摘86)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「……」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解菊池「授かりものやから、まあそのうち」晴江「なあ玲奈さん、あんた体に欠陥でも、あるんちゃうの?いっぺん病院で診てもらったら?」菊池「よけいなお世話や」晴江「あら、隆くんのこと心配して、いうてるんやないの、こういうことはね、誰かが、はっきりいうてあげないと」玲奈「……すみません」晴江「(ニシンの山椒漬けを口に運び)これ、とってもおいしいわ〜、なに?」玲奈「おとなりが、福島から避難してこられたご家族なんですよ……おすそわけで、福島の名産をいただいて」晴江は、食べかけのニシンの山椒漬けを皿に吐き出す。
晴江「あんたテレビ観てへんの?福島の名産なんて、ぜんぶ毒のかたまりなんやで!」玲奈「でも、放射線量は基準値以下の……安全な品だって……」晴江「そんなん見ためじゃわからへんやないの!」菊池のマンション・リビング(内)(夜)玲奈は、瓶ビールを飲みながら、ニシンの山椒漬けの残りを箸でつまんでは口に運んでいく。
玲奈「(ニシンの山椒漬けを見て)私と同じだね、
完成稿(原判決判断)控訴人の見解見ためは変わらないのに、汚染されている……」菊池(声)「やめろって」菊池はソファの上でこちらに背を向け、横たわっている。
菊池「(背を向けたまま)おふくろのいったことなんか、気にするなよ」玲奈は、コップのビールを飲み干す。
玲奈「いちどもセックスしたことないのに妊娠するわけないよね?イエス・キリストじゃないんだから、お義母さんに教えてあげようかな?『(関西弁をまねて)あんたとこの嫁ね、強姦されてしもてから、おちんちん、受けつけへん体になったんですよ、お気の毒やね』」菊池はこちらに顔を向ける。
菊池「おれは、玲奈と一緒に暮らしていけるだけで幸せだよ」公園(内)(午後)同じ年の冬。
三年前と同じように菊池隆(三十五歳)と玲奈(二十九歳)は、競いあうようにブランコを漕いでいる。
菊池がさっと飛び降りて、あざやかに着地する。
玲奈も飛び降りるがやはりよろける。
菊池は、玲奈が転ばないよう、思わず両手を差し出すが、結局ふれられずに、下ろす。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解菊池「……」×××菊池は缶コーヒーを二つ持ってくる。
ブランコに座っていた玲奈は、三年前と同じように、ひとつ受けとる。菊池は隣のブランコに座る。
二人はしばらく無言のままでいる。
菊池「……他に好きなひとができた、取引先の女性でね」玲奈「なんとなく、わかってた、夫婦だもん」菊池「(頭を深々と下げて、関西訛りで)別れて……くれませんか」玲奈「よしてよ、みじめじゃん」玲奈は左手の薬指からさっと結婚指輪を抜いて、
菊池にわたす。
玲奈「さよなら、楽しかった」玲奈は突然、ブランコを激しく漕ぎはじめる。
菊池も隣でブランコを漕ぐ。
玲奈「せいのッ、で一緒に飛ぼうよ!」菊池「いいよ!」玲奈「ねえ、もしあなたより遠くまで飛べたら、離婚するの、やめてくれる?」菊池「(真顔になって)……え?」玲奈「(笑って)冗談だよ、何よ、マジになっちゃって、器小さいな〜」菊池「(笑って)なんだ、そうか」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「(淋しく)……冗談だよ」二人は無言でブランコを漕いでいる。
玲奈のマンション(内)(夜)二年後。冬。
玲奈(三十一歳)がパソコンに向かって、キーボードを叩いている。
玲奈(声)「七年前の今日、私は強姦されました、
警察に被害届を出すことができず、時効まではあと三年を残していますが、これからも出すつもりはありません」玲奈の顔のディスプレイ画面の青い光が反射している。
玲奈(声)「性犯罪の被害を受けながら、私のよう・(控訴人指摘87)に、警察に被害届を出さない女性は、統計による本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
と九割近く……つまりほとんどだと知りました」「『どこにも届けていない』が断トツの85%です」という記載はあるが(本件著作物2・101頁11行)、
表現が異なる。
ディスプレイ画面『性犯罪被害者のあなたと』という交流サイトのトッ・(控訴人指摘88)プページ。風景写真などを配した落ち着いたデザ本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
インに、「メールはこちらへ」などの項目がある。
玲奈(声)「同じ境遇の方々と交流したい……そう・(控訴人指摘89)考えてこのようなウェブサイトを設立しました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈のマンション(内)(夜)玲奈はコーヒーをいれてパソコンの前に戻ってくる。
玲奈(声)「仮に、犯人を裁くことができたとしても、
現在の刑法では、強姦は強盗よりも罪が軽く、最短の場合、懲役はわずか三年です……(声が震える)しかし、強姦は心を殺す……殺人罪と同じです……」玲奈はパソコンに向かっている。
キーボード入力している玲奈の目から涙があふれていく。
玲奈(声)「(涙あふれて)私の心は壊れてしまいました……両親や夫、かつての恋人……誰もが私から離れていって……事件から七年を経た今でも……毎日、死ぬことばかり考えて……」喫茶店(内)(午後)玲奈は、テーブルをはさんで向かいあった柏木比佐子(三十四歳)の名刺を見ている。
比佐子「ウェブサイトを見て、同じ女性として、たい・(控訴人指摘90)へん衝撃を受けました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
テレビ局の名前が記載されている。・(控訴人指摘91)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「テレビの報道番組へ……私が出演を?」・(控訴人指摘92) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
比佐子「白石さんの経験したことや感じたことを話していただけませんか?」玲奈「私には……とてもそんな……」比佐子「性犯罪の被害者たちは、いやおうなく沈黙を強いられています、あなたがそれを代弁するんです」玲奈「……私にできるでしょうか?」比佐子「(微笑してうなずく)大丈夫」玲奈「(しばらくじっと考えてから)……ひとつ条件があります」比佐子「何でしょう?」玲奈「私は白石玲奈という実名で、顔にもモザイクをかけたりせず、正々堂々と出演したいです、同じ境遇にいる方々のためにも」比佐子「……いいんですか?」玲奈「(うなずく)……」照明機材が突然発光するテレビ局・スタジオ(内)白い壁を背景に椅子に座った玲奈は、まぶしさに目を細める。
(ビデオカメラによるインタビュー収録である)。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解テレビカメラの映像玲奈の顔へ極端に寄ったり引いたり、レンズを調整している。ヘアメイク係が、玲奈の額の汗をおさえる。
テレビ局・スタジオ(内)テレビカメラに向かって、玲奈は静かに語りはじめる。
玲奈「私は白石玲奈といって、性犯罪被害者のウ・(控訴人指摘93)ェブサイトを運営しています……まず私自身のこと本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
を話します、七年前、私は強姦されました……」本件各著作物に『Yです。七年前に、性犯罪の被害にあいました』という言葉でシンポジウムでの発言を始めたとの記載があるが(本件著作物1・192頁7行目、本件著作物2・153頁10行目)、本件映画はテレビ番組での発言であり、またその内容も異なる。
テレビ画面玲奈がインタビューを受けている。
画面右上に「性犯罪がもたらす悲劇とは」「被害女性覚悟の実名証言」などのテロップが表示されている。
玲奈(音声)「性犯罪被害に遭った女性たちと交流を深めることができたら、と思いたって、私はウェブ 完成稿(原判決判断)控訴人の見解サイトを開設することに……」丸岡のアパート(内)(夜)バスタオルを体に巻いた少女・水野亜紀(十四歳)・(控訴人指摘94)がドライヤーで髪を乾かしながらテレビを観てい本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
る。なお、本件映画の水野亜紀の設定(父親から強姦されてきた)が、本件著作物2の「C」と同じあるとしても、水野亜紀と父親との関係、父親に対する感情、家出をしてインターネットで知り合った男の家を泊まり歩いていること、妊娠したこと、そして父親が逮捕されるという展開は、「C」とは大きく異なる以上、同じ場面とはいえない。
テレビには玲奈の映像が映し出されている。
玲奈(音声)「十代から六十代まで、二千人を超える性犯罪被害者から、心の叫びというべきメールが届いて……」亜紀はドライヤーのスイッチを切って、コップのオレンジジュースを飲みながら、画面に見入っている。
玲奈(音声)「自殺未遂などの自傷行為におよぶ女性が驚くほど多く、誰もがみずからを責めています……どうして?私たちは被害者なのに」丸岡(三十二歳)が、パンツ一枚で、待ちきれないように、亜紀に近づいてくる。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解丸岡「おい、もう電気消すぞ」亜紀「うん」玲奈のマンション(内)玲奈は、訪ねてきた恵三と和代にコーヒーを差し出している。
ソファに座っていた恵三(六十二歳)は、突然玲奈を平手打ちにする。
恵三「この恥知らずめ!」和代(五十九歳)は恵三の隣でため息をついている。
和代「どうして、わざわざテレビなんかに……うちはね、いたずら電話が鳴りっぱなしなのよ」恵三「親に断りもなく、結婚して、離婚して、ようやく落ち着いたかと思ったら、こんどは、マスコミの口車にのせられて、わざわざ世の中に恥をさらそうとしている、親の……親の顔に泥をぬって……」玲奈「親らしいことなんて、何ひとつしてくれなかっ・(控訴人指摘95)たよね?」本件著作物1に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物1において、男性と同居すると言って両親に勘当された際の発言として、『親らしいこともできないくせに、こんなときだけ親面しないでよ!』という記載があるが(111頁4行)、台詞が発せられた状況(テレビを出たときのものか男性と同居を始めるときものか)が異なる。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解また、親子喧嘩をする際に「親らしいことなんて何もしてくれなかった」という趣旨の発言をすること自体は、ある意味一般的なものといえる。
恵三「おまえは、お父さんの知っている、玲奈じゃ・(控訴人指摘96)なくなってしまった……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「……私もある朝、虫になっていたってこと?」恵三「虫だって?」玲奈「お兄ちゃんのこと昔そう呼んでた、虫に変身したから言葉がつうじないって」恵三「いったい何の話だ?」玲奈「カフカの『変身』の主人公だって……、憶えてないなら、別にいいよ……」恵三「(涙あふれて)会社から帰ってくると、『パパ、・(控訴人指摘97)おかえりなさい』って、よちよち歩きで、出迎えてく本件著作物1に同趣旨の記載はない。
れた可愛い玲奈は、どこへ消えてしまったんだよ……お父さん、おまえがわからないよ……」玲奈「……」恵三「(泣きながら)勘当だ……、二度と家の敷居・(控訴人指摘98)をまたぐな……」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1では、被控訴人が男性と同居したときに両親から勘当されたという記載はあるが(111 完成稿(原判決判断)控訴人の見解頁4行目)、テレビに出演したことで勘当されたという記載はない。
また、激しい親子喧嘩の末に、親から「勘当だ」と言われることは、一般的なことといえる。
恵三と和代はあわただしく出ていく。
和代は突然戻ってくると、風呂敷に包んだおにぎりや煮物などを詰めたパックを玲奈に差し出す。
和代「食べてね、テレビに映ったあなた、顔色悪かったから」玲奈「お母さん……」和代は恵三を追って去っていく。
ドアが遠くで静かに閉まる。
玲奈「……」ゲイバー(内)(夜)玲奈と比佐子はカウンターの隅で乾杯している。
比佐子「(玲奈に)すごい反響ですよ、第二弾をぜひ……」派手な化粧をしたゲイバーのママ・中西(三十八歳)がグラスを片手に話に割りこんでくる。
ママ「テレビ観たわよ」玲奈「ありがとうございます」ママ「あんたってさあ、結局世の中のうわっつらしか見てこなかったのよ、そのまま何も知らずにボーッと生きていられたら、一生幸せだったのに」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「……そうですね」ママ「『平凡な人生よ、さようなら』ってことね、(手をあわせて)ご愁傷様」玲奈「……」ママ「(じっと玲奈を見つめて)応援してるのよ、負けないで」玲奈「(微笑して)はい」ゲイバー(外)・路上(夜)玲奈と比佐子が店を出ると、リュックを肩にかけた亜紀が物陰から突然近づいてくる。
亜紀「あの、テレビ観ました、白石玲奈さんですよ・(控訴人指摘99)ね?握手して下さい」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「本当に?ありがとう、ずっとここで待ってたの?」比佐子「あなた中学生?こんな夜中に繁華街にいて、親御さんは心配しないの?」亜紀は玲奈と握手したまま離さない。
玲奈「?」亜紀「へえ、テレビより美人なんだ?」玲奈「……」亜紀「あんた、ようするに露出狂でしょ?じぶんが犯されたことを、わざわざテレビで誇らしげに喋ってさ、次はアダルトビデオにでも出たら?」比佐子「(亜紀に)帰りなさい!あんた家出したん 完成稿(原判決判断)控訴人の見解でしょ、警察に通報するわよ」亜紀は玲奈の手を離すと、繁華街へと走って逃げていく。
ゲイバー近く・路上(夜)亜紀は、リュックを肩にかけて歩いていく。数日間髪を洗っていないらしく、べとついており、衣服も薄汚れている。
亜紀(声)「こんにちは、十四歳の女の子です、今夜泊めてくれる親切な男の人はいませんか?」繁華街(夜)亜紀は、街をさまようように歩いていく。・(控訴人指摘100)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
×××亜紀は、閉店した店舗のシャッターにもたれて、スマートフォンをいじっている。
亜紀(声)「ご連絡をお待ちしています」北嶋のアパート・玄関(外)(夜)北嶋(三十六歳)はドアを開けると、亜紀の体を下から上へと、舐めるように見る。ミニスカートから白い足が露出している。
北嶋「(嬉しそうに)ほ、ほんとに十四歳?」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解北嶋のアパート・寝室(内)(夜)亜紀は、ベッドに寄りかかって、玲奈と握手した右手を見ている。入浴後らしく髪が濡れており、北嶋のパジャマを着ている。
北嶋は電灯を消す。
北嶋「(息荒く)ね、寝ようよ」亜紀「うん」亜紀はシングルベッドの布団のなかへと入る。北嶋は、当然の権利を行使するように、布団にもぐり亜紀のパジャマを脱がせながら、息荒く体をむさぼっていく。
亜紀は、無表情で天井を見ている。
亜紀「……」喫茶店(内)(午後)比佐子は、封書の束をいくつもテーブルの上に差し出す。
比佐子「視聴者からの手紙です」比佐子はさらにプリントアウトした紙の束を置く。
比佐子「番組へのメールをプリントアウトしました」玲奈「こんなに?」比佐子「白石さんと同じように、性犯罪の被害にあった女性からの声が、たくさん届いていて……」玲奈のマンション(内)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈は手紙とメール一通ずつに、じっくりと目をとおしている。
玲奈「……」喫茶店(内)(午後)関谷加世子(五十二歳)は立ち上がって、入ってき・(控訴人指摘101)た玲奈に一礼する。本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
なお、本件映画の関谷加世子の設定が、本件著作物2の「D」と似ている部分があるとしても、「D」は今も強姦されたという事実と向かいながら戦っているのに対し、関谷加世子は主人公に「あなたもまた呪いから逃れられない」とメッセージを残して突然飛び降り自殺するという大きく異なる展開を辿るものである以上、同一または同趣旨の場面とはいえない。
加世子「お会いできて嬉しいわ」玲奈「私もです」×××加世子「私は中学三年生のとき、当時大学生だっ・(控訴人指摘102)た兄から、実家の蔵の中で、強姦されました」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物2に「それは中学3年生のときのものでした。彼女は大学生のお兄さんの友人ふたりに、実家の物置で強姦されていたのです」との記載はあるが(124頁2行目)、これは「D」からのメールの内容を被控訴人が要約したものであって、本 完成稿(原判決判断)控訴人の見解人の直接の台詞として記載されているものではない。また、加世子は実の兄から蔵の中で強姦されているのに対し、「D」は兄の友人2人から物置で強姦されたものであって、その内容も異なる。
玲奈「そのことをご両親には?」加世子「(首を振って)誰にもいえなかったわ、この話をするのは、あなたがはじめて」玲奈「……」加世子「ずっと記憶を封印して生きてきたの、でもね、『フラッシュバック』、わかるでしょう?」玲奈「はい」加世子「四十年近く経っても、いまだに『フラッシュバック』に襲われるの、強姦されているときの恐怖が鮮明によみがえってきて、涙がとまらなくなる」玲奈「……わかります」加世子「結婚するまで私を犯しつづけた兄は、立派な会社に入って、幸せな家庭をもって、豊かな人生を過ごしたわ……、それなのに私は?私は誰も愛することができず、人生を棒にふってしまった」玲奈「……」加世子「私はあなたが心配なの、性犯罪と闘おうとしているのは、すばらしいことよ、でもあなた自身は、幸せ?」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「……わかりません」加世子はふとハンドバッグを開くと一通の封書を取り出す。
加世子「あとで読んで」加世子は玲奈に封書を差し出す。
加世子「ちょっと電話してくるわね」玲奈「はい」加世子は席を立つと携帯電話を手にして店を出ていく。
玲奈はコーヒーに口をつける。
×××玲奈は腕時計を見る。
玲奈「(つぶやく)遅いな……」玲奈は、加世子の封書を開封すると、便箋を広げる。
「あなたもまた呪いから逃れられない」と走り書きしてある。
突然、地響きのような音がして、店内が騒然となる。
客A(声)「ちょっと、飛び降り自殺よ!」店長A(声)「誰か警察に電話しろ!」喫茶店の前に人だかりができている。
玲奈「(茫然として)……」玲奈のマンション(内)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解電灯はついておらず室内は闇に包まれている。玲奈は両手で顔を覆って、ソファの上で体を丸めるようにしている。
×××玲奈はパソコンに向かっている。
亜紀(声)「こんばんは、玲奈ちゃん、先日は、失礼なことをいってごめんなさい」玲奈の顔にディスプレイ画面の青い光が反射している。
亜紀(声)「私のこと憶えていますか?」玲奈「……」×××ドアベルが鳴る。
玲奈がドアを開けると、リュックを肩にかけた亜紀が立っている。
亜紀「水野亜紀といいます」玲奈「(微笑して)入って」×××亜紀はテーブルの上で、パスタを食べている。
玲奈「夜中だから、パスタぐらいしかできなくて、ごめんね」亜紀「おいしい」亜紀はフォークを、まるで棒を握るように持って、
次々と口にパスタを押しこんでいく。
玲奈「ねえ、そのフォークのもちかた、どうにかなら 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ないの?」亜紀「(笑って)お母さんみたい」玲奈は亜紀の左手首の傷に目がとまる。自殺未遂の傷跡が無数にある。
玲奈「(亜紀の左手首をつかんで)これ、どうしたの?」亜紀「痛いよ、玲奈ちゃん」玲奈「(手を離して)ごめん」亜紀は、しばらく無言のままフォークでパスタをもてあそんでいる。
亜紀「お母さんが亡くなったのは、私が十一歳のと・(控訴人指摘103)きだった……それから、お父さんが毎晩ベッドに入本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
ってくるようになって……子供だったけど、何をさ本件著作物2において描かれている「C」は、母親れているのかくらいは、わかってた……」は生きており、また、「C」が父親と性的関係を持つようになったのは物心がついたころからと記載されており(108頁3行)、本件映画の水野亜紀とは状況が大きく異なる。
玲奈「そのこと誰かに言った?」・(控訴人指摘104)本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
亜紀「誰にも言えないよ、死にたかったけど、死に・(控訴人指摘105)きれなかった、怖くて……」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
本件著作物2では、「C」にとっては、父親と性的関係を持つことについて違和感を覚えることなく育ってきたと記載されており(109頁7行)、死にたかった、怖いというような感覚ではない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「うん」亜紀「二か月くらい前に家出したの、ネットに書きこんだら、泊めてくれる男の人がいるって友達がいってたけど、本当だね」玲奈「だって泊めてくれる代わりに体を要求さされるでしょう?」亜紀「しかたないよ、お金ないんだもん」玲奈「もう二度としないって約束して」亜紀「……わかった」玲奈「ずっとここに泊まっていいからね、明日、警察に相談しよう」亜紀「玲奈ちゃん、それより病院に一緒にいってほしいんだ……、妊娠してるみたいなの……たぶんお父さんの……赤ちゃん……」玲奈「……」×××玲奈と亜紀は抱きあうようにしてシングルベッドの上で眠っている。
亜紀「(寝言で)お母さん……」玲奈「……(思わず亜紀を抱きしめる)」病院(産婦人科)・診察室(内)(午後)産婦人科医・藤沢(五十八歳)が険しい顔で、亜紀と玲奈の顔を見比べる。
産婦人科医「妊娠しています……中絶手術をする 完成稿(原判決判断)控訴人の見解には保護者の同意書をいただかないと」玲奈「(亜紀に)お父さんに電話して、今から、きてもらうこと、できる?」亜紀「田舎だから、四、五時間はかかるよ」産婦人科医「夜でもかまいません、まだ十四歳ですから、処置するなら、いそいだほうが、いいでしょう」病院(産婦人科)・待合室(内)(夜)玲奈と亜紀はならんで長椅子に座っている。亜紀はスマートフォンの写真を誇らしげに玲奈に見せる(画面は見えない)。
亜紀「ほら直樹くん、チョーかっこいいでしょ、サッ・(控訴人指摘106)カー部のキャプテンで、生徒会長なの」本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
玲奈「そういうやつに、ろくな男はいないよ、おばさん恋愛経験豊富だから、教えといてあげる」亜紀「直樹くんのカノジョにしてくれないかな、……・(控訴人指摘107)でも無理だよね、私なんか、ずっとお父さんに犯さ本件著作物2に同一又は同趣旨の記載はない。
れて、知らない男の人からも……私みたいな汚れた女の子は、直樹くん、きっと嫌いだよね……」玲奈「(突然声をあらげて)あんたは汚れてなんかいない!」亜紀「(驚いて)玲奈ちゃん、どうしたの?」玲奈「あんたまだ十四歳でしょ?これから恋した 完成稿(原判決判断)控訴人の見解り、夢みたり、傷ついたり、人生は楽しいことばかりなんだから、汚れてる、とか、そんなこと、絶対にいったらだめ!」亜紀「……うん、わかったよ」二人は暗い廊下で沈黙している。
亜紀「このあいだは失礼なこと言ってごめんね、玲奈ちゃんのことテレビで観て、『苦しんでいるのは、
あんただけじゃない』って、言ってやりたくなったの、生意気だよね?怒ってる?」玲奈は長椅子の上で亜紀の手を握る。
玲奈「いいの、怒ってなんかいないよ」正治(声)「亜紀か?」廊下の向こうから水野正治(四十二歳)が歩いてくる。
亜紀「……お父さん」正治「ここで何してるんだ、亜紀……さんざん心配させて、(玲奈を見て)あんた、どちらさんですか?」玲奈は立ち上がると、突然正治を平手打ちにする。
正治「(驚いて)……」玲奈「おまえのせいで……おまえみたいなやつのせいで……」亜紀「玲奈ちゃん」玲奈は、怒りをむきだしにして正治を両手で何回も 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ひっぱたく。
正治「おい、ちょっと、やめろよ」玲奈「おまえは父親なんかじゃない!」玲奈は正治に殴りかかっていく。数人の産婦人科の男性職員が駆けつけて玲奈を羽交い絞めにして、正治と引き離す。
玲奈「おまえなんか……(泣き崩れる)」玲奈のマンション(内)(朝)玲奈は鏡に向かって化粧している。
亜紀(声)「おはよう、玲奈ちゃん、旭川の寒さにもなじんできたよ、私は母方の親類の家にお世話になってます」×××玲奈は通勤用のバッグを持って玄関を出ていく。
亜紀(声)「今日直樹くんからメールがきたんだ、すごいでしょ?いつか旭川に遊びにきたいって」バス停近く・路上(朝)玲奈はバス停までの道を歩いていく。
亜紀(声)「警察に逮捕されてからのお父さんのことは誰も教えてくれない、いつか面会にいきたいとは思ってるけど……」亜紀(声)「ねえ玲奈ちゃん」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解バス停(朝)玲奈はバス停でスマートフォンの画面を見ている。
亜紀(声)「玲奈ちゃんと私は、『戦友』だね」玲奈「(つぶやく)……戦友か」玲奈のマンション(内)(休日の午後)化粧していない玲奈は、部屋着のままソファに寝ころんで、ぼんやりとテレビを眺めている。
玲奈は眠りに落ちていく。
深い闇どこかで遠くで電子音が鳴っている。
玲奈のマンション(内)(休日の午後)玲奈が目を醒ますとスマートフォンが鳴っている。
玲奈「(出て)お母さん、どうしたの?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)布団がふたつ敷かれており、玲奈と和代が横たわ・(控訴人指摘108)っている。本件著作物1に同趣旨の記載はない。
電灯は消されており、あたりは暗い。本件著作物1に「その晩、母と並んで寝た」という記載はあるが(203頁6行)、その客観的な状況についての記載はない。
また、その後の展開は全く異なるものであるから、
二人出で並んで寝ることのみで同じ場面とはいえ 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ない。
和代「こうして玲奈ちゃんと枕をならべて寝るなん・(控訴人指摘109)て、何年ぶりかしらね」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「出張中に私が泊まりにきたことを知ったら、・(控訴人指摘110)お父さん、怒るんじゃないの?」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「お父さんの発案なの、今朝出張先の金沢か・(控訴人指摘111)ら電話してきてね」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
玲奈「ふうん、『勘当』っていったくせに」・(控訴人指摘112)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
和代「許してあげてね」玲奈は無言で天井を見ている。
玲奈「……ねえお母さん、私のこと抱きしめてくれる?」和代「あらあら、玲奈ちゃんたら、小さい頃に戻っちゃったの?」和代は、布団にもぐりこんできた玲奈は、子供のように抱きしめる。髪の匂いを愛おしそうに嗅ぐ。
玲奈は、ふと床の間に、水晶玉が安置されていることに気づく。
玲奈「(水晶玉が気になって)ねえ、これ何?」和代「ご利益があるんですってよ」玲奈「(笑って)ちょっと〜、ヘンな宗教にでも、ハマッてんじゃないの?」玲奈の実家・二階・雅彦の部屋(内)(夜) 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ドアは開け放たれており、がらんとした室内に月光が射している。
世界地図と、アフリカの大地の写真が一枚、壁に貼ってある。
玲奈(声)「お兄ちゃん、アフリカのどこだっけ?タンザニア?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)玲奈と和代が布団をならべて横たわっている。・(控訴人指摘113)本件著作物1に同趣旨の記載はない。
本件著作物1に「その晩、母と並んで寝た」という記載はあるが(203頁6行)、その客観的な状況についての記載はない。
和代「海外青年協力隊……今年三十四だから、もう『青年』って歳でもないけどね」玲奈「ずっと引きこもりだったくせに、タンザニアで役にたつのかな?」和代「雅彦からは絵葉書が一枚きたきりよ、(笑って)うちの子供たちは個性的で困るわね」玲奈「(笑って)お兄ちゃんから絵葉書きたの?見せてよ」和代「明日ね、もう遅いから」玲奈「うん、じゃ明日」和代「……ねえ玲奈ちゃん、女の子は幸せを手に・(控訴人指摘114)入れるためには、秘密は隠しておくものなのよ」本件著作物1に同趣旨の記載はない。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解本件著作物1に『女の子は誰かと一緒になるまでは、自分のことなんて隠してでも、精一杯よく見せていたほうが、楽だと思うのよ』という台詞があるが、これは、女性は結婚するまでは自分のことはできるだけ隠して、最大限良いところだけ見せるようにして、本当の自分を見せるのは結婚してしまってからにした方が楽だ、という発言と思われる。他方、本件映画の台詞は、母親が主人公を殺害するために、その真意(秘密)を隠して呼び出したこととの伏線として発せられたものであり、発言の趣旨が異なる。
また「女には秘密がある」というのは一般的な台詞である。
玲奈「へえ、お母さんにも、秘密があるの?」和代「(おどけて)あら、ありますわよ〜、女ですから〜」玲奈「(笑って)はあ、そうでございますか」和代はふいに沈黙する。
和代「あなたのしたことは間違いだったわね」玲奈「……え?」玲奈がふと目を向けると、いつのまにか足元に恵三が立っている。
恵三「毒をまき散らす虫は、駆除しなけりゃならん、お父さん、そう思うんだ」玲奈は驚いて、布団から起き上がる。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解玲奈「お父さん!」和代は、背後から玲奈の首に浴衣の帯をかけると締め上げていく。
玲奈「!」恵三は和代と力をあわせて、玲奈の首を絞めていく。
玲奈「(苦しげに)……お兄ちゃんも?」玲奈の実家・二階・雅彦の部屋(内)(夜)ドアは開け放たれており、がらんとした室内に月光が射している。
玲奈(声)「……お兄ちゃんのことも……殺したの?」玲奈の実家・二階・寝室(内)(夜)玲奈の両目から涙があふれる。
恵三と和代は息荒く、玲奈の首にかけた浴衣の帯を力のかぎり引いていく。
和代「玲奈ちゃん、来世(らいせ)でまた親子になりましょうね」玲奈の意識は遠のいていく。
玲奈の幻想・旭川の風景雪景色のなかで、亜紀がこちらに手を振っている。
直樹らしき中学生(後ろ姿)が走ってきて亜紀に、
完成稿(原判決判断)控訴人の見解雪玉を投げつける。
二人は楽しそうに雪合戦している。
――暗転。
深い闇ゲイバーのママ(声)「武田、武田」ゲイバー(外)・通用口(夜)七年前。
赤いキャップを被った武田誠一(二十一歳)がエプロンをして、ビールケースを片づけている。
ゲイバーのママ・中西(三十一歳)が通用口から出てくる。
ママ「あんた、ちょっと『ホテル・ローズ』まで、いってきてくれる?今日男の子の出勤が少なくてさ〜、まいっちゃって」武田「あの、おれ、そういう仕事は無理だって、最初に……」ママ「……武田、あんた、あたしにいくら借金あると思ってるの?今月俳優の仕事いくつあった?」武田「エキストラ一本だけで」ママ「ちょっと、ちんぽ、しゃぶるだけだろ?カマトトぶってないで、やれよ、金になるんだから、金欲しくないの?」武田「……」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解ラブホテルの一室(内)(夜)裸になった武田の体を、ベッドに座った重松(四十六歳)がスーツのネクタイをほどいて、煙草を吸いながら眺めている。
重松「役者の卵だって?」武田「はい」重松「(笑って)売れねえよ、おまえなんて」武田「……」×××ベッドが軋んでいる。
裸になった重松は、ベッドの上で武田をうしろから犯している。
重松の背中には、鮮やかな刺青がほどこされている。
武田は苦痛に耐えきれず泣き出す。
武田「(泣きながら)もうやめてください……」重松「いい声で鳴くじゃん、興奮してきちゃった……ほら、もっと鳴けよ」路上駐車したワゴン(車内)(夜)赤いキャップを被った武田が、腕組みして助手席で眠っている。
阿部(二十一歳)が運転席に乗りこんできて熱い缶コーヒーを武田に差し出す。
完成稿(原判決判断)控訴人の見解阿部「忘れろって」武田「……うん」阿部「なあ、そのへん歩いている女でも、やっちまおうぜ、楽しいよ」武田「……」×××武田は、声をかける練習をしている。
武田「あの、すみません、ちょっと道に迷ってしまって」阿部「(笑って指さして)いいね、スカッとさわやかで、……おまえコカ・コーラのCM決まるんじゃないの?」武田「(苦笑いして)オーディション一次で落ちたよ」武田が煙草を取り出すと、阿部がすばやくそれを取り上げる。
阿部「だめだって、兄貴の車、禁煙だから」武田と阿部の手がふれる。
阿部「(激しく拒絶して)手、握ってくんなよ、気持ちわりいな、こっち(オカマ)に目醒めた?」武田「……」阿部「(気まずく)……ほら、練習、練習」武田「あの、すみません、ちょっと道に迷ってしまって」阿部「(からかって)お〜スカッとさわやか〜」 完成稿(原判決判断)控訴人の見解テロップ『二〇〇六年十一月六日午後八時五十二分』路上駐車したワゴン(車内)(夜)阿部はスモークを張ったガラス越しに、通りをずっと観察している。
阿部「お、きたきた、いいんじゃない?」武田は助手席から外に顔を出す。
武田(声)「あの、すみません」深い闇『あなたもまた虫である(仮題)』(おわり) (別紙)合意に基づく差止一覧についての補足説明1控訴人指摘1本件著作物1の86頁から87頁には,「要領の悪い不器用な兄と,おばあちゃん子だった弟は,両親の想像を超えた行動をする。,」「朝が苦手で,いつも遅刻ばかりしていた兄と弟。」に対し,「私は毎朝一人で起きて,母が用意しておいてくれるドーナツとジュースを持って学校に行く。という記載があり,」被控訴人が兄弟と比べて手が掛からない子供であった旨の表現が共通している。
2控訴人指摘2〜11本件著作物1の12頁から14頁には,停車していた四輪駆動車の運転席から,いかにも軽そうな痩せ型の茶髪の男に「ねぇ!」と呼び止められ,「道教えて」と道を尋ねられたこと,○○駅への道を地図で教えて欲しい旨を言われ,自転車を降りて,運転席の窓から地図を覗き込んだこと,背後にいた大男が自転車のハンドルに掛けていたはずの被控訴人のカバンを持って,開いていた後部ドアから四輪駆動車の後部座席に乗り込んだので,カバンを取り返すために手を伸ばしたところ,男に手を掴まれ車内に引っ張り込まれたことが記載されている。停車していた自動車の前部座席から男に呼び止められ,地図を示して道を尋ねられ,自転車を離れて前部座席に近付くと,後部ドアが開いて,道を尋ねた男とは別の第2の男が登場し,後部座席に引っ張り込まれるという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
3控訴人指摘12本件映画の該当箇所でダンスミュージックは再生されていない。
4控訴人指摘13 被控訴人が車を降ろされた場所は,道を聞かれた場所から数メートルしか離れていなかったこと(20頁),車内で犯罪を行っていることからすれば,窓にスモークが貼られていたことは想像に難くないが,その旨の明示的な記載は見当たらないし,被控訴人は車が動いていたのかも全く解らないことから(20頁)路上駐車してい,たかどうかは必ずしも明らかではない。そうすると,本件著作物1と同一とも同趣旨とも認定できない。
5控訴人指摘14本件著作物1の20頁には,被控訴人が車を降ろされた場所が道を聞かれた場所から数メートルしか離れておらず,自転車も同じ場所に止まったままだったが,誰も被控訴人に気付いていなかったことが記載されており,このような事件直後の描写から車内で事件が発生している時においても誰も異変に気付いていなかった旨が表現されているといえるほか,本件著作物1のその余の記載を見ても,車内で事件が発生している時に誰かが異変に気付いていたことを窺わせる記載はないから,車内で事件が発生している時に誰も異変に気付かないという点は,本件著作物1と本件映画とで共通しているといえる。
6控訴人指摘15及び16本件著作物1の19頁から20頁には,『ほら降りろよ!』と車のドアを開けら「れ,外に出たとき,私はちゃんと服を着ていた。,」「私は道に投げられたカバンを拾い上げ,それを抱えて歩道に立っていた。,」「私が車を降りたその場所は,道を聞かれた場所から数メートルしか離れていなかった。時間がどれくらい経ったのか,車が動いていたのかも,まったく解らない。」という記載があり,被控訴人が解放される前に被控訴人が引っ張り込まれた自動車が走っていたかどうかは明らかではないし,被控訴人が荷物のように地面に落とされたことは窺われない。そうすると,本件映画の主人公が引っ張り込まれたワゴンが静かに徐行していき,一旦停止すると, スライド式のドアが開いて,まるで荷物のように,主人公を地面に落としていく旨の表現は,本件著作物1と同一とも同趣旨とも認定することはできない。
7控訴人指摘17本件著作物1の20頁には,被控訴人が解放された後,「車はいつのまにか,いなくなっていた。」と記載されており,車が走り去ったことが明らかであるほか,急発進するなど被控訴人の記憶に残るような態様で走り去った旨の記載はないから,犯人らの乗った車が静かに走り去ったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通しているといえる。
8控訴人指摘18本件映画の該当箇所に玲奈の着衣の乱れや肌の露出は描写されていない。また,本件著作物1には,被控訴人が公園の公衆トイレまで足を引きずるようにして歩いていった旨の記載はない。
9控訴人指摘19本件著作物1には,被控訴人が公園の公衆トイレまで足を引きずるようにして歩いていった旨の記載はないし(前記8の控訴人指摘18と同じ)公園内に誰もいな,い旨の記載もない。
10控訴人指摘20公衆トイレの女性用に入っていった旨は,本件著作物1と本件映画とで同一である。控訴人は,そのような行動が屋外で強姦被害を受けた女性にとって一般的な行動であると主張するが,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであり,この場面のみ,本件各著作物に依拠することなく,屋外で強姦被害を受けた女性の一般的な行動を表現し たものとは認められない。控訴人の主張は,著作権による保護を上回る本件各著作物不使用の合意の内容を,著作権による保護と同レベルに引き下げようとするものにほかならない。
11控訴人指摘21本件著作物1の21頁には,「下半身からお腹にかけて,血だらけだった。シャツにもついてる。と記載されており,」ブラウス又はシャツに血が付着しているという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。他方,本件著作物1には,被控訴人が鏡の前に立っていた旨の記載はない。
12控訴人指摘22本件著作物1には,被控訴人が公園の公衆トイレにいた際に犯人の台詞を思い出した旨の記載はない。
13控訴人指摘23及び24本件著作物1の14頁には,『静かにしろよ!怪我したいのか!』耳元で,「『カタカタカタ』という音がした。それがカッターの刃を出し入れする音だと,すぐに解った。」と記載されており,犯人が刃物を使用して反抗を抑圧したという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。他方,本件著作物1には,被控訴人が泣きじゃくっていたこと,犯人が被控訴人の両腕を押さえつけたこと,下半身を露出したもう一人の犯人がべっとり血の付着した二本の指を見せたことは,記載されていない。
14控訴人指摘25本件著作物1の15頁には,「『うわ!マジかよ!』『おい!こいつ生理だぞ!』『ばか!(車が)汚れんだろ!やめろ!』」と記載されており,犯人の一人が別の犯人に 対し被害者が生理中である旨を告げたことが同一であることは明らかであるし,本件著作物1の上記記載には本件映画の「どうするよ?」との発言は明記されていないものの,被害者が生理中である旨を告げたことには犯行を継続するか否かを確認する趣旨が含まれていることは,その後の「汚れんだろ!やめろ!」という発言からも明らかであるから,結局,本件映画の「どうするよ?」との部分も含め,全体として同一であるといえる。
15控訴人指摘26本件著作物1の14頁には,「『静かにしろよ!怪我したいのか!』と記載されて」おり,抵抗する被害者に対しその生命・身体に危害を加える旨脅したという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
16控訴人指摘27本件著作物1の14頁から15頁には,犯人から脅される前には「息もままならなくて,もがいた。」と記載されている一方で,犯人から脅された後には「暴れようと思って力を入れても,身体が動かない。カッターに触れるのが怖かったのもある。
押さえられて動けなかったこともある。でも,不思議なことに,自分の身体なのに,どう動いていいのかも分からず,金縛りみたいに動けなくなっていた。と記載され」ており,刃物を持った犯人から脅されたことにより体が動かなくなったことは,本件著作物1と本件映画とで同一である。
17控訴人指摘28本件著作物1の14頁には,「いつのまにか,後部座席に押し倒され横になった私は,タオルのようなもので目隠しされ,顔全体を押さえられていた。」と記載されており,本件著作物1には,被控訴人自身が両目を固く閉じたことや,恐怖で涙があふれてきたことは,記載されていない。
18控訴人指摘29本件著作物1の15頁には,『ばか!(車が)汚れんだろ!やめろ!』と記載さ「れており,犯人の一人が別の犯人に対し車が汚れることから被害者に対する犯行を中止することを提案したという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
19控訴人指摘30〜32本件著作物1には,犯人が被控訴人の洋服で手についた血を拭ってから,じっと被控訴人を見下ろしたこと,被控訴人が固く目を閉じて,泣きながら震えていたことは,記載されていない。
20控訴人指摘33本件著作物1の16頁には,『関係ねぇ。もったいねーし』と記載されており,「被害者が生理中であるとしても犯行を継続する旨の発言という点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
21控訴人指摘34本件著作物1の16頁には,「そして,奴が入ってきた。」と記載されており,犯人の下半身が被害者の中に入っていったことは,本件著作物1と本件映画とで同一であるし,その際,犯人の下半身が露出していたことは明らかであり,犯人の下半身が露出していたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
また,本件映画には阿部が玲奈を姦淫する場面の描写があり,本件映画に脚本に対応する描写がないとはいえない。
さらに,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかである。前後の場面から切り離して本件各著作物不使用の合意により姦淫行為の描写が禁止されていたか否かを検討することは 相当でない。
22控訴人指摘35〜37本件著作物1の25頁〜26頁には,被控訴人が別れたばかりの彼「B」に電話したところ,「B」が被控訴人に対し「どうしたんだ?絶対に動くな!そこにいろ!」と命じ,その後,携帯電話で「どこにいるんだ?」「公園の周りをうろうろしてる,……」「バカ!早く分かるところに来い!コンビニの前に来られるか?」「うん…,,…」というやりとりをした末に,「彼が来た」ことが記載されており,被害者の恋人が被害者の元に駆け付けたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
控訴人は,恋人から強姦されたと電話を受ければ,その場に走って駆け付けることは一般的な行動であると主張するが,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであり,この場面のみ,本件各著作物に依拠することなく,恋人から強姦されたと電話を受けた男性の一般的な行動を表現したものとは認められない。前記10の控訴人指摘20と同様,控訴人の主張は,著作権による保護を上回る本件各著作物不使用の合意の内容を,著作権による保護と同レベルに引き下げようとするものにほかならない。
23控訴人指摘38本件著作物1には,「泣いている私と,私の服を見て,彼は,『何かされたのか!?』と,驚いた顔で言った。(27頁)と記載されており,被控訴人の洋服の状態と泣」いている状態が強姦被害を想起させる程度の状態にあったことが表現されている。
また,本件著作物1には,「シャツのボタンが弾かれた」(15頁)「男の行為が終,わった後,私は驚くほど冷静に服を着た」(19頁)「胸のはだけたシャツを押さえ,て自転車を押して歩き始めた」(20頁〜21頁)とも記載されており,被控訴人のシャツは,少なくとも胸部のボタンが外れて,被害前と同様に着用することができ なくなっていたことが読み取れるし,公園内の公衆トイレにおいて「悔しさと無力感が込み上げてきて,泣いた。(21頁〜22頁)」,元恋人に電話した際に「電話ごしの彼の声に,涙が溢れ出た。(26頁)とも記載されており,元恋人が駆け付け」た際に泣いていたばかりでなく,それ以前にも泣いていたことが読み取れる。本件著作物1には,「下半身からお腹にかけて,血だらけだった。シャツにもついてる。」(21頁)とも記載されており,被害者のシャツないしブラウスが壊されて,血が付着しており,被害者が会う前から泣いていた状態にあったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
24控訴人指摘39及び40本件著作物1には,犯人が誰なのかについての会話は記載されていない。
25控訴人指摘41本件著作物1の27頁には,『くそっ!!』彼のバイク用のヘルメットが,道路に「たたきつけられた。と記載されており,」強姦被害を打ち明けられた恋人がその直後に怒りの声を発するとともに手近にある物に怒りをぶつけたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
控訴人は,恋人が強姦されたことを知れば,犯人に対する怒りが込み上げてくることは一般的な行動であると主張するが,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであり,この場面のみ,本件各著作物に依拠することなく,恋人が強姦されたことを知った男性の一般的な行動を表現したものとは認められない。前記10の控訴人指摘20と同様,控訴人の主張は,著作権による保護を上回る本件各著作物不使用の合意の内容を,著作権による保護と同レベルに引き下げようとするものにほかならない。
26控訴人指摘42及び43 本件著作物1には,元恋人が被控訴人の前にひざまずいて被控訴人の涙をぬぐったこと,被控訴人に対し「謝らないでくれよ」と述べたことは,記載されていない。
また,本件映画では,健治の「おまえは被害者じゃないか」という台詞は使用されていない。
27控訴人指摘44本件著作物1の36頁には,「『お前,仕事行くのか?こんな日くらい休めよ……』」と記載されており,恋人が被害者に対し仕事を休むことを勧めたことは,本件著作物1と本件映画とで同一である。
控訴人は,社会人である恋人が強姦された場合,次の日に会社を休むよう進言することは一般的な行動であると主張するが,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであり,この場面のみ,本件各著作物に依拠することなく,社会人である恋人が強姦された男性の一般的な行動を表現したものとは認められない。前記10の控訴人指摘20と同様,控訴人の主張は,著作権による保護を上回る本件各著作物不使用の合意の内容を,著作権による保護と同レベルに引き下げようとするものにほかならない。
28控訴人指摘45本件著作物1の36頁には,『こんなことで仕事を休んでいいの?なんて言って「休めばいいの?ホントのことなんて言えないよ!』と記載されており,」仕事を休むことを勧められた被害者が「なんて言って休めばいいの?」と述べたことは,本件著作物1と本件映画とで同一である。対面での会話か,電話での会話かによって,発言内容の同一性が変わるものではない。
29控訴人指摘46本件著作物1には,元恋人が「これからは,いつも一緒にいるから」と述べたこ とは,記載されていない。本件著作物1の30頁には,『ずっと側にいてやるから』「と約束をしてくれた彼と一緒に,事情聴取を受けた。」と記載されているが,この発言は,文脈からして事情聴取の際には一緒にいることを述べたにすぎないと理解するのが自然であり,同趣旨であるともいえない。
30控訴人指摘47〜50本件映画の該当箇所に脚本に対応する描写はない。
31控訴人指摘51本件著作物1には,被控訴人が強姦被害を受けている際に泣き出したこと,あるいはそれと同趣旨の記載はない。
32控訴人指摘52本件著作物1には,「いつのまにか,後部座席に押し倒され横になった私は,タオルのようなもので目隠しされ,顔全体を押さえられていた。男が私のお腹の上に乗っている。,」「シャツのボタンを弾かれたのは,まったく覚えていない。」と記載されており,犯人が後部座席に被害者を押し倒し,上衣の前面を破壊したという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。控訴人は,この場面は強姦の描写における一般的な記述であると主張するが,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであり,この場面のみ,本件各著作物に依拠することなく,強姦の描写における一般的な記述として表現したものとは認められない。前記10の控訴人指摘20と同様,控訴人の主張は,著作権による保護を上回る本件各著作物不使用の合意の内容を,著作権による保護と同レベルに引き下げようとするものにほかならない。
33控訴人指摘53 本件著作物1には,ズボンのベルトが切られることが分かった後の記憶が一部欠落しており,ズボンと下着が下ろされたことは覚えていない旨記載されているから,玲奈のタイトスカートと下着が乱暴に引き下げられるとの本件映画の表現が本件著作物1の表現と同趣旨とは認め難い。
34控訴人指摘54本件映画の該当箇所に脚本に対応する描写はない。
35控訴人指摘55本件著作物1には,被控訴人が強姦被害を受けている際に泣きわめいていたこと,あるいはそれと同趣旨の記載はない。
36控訴人指摘56本件著作物1には,フラッシュバックに関し,「私の場合は毎月やってくる生理が引き金となり,始まってから終わるまでの一週間近くは,トイレに行くこともイヤで,膀胱炎になりかけたこともあった。トイレで生理用品を投げつけたり,シャワーでずっと身体を洗っていることもあった。」との記載があり(60頁),被害者が通常以上にずっと体を洗い続けるという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
37控訴人指摘57本件著作物1には,被控訴人がボディソープではなく浴槽用洗剤を直接体に吹きつけて,力を込めて体を洗っていく旨の記載はない。
38控訴人指摘58本件映画では,玲奈の「汚れが」という台詞は使用されていない。
39控訴人指摘59〜61本件著作物1には,被控訴人の元恋人が事件現場に立って通り過ぎていく車のテールランプを見つめたり,路上駐車している車を見て回ったり,犯行に使用されたものと同じ種類の車を見かけなかったか尋ねたりした旨の記載はない。
40控訴人指摘62〜64本件著作物1には,イギリス留学が決まった男性の友人と恋人として付き合ってみようと思ったが,彼の部屋に行っただけで,「私は吐いてしまった。彼の目の前で。
/異性に『男』を感じた瞬間,相手が私を女として見たと感じると同時に性の対象と見られたと感じ,吐き気をもよおす。」との記載(106頁)や,「実際,その後出会う男性とも,身体が触れると気分が悪くなってしまった。との記載」(107頁),後の夫となる男性が部屋に泊まると,『ちょっとトイレ行ってくるね』/やっぱり「吐いてしまう。との記載」(108頁)があり,被害者が男性から異性として見られ,身体に触れられると吐き気を催し,トイレで嘔吐することがあったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
控訴人は,PTSDとして吐き気の症状が出るということは一般的なものであると主張するが,恋愛関係にある,あるいは,これから恋愛関係になりたい異性であっても,身体に触れられるとトイレで嘔吐してしまうというエピソードは,本件著作物1に繰り返し顕れるエピソードであり,本件映画において,この場面が本件各著作物から使用している場面の一部を構成するものであることは明らかであって,この場面のみ,PTSDの一般的な症状から着想してこれを表現したものとは認められない。
41控訴人指摘65本件著作物1には,被控訴人が生理中であることに気付いた犯人の一人がその旨 を告げたのに対し,別の犯人が「関係ねぇ。もったいねーし」と言った旨が記載されており,犯人の一人が被害者が生理中であることが分かった上で,もったいない旨を述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。本件映画では,幻覚・幻聴として描かれていることを考慮しても,発言の趣旨が変わるものではない。
42控訴人指摘66本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード6のとおり,「一人で帰らなければならないときは,『また襲われてもいいの?心配じゃないの?』と,脅迫じみた電話をして彼に迎えに来てもらったことが,何度もあった。」との記載があり(74頁)被害者が恋人又は元恋人と一緒に行動したいことから,「また襲われてもいいの?」と脅迫的な発言をするという点は,本件著作物1と本件映画とで同一である。
43控訴人指摘67本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード6のとおり,「そんな私の相手をすることに疲れたのか,喧嘩をすると,彼の口からも『お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ』『お前みたいな汚れた女とつき合ってやってんだ。感謝しろ!』という言葉が出るようになった。」との記載があり(74頁)被害者の恋人又は元恋人が被害者に対し強姦されている際に本当は気,持ちいいと思っていたのではないかという趣旨を感情的に述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
44控訴人指摘68本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード6のとおり,「そんな私の相手をすることに疲れたのか,喧嘩をすると,彼の口からも『お前ホントは喜んでたんだろ。スリルがあって気持ちいいとか思ってたんだろ』『お前みたいな汚れた女とつ き合ってやってんだ。感謝しろ!』という言葉が出るようになった。」との記載があり(74頁),被害者の恋人又は元恋人が被害者との交際について,付き合ってやっているのだから感謝して欲しいという趣旨を感情的に述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
45控訴人指摘69本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード6のとおり,『B』に電話を「してしまう……。
『頼むから,もう俺のことは忘れて,幸せになってくれ』/彼は言った。/もう恋人じゃないことは解っている。でも,『B』に頼り,何かあると電話をしてしまう癖が抜けない。」との記載があり(107頁),被害者が被害直後に強姦被害を打ち明けた被害者の恋人又は元恋人が「頼むから,もう俺のことは忘れて,幸せになってくれ」と述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで同一である。
46控訴人指摘70及び71本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード7のとおり,被控訴人が被害直後は被害に遭いそうになったと打ち明けていた母親に対し,本当は被害に遭ったことを後日打ち明けたところ,『なんでいまさらそんなこと言うのよ!?あんたの言「うこと信じられない!』/母は私に怒りをぶつけてきた。私を心配するどころか,驚くような勢いで怒った。」との記載がある(80頁)。和代は興奮して唇をぶるぶる震わせているという本件映画の表現は,怒りの感情を表したものと認められるから,後日になって被害を打ち明けられた被害者の母が被害者に対し,被害から時間が経った時期になぜ被害を打ち明けたのか,被害者の言動が信じられない旨を怒って述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
47控訴人指摘72 本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード7のとおり,それだけでなく,「事件後自分の気持ちを立て直すのに手いっぱいだった私に,両親は,親子関係を修復するための誠意を見せろと課題を課した。
『お前は強い子だから,そんなこと(事件のこと)を気にするような子じゃないでしょ』」との記載があり(83頁),被害者の親が強姦被害に遭ったことを「そんなこと」と表現して,被害者に対し「お前は強い子だから,そんなこと」と言ったという点は,本件著作物1と本件映画とで同一であり,強姦被害に遭ったことを気にしないように言ったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
48控訴人指摘73〜75本件著作物1には,「私の両親は,普段から,とても厳しい人だ。
・・・『口の利き方が悪い!』と,殴られたりもする。たとえそれが父の聞き間違いであったとしても,謝るのは子どものほうだ。/万が一,それを指摘して,『お父さん,謝ってよ』なんて言った日には,『親に向かって謝れとは何事だ!?』と,手が飛んできて,その後延々とお説教をされる。」との記載があり(84頁〜85頁),被害者の父親が被害者が反発すると,被害者を手で叩いたり,被害者の発言について「親に向かって・・・何事だ」と言ったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。控訴人は,被害者が事件を告白した日に殴ったかどうかが異なると主張するが,本件映画は本件著作物1の上記記載の場面を利用したものと認められ,理由がない。
49控訴人指摘76本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード7のとおり,「私が二次被害という実態を知り,感じたのは,思いもよらない,親の対応からだった。/『あんたが襲われたのはあんたのせいではないけど,私たちのせいでもないんだから,そんなことで私たちを責めないでよね!』/これは母の言葉である。との記載があり」(83頁〜84頁)被害者の母親が被害者に対し,,被害者が襲われたのは被害者の両親 のせいではないから,被害者の両親を責めないで欲しい旨を厳しい口調で述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
50控訴人指摘77本件著作物1には,別紙対比表4-1のエピソード7のとおり,『なぜ当事者の「私のことを一番に考えてくれない?“辛かったね”ってたった一度でも抱きしめてくれたらどんなに安心したか……』/私が求めているのはそんなことだった。それをそのまま母に伝えたこともある。」との記載があり(81頁〜82頁),被害者が被害者の母が抱きしめてくれたら安心するという心情を抱いていたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。控訴人は,兄に向けられた台詞か否かが異なると主張するが,本件映画でも,ドアの向こうにいるはずの兄からはその前の呼びかけにも反応がなく,台詞の内容からしても必ずしも兄だけに向けられた台詞とはいい難く,被控訴人の心情を記載した本件著作物1とは同趣旨であると認められる。
51控訴人指摘78本件著作物1には,前記40の控訴人指摘62〜64で引用のとおり,被控訴人が男性から身体を触れられると気分が悪くなることや,被控訴人又は男性の部屋に二人きりになり,男性から異性として見られると吐き気を催してトイレで吐いてしまうことなどが記載されているが,昼間の公園で転ばないように抱き留められただけでトイレに駆け込んで嘔吐するという場面までは記載されていない。
52控訴人指摘79本件著作物1には,事件から二年近く経った頃,「渋谷の東急ハンズで買い物中に,誰かも分からない奴から精液をかけられるいたずらをされたことがあった。/ショーケースを覗いていた私の背後に何か当たった感じがして,腰を手で確認しようと すると,そこには液体がべったりとついていた。それが精液だと気づいたとたん,事件のときの固まった感情が,固まったまま蘇った。/ふわっと頭の中が抜けたように思考が硬直し,身体が震え始める。一緒にいた彼(後の夫)は,何もできずに,ただ見ていた。泣きながらトイレに行く私をどうしようもできずにいた。との記載」(57頁)や,「こんなことになったら,間違いなく私は震え始め,涙が出てきて吐いてしまう。」との記載(115頁〜116頁)があり,被害当時の記憶が蘇ると,体が震えて,泣いてしまうという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
53控訴人指摘80前記51の控訴人指摘78で記載したことと同様である。
54控訴人指摘81〜85本件著作物1には,被控訴人の夫との夫婦生活について,「乱暴に扱われ,怯えると,『どうしたの?』と聞かれ,何が怖いと感じたのか説明することもあった。/そのときは,困った顔をしながらも『ごめん』と謝ってくれる。
・・・でも,彼は,数日後には私が『怖い』と訴えたことを忘れてしまう。
・・・そんなときは,怖いという気持ちを出さないように,別のことを考えて気を紛らわすしかなかった。それがどんなに屈辱で,なぜ相手に伝えられないかは,男性には到底理解できないことなのかもしれない。/『早く終われ』/……あのときと同じだ……。」との記載(116頁〜117頁)「私が恥ずかしくて照れ臭くて『できない』,『恥ずかしい……』と言っていると思っている。/『それも説明しなきゃだめか……』/『震えたり涙が出るのを我慢してやってんだ!』/そう叫びたかった。」との記載(117頁〜118頁)「,(判決注・入籍後も)セックスについては,何も変わらず,嫌悪も解消されなかった。」との記載(132頁)「夫とのセックスの後に吐いていたことを打ち明,けると,承諾してくれた。」との記載(171頁)があり,被控訴人が夫との夫婦生活において,乱暴に扱われると「怖い」と訴え,夫が「ごめん」と謝ることがあっ たこと,平素から嫌悪を感じ,震えたり涙が出るのを我慢したりしながら応じており,夫婦生活の後に一人で嘔吐していたことが記載されており,玲奈が唇を噛みしめ声を押し殺し,涙を流しながら夫婦生活に応じていたが,途中で「怖い」と訴え,菊池が「ごめん」と謝り,夫婦生活の後,玲奈が一人で嘔吐するという本件映画の場面は,本件著作物1の上記記載と同趣旨であると認められる。
55控訴人指摘86本件著作物1には,事件から2年後に夫と結婚し(131頁)事件から4年半,(すなわち結婚から2年半)が経ち,気持ちや事実の整理ができてきたが(169頁),「夫はともかく,周りの友人や親戚から,『子どもは?』と聞かれることも多くなってきた。『結婚』という縛りが,私にはとても大きくのしかかった。『子どもをつくらなくちゃいけない』と。(170頁)と記載されており,義母である晴江が入籍」から3年経ったことを確認した上で「ええかげん,孫の顔見せてちょうだいよ」と発言するという本件映画の場面は,本件著作物1の上記記載と同趣旨であると認められる。
56控訴人指摘87本件著作物2には,被控訴人が性暴力被害の経験者3000人弱から寄せられた事実をまとめた上で,『言えない』という現実については,「『相談先』(図7)の結果からも推し量ることができると思います。/『どこにも届けていない』が断トツの85%です。」との記載があり(101頁),図7の相談先の円グラフによれば,警察を相談先に選んだのは4%にすぎないと認められるから(97頁)性犯罪被害,を受けながら警察に被害届を出さない女性が9割近く,つまり,ほとんどだと統計により知ったという本件映画の玲奈の発言は,警察ないし公的機関に相談しない被害女性が9割前後であるという点において,本件著作物2の上記記載と同趣旨であると認められる。
57控訴人指摘88本件著作物2には,被控訴人が性犯罪被害を受けた多数の人々とメールで交流していることが記載されているほか,被控訴人が取り上げられたテレビ番組が初めて放送された後,この30分で私のホームページを通じて送られてきたメールが軽く「100通を超えているではありませんか。」との記載があり(163頁),被控訴人が開設しているホームページ上に性犯罪被害を受けた人がメールを送るための項目が用意されていることが窺われるものの,その旨の明示の記載はなく,ホームページのタイトルやデザインなども記載されておらず,本件映画のディスプレイ画面は,本件著作物2の記載と同一とも同趣旨とも認められない。
58控訴人指摘89本件著作物2には,前記57の控訴人指摘88で引用したとおり,被控訴人が性犯罪被害を受けた人との交流をも目的としてホームページを開設したことを窺わせる記載があるものの,その旨の明示の記載はなく,性犯罪被害を受けた人と交流したいと考えてウェブサイトを設立したという本件映画の玲奈の発言は,本件著作物2の記載と同一とも同趣旨とも認められない。
59控訴人指摘90〜92本件著作物2には,「私をはじめてテレビ番組で取り上げてくれたのが,テレビ東京のドキュメンタリー番組『ザ・ドキュメンタリー』でした。」との記載(156頁)に続けて,テレビ東京のMさんと初めて会った際,「彼女は私の手記が掲載されている『AERA』の記事を読み,私のホームページの記述をプリントアウトして持ってきてくれました。,」「Mさんは当時警視庁の記者クラブにいました。通常のドキュメンタリー番組は,テレビ局とは別の制作会社が持ち込むものが多いそうですが,年に数回,局が独自のものを作る機会があるそうです。/彼女はその枠で,性暴力 について取り上げたいとのこと。」との記載(157頁〜158頁)があり,テレビ局の女性記者が被害者のホームページを見た上で,事実を報道する番組に被害者のことを取り上げたいと言ってきたという点は,本件著作物2と本件映画とで共通している。
60控訴人指摘93前記58の控訴人指摘89で記載したのと同様に,本件著作物2には,被控訴人が性犯罪被害者のウェブサイトを運営しているとの記載はない。他方,本件著作物2には,「多くの学者,研究者ら専門家が参加したシンポジウムで,『Yです。7年前,性犯罪の被害にあいました』で始まる私の発言。との記載があり」(153頁),被害者が公衆の面前で7年前に性犯罪の被害に遭ったと発言するという点は,本件著作物2と本件映画とで共通している。
61控訴人指摘94本件著作物2には,父親から性交渉を強要されている中学生について記載されているが(107頁〜118頁)本件映画における水野亜紀に関する具体的な描写を,離れて,14歳の少女という人物設定だけでは,本件著作物2の記載と同一とも同趣旨とも認められない。
62控訴人指摘95本件著作物1には,後の夫となる男性と同棲することを実家に報告しに行った際のことについて,「実家に報告に行くと,父がすごい剣幕で私に怒鳴った。『男と住むなんて,何を考えているんだ!?冗談じゃない!二度と家に顔を出すんじゃない!』/いまどきそんな親がいるのかと思うくらい,父は憤慨し,私の言い分をまったく聞かなかった。母は,いつでも父の言うことが絶対である。何度かの言い合いの末,この一言で私は殴られ,勘当された。/『親らしいこともできないくせに,こんな ときだけ親面しないでよ!』」との記載があり(110頁〜111頁),被害者が親から勘当されるに当たり,親らしいことをしてもらわなかった旨を言ったという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
控訴人は,本件映画ではテレビ出演に関するやりとりで発せられた台詞である点が異なるとするが,本件映画において,被控訴人が被控訴人の親に対し被害に遭ったことを後日打ち明けたところ,被控訴人の言動が信じられない旨怒って言われるなどして,親子関係が悪化した末,勘当されるに至り,その際,被控訴人が上記経緯も踏まえて,親らしいことをしてもらわなかった旨を言ったという本件著作物1の一連の場面を利用していることは明らかである。
63控訴人指摘96,97本件著作物1には,被控訴人の父が,被控訴人について自分が知っていた姿ではなくなってしまったとか,被控訴人が理解できない旨を述べたという記載はない。
64控訴人指摘98本件著作物1には,前記62の控訴人指摘95で引用したとおり,被控訴人の父が被控訴人に対し「二度と家に顔を出すんじゃない!」と述べて勘当した旨の記載があり,被害者の父が被害者を勘当したという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
65控訴人指摘99本件著作物2には,本件映画の水野亜紀に相当する中学生が被控訴人を知った経緯について,まず,「どうして私のことを知ったのかを尋ねるメールを返信しました。
/『知り合いが,Yさんの本を持っていて』」との記載があり(108頁),被控訴人を知ることになったのは知り合いが持っている被控訴人が書いた本であり,テレビではないことが認められ,水野亜紀がテレビを観たとして白石玲奈に声を掛ける という本件映画の場面は,本件著作物2の記載と同一とも同趣旨とも認められない。
66控訴人指摘100本件著作物2には,本件映画の水野亜紀に相当する中学生が一晩だけ家出した旨の記載はあるが,「街で見知らぬ人と一緒に過ごすのも危険だと私が心配すると,どうにかネットカフェにひとりで入ってくれることになりました。とも記載されてお」り(111頁〜112頁),また,「また家出をしてしまうかもしれないけど,平気」というメールを最後に,数か月間連絡が途絶え,被控訴人が「彼女はまだ中学生。
何度も家出を繰り返すうちに新たな被害にあう可能性も否定できません。夜の街をさまよっていれば,補導されて家や学校での追及が厳しくなり,彼女自身をいっそう,苦しめることにもなります。と心配したことが記載されているが」(114頁),実際に家出をしたのかどうか,家出をしたとしてどの程度の期間であったのか,どのような生活を送っていたのかについては何ら記載されておらず,本件映画のように,数日間髪を洗っておらず,衣服も薄汚れている様子の末に,夜の繁華街をさまようように歩いていく旨の記載はない。
67控訴人指摘101本件著作物2には,中学3年生の時に実家の物置で強姦の被害に遭ったという50代の女性について記載されているが(123頁〜125頁)本件映画における関,谷加世子に関する具体的な描写を離れて,52歳の女性という人物設定だけでは,本件著作物2の記載と同一とも同趣旨とも認められない。
68控訴人指摘102本件著作物2には,本件映画の関谷加世子に相当する50代の女性が,中学3年生の時に,大学生の兄の友人2人に実家の物置で強姦されたこと(124頁),その 記憶を30年以上にわたり封印していたが,被控訴人に初めて被害を打ち明けたこと(123頁)が記載されており,50代の女性が中学3年生の時に,当時大学生だった兄又はその友人に,実家の物置又は蔵で強姦されたという点は,本件著作物2と本件映画とで共通している。
控訴人は,50代の女性が話す台詞であるかどうかや被害の内容が異なると主張するが,上記のとおり,関谷加世子の年齢設定に加え,被害に遭ったのが中学3年生であり,当時大学生であった兄がいて,実家の物置又は蔵で強姦被害に遭ったこと,30年以上経ってから被控訴人又は白石玲奈に初めて被害に遭っていたことを告白することなどの強い類似性からすれば,本件映画において,本件著作物2の50代の女性の強姦被害の告白の場面を利用していることは明らかである。
69控訴人指摘103〜105本件著作物2には,父親から性交渉を強要されている中学生について記載されており(107頁〜118頁)本件映画は上記記載に着想を得たものと認められるが,,本件著作物2における上記中学生についての記載では,母親も健在であるが,口止めされているので母親に相談する気にはなれないこと,父親との性交渉は物心ついた頃からであったこと,父親との性交渉について違和感を覚えることなく育ってきたようであったことが記載されている一方,死にたかったが怖くて死にきれなかったことは記載されておらず,11歳の時に母親が亡くなって以降,毎晩父親から性交渉を強要され,死にたかったが怖くて死にきれなかったという本件映画の水野亜紀の発言は,本件著作物2の場面を利用しているものとまでは認められない。
70控訴人指摘106〜107本件著作物2には,本件映画の水野亜紀に相当する中学生には「好きな人がいたのです。」との記載があるが(111頁)「好きな人」についての具体的な記載はな,いし,「好きな人」が自分のように汚れた女の子は嫌いだろうと想像しての発言は記 載されていない。
71控訴人指摘108本件著作物1には,「ある日,母から,父が出張でいないから,泊まりに来てほしいと電話があり,実家に行った。/その晩,母と並んで寝た。
・・・母は続けた。
『女の子は,誰かと一緒に幸せになるまでは,自分のことなんて,隠してでも,精一杯良く見せていたほうが,楽だと思うのよ。Yにもそうやって幸せになってほしい。
だけど,わざわざ人前で自分が被害にあったことを話すのは,すごく遠回りをしているように見えて……どうしてYはそんな生き方を選ぶの?』との記載があり」(203頁〜204頁),本件映画において,被控訴人の母が,被控訴人の父が出張中に被控訴人を実家に呼び出して,二人で並んで寝ながら,被控訴人が性犯罪被害に遭った事実を公にしたことについて会話するという本件著作物1の場面を利用していることは明らかである。
72控訴人指摘109本件著作物1には,被控訴人の母が被控訴人と枕を並べて寝るのは何年ぶりかしらと発言した旨の記載はない。
73控訴人指摘110本件著作物1には,前記71の控訴人指摘108で引用のとおり,被控訴人の父が出張中に被控訴人が実家に泊まったことが記載されている。
他方,本件著作物1には,被控訴人の父が被控訴人が実家に泊まったことを知ったらどのような反応を示すのかについての記載はない。
74控訴人指摘111,112本件著作物1には,被控訴人が実家に泊まったことが被控訴人の父の発案である 旨の被控訴人の母の発言や,それを踏まえて勘当だって言ったくせにとの被控訴人の反応についての記載はない。
75控訴人指摘113前記71の控訴人指摘108で記載したところと同様である。
76控訴人指摘114本件著作物1には,前記71の控訴人指摘108で引用したとおり,被控訴人が性犯罪被害に遭った事実を公にしたことについて,これを隠しておくべきだったという趣旨で,被控訴人の母が,女の子は幸せになるまでは世間から良く見られないことについては隠して秘密にする方が楽であると発言したことが記載されており,被害者の母が,被害者に対し,女の子は幸せを掴むには秘密にしておくべきことは隠しておく方がよい旨を述べたという点は,本件著作物1と本件映画とで共通している。
以上
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 古庄研
  • この表をプリントする