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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成27ワ13258 著作権侵害差止等請求事件 判例 特許権
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事件 平成 27年 (ワ) 27220号 著作権侵害行為差止等請求事件

原告 株式会社ケイジェイシー
同訴訟代理人弁護士 牧山美香
同 補佐人佐藤英昭
被告スケーター株式会社
同訴訟代理人弁護士 鳥山半六
同 補佐人中野収二
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/04/27
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載1ないし20の各製品を製造し,販売してはならない。
2 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成27年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 本件は,「エジソンのお箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している原告が,「デラックストレーニング箸」という商品名の幼児用箸を製造販売している被告に対し,自らが別紙原告著作物目録1記載の図画(以下「原告図画」という。) 1 及び別紙原告著作物目録2記載1ないし19の各幼児用箸(以下,同目録の番号に従い「原告製品1」などといい,これらを併せて「原告各製品」という。)に係る各著作権を有すること(なお,原告各製品のうち,上部の部材に記載又は成形されたキャラクターの図柄又は立体像については,原告も著作権を主張しているものではないと解される。)を前提に,被告による被告商品目録記載1ないし20の各幼児用箸(以下,同目録の番号に従い「被告商品1」などといい,これらを併せて「被告各商品」という。)の製造販売が上記各著作権(複製権及び翻案権)を侵害する旨主張して,被告に対し,@著作権法112条1項・2項に基づき,被告各商品の製造及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,A平成25年1月から平成27年9月28日(訴え提起時現在)までの間における上記各著作権侵害を内容とする不法行為に基づく損害賠償請求として,2400万円の内金100万円及びこれに対する不法行為の後である同年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略する。) (1) 当事者 ア 原告は,化粧品及び健康食品並びに食料品,飲料水,酒類及び日用雑貨品の輸出入業,販売業及び問屋業並びにそれらの仲介業等を目的とする株式会社であり,ベビー用品の輸入及び製造販売等を主な業務として営業をしている(甲1,弁論の全趣旨)。
イ 被告は,プラスチック製品の企画製造販売各種等を目的とする株式会社である(甲2)。
(2) 原告各製品及び原告図画 ア 原告各製品は,「エジソンのお箸」と称する幼児用箸である。これら別紙原告著作物目録2記載のとおりの19種類の各製品は,一方の箸に1個のリング,他 2 方の箸に2個のリングが設けられている点で共通するが,両箸が結合する上部の形状ないし模様(キャラクター)や全体の色がそれぞれ異なっている。
イ 原告図画は,「子供の知能を発展させる練習用箸」と称する白黒のデザイン画である。原告図画については,米国著作権局において「2次元美術品」として著作権登録(基本登録:登録番号VAu 1-173-069,発効日2014年4月14日,補充登録:登録番号VAu 757-819,発効日2015年2月12日)がされており,同登録上,2001年(平成13年)にA@が完成したものとされている(甲3,4,弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,本件デザイン画を基に原告各製品を製作し,日本国内においてこれらを製造販売している(少なくとも原告製品1,2,4ないし6,16ないし19については,平成15年から日本国内において製造販売している〔乙1ないし3〕 ) 。
(弁論の全趣旨)。
(3) 被告各商品 被告は,遅くとも平成25年1月以降,被告各商品を製造販売している(甲7,9,乙1ないし3,弁論の全趣旨)。
(4) 先行訴訟 原告は,平成25年,A@と共に,被告を相手取り,被告各商品の一部(被告商品2,7,12及び17)等の製造販売の差止め及び廃棄を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同庁平成25年(ワ)第2464号事件)。この訴訟において,原告は,被告の上記製造販売行為が,原告各製品の一部(原告製品1,2,4ないし6,16ないし19)等の形態からなる原告の商品表示と類似する商品表示を使用した商品を販売等するものであり不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たるとして同法3条1項・2項に基づく差止め及び廃棄を求め,共同原告であったA@は,上記被告各商品の一部が発明の名称を「子供の知的能力を発達させる練習用箸」とする特許第3766831号の特許請求の範囲の請求項1(別紙「特許請求の範囲」のとおり)に係る特許発明(原告各製品はこの特許発明の実施品であると 3 みられる。)の技術的範囲に属し,被告の上記製造販売行為が上記特許に係る特許権を侵害するとして特許法100条1項・2項に基づく差止め及び廃棄を求めた。
大阪地方裁判所は,平成25年10月31日,原告の上記製品の形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たるとは認められず,対象とされた被告の 各製品が上記特許発明の技術的範囲に属するものとは認められない旨判断して,原告及びA@の請求をいずれも棄却する判決をした。
原告及びA@は,上記判決を不服として知的財産高等裁判所に控訴したが(同庁平成25年(ネ)第10110号事件),同裁判所も,大阪地裁の上記判決の判断を支持し,平成26年4月24日に同控訴をいずれも棄却する判決をし,同判決は,同年5月12日の経過により,原告に関する部分について確定した(以上につき,乙1ないし4)。
(5) 原告製品9に関する意匠登録 原告及びA@は,平成27年1月22日,原告製品9の形状を示すとみられる別紙意匠公報記載の意匠について,創作者を同人として,意匠登録出願をし,同年7月17日,意匠権の設定登録を受けた(意匠登録第1531558号。以下,この意匠権を「本件意匠権」といい,登録意匠を「原告意匠」という。)(甲5,6)。
(6) 本件訴訟の経緯 原告は,平成27年9月28日,被告を相手取り,本件訴えを当庁に提起した。
その際原告が定立した請求は,@前記1のとおり著作権(複製権翻案権)侵害を理由として,著作権法112条1項・2項に基づく被告各商品の製造販売の差止め及び廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,A被告商品2ないし10及び12ないし20の製造販売は本件意匠権をも侵害するとして,意匠法37条1項・2項に基づく同各商品の製造販売の差止め及び廃棄を請求する(@とAが重なる範囲で選択的併合)というものであった。
ところが,上記Aの本件意匠権に基づく請求については,被告の答弁書において,「仮に原告主張のごとく被告各商品に係る意匠が原告意匠に類似するのであれば, 4 本件意匠権に係る出願(平成27年1月22日)より前から販売されている被告各商品に係る意匠は公然知られた意匠であり,これと類似する原告意匠は新規性を欠くため(意匠法3条1項),その意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は被告に対し本件意匠権を行使することができない(同法48条,41条,特許法104条の3)し,被告は,被告各商品に係る意匠の実施について先使用による通常実施権を有する(意匠法29条)。」旨指摘された。
そこで,原告は,平成27年12月14日の第1回口頭弁論期日において,本件意匠権に基づく請求に係る訴えを取り下げたが,被告が取下げに同意しなかったため,同請求を放棄するに至った(以上は,当裁判所に顕著な事実)。
3 争点 (1) 原告が原告各製品に係る著作権を有しており,被告による被告各商品の製造及び販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するか。
(2) 原告が原告図画に係る著作権を有しており,被告による被告各商品の製造及び販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するか。
(3) 原告が,平成25年1月から平成27年9月28日までの間に,被告の上記(1)又は(2)の製造販売行為により幾らの損害を受けたか。
4 当事者の主張 (1) 原告各製品に係る著作権(複製権又は翻案権)侵害の成否について 【原告の主張】 ア 原告各製品の著作物性 原告各製品は,本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸について,左右で異なった部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保ち,更にその箸本体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者に左右対称の安心感に近い安心感を与え,3つのリングの配置及びその美しいフォルムが看者の芸術的感性に訴えかけるものであるから,一般人を基準として純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を備えており,「美術の著作物」(著作権法2条2項, 5 10条1項4号)に当たるといえる。
また,実用に供される応用美術であっても,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性が認められるべきであり,被告の後記主張のように高度の美的表象の表現を要件とするのは相当でない。原告各製品の形態的特徴については,@キャラクターが表現された円形部材により最上部で結合された連結箸である点,A1本の箸に人差し指と中指を入れる2つのリングを有し,かつ,他方の箸に親指を入れる1つのリングを有して,合計3つのリングが設けられている点において,作成者の個性が発揮されており,創作性が認められる。したがって,原告各製品も,応用美術として著作権法上の保護を受けるべきものである。
したがって,原告各製品は,著作権法上の著作物に当たる。
イ 原告各製品に係る著作権の帰属 原告各製品は,原告が製作したものである上,原告図画の二次的著作物に当たるところ,原告図画に係る著作権は創作者であるA@から原告に譲渡されている。したがって,原告は,原告各製品に係る著作権を有している。
ウ 原告各製品と被告各商品との関係(複製・翻案該当性) 原告各製品と被告各商品とは,@最上部において一定の幅を持たせて円形部材により連結され,A一方の箸の上部に箸本体に対して略平行で縦長楕円形の親指用リングが手前側(別紙原告著作物目録2及び別紙被告商品目録に掲載した各正面写真の手前側。以下同じ。)に突出するように設けられ,B他方の箸の上部に箸本体に交差し正面視左横方向に突出する部分を有し,Cその下部に箸本体に対して斜めに交差し背面側に突出する部分を有し,D最上部の連結部分においてキャラクターを表現している点,及びE親指用リングを横から見た場合,そのリングはやや縦長の楕円形であって,リングの下部が徐々に膨らみ箸本体部材又は親指根元部材に滑らかに連続するように表現されている点で,共通している。その結果,原告各製品と被告各商品とは,「本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸につい 6 て,左右で異なった部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保ち,更にその箸本体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者に左右対称の安心感に近い安心感を与える」という表現上の本質的特徴を同一にしている。
したがって,被告各商品は,原告各製品を複製又は翻案したものというべきである。
エ 小括 以上によると,原告は,原告各製品に係る著作権を有しており,被告各商品の製造販売は,同著作権(複製権又は翻案権)を侵害する。
【被告の主張】 ア 原告各製品の著作物性について 原告各製品は,一般家庭で幼児が食事を行う際に使用する実用品として画一的に量産される製品にすぎず,そのデザインは,練習用箸の用途や機能から離れて専ら美術的鑑賞を目的とした「美術工芸品」に匹敵する高度の美的表象を表現したものではない(せいぜい製品に趣味感を加える意匠にすぎない。)から,著作権法により保護されるべきものではない。原告各製品に認められるのは純粋に「実用性」のみであって,そもそも「鑑賞性」を兼ね備えた「美術」作品ではないから,「応用美術」にすらならない。
また,原告が主張する原告各製品の形態的特徴は,「アイデア」そのものであって「表現」ではないし,原告各製品のように練習用箸においてリングを設けることは極めてありふれた形態であって何ら個性的な形態ではないから,上記形態的特徴をもって創作的な表現と認めることはできない。
したがって,原告各製品は,著作権法上の著作物には当たらない。
イ 原告各製品と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)について 被告各商品は,@箸本体部材が断面四角形である点,A各リングが箸本体部材に外挿される角筒状のスリーブに一体化されるとともに該スリーブを箸本体部材の表 7 面から突出している点,B親指用リングのスリーブが背面側を厚肉に形成し上端から下向きに次第に厚肉状に傾斜するテーパ面を設けるとともに該テーパ面の下側に弧状の凹部を表している点にも特徴があり,原告各製品と被告各商品とは,これらの点で相違している。
したがって,被告各商品は,原告各製品を複製又は翻案したものではない。
ウ 小括 以上によると,原告が原告各製品に係る著作権を有するとはいえず,被告各商品の製造販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとはいえない。
(2) 原告図画に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否について 【原告の主張】 ア 原告図画の著作物性 原告図画は,あたかも画家がスケッチするようなタッチで描かれたデザイン画であり,特にその中の影の表現等は絵画的な表現形式であるから,創作者がその「思想又は感情を創作的に表現したもの」であって「美術の範囲に属するもの」というべきである。したがって,原告図画は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に当たる。
また,原告図画が,特許用の図面であったとしても,技術思想を創作的に表現した「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)に当たる。
このように,原告図画は,著作権法上の著作物に当たるというべきである。
イ 原告図画に係る著作権の帰属 原告は,原告図画の創作者であるA@から,原告図画に係る著作権を譲り受け,以来,同著作権を有している。
ウ 原告図画と被告各商品との関係(複製・翻案該当性) 原告図画と被告各商品とは,@最上部において一定の幅を持たせて円形部材により連結され,A一方の箸の上部に箸本体に対して略平行で縦長楕円形の親指用リングが手前側に突出するように設けられ,B他方の箸の上部に箸本体に交差し正面視 8 左横方向に突出する部分を有し,Cその下部に箸本体に対して斜めに交差し背面側に突出する部分を有し,D最上部の連結部分においてキャラクターを表現している点,及びE親指用リングを横から見た場合,そのリングはやや縦長の楕円形であって,リングの下部が徐々に膨らみ箸本体部材又は親指根元部材に滑らかに連続するように表現されている点で,共通している。その結果,原告図画と被告各商品とは,「本来は2本の棒状の箸によって左右対称に表現される箸について,左右で異なった部分を有しながらも,表現上の工夫により左右のバランスを保ち,更にその箸本体を円形の結合部分により有機的に結合させることにより,看者に左右対称の安心感に近い安心感を与える」という表現上の本質的特徴を同一にしている。
したがって,被告各商品は,その正面視において原告図画を複製したものであるといえる。また,立体化されている被告各商品の正面視以外の部分に新たな表現が加えられているとしても,被告各商品は,原告図画を翻案したものである。
エ 小括 以上によると,原告は,原告図画に係る著作権を有しており,被告各商品の製造販売は,同著作権(複製権又は翻案権)を侵害する。
【被告の主張】 ア 原告図画の著作物性について 原告図画は,「子供の知能を発展させる練習用箸」を実用的に工業化するための製品の外観(意匠)と技術的構成を図解的に表したデザイン画にすぎず,特許用の図面にすぎないものであって,純粋美術としての「絵画」ではない。
そして,原告図画は,商品化及び実用化の目的によって制約されたものであるところ,一般的なインダストリアルデザイン画の通常の描写方法で作成されたものにすぎず,描かれた練習用箸の物品から離れて美的鑑賞の対象となり得るような芸術性ないし美術性のある創作的表現を感得できるものでは全くない。また,原告が主張する「スケッチするようなタッチ」や「影の表現」は,一般的な工業デザイン画にありふれた通常の描写方法であって,何ら「創作的」なものでも「個性的」なも 9 のでもない。
なお,原告図画は,設計図面と呼べるような代物でもない。
したがって,原告図画は,著作権法上の著作物には当たらない。
イ 原告図画と被告各商品との関係(複製・翻案該当性)について 被告各商品は,@箸本体部材が断面四角形である点,A各リングが箸本体部材に外挿される角筒状のスリーブに一体化されるとともに該スリーブを箸本体部材の表面から突出している点,B親指用リングのスリーブが背面側を厚肉に形成し上端から下向きに次第に厚肉状に傾斜するテーパ面を設けるとともに該テーパ面の下側に弧状の凹部を表している点にも特徴があり,原告図画と被告各商品とは,これらの点で相違している。
また,被告各商品においては,原告が主張する「スケッチするようなタッチ」や「影の表現」は何ら有形的に再製されていないことは明らかである。
さらに,仮に原告図画を設計図面と解したとしても,被告が被告各商品を製作する行為は,建築の著作物(著作権法2条1項15号ロ)の場合とは異なり,当該図面の複製でも翻案でもない。
したがって,被告各商品は,原告図画を複製又は翻案したものではない。
ウ 小括 以上によると,原告が原告図画に係る著作権を有するとはいえず,被告各商品の製造販売が同著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとはいえない。
(3) 損害額について 【原告の主張】 被告は,平成25年1月から平成27年9月28日までの間,少なくとも10万本の被告各商品を製造販売した。被告各商品の平均単価は1100円,平均利益率は20%である。したがって,被告の上記製造販売行為(著作権〔複製権又は翻案権〕侵害行為)により原告が受けた損害の額については,著作権法114条2項により,2200万円と推定される。
10 また,原告は,本件訴訟に関する弁護士・弁理士費用として200万円の損害を被った。
したがって,原告は,被告の上記製造販売行為(著作権〔複製権又は翻案権〕侵害行為)により合計2400万円の損害を被ったものである。
【被告の主張】 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 原告各製品に係る著作権侵害(複製権又は翻案権)の成否について (1) 原告各製品が,幼児用箸として実用に供されるためにデザインされた機能的な工業製品であること自体は当事者間に争いがないところ,原告は,これが「著作物」として著作権法による保護を受ける旨主張する。
(2) そこで検討するに,著作権法2条1項1号は,「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨規定し,同条2項は,「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」と規定している。そして,そもそも,著作権法は,文化的所産に係る権利の保護を図り,もって「文化の発展に寄与すること」を目的とするものである(同法1条参照)。これに対し,産業的所産に係る権利の保護については,工業上利用することができる意匠(物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの)につき,所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができる(同法2条1項,3条ないし5条,6条,20条1項等参照)など,工業所有権法ないし産業財産権法の定めが設けられており,このほか,商品の形態については,不正競争防止法により,「実質的に同一の形態」等の要件の下に3年の期間に限定して保護がされている(同法2条1項3号,同条5項,19条1項5号イ等参照)。
以上のような各法制度の目的・性格を含め我が国の現行法が想定しているところを考慮すれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用 11 的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法が保護を予定している対象ではなく,同法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである。
なお,原告は,実用に供される機能的な工業製品やそのデザインであっても,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を肯認すべきである旨主張するけれども,著作権は原則として著作者の死後又は著作物の公表後50年という長期間にわたって存続すること(著作権法51条2項,53条1項)などをも考慮すると,上述のとおり現行の法体系に照らし著作権法が想定していると解されるところを超えてまで保護の対象を広げるような解釈は相当でないといわざるを得ず,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 前記前提事実に証拠(甲6,乙1,4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告各製品については,@幼児が食事をしながら箸の正しい持ち方を簡単に覚えられることを目的とした幼児の練習用箸であり,このような用途・機能を有する実用品として量産される工業製品であること,A一方の箸には,人差し指挿入用のリング及び中指挿入用のリングが設けられ,他方の箸には,これら2つのリングよりは大きな,やや縦長楕円形の,親指挿入用のリングが設けられているところ,これら各リングが配置されている位置及び向きは,リングが上記3指の位置を固定して,正しい箸の持ち方の手の形になるようにするという目的に適った位置及び向きであり,人体工学に基づいて設計されたものであること,B箸本体を上部の円形部材等で連結させているところ,これは1本1本の箸を固定して箸先の交差を防止するという機能を果たす目的によるものであることが認められる。これら各点に照らせば,上記Aのリングの個数,配置,形状等及び上記Bの連結箸である点は,いずれも上記@の幼児の練習用箸としての実用的機能を実現するための形状ないし構造であるにすぎず,他に,原告各製品の外観のうち,原告が被告各商品と共通し同一性があると主張する部分を見ても,際立った形態的特徴があるものとはうかがわれない。そ 12 うすると,原告各製品が,上記実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えているということはできない(もとより純粋美術と同視し得る程度の美的特性を備えているということもできない。)。
なお,原告各製品について原告が保護を求めているところのものは,結局のところ,前示のとおり意匠法が意匠として保護を予定している量産され工業上利用可能な物品の形状等そのものであり,原告製品9と同一の形状とみられる意匠について現に意匠登録もされている(ただ,被告各商品の販売開始時期に比してその出願・登録が遅かったにすぎない。)ものである。
(4) 以上によると,原告各製品は,著作権法2条1項1号所定の著作物には当たらないというべきである。
したがって,被告による被告各商品の製造販売が原告各製品に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するということはできない。
2 原告図画に係る著作権侵害の成否について (1) 前記前提事実に証拠(甲4,乙4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告図画は,原告各製品ないしこれに類似する製品を製作するための,あくまで工業用のデザイン画の域を出ないものと認められる。そうすると,原告図画は,「学術的な性質」を有する図面(著作権法10条1項6号)とはいえないことはもとより,前記1で原告各製品について説示したところに照らし,直ちに著作権法上の著作物に当たるとはいい難い。
(2) もっとも,原告は,「原告図画は,あたかも画家がスケッチするようなタッチで描かれたものであって,特にデザイン画中の影の表現等は絵画的な表現形式であり,美術の著作物に当たる。」と主張する。
そこで検討するに,原告図画について,前記(1)の原告各製品等工業製品の製作とは離れて,純粋に白黒のスケッチ画として見るとすると,3次元の被告各商品とは形状や色彩等において全く異なるし,仮に原告の指摘する影の表現等の絵画的な特徴をもって創作性を認めるとした場合,その特徴は被告各商品には何ら現れていな 13 いから,被告各商品から原告図画の表現形式上の本質的特徴は感得することができないというほかはない。
また,被告各商品が原告図画に依拠して作られたとの事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると,いずれにせよ,被告各商品が原告図画の複製にも翻案にも当たらないことは明らかである。
(3) 以上によると,被告による被告各商品の製造販売が原告図画に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害するということはできない。
3 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
14 裁判官天野研司15 (別紙)特許請求の範囲親指を挿入する親指挿入穴と固形物を掴み取る第1パッドとを有する第1箸部材であって,第1箸部材の上部に親指挿入穴を形成し,第1箸部材の下端に第1パッドを形成した第1箸部材と,人差し指および中指を挿入する保持ユニットと,保持ユニットの固定位置を調節する調節手段と,固形物を掴み取る第2パッドとを有する第2箸部材であって,この保持ユニットが人差し指を挿入する人差し指挿入穴と中指を挿入する中指挿入穴とを有し,第2パッドを第2箸部材の下端に形成した第2箸部材と,第1箸部材および第2箸部材の上部に形成され,第1箸部材および第2箸部材を所定の間隔で結合する結合手段とを有する,知的能力を発達させる練習用箸。
16
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 笹本哲朗
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